93 / 161
第四話 消えた挿絵
【五】葵と本の御魂三人衆
しおりを挟む入り口で固まっている翔子。ちょっと顔が怖い。
翔子の視線の先には本の御魂三人衆がいた。そうなるか。
葵はというと翔子の手を振りほどいて本の御魂三人衆のそばに駆け寄り、しゃがみ込んで話しかけている。満面の笑みだ。
「妖精さんなの。小人さんかな。どこから来たの。おとぎの国から来たの。ねぇ、ねぇ、どうなの」
質問攻めにあっていて困り顔の本の御魂三人衆を見ていると頬が緩む。
子供は無邪気なものだ。順応性が高いというべきか。
「猫ちゃんもかわいい」
グレンは顎の下を撫でられて目を細めて気持ち良さそうにしている。
「驚いただろう」
佐久間の言葉に「ええ」とだけ答える翔子。
「こちらは、以前話した高宮源蔵のお孫さんで、えっと」
佐久間が言葉を詰まらせたのを見て遼哉は頭を下げた。
「はじめまして、高宮遼哉です」
「どうも楠野宮翔子です」
「私は角橋小海です」
「私は火乃花」
「おいらは樹実渡」
「僕は、流瀧です」
「ニャ―」
皆が続けて名乗った。グレンもきっと自分の名前を口にしたはずだ。遼哉は代わりに「こいつはグレンです」とグレンの頭を撫でながら紹介した。
「火乃花に、樹実渡、それに流瀧だね。私、葵だよ。みんな可愛い」
「葵ちゃんも可愛いね」
遼哉の言葉に葵は照れ臭そうにしていた。
翔子は本のことで来たことを知り、なんとも複雑そうな顔をしていた。挿絵が消えるなんて怪異が起きたのだから気持ちが悪いのだろう。しかも、その挿絵が妖怪だと言うのだから。
葵のほうはあまり気にしていないようだった。それどころか変なことを口にした。
「私、あの妖怪さんとお話したよ」
えっ、話した。
苦笑いを浮かべて謝る翔子。
佐久間は「きっと夢だ」なんて話している。
実際のところどうなのだろうか。夢なのか。現実なのか。
葵が嘘を話すような子には見えない。初対面だがそう思えた。
葵の話をもっと訊きたかったのだが、風狸の話は途絶えてしまい御魂三人衆と遊んでいた。
残念ながらしばらく雑談が続き、風狸の話は一切出てこなかった。
「あっ、ごめんなさい。病院に行かないといけないのでこのへんで」
翔子はそう話を切り出すと、葵をよろしくと伝えて病院に向かった。
よし、これで葵とゆっくり話せる。
***
「ねぇねぇ、おとぎの国のお話をして」
葵は本の御魂三人衆に笑顔で話しかけている。おとぎの国から来たと信じているらしい。
「ほら、火乃花の出番だぞ。おいらは美味しいものの話しか出来ないからな」
「何よ、樹実渡ったら。おとぎの国って言っても……うーん」
「妖怪さんとかいるの。神様は。しゃべる猫とかは」
「いるわよ」
火乃花はニコリとした。
流瀧はそんな様子を黙ってみつめている。
「じゃ、じゃ、グレンちゃんもしゃべるの」
「グレンはしゃべらないよ」
「なんだ、残念」
グレンは短く鳴くと葵の足に頭を押し付けるようにして、上目遣いで葵をみつめていた。
「話すことはなくても、グレンは言葉を理解しているのですよ」
流瀧がグレンの言いたいことを代弁していた。
「そうか、グレンちゃんすごい」
「ニャ」
グレンはきっと喜んでいるのだろう。
和やかな雰囲気で頬を緩ませて会話に耳を傾けていたが、葵のさっきの言葉が気になってしかたがなかった。
どうするか。割り込んで話を訊こうか。それも気が引けて躊躇ってしまう。
挿絵の消えた本をいくら見たところで何も手がかりはみつからない。葵に話を訊く以外手がかりがみつかりそうにない。
遼哉ははしゃぐ葵を見遣り、佐久間へと顔を向けた。
「佐久間さん、葵ちゃんが妖怪と話したって本当だと思いますか」
「どうだろうね。なんとも言えないが、この動く人形を見てしまうと嘘だと言い切れないけど……。夢だったのではないだろうか。それが一番しっくりくる」
確かに。普通はそう思うだろう。
「私は、嘘じゃないと思うわよ。夢でもないと思う」
小海の言葉に遼哉は頷く。同意見だ。そうだとしたら尚更、話を訊かなくてはいけない。
「そうだ、今思えば凛子も似たようなこと話していたことがあった気がする」
「そうなんですか」
「ああ、昔のことで忘れていた。あのときは冗談だと思っていたんだが。もしかしたら、実際に話していたのかもしれない」
なるほど。同じような体験をした人がいるとなれば、信憑性も増す。
前もって知っていれば、凛子のお見舞いに行ったのに。いや、今から行っても遅くはないか。
風狸か。きっと何か妖怪なりに事情があるのだろう。風狸自身の意思でどこかに消えたと言うべきか。葵が何か聞いていればいいのだが。もしくは凛子が何か知っているかもしれない。
葵と本の御魂三人衆はまだ話に花を咲かせている。
火乃花は葵に鬼の話をしているようだ。
「鬼は悪者じゃないのよ。人の方が悪いくらいよ」
そんな話をしている。鬼も人も似たようなものだけどとも口にしていた。
要するに、悪い鬼もいればいい鬼もいるってことか。
鬼か。火乃花は『鬼退治』だなんてよく口にしているわりに、鬼は悪者じゃないなんて言うのか。矛盾を感じる。鬼の話よりも今は風狸のことだ。
話が一段落したら葵に話を聞こう。今は邪魔するのはよそう。
ならばやっぱり凛子のところに行くべきだろうか。
「佐久間さん、あの凛子さんもあの本の妖怪と話したことがあるかもしれないんですよね。話を訊けませんかね」
「ああ、申し訳ないけど、それは無理です。凛子は話せる状態じゃないもので」
そんなに悪いのか。
佐久間は凛子が癌で余命半年だとも話してくれた。
どうにも気持ちが沈んでいく。
そんな中、本の御魂三人衆と葵の楽し気な声が少しだけ気分を明るくさせてくれる。
「ふうちゃんにも、みんなと会わせてあげたいのにな。けど、ふうちゃんはまだ帰れないかな」
葵の何気ない言葉に、遼哉はハッとした。
『ふうちゃん』ってもしかして。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる