本の御魂が舞い降りる

景綱

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第四話 消えた挿絵

【五】葵と本の御魂三人衆

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 入り口で固まっている翔子。ちょっと顔が怖い。
 翔子の視線の先には本の御魂三人衆がいた。そうなるか。

 葵はというと翔子の手を振りほどいて本の御魂三人衆のそばに駆け寄り、しゃがみ込んで話しかけている。満面の笑みだ。

「妖精さんなの。小人さんかな。どこから来たの。おとぎの国から来たの。ねぇ、ねぇ、どうなの」

 質問攻めにあっていて困り顔の本の御魂三人衆を見ていると頬が緩む。
 子供は無邪気なものだ。順応性が高いというべきか。

「猫ちゃんもかわいい」

 グレンはあごの下を撫でられて目を細めて気持ち良さそうにしている。

「驚いただろう」

 佐久間の言葉に「ええ」とだけ答える翔子。

「こちらは、以前話した高宮源蔵のお孫さんで、えっと」

 佐久間が言葉を詰まらせたのを見て遼哉は頭を下げた。

「はじめまして、高宮遼哉です」
「どうも楠野宮翔子です」
「私は角橋小海です」
「私は火乃花」
「おいらは樹実渡」
「僕は、流瀧です」
「ニャ―」

 皆が続けて名乗った。グレンもきっと自分の名前を口にしたはずだ。遼哉は代わりに「こいつはグレンです」とグレンの頭を撫でながら紹介した。

「火乃花に、樹実渡、それに流瀧だね。私、葵だよ。みんな可愛い」
「葵ちゃんも可愛いね」

 遼哉の言葉に葵は照れ臭そうにしていた。
 翔子は本のことで来たことを知り、なんとも複雑そうな顔をしていた。挿絵が消えるなんて怪異が起きたのだから気持ちが悪いのだろう。しかも、その挿絵が妖怪だと言うのだから。
 葵のほうはあまり気にしていないようだった。それどころか変なことを口にした。

「私、あの妖怪さんとお話したよ」

 えっ、話した。
 苦笑いを浮かべて謝る翔子。
 佐久間は「きっと夢だ」なんて話している。
 実際のところどうなのだろうか。夢なのか。現実なのか。

 葵が嘘を話すような子には見えない。初対面だがそう思えた。
 葵の話をもっと訊きたかったのだが、風狸の話は途絶えてしまい御魂三人衆と遊んでいた。
 残念ながらしばらく雑談が続き、風狸の話は一切出てこなかった。

「あっ、ごめんなさい。病院に行かないといけないのでこのへんで」

 翔子はそう話を切り出すと、葵をよろしくと伝えて病院に向かった。
 よし、これで葵とゆっくり話せる。


***


「ねぇねぇ、おとぎの国のお話をして」

 葵は本の御魂三人衆に笑顔で話しかけている。おとぎの国から来たと信じているらしい。

「ほら、火乃花の出番だぞ。おいらは美味しいものの話しか出来ないからな」
「何よ、樹実渡ったら。おとぎの国って言っても……うーん」
「妖怪さんとかいるの。神様は。しゃべる猫とかは」
「いるわよ」

 火乃花はニコリとした。
 流瀧はそんな様子を黙ってみつめている。

「じゃ、じゃ、グレンちゃんもしゃべるの」
「グレンはしゃべらないよ」
「なんだ、残念」

 グレンは短く鳴くと葵の足に頭を押し付けるようにして、上目遣いで葵をみつめていた。

「話すことはなくても、グレンは言葉を理解しているのですよ」

 流瀧がグレンの言いたいことを代弁していた。

「そうか、グレンちゃんすごい」
「ニャ」

 グレンはきっと喜んでいるのだろう。
 和やかな雰囲気で頬を緩ませて会話に耳を傾けていたが、葵のさっきの言葉が気になってしかたがなかった。

 どうするか。割り込んで話を訊こうか。それも気が引けて躊躇ためらってしまう。
 挿絵の消えた本をいくら見たところで何も手がかりはみつからない。葵に話を訊く以外手がかりがみつかりそうにない。
 遼哉ははしゃぐ葵を見遣り、佐久間へと顔を向けた。

「佐久間さん、葵ちゃんが妖怪と話したって本当だと思いますか」
「どうだろうね。なんとも言えないが、この動く人形を見てしまうと嘘だと言い切れないけど……。夢だったのではないだろうか。それが一番しっくりくる」

 確かに。普通はそう思うだろう。

「私は、嘘じゃないと思うわよ。夢でもないと思う」

 小海の言葉に遼哉は頷く。同意見だ。そうだとしたら尚更、話を訊かなくてはいけない。

「そうだ、今思えば凛子も似たようなこと話していたことがあった気がする」
「そうなんですか」
「ああ、昔のことで忘れていた。あのときは冗談だと思っていたんだが。もしかしたら、実際に話していたのかもしれない」

 なるほど。同じような体験をした人がいるとなれば、信憑性しんぴょうせいも増す。
 前もって知っていれば、凛子のお見舞いに行ったのに。いや、今から行っても遅くはないか。

 風狸か。きっと何か妖怪なりに事情があるのだろう。風狸自身の意思でどこかに消えたと言うべきか。葵が何か聞いていればいいのだが。もしくは凛子が何か知っているかもしれない。

 葵と本の御魂三人衆はまだ話に花を咲かせている。
 火乃花は葵に鬼の話をしているようだ。

「鬼は悪者じゃないのよ。人の方が悪いくらいよ」

 そんな話をしている。鬼も人も似たようなものだけどとも口にしていた。
 要するに、悪い鬼もいればいい鬼もいるってことか。
 鬼か。火乃花は『鬼退治』だなんてよく口にしているわりに、鬼は悪者じゃないなんて言うのか。矛盾を感じる。鬼の話よりも今は風狸のことだ。

 話が一段落したら葵に話を聞こう。今は邪魔するのはよそう。
 ならばやっぱり凛子のところに行くべきだろうか。

「佐久間さん、あの凛子さんもあの本の妖怪と話したことがあるかもしれないんですよね。話を訊けませんかね」
「ああ、申し訳ないけど、それは無理です。凛子は話せる状態じゃないもので」

 そんなに悪いのか。
 佐久間は凛子ががんで余命半年だとも話してくれた。

 どうにも気持ちが沈んでいく。
 そんな中、本の御魂三人衆と葵の楽し気な声が少しだけ気分を明るくさせてくれる。

「ふうちゃんにも、みんなと会わせてあげたいのにな。けど、ふうちゃんはまだ帰れないかな」

 葵の何気ない言葉に、遼哉はハッとした。
『ふうちゃん』ってもしかして。

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