本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
101 / 161
第四話 消えた挿絵

【十三】あの世へ到着

しおりを挟む

「源蔵さん、お久しぶりですね」
「本当に久しいな。というか亡くなってこんな挨拶するとは思っていなかった」

 源蔵は頭を掻いて目尻を下げた。
 最後に凛子と会ったのはいつのことだったろうか。成人祝いのときだったろうか。結婚式でだったろうか。そんなに昔じゃなかったろうか。どちらにせよ数十年は会っていないだろう。

「あら、あなたたちも来てくれたのね。小さなお三人さん」
「おお来たぞ、風狸の手伝いに。まずは特製おにぎりでも食べようじゃないか」
「違うでしょ、もう。樹実渡って本当に馬鹿でしょ。そう思わない」

 火乃花は風狸に向かってそう言いながら樹実渡の頭を小突いていた。
 風狸は苦笑いを浮かべるだけで無言だ。本当のところは苦笑いかわからないが、そう感じた。

「痛いぞ火乃花。それに馬鹿とはなんだ。腹ごしらえは大事だぞ」
「二人とも、そんなことを言っている場合じゃないですよ。なにやら屈強な戦士さながらの者がこちらに向かってきます」

 流瀧の言う通り。確かに、槍のようなものを手にした二人組が走って来る。まずい状況かもしれない。

「あれは、ここの看守です」

 そうあいつらは看守だ。
 源蔵はそっと本の御魂三人衆をポケットに隠した。気づくと風狸の姿も消えている。

「おまえたち、そこで何をしている」
「いえ、ちょっと知り合いがいたもので立ち話を」
「ふん、そんな嘘に誤魔化されはしないぞ。ここへ侵入者が来たことはわかっている。その者たちはどこへ行った。かくまうと地獄行きだ。無期限のな」

 それは困った。自分は別に構わないが、凛子は生まれ変わりさせてやりたい。源蔵は考えた末、本の御魂三人衆をポケットから出した。

「こいつらのことかな。けど、こいつらはただの迷子だ。侵入者ではないな。それに害はないと思うがな」

 看守はじっと本の御魂三人衆を見遣り、何やら二人で話し合い始めた。
 どうなる。大丈夫か。間違った選択をしただろうか。
 心臓の鼓動が速まっていく。
 ごくりと生唾を呑み込み返答を待つ。待つとはなんでこんなにも長く感じるのだろうか。

 あっ、目が合った。
 一人がこっちに向き直り「こいつらは付喪神だな。ならば、問題ない。それから生まれ変わりの列はそこが最後尾だ」と言い放ち、引き返していった。

 ホッと胸を撫で下ろし、本の御魂三人衆に目を向けた。
 付喪神が大丈夫だったのなら、風狸も大丈夫なんじゃないのか。というか、すでに生まれ変わりの担当者と話しているんじゃなかったのか。違うのか。
 隠れることはなかったはずだ。
 長蛇の列を見遣り、首を捻った。

「行ったか。あいつらは、何を言ってもルールだと聞く耳をもたないから嫌いだ。心ってものがない」
「だから隠れたのか」
「まあ、そういうことだ」

 なるほど、そういうことか。ただ単に嫌いで顔を合せたくないってことか。
 風狸の言い分もわからなくはないが、看守としては厳しくて当然だろう。

「嫌いなのはそれだけじゃない。あいつらは天上界行きの者には甘いんだ。そんなことってあるか」
「それは仕方がないだろうよ。天上界行きってことは相当、徳を積んでいるってことだ。つまり、神に近い存在ってことだろう」
「まあ、そうだろうけどさ。そんなに差をつけないでほしいよ。差別だろう。違うのか」
「それは、うむ。違うんじゃなかろうか」

 差別というか、区別だろう。天上界に行く者とそうでない物の差はきっと大きい。特に地獄行きの者は現世で、なにかしら悪い行いをしてきた者ってことだろうから、扱いが違ってきて当然だ。

 生きていても死んでいても世の中はたいして変わらないのかもしれない。あの世では初心者の源蔵には知らないことばかりだ。いや、初心者ではないか。よくわからない。

 天上界か。行ってみたいものだ。
 まだ天上界に行けるほどのレベルではないから無理だろうけど。地獄行きではないだけよしとしよう。

 そうそう、驚いたのは魂レベルってものが存在することだ。
 自分は確か、魂レベル一か二だったか。生まれ変わりというものを経験したことはないらしい。前世の記憶というものはない。ただ単に記憶がないだけで、実際は生まれ変わっているってこともあるのだろうか。どうだろう。

 以前もここへは来たことがあるような気もする。なら、生まれ変わっているのか。それなら魂レベルはもっと高いのだろうか。

 そういえば、さっきの看守変なことを言っていた。
 生まれ変わりの最後尾って。

「風狸、そこに並ばなきゃいけないのかい。話しはついているんだろう」
「えっと、その。あっ、グレン」

 んっ、グレンがどうしたって。
 あれ、グレンがいない。

「グレン」

 足元にいるはずのグレンを探したが見当たらない。どこへいったのだろう。看守にみつかったら大変なことになりそうだけど。猫又のようなものだから、グレンも問題ないのか。源蔵は首を傾げて考え込む。

「そっちへ逃げたぞ。早く捕まえろ」

 何事だ。

 もしかして、あそこにいるのはグレンか。そうだとしたら、早く助けてやらなくてはいけない。
 源蔵は居ても立っても居られず、駆け出した。

「源蔵、待ってください」

 耳を突き抜けるような流瀧の声に慌てて止まり振り返る。

「どうした、流瀧」
「今がチャンスです。グレンが看守たちをひきつけてくれている今がチャンスです。どうやら、生まれ変わりに関わる役人たちも捕まえようと躍起になっているようですから」

 そうか、そういことか。グレンはわざとみつかったのか。追われるようなことを仕出かしたのだろう。

『グレン、頑張ってくれ』

 心の中で呟き、源蔵は凛子のほうへ向き直る。
 いつの間にか凛子の肩に乗っていた風狸と、目が合った。そうかと思うと風狸は凛子に目を向けて「生まれ変わり特例コースはあっちだ。行こう」と促した。

 凛子が目を合わせてきて、源蔵は頷いた。
 グレンがくれたチャンスだ。急がなくては。
 あんな大行列の最後尾に並んでいる場合じゃない。

 待てよ。グレンが看守をひきつけなくてもよかったんじゃないのか。
 話は通っているんじゃないのか。
 まさか。
 風狸の奴。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

気弱令嬢の悪役令嬢化計画

みおな
ファンタジー
 事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?  しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?  いやいやいや。 そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!  せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。  屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

手折れ花

アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。 侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。 ※注意※ 自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。 (2020.12.31) 閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜

黒崎隼人
ファンタジー
物流倉庫で不良在庫の管理に追われるだけの42歳、窓際サラリーマンのタケシ。 ある日突然、彼は見知らぬ森の中へと転移してしまう。 彼に与えられたのは、地球で廃棄される運命にあったあらゆる物資を無尽蔵に引き出せる規格外のスキル「無限在庫処分」だった。 賞味期限間近のカップ麺、パッケージ変更で捨てられるレトルトカレー、そして型落ちの電動工具。 地球ではゴミとされるこれらの品々が、異世界では最強のチートアイテムと化す! 森で倒れていたエルフの少女リリアをカップ麺で救ったタケシは、領主の搾取によって滅亡寸前だった彼女の村を拠点とし、現代の物資と物流ノウハウを駆使して商会を立ち上げる。 美味しいご飯と圧倒的な利便性で異世界の人々の胃袋と生活を掴み、村は急速に発展。 さらには、深刻な食糧難で破綻寸前だった美少女魔王ルビア率いる魔王軍と「業務提携」を結び、最強の武力を物流の護衛として手に入れる! 剣も魔法も使わない。武器は段ボールと現代の知識だけ。 窓際おじさんが圧倒的な物量で悪徳領主の経済基盤をすり潰し、異世界の常識を塗り替えていく、痛快・異世界経営スローライフ、開幕!

処理中です...