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第四話 消えた挿絵
【十三】あの世へ到着
しおりを挟む「源蔵さん、お久しぶりですね」
「本当に久しいな。というか亡くなってこんな挨拶するとは思っていなかった」
源蔵は頭を掻いて目尻を下げた。
最後に凛子と会ったのはいつのことだったろうか。成人祝いのときだったろうか。結婚式でだったろうか。そんなに昔じゃなかったろうか。どちらにせよ数十年は会っていないだろう。
「あら、あなたたちも来てくれたのね。小さなお三人さん」
「おお来たぞ、風狸の手伝いに。まずは特製おにぎりでも食べようじゃないか」
「違うでしょ、もう。樹実渡って本当に馬鹿でしょ。そう思わない」
火乃花は風狸に向かってそう言いながら樹実渡の頭を小突いていた。
風狸は苦笑いを浮かべるだけで無言だ。本当のところは苦笑いかわからないが、そう感じた。
「痛いぞ火乃花。それに馬鹿とはなんだ。腹ごしらえは大事だぞ」
「二人とも、そんなことを言っている場合じゃないですよ。なにやら屈強な戦士さながらの者がこちらに向かってきます」
流瀧の言う通り。確かに、槍のようなものを手にした二人組が走って来る。まずい状況かもしれない。
「あれは、ここの看守です」
そうあいつらは看守だ。
源蔵はそっと本の御魂三人衆をポケットに隠した。気づくと風狸の姿も消えている。
「おまえたち、そこで何をしている」
「いえ、ちょっと知り合いがいたもので立ち話を」
「ふん、そんな嘘に誤魔化されはしないぞ。ここへ侵入者が来たことはわかっている。その者たちはどこへ行った。匿うと地獄行きだ。無期限のな」
それは困った。自分は別に構わないが、凛子は生まれ変わりさせてやりたい。源蔵は考えた末、本の御魂三人衆をポケットから出した。
「こいつらのことかな。けど、こいつらはただの迷子だ。侵入者ではないな。それに害はないと思うがな」
看守はじっと本の御魂三人衆を見遣り、何やら二人で話し合い始めた。
どうなる。大丈夫か。間違った選択をしただろうか。
心臓の鼓動が速まっていく。
ごくりと生唾を呑み込み返答を待つ。待つとはなんでこんなにも長く感じるのだろうか。
あっ、目が合った。
一人がこっちに向き直り「こいつらは付喪神だな。ならば、問題ない。それから生まれ変わりの列はそこが最後尾だ」と言い放ち、引き返していった。
ホッと胸を撫で下ろし、本の御魂三人衆に目を向けた。
付喪神が大丈夫だったのなら、風狸も大丈夫なんじゃないのか。というか、すでに生まれ変わりの担当者と話しているんじゃなかったのか。違うのか。
隠れることはなかったはずだ。
長蛇の列を見遣り、首を捻った。
「行ったか。あいつらは、何を言ってもルールだと聞く耳をもたないから嫌いだ。心ってものがない」
「だから隠れたのか」
「まあ、そういうことだ」
なるほど、そういうことか。ただ単に嫌いで顔を合せたくないってことか。
風狸の言い分もわからなくはないが、看守としては厳しくて当然だろう。
「嫌いなのはそれだけじゃない。あいつらは天上界行きの者には甘いんだ。そんなことってあるか」
「それは仕方がないだろうよ。天上界行きってことは相当、徳を積んでいるってことだ。つまり、神に近い存在ってことだろう」
「まあ、そうだろうけどさ。そんなに差をつけないでほしいよ。差別だろう。違うのか」
「それは、うむ。違うんじゃなかろうか」
差別というか、区別だろう。天上界に行く者とそうでない物の差はきっと大きい。特に地獄行きの者は現世で、なにかしら悪い行いをしてきた者ってことだろうから、扱いが違ってきて当然だ。
生きていても死んでいても世の中はたいして変わらないのかもしれない。あの世では初心者の源蔵には知らないことばかりだ。いや、初心者ではないか。よくわからない。
天上界か。行ってみたいものだ。
まだ天上界に行けるほどのレベルではないから無理だろうけど。地獄行きではないだけよしとしよう。
そうそう、驚いたのは魂レベルってものが存在することだ。
自分は確か、魂レベル一か二だったか。生まれ変わりというものを経験したことはないらしい。前世の記憶というものはない。ただ単に記憶がないだけで、実際は生まれ変わっているってこともあるのだろうか。どうだろう。
以前もここへは来たことがあるような気もする。なら、生まれ変わっているのか。それなら魂レベルはもっと高いのだろうか。
そういえば、さっきの看守変なことを言っていた。
生まれ変わりの最後尾って。
「風狸、そこに並ばなきゃいけないのかい。話しはついているんだろう」
「えっと、その。あっ、グレン」
んっ、グレンがどうしたって。
あれ、グレンがいない。
「グレン」
足元にいるはずのグレンを探したが見当たらない。どこへいったのだろう。看守にみつかったら大変なことになりそうだけど。猫又のようなものだから、グレンも問題ないのか。源蔵は首を傾げて考え込む。
「そっちへ逃げたぞ。早く捕まえろ」
何事だ。
もしかして、あそこにいるのはグレンか。そうだとしたら、早く助けてやらなくてはいけない。
源蔵は居ても立っても居られず、駆け出した。
「源蔵、待ってください」
耳を突き抜けるような流瀧の声に慌てて止まり振り返る。
「どうした、流瀧」
「今がチャンスです。グレンが看守たちをひきつけてくれている今がチャンスです。どうやら、生まれ変わりに関わる役人たちも捕まえようと躍起になっているようですから」
そうか、そういことか。グレンはわざとみつかったのか。追われるようなことを仕出かしたのだろう。
『グレン、頑張ってくれ』
心の中で呟き、源蔵は凛子のほうへ向き直る。
いつの間にか凛子の肩に乗っていた風狸と、目が合った。そうかと思うと風狸は凛子に目を向けて「生まれ変わり特例コースはあっちだ。行こう」と促した。
凛子が目を合わせてきて、源蔵は頷いた。
グレンがくれたチャンスだ。急がなくては。
あんな大行列の最後尾に並んでいる場合じゃない。
待てよ。グレンが看守をひきつけなくてもよかったんじゃないのか。
話は通っているんじゃないのか。
まさか。
風狸の奴。
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