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第四話 消えた挿絵
【十四】光を纏う存在
しおりを挟むギリシャ神話にでも出てきそうな太い柱に囲まれた建物が見える。それでいて、どこか日本建築の様相にも見える。不思議な建物だ。
源蔵は建物に施された繊細な彫刻に見惚れた。
あそこが生まれ変わりの施設なのか。
チラッと並ぶ人たちに目を向けると、朧気でフラフラ身体を揺らせていた。いつから並んでいるんだろう。それにしても長い列だ。
列のはじまりは向こう側の建物か。おそらく、受付所なのだろう。
凛子のことが解決したら、最後尾に並ぶとしようか。いや、生まれ変わらず、ずっと
ここで暮らすというのもありか。
この列に並んだとしたら、いつ生まれ変われるのだろうか。
十年、数十年か。それ以上だろうか。
「急げ、源蔵」
火乃花に促されて小走りで向かい、巨大な扉を見上げた。
素晴らしい。この彫刻は人の一生が描かれているようだ。
「源蔵、見入っている場合ではありません。看守のいない今を逃してはいけません。さあ、入りますよ」
「ああ、そうだったな」
どうやらここの看守は追いかけっこで忙しいようだ。一人もいない。今なら入れる。
グレンのおかげだ。連れてきてやっぱり正解だった。あいつは賢い奴だ。今はグレンが捕まらないことを祈ろう。
うぅっ。
なんとこの扉は重いのだろう。それでも少しずつゆっくり動いていく。みんなの思いがこの扉を動かしているのだろう。軋みながら開いていく。
もう一息だ。
「おお、こりゃ眩しい」
いったい何の光だ。源蔵は顔を背けて瞼を閉じた。
んっ、水音がする。
中に入ったはずなのに外なのか。混乱あする頭を整理しようと考えを巡らせていた。
噴水でもあるのか。室内に滝を作ってあるのか。そうではないか。そんな音ではない。ゆったりとした水音。細波か。それも違うか。
源蔵は床に目を向けて歩みを進めると、水音の存在を確認した。
花々に囲まれた小さな池がキラリと光る。
「源蔵、それ以上近づくなよ。池に落ちるぞ。それに、そこは母親を決めることが出来る場所だ。落ちたら、生まれ変わってしまう。そこにいていいのは凛子だ」
母親を決める。
そんなことができるのか。
風狸は凛子に目を向けて頷いた。凛子も頷き返して池へと急ぐ。
「お待ちなさい」
突然、目の前に光を纏った者が現れて立ちはだかった。眩しさが増して、目がつぶれてしまいそうだ。そこにいるのは、誰だ。
「あなたは受付を通っていませんね。ここから立ち去りなさい」
眩し過ぎて目が痛い。もしかして神様なのだろうか。声からして女神様か。
森の香りが鼻を掠めていく。
どんな姿なのか薄目を開けてみたものの、光が強過ぎてわからない。
ダメか。
「んっ、あれ」
光が弱まりはじめた。目の前にいるのは誰だ。
足元からゆっくり顔のほうへと目を移す。
源蔵は目にした姿に思わず見惚れてしまった。違う、違う、そうじゃない。何が違う。違くはない。って、何を考えているのだろう。なんだか訳がわからなくなり頭を振る。
そうだ、目の前にいるのは女神様だ。
源蔵はもう一度、頭を振って手を合わせた。
「女神様、どうか特例をお願いします」
「特例。そなたにその権利があると言うのですか」
権利。そんなものはない。
生まれ変わるのは凛子のほうだ。はたして、凛子にはその権利があるのか。わからない。
じっとみつめてくる女神様を源蔵はみつめ返した。
もうないはずの心臓が跳ね上がる。優しそうな目の奥に厳しさがあるよで、ずっと目を合せることは叶わなかった。
負けるな、負けるな。ここははっきりと話せ。凛子のためだ。
「自分ではなくそこの凛子のことです」
「凛子とはその者のことですね」
スッと視線が外れたことが見ていなくてもわかった。頭を少しだけあげてチラッと様子を窺うと女神様は凛子をじっとみつめていた。
「これ、美味いぞ。おいらの特製おにぎりだ」
樹実渡がおにぎりを差し出して、ニコッとしていた。
「樹実渡、なんてことをしているのです」
流瀧が樹実渡の袖を引っ張り「無礼な振る舞いをすみません」と謝っている。
「綺麗。憧れちゃう。このドレスも素敵」
火乃花は女神様のドレスに触れて目を輝かせている。
樹実渡だけでなく火乃花まで神様に馴れ馴れしい態度を。怒りをかったらどうする。源蔵はハラハラしていた。
「ダメです。火乃花まで、そんなことをしてはいけません」
これはまずい。本の御魂三人衆を連れて来たのは間違いだっただろうか。
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