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第四話 消えた挿絵
【十五】どうすりゃいい
しおりを挟む女神様は樹実渡と火乃花を交互に見遣り、笑みを浮かべて謝る流瀧にも目を向けた。
「面白い者たちですね」
女神様はそう呟いた。聞き間違いではない。怒っていないのか。
「なぁ、これ美味いんだぞ。食べないのか」
ああ、女神様にあんな口を利きおって。源蔵は嘆息を漏らして頭を振った。
「特製おにぎりと言いましたか。ならばいただきましょう」
えっ、食べるのか。
女神様がおにぎりを手に取り、一口食す。
「なるほど、確かに美味ですね」
「そうだろう、そうだろう」
源蔵は鼓動が早まるとともに息苦しくなっていた。実体を持たない魂だけの存在だから鼓動が早まるなんてことは本来ないのだが、まだ生きていたときの感覚が抜け切れていないのだろう。それにしても大丈夫だろうか。この展開は吉なのか凶なのか。
天罰とか下されたりしないのか。
「こんなドレス、私もほしい。巫女姿もかわいいけど、やっぱりドレスよね」
ああ、もう火乃花も離れろ。
源蔵は跪き「すみません。樹実渡と火乃花をお許しください」と地に頭をつけて土下座した。凛子も源蔵に倣い土下座した。流瀧も風狸も源蔵に倣った。
「みんな何をしているんだ。謝るようなことをしたのか、おいらは」
「そうよ、何も悪いことなんてしていないわよ」
ダメだ、樹実渡も火乃花もわかっていない。いや、待てよ。さっきの笑みは怒っているようには見えなかった。この女神様は寛大な心の持ち主なのか。神様とは厳格な存在ではないのだろうか。
「樹実渡と言うのですね。これはなかなかおいしいものですね。中の具材はなんなのですか」
「これは、鮭だ。ただの鮭じゃないぞ。時鮭だ。美味いだろう」
「トキシラズですか。樹実渡よ、天上界の料理人になりませんか」
「えっ、天上界の料理人か。うーん、それは……」
樹実渡は腕組みして考え込んでいる。
「そうしてくれれば、特例を認めてもいいですよ」
なに。認める。
これは思わぬ展開だ。樹実渡が天上界の料理人になってくれれば。けど、そうなったら樹実渡は遼哉のところに帰れなくなる。それは、流石に遼哉に申し訳ない。樹実渡を犠牲にするのも心苦しい。樹実渡次第だが。
「おいらは、作り方はわかるが作るほうはいまいちだぞ。遼哉が作っているからな。おいらは遼哉がいなきゃダメなんだよな」
「そうですか。では、遼哉とともに招くとしましょうか。それでいいですよね」
「えっ、遼哉とか。うーん、けど、それって遼哉が死んじまうってことだよな。それはよくないな」
「そうですか。拒むのですね。ならば、特例の話はなかったことにしましょう。立ち去りなさい」
女神は厳しい顔つきになり、突風が吹き荒れた。
気づくと建物の外に全員飛ばされていた。
樹実渡は、固く閉ざされた扉を叩き叫ぶ。
「待ってくれよ、ここで料理人は出来ないけど美味いものをここに届けるってことじゃダメなのか。おーい」
樹実渡の声が届いているのかいないのか、建物内は静まり返っていた。女神はどこかへ行ってしまったのだろうか。
「おい、おまえら何をしている。生まれ変わりたいのであれば受付をしてからにしろ」
看守が戻って来てしまった。しかたがない、ここは一旦退こう。
受付か。
源蔵は首を振った。さっきよりも列が長くなっている。
「看守さん。ちょっとお尋ねしますが、次に生まれ変わるとしたらいつ頃になるのだろう」
「そうだな、早くて百年後ってところか。まあ、誤差二、三十年あるだろうけど」
そう話すと追い払うように手を振られた。
そんなに待てない。やっぱり特例を認めてもらわなくては。けど、どうしたらいいのだろうか。樹実渡と遼哉を料理人に。いやいや、それはダメだ。
孫の遼哉をここに連れて来るわけにはいかない。
やっぱり無策でここに来てしまったことが間違いだったか。
あれ。なにかがおかしい。
そうだ。
「風狸、生まれ変わりの件は話しがついているんじゃなかったのか。なぜ、こんなことになった」
「ごめん。天上界の者と話せなかったんだ」
やっぱり。
源蔵は長蛇の列に目を向けて、肩を落とした。
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