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第四話 消えた挿絵
【十八】ふたたび、あの世へ
しおりを挟む再び、あの世の入り口を潜りぬけて繊細な彫刻のある扉を眺めた。
やっぱり素晴らしい。
見惚れている場合ではなかった。
「また、来たのか。受付しなきれば生まれ変わることなど出来ないぞ」
看守に睨み付けられてしまった。
腹立たしい気分になったが、「まだ臭いな」との樹実渡の囁き声と笑いを堪える火乃花の姿に、吹き出しそうになる。
猫の尿スプレーはなかなか臭いがとれない。そのことに関しては同情してしまう。
「そういえば、グレンはどうしているのだろうか」
源蔵は何気なく訊ねてみた。
「グレンとは誰のことだ」
「猫ですよ」
源蔵が言おうとする前に凛子が先に答えていた。
「ああ、あの猫か。女神様が連れて行かれた。どうしているかはわからない。あいつは酷い奴だからな、地獄行きになってしまったかもしれないぞ。いや、畜生道行きってこともあるか」
なるほど、それならばやはり女神様に会わなくてはいけない。そう考えていたら凛子が看守たちに
「女神様に料理を振舞いたいのですが、案内してはくれないでしょうか」と話し出した。
「いや、我らには無理だ。下っ端だからな」
「なら、誰に言えば女神様のところへ行けるのでしょうか」
「知らない。それにここから離れることは出来ない。さっさと受付にでも行け」
看守たちは手を振りそれきり一度も口を利いてはくれなかった。
どうしたものか。ここで引き下がるわけにはいかない。なんとしても女神様に会う必要がある。
んっ、樹実渡。何をしている。
鞄に顔を突っ込み「ああ、たまらない」との声を漏らして天に顔を上げた。
仕方がない奴だ。食いしん坊の血が騒いでいるのか。
「せっかく美味い料理があるのにな。勿体ないな。きっと女神様も喜ぶと思うのにな。あっ、もしかしたら、怒られるかもしれないぞ。いい料理人がいるのに知らせなかったって。可哀相に地獄に落とされちまうかもな。ここの看守は役立たずだってさ」
樹実渡はそう呟き、看守たちをチラッとだけ見て背を向けた。
看守たちは明らかに動揺している。顔色も悪いような。それは元からか。
チラチラこっちに目を向けつつ、小声で話し合っている。
「どうする。どうする」なんて声も聞こえてくる。
咳払いをひとつして、看守の一人がこっちに向き直った。
「えっと、そのなんだ。我々は本当に女神様に謁見出来るほど偉くはないんだ。だがしかし、女神様に謁見可能な我々の上司のもとへ案内しようじゃないか」
「いいのか」
「もちろんだ。女神様にその料理をもてなすのだろう。それならば、断る理由がない」
もう一人の看守がついて来いと言い歩き出したのを見て、あとについて行く。
源蔵は樹実渡の機転に感心した。
わかってはいたが、ただの食いしん坊ではないってことか。
看守たちがあそこまで考えを変えるとは思わなかった。もしかして、女神様が看守を地獄に落とすなんてことが本当にあるのだろうか。ふと女神様が睨み付けているところを想像してブルッと身体を震わせた。
変なことを考えるのはよそう。
源蔵はすぐ後ろからついて来る樹実渡を見遣ると頬を緩ませた。
掌を返すとはこのことだ。樹実渡もなかなかやるものだ。
「樹実渡、凄いですよ。僕には思いつきませんでしたよ」
「えへへ、そうか。おいらが流瀧に褒められるなんて思わなかったよ」
流瀧も感心しているようだ。だが、火乃花だけは樹実渡のことよりも女神様とまた会える喜びの方が強いようだ。
「私にドレスをくれないかな。一度でいいから着たいんだけどな」
なんて独り言を口にしている。
凛子と風狸もなにやら話をしているようだが、聞き取れなかった。
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