本の御魂が舞い降りる

景綱

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第四話 消えた挿絵

【二十三】やっぱり納得いかない

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「おいら、やっぱり納得いかない」
「そうだよな。けどさ、樹実渡」
「遼哉、けどなんだ。凛子は誰よりも心が綺麗な人だぞ。一目見てわかったぞ。しかも、あんなに美味い料理が作れるんだぞ。それだけでもすぐに生まれ変わる資格があるってもんだ」
「そうよ、そうよ」
「火乃花までそんなこと言って」

 ちょっと論点がズレているところもあるが、言いたいことはわかる。

「この僕も正直納得はいっていません」

 流瀧もか。
 これは難しい問題だってことだ。きっと、あっちの世界にもいろいろと事情があるのだろう。仕方がないことだと割り切るしかない。
 なんて簡単ではない。

 文港堂書店で期待して待っていたから、自分だって正直なところ納得はいっていない。
 戻ってきた本の御魂三人衆から聞いた話は、どうしてもモヤモヤが残る。

 遼哉は肩を落として溜め息をひとつ漏らした。
 風狸は納得したのだろうか。本の挿絵に戻っている。

 本を開き風狸の挿絵を見遣ると、目だけがギョロリと動き目が合った。そう思ったらぴょんと飛び出してきた。

「翔子と葵は来ていないのか」
「ああ、来ていない。いつかこの本を取りにくるだろうけど」

 佐久間店主がそう話すと風狸は再び本の中へ戻っていった。

「おい、それだけか。凛子のことはもういいのか。おいらはまだ諦めていないぞ」

 樹実渡が風狸の挿絵をペシペシと叩く。
 風狸は挿絵の状態のまま「痛いぞ」とだけ言い放ち黙ってしまう。

「冷たい奴だ」
「樹実渡、いつか凛子は生まれ変わってくるのですよ。これはこの世とあの世のことわりです。仕方がないことなのです」
「でもさ……」
「私も、諦められない。もう一度、女神様に直談判しに行きましょうよ」

 流瀧は首を左右に振り「無理ですよ。余程のことがない限り話したところで同じです。僕だって本当は諦めきれないのですから」と火乃花の肩を軽く叩いた。

 佐久間店主は涙ぐんでいた。

「凛子さんも天上界でみんなに感謝しているはずだ、きっと」
「そうね。料理人として頑張っているだろうし。楽しんでいるかもね」

 小海は遼哉の言葉に頷き微笑んでくれた。

「おいらは、それでも納得いかない」
「樹実渡」

 遼哉は笑みを浮かべて、樹実渡をみつめた。もしかしたら、樹実渡なりに責任を感じているのだろうか。最初は樹実渡が料理人になるように持ち掛けられたのだから。樹実渡は自分が料理人になっていれば、こんなことになっていないと思っているのだろう。

 それでも『料理人においらがなる』と口にしなかったのは、きっと自分のことを考えてくれたからだろう。心の声が聞えてきそうだ。

『遼哉を死なすわけにはいかない』って声が。

 樹実渡のジレンマする姿が遼哉にとっても辛いところだ。
 一緒に天上界に行こうって言葉をかけてやりたいが、小海のことが頭を過ってしまう。遼哉はチラッと小海に目を向けて、嘆息を漏らした。

 こればっかりは自分だけの問題じゃないからな。
 この世の中、うまくいかないものだ。あ、これはあの世の話か。

「ンニャー」
「グレンだって納得いかないって叫んでいるぞ」

 遼哉はグレンの頭を撫でた。

「おまえも凛子のことが好きなんだな」

 小さく息を吐き、グレンに目を向けていると、突然入り口の扉が大きな音を立てて開いた。

「浅間様に行こうよ」

 えっ、凛子。
 違う。凛子は天上界だ。

 あそこにいるのは、葵だ。さっきまで小さい頃の凛子の写真を見せてもらっていたせいで錯覚してしまった。よく似ている。

 隣で会釈する翔子に、遼哉は頷き返す。
 似ているといえば翔子も同じだ。若い頃の凛子にどことなく雰囲気が似ている。

 風狸も見間違えてしまったのか、本から勢いよく飛び出して止まれずにひっくり返っていた。その次の瞬間には、何事もなかったかのように起き上がると「葵だったか。驚かすな。けど、浅間様か。いいかもしれない」とひとり納得していた。

「そうか、それだ」

 樹実渡も何か閃いたのかテンション高めで叫んだ。

「浅間様に行こう。みんなで凛子のことをお願いするんだ。いや、浅間様だけじゃなくいろんな神社へ行って凛子が早く生まれ変われるように頼むんだ。それがいい。おいらの考えは間違っているか。たくさんの神様の力を借りるんだよ」

 全員の顔色を窺うように見回す樹実渡。

「それいいかも。葵ちゃん、ナイス」

 火乃花は葵に向かってニコリとした。
 流瀧もなにやら頷いているようだ。

「おい、神社巡りのアイデア出したのはおいらだぞ。葵はヒントくれただけだぞ。なあ、グレンそうだろう」

 樹実渡は誰も褒めてくれないと知りグレンに声をかけていた。
 グレンはというと、毛繕いをして素知らぬ顔をしている。

 おいおい、そこは何か言うところだろうとツッコミたくなったがグレンがそんなことをするはずがない。猫なのだから。

「樹実渡、さすがだな」

 遼哉は樹実渡に親指を突き立てて口角を上げた。

「そうだろう、やっぱりおいらは凄いんだ。あとで美味いもの作ってくれな」

 結局、美味しいものにいきつくのか。

「わかったよ、美味いものはあとでな。それじゃ、さっそく浅間様にお願いしに行こう」

 遼哉の声に全員が頷く。
 神頼みするくらいしか出来ないけど、もしかしたら天上界にまで通じるかもしれない。ここまで思われているのなら少しくらい優遇してもいいかなんてなれば御の字だ。

 お百度参りとかもいいのかもしれない。今時やっている人はいないだろうけど。いや、百回するなら別の神社に参拝しにいったほうがいいのか。

 百カ所参拝か。それは無理か。
 樹実渡はグレンに跨り「レッツゴー」と叫び、満面の笑みで真っ先に書店を飛び出していった。

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