本の御魂が舞い降りる

景綱

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第四話 消えた挿絵

【二十二】思わぬ再会

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「ふーん、凛子凄いな」

 樹実渡が腕組みをして頷いている。

「凄いだなんて。けど、覚えていないねぇ」
「ふふふ、人の記憶とはそういうものです。ですが、私は覚えていますよ」
「えっ」

 覚えている。それはどういうことだ。
 あそこにいたってことか。
 自分は女神様と会った記憶はない。見えなかっただけで、浅間様で出会っていたってことか。

 源蔵は首を捻った。
 もしかして浅間様の女神様ってことか。
 つまり、最初から凛子のことを知っていた。そうだとしてどうなる。どうにもならないか。
 凛子のほうは覚えていないせいか小首を傾げている。

「ねぇ、女神様は凛子と友達だったの」
「火乃花、少し馴れ馴れし過ぎますよ」

 流瀧の叱る声が聞えていないのか火乃花は女神様のドレスを引っ張って「友達なんだよね」と繰り返して答えを促していた。

「いえ、そうではありませんよ。幼い凛子を好いていた神は別の者です。木花咲耶姫命このはなさくやひめのみこと、こちらへ」

 春の息吹のようなぬくもりがあたりに立ち込めていく。気持ち良過ぎて寝てしまいそうだ。
 いかん、いかん。源蔵は頭を左右に振り目を覚ます。

「忘れてしまったの、凛子」

 少し悲し気な面持ちの木花咲耶姫命がじっと凛子をみつめている。
 凛子もまたじっと見つめ返している。あの顔は思い出せないって感じだ。

「凛子」
「えっ、風狸なに」

 振り返る凛子に風狸は肩に飛び乗り吐息を吹きかけた。

「あっ」

 凛子は小さく言葉を発すると目が潤み出す。
 風狸は何をしたのだろうか。風狸を見遣ると、ニヤリと笑みを浮かべていた。樹実渡も同じことを思ったのか、風狸に問い掛けていた。小声のせいでなんと口にしたのかよくわからない。

 聞き取れたのは「凄いな」との言葉だけ。
 気になって仕方がない。
 源蔵は樹実渡に向けて手招きをした。

「樹実渡、どういうことか教えてくれないか」
「風狸は、古い記憶も復活させられるんだってさ」

 なるほど、そういうことか。本当に凄い奴だ。
 気づくと凛子は木花咲耶姫命に抱きついていた。

「さくちゃん、ごめんなさい」

 なぜか凛子が子供の姿に映った。浅間様に行こうと必死だったころの凛子がそこにいる。
 幻か。違うか。心も身体もあのときに戻ったのか。
 不思議なことも起こるものだ。

「凛子はもう魂だけの存在です。思った通りの姿に変われるのですよ」

 女神様が耳打ちしてくれた。
 それなら、自分も変われるのか。そんなことはどうでもいい。
 凛子はさっきからしきりに『さくちゃん』と呼んでいる。あのときもその名前で呼んでいた。

『さくちゃん』って木花咲耶姫命のことだったのか。

「よかった。思い出してくれて。大人になっていくにしたがって私の声が届かなくなってしまって寂しかった」
「さくちゃん。忘れちゃっていて本当にごめんね」

 木花咲耶姫命はいい意味で神様らしくなくて親近感が湧く。この神様がいればもしかしたら早くに生まれ変われるのではないのだろうか。

 源蔵は一か八かで話を持ち掛けてみた。
 期待は「それは無理です」の言葉であっけなく散ってしまった。
 凛子のことは好きだが生まれ変わりに関しては別問題らしい。
 残念でならない。

「凛子、涙の再開は終わりです」

 女神様の言葉に木花咲耶姫命はお辞儀をして、消えてしまった。もうちょっと思い出に浸らせてあげてもいいのに。女神様の言葉は絶対なのだろうか。かなり上位の神様ってことか。
 そういえば、凛子の生まれ変わりの話はどうなるのだろう。

「あの」
「みなまで言わずともわかっています。凛子なら大丈夫であろう」
「大丈夫ってことは、つまり」
「生まれ変わりは他の者よりも早くなるはずです」

 どうやら、凛子の魂は格が高いらしい。

「それで」

 女神様に言葉を制止されて「任せなさい」とだけ伝えてきた。
 これ以上は訊くなということだろうか。

 残念だ。やるべきことはやった。元の世界に帰るしかない。違う。自分はすでに亡くなっている身だ。ここに残らなくてはいけない。
 源蔵は本の御魂三人衆と風狸を見送ることにした。

 風狸はどこか元気なさそうだ。流瀧も樹実渡も火乃花も納得していなさそうだ。うまくいかなかったというべきか。どうにもモヤモヤして落ち着かない。

 そんな中、グレンが戻って来た。何かあったのかみたいな感じで大きな欠伸をして毛繕いをしている。呑気な奴だ。
 凛子本人は木花咲耶姫命と再会したことでスッキリしたのか思ったほど気落ちはしていないようだ。

「みんな、ありがとうねぇ。またいつか会えたらいいねぇ」

 いつの間にかお婆さんの姿に戻った凛子は、ニコリと手を振っていた。
 どうにも消化不良気味だけど、世の中こういうものなのかもしれない。あの世もこの世もそれほど違いはないのだろう。

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