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第四話 消えた挿絵
【三十一】まさかの再会
しおりを挟む「グレン、行け。いち早く神様に願うぞ」
樹実渡は性懲りもなくグレンに跨り拝殿へと向かっていく。また、転ばされるぞ。
あれ、大丈夫なのか。
樹実渡を乗せたグレンは拝殿前に何事もなく到着していた。
遼哉はあたりを見回して首を捻った。なんだろう。何か違和感がある。
あっ、わかった。狛犬がいない。
なぜいないのだろう。ここには眷属もいないのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。
なるほど、こういうパターンもあるのか。
樹実渡がやられている。無礼を働いた代償ってやつだ。
「うわっ、なんだ、やめてくれ。痛いぞ」
グレンは樹実渡を残して素早く逃げ去りすでにすぐ後ろに隠れている。
「なんだ、こいつらは」
樹実渡に向かって鶏たちが嘴で突っついている。
「ねぇ、樹実渡はいったい何をしているの」
小海の言葉にハッとした。あの鶏たちは実際には見えないのか。遼哉は小海に説明してあげると、クスリと笑った。
「頼む、やめてくれ。おいらが悪かった。神様、ごめんなさい」
その一言で鶏たちは四方八方に散って行き姿を消した。
伊勢神宮の眷属は鶏ってことなのか。よくわからないが、きっとそうなのだろう。狛犬がいないのは三重県の伊勢神宮も同じなのだろうか。何か意味があるのだろうか。
拝殿まで来ると、すぐ横に天照大神の姿を掘った石碑のようなものがあった。その石碑には他に二柱の姿も。八幡大神と春日大神らしい。
「遼哉、凛子さんのことお願いしましょうよ」
小海に促されて手を合わせた。本の御魂三人衆もお願いしているようだ。樹実渡は声に出して拝んでいる。すると、心地よい声音が耳を擽った。
「来ましたね。まだ諦めていないようですね」
「ああ、女神様だ」
火乃花は目を輝かせて拝殿によじ登っていこうとする。だが、鶏たちが突きはじめて昇ることを諦めていた。
「突くなんて酷いじゃない」
火乃花は文句を言いつつ、鶏を振り払っている。
「おやめなさい」
鶏たちは女神様の一言でどこかへ消えてしまった。
「なんで女神様がこんなところにいるんだ。凛子は元気にしているのか」
どういうことだ。女神様って。
「遼哉、あの方はあの世で凛子を料理人として認めた女神様なのです」
流瀧を見遣り、頷いた。
そういうことか。
つまり、あの世で会った女神様は天照大神だったってことなのか。
遼哉は妙な緊張感に身体が強張ってしまう。
まさかこんな形で出会うとは思ってもみなかった。
待てよ。本当に天照大神なのか。
三重県の伊勢神宮にいるはずだ。こんな地方の小さな神社にいるはずがない。なら、天照大神じゃないのか。他の神社と同じように修行した神様なのかもしれない。
「凛子は元気にしていますよ。ただ、あなたたちがいろんな神社で生まれ変わりのことをお願いしていることを聞き、申し訳ないと思っているようです」
「そうか、そんなこと思わなくていいと伝えてくれ。おいらは凛子の願いを叶えてやろうとしているだけだ。あれ、凛子が早く生まれ変わりたいって願っていたんだっけ。風狸の願いだっけ。葵の願いだっけ。まあいいか」
「あなたたちの心、十分伝わりましたよ」
女神様は微笑みを浮かべていた。
「あ、そうだ。で女神様はなんでここにいるんだ」
樹実渡は本当に怖いもの知らずだ。鶏たちが睨んでいることもおかまいなしで神様に友達みたいに話しかけている。
「ここは私の管轄の神社だからですよ。いつもはそこの者に任せているのですが、ここへあなたたちが来ると知りやってきました」
拝殿の奥にもうひとり女神様が笑みを浮かべて控えていた。
「やはり、天照大神なのですか」
遼哉は思わず尋ねてしまった。
女神様は頷いている。
その頷きだけで、眩い光があたりを包み込んだ。凄い、天照大神と対面しているなんて。
心地よい気が流れて行く。悪い気がすべて浄められているようだ。太陽神と言われるわけだ。
「ねぇ、遼哉。本当にいるの。天照大神って美人?」
小海はそんなことを小声で訊いてきた。
「いるよ。すごく美人な神様で見惚れてしまう」
そう呟くと、小海が足を踏みつけてきて顔を歪めてしまった。
見惚れたのは本当だけど、美人だからじゃない。神様の気を浴びたせいだ。
ちょっとからかっただけなのに。そこまで怒らなくてもいいだろう。もしかして嫉妬したのか。そうか、嫉妬か。可愛い奴だ。
「なあ、女神様。凛子はすぐに生まれ変われるのか」
突然背後から飛んできて勢いよく声を発したのは風狸だった。なんだ、こいつも一緒に来ていたのか。気づかなかった。
「ふふふ、それはどうでしょう。けれど、生まれ変わりが早まったことは間違いないでしょう。あなたたちの味方になる神が増えてしまいましたから」
そうなのか。それは凄い。
これは諦めなかった樹実渡のおかげだ。神頼みがここまで効果があるとは思ってもみなかった。ただ、どれくらい早まったかはわからないけど。
「そうか、それはよかった」
風狸の安堵する顔に遼哉は口元を緩めた。
「よかったな、風狸」
風狸はニコリとして頷き、消えてしまった。
「凛子は本当に幸せ者ですね。あなたたちもかなりのご加護をいただいているようですし。私も嬉しいです。では、私はこれで」
優しい微笑みとともに女神様は天へと昇って行った。まさか天照大神だったとは。
心臓がまだバクバクだ。
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