本の御魂が舞い降りる

景綱

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第四話 消えた挿絵

【三十】神社巡りは続くよ、どこまでも?

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「ああ、美味かった」

 猫田彦は満足そうな笑みを浮かべると口の周りをペロンと嘗めた。
 なんとも愛らしい。あれではどこにでもいる猫と同じだ。ほら見ろ。ごろんと横になり丸くなってしまった。

「こら、寝るな。大事な仕事があるだろうが。もう忘れたか、もうろく猫田彦」

 ペシペシペシッ。

「いて、いて、いてぇ。叩くな、忘れるわけないだろう。まったく冗談が通じない奴だ」

 ネズノはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。そんなネズノをコズノがなだめている。

 猫田彦とネズノは、本当に面白いコンビだ。狛鼠が猫神様を叩くだなんて。そんなことあっていいのか。そもそも猫神様のもとに狛鼠がいるのもおかしな話だ。何か意味があるのだろうか。
 遼哉はいろいろと考えを巡らせて首を捻った。

「では、おいらたちはちょっと行ってくるぞ」

 猫田彦は真面目な顔つきになりキッチンの奥へと歩き出す。ネズノとコズノもあとに続いていく。

「行くって、どこへ」
「さっき言っただろう。徳兵衛とくべえと先代猫田彦に会いに行くと」

 確かに、そんなこと話していた。それが凛子のことを解決させてくれるのだろうか。よくわからないが何か考えがあるんだろう。
 遼哉は心中で『よろしくお願いします』と念じた。
 それはそうと徳兵衛って誰だろう。神様なのだろうか。

 あれ、ここは。
 気づけば祠の前に座り込んでいた。

 全員、あちこちと見回している。急にキッチンから松林の中に瞬間移動してしまったのだから当然だ。

 それにしても静かだ。
 猫田彦とネズノがいなくなるとここまで静になるのか。

 耳をすませば風が木々を揺らす心地よい音がしてくる。そよ風も気持ちがいい。ここはすごく静かで心地よい場所だったのか。
 ただ、なんとなく寂しい気持ちになった。なぜだろう。

「なあ、遼哉。あの猫、信じていいんだよな」

 樹実渡の言葉に遼哉は頷いた。

「きっと大丈夫だ」
「そうだよな。おいら、あいつのこと好きかも」
「ニャニャ」
「そうか、グレンも好きか」

 グレンも好きなのか。猫田彦の頭を叩いていたけど。あれは、何の意味があったのだろうか。猫の気まぐれってことか。訊く必要もないだろう。

「私は胡散臭うさんくさい気がするけど」

 火乃花は首を捻って呟いた。
 どうなるかはわからないけど、信じるしかない。

 それにしても、笑える奴らだった。おっと、神様と狛鼠だったか。本当に神様かどうかはちょっと首を傾げるところはあるけど。あの世でもあの騒がしさに、『わかったから少しは黙ってくれ』なんて凛子の生まれ変わりを承認してしまうかもしれない。

 そんな期待を抱き遼哉は「じゃ、帰るか」と呟いた。

「遼哉、もう神社巡りは終わりか。大きな神社にも行ったほうがいいんじゃないか。おいらはそう思うけど」

 確かに、一理ある。大きな神社か。どこに行けばいいだろう。近くにはないだろう。

「ねぇ、ねぇ、伊勢神宮に私は行きたい」
「伊勢神宮って、そりゃ無理だろう」

 火乃花の気持ちもわからなくはない。行けるものなら行きたい。
 伊勢神宮は三重県だろう。遠過ぎる。ここは千葉県だから行くのはやっぱり無理だ。時間も金も、そんな余裕はない。

「遼哉のケチ」

 火乃花の言葉に遼哉は心を読まれたのかとドキッとしてしまった。脇で流瀧がすまなそうに頭を下げていた。

「なんで流瀧は頭を下げているんだ。伊勢神宮においらも行きたい」
「樹実渡も火乃花も無理を言ってはいけませんよ。ここからでは遠過ぎます。それに金銭的にも問題がありますよ」

 流瀧の静かに諭す言葉がぐさりと胸に刺さった。自分が相当な貧乏人に思えてきた。
 樹実渡と火乃花はこっちにチラッと目を向けてきて頭を下げてきた。
 なんだか情けなくなってくる。もっと、もっと稼がなきゃ。

「あの」

 翔子が遠慮がちに声をかけてきた。

「はい、どうかしましたか」
「伊勢神宮のように大きくはありませんが、確か鎌数伊勢大神宮という神社があった気がするんです」
「この近くにですか」

 遼哉は思わず問い掛けていた。

「近くというか、車で三十分くらいのところなんですけど」

 三十分か。三重県に行くよりはかなり近い。伊勢という名前がついているのならきっと祭神は同じだろう。

「遼哉、そこに行こう」
「ニャニャ」
「ほら、グレンも行くって言っているぞ」

 まったく調子のいい奴だ。

「行こう、行こう、早く行こう」

 火乃花まで。
 こうなったら、乗り掛かった船だ。行こう。車は佐久間に頼むしかない。

「あの、よければ車を出してくれますか」

 佐久間は笑顔で了承してくれた。本当に優しい人だ。

「あの、私たちはちょっと用事があるので」

 翔子は申し訳なさげに話してきた。

「あ、いいんですよ」

 慌てて遼哉は返事をした。
 鎌数伊勢大神宮か。ということは天照大神か。けど、そこにいる神様は天照大神のもとで修行をした神様なのだろうな、きっと。


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