本の御魂が舞い降りる

景綱

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第四話 消えた挿絵

【三十三】変な奴との遭遇

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 文港堂書店に帰ってくると、佐久間から夕飯を一緒にと誘われて食べることになった。もちろん、樹実渡のリクエスト通り鶏肉料理に。

 テーブルに並んだのはカレー風味の鶏の唐揚げ、棒棒鶏バンバンジー、鳥皮とねぎまとつくねの焼鳥と鶏肉づくしになった。

「美味い、美味い」と樹実渡は連呼して次から次へと胃袋に収めていく。隣で火乃花も負けじと口に放り込んでいく。

「まったく、下品な食べ方ですね」

 流瀧の言葉もふたりの耳に届いていない。口の周りを汚して爆食いしている。
 見ているだけで満腹になりそうだ。

「凛子はどうなりますかね」

 佐久間は心配そうな顔でこっちに目を向けていた。
 樹実渡と火乃花のことは目に入っていないようだ。

「そうですね。どうなるかわからないですが、神様たちを信じましょう」
「それしかないですよね。わかりました。前向きに考えることにしましょう。では、ビールでもどうです」

 佐久間は頷き、瓶ビールを手にして笑みを浮かべた。
 遼哉は小海をチラッと見て、頷くのを確認して「いただきましょう」とコップを差し出した。

 どれだけ飲んでいただろうか。
 佐久間、本の御魂三人衆、小海と談笑して、かなり盛り上がって時を忘れた。
 ビールから始まり、今は日本酒を手にしている。

「遼哉」
「んっ、どうした」

 小海が指差す先を見遣ると、時計があった。

「そろそろ、帰ったほうがよくない」

 二十一時か。
 ここから家に帰るのに三時間くらいかかるだろうか。それなら泊まってしまったほうがと一瞬考えたが、やるべき仕事もあるし帰るべきか。

 なんだか帰るのが面倒に思えてしまう。結構、酔いが回っている。
 ダメだ。帰らなくちゃ。

「佐久間さん、すみません。そろそろ帰らないと」
「そうですか」
「本当にいろいろとご厄介になってしまって」
「いえいえ、そんなことありませんよ。厄介になったのはこっちのほうですよ」

 遼哉は、またいつかと挨拶をしてふらつく足をどうにか動かして文港堂をあとにした。

「遼哉、大丈夫」
「ああ、大丈夫だ」

 小海は心配性だな。ふらついても、きちんと話は出来ているだろう。問題ない。

「ならいいけど」
「おいら、楽しかったぞ」
「私も」
「僕もです」
「ニャニャ」

 これで凛子が早くに生まれ変わってくることが出来たら最高なんだけど。どうなることか。

「遼哉、凛子さんのこと、きっとうまくいくよね」

 小海も同じことを思っていたようだ。

「うまくいくさ。おいらがあんなにお願いしたんだから。狛犬に転ばされても鶏に突かれても我慢したんだ。大丈夫だ」

 樹実渡のやつ。

『狛犬と鶏のことは無礼を働いたせいだろうが』と突っ込んでやりたいところだがやめた。

「あっ、駅が見えてきたよ」
「おお、駅か」

 思ったよりも大きな声になってしまった。声の音量調整がおかしくなっている。やっぱり飲み過ぎたな。スポーツドリンクでも飲んだ方がいいかも。
 遼哉は自動販売機で飲み物を買いグビッと飲み干すと、少しは酔いが醒めるかなと大きく深呼吸をした。

 ふと足元を見ると、本の御魂三人衆はグレンに跨っていた。ちょっと重そうにしているグレンは可哀相だがもう少しの辛抱だ頑張ってくれ。

『うぎゅ』

 んっ、今の音はなんだ。
 なんか踏んづけたような気もする。

「こら、踏みつけるとは何事だ。謝罪だ、謝罪。俺様に謝れ。それとも釈明するか。踏みつけるだけの理由があるとも思えんが、あるなら言ってみろ」

 何事だ。これは幻覚か。酔ったせいで幻覚でも見ているのか。
 遼哉は足元を見遣り、目を疑った。真っ黒なタイツを着た小さな生き物が飛び跳ねて怒鳴りつけている。

 小海も目をまんまるにして口をポカンと開けていた。本の御魂三人衆も小さな存在に目を丸くしている。
 幻覚じゃなさそうだ。
 こいつを踏んでしまったのか。それなら、謝らないと。

「ごめん、大丈夫か。怪我はないか」
「うっ、な、なんだよ。謝るのかよ。調子狂うじゃないか」

 そう呟くと脇目も振らずに全速力で駆け出して暗闇に消えてしまった。
 いったい、今のはなんだったのだろう。まさか神様ってことはないだろう。黒いタイツの神様を想像して遼哉は首を左右に振った。そんな神様はいないはずだ。
 妖精とかか。それも違う気がする。

「あいつ、どっかで見たことあるぞ。えっと、えっと」
「樹実渡、知っているのか」
「知っているはずなんだが思い出せない」
「黒いタイツなんて変な趣味しているわね」

 火乃花は苦笑いを浮かべていたら、樹実渡が叫んだ。

「思い出した。そう黒タイツといえばあいつだ。悪魔小僧ぷくぷくだ」

 悪魔小僧ぷくぷく。

「ええ、悪魔なの。さっきの悪魔なの」

 小海はぷくぷくが消え去ったあたりをじっとみつめていた。
 最後の最後に悪魔と遭遇するなんて縁起が悪い。そう遼哉は思ったのだが、流瀧が一言呟いた。

「ぷくぷくか。あいつは悪魔でも天使みたいな奴だ。出会ったのは幸運と言うべきだろう」

 そうなのか。幸運なのか。天使みたいな悪魔なんているのか。そもそも、それって悪魔じゃないと思うけど。姿は小さくはあるが悪魔と言えなくもないけど。

「そうそう、ぷくぷくは滅多に会える奴じゃないからな。なんでも悪魔のくせして人のこと助けたりするらしいぞ。面白いよな。ああ、おいら友達になりたかったな」

 そうなのか。樹実渡を見遣り、首を捻る。
 それにしては、すごい暴言吐いていた。

 まあいいか。
 今日一日で、ずいぶんいろんな体験した。これがうまく実を結べはいいんだけど。どうなることやら。

 それにしても気になる。悪魔小僧ぷくぷくだなんて。

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