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第五話 思い出を抱いて
【三】まさかの企画
しおりを挟む衝立で囲われただけの応接室に行くと、父とともに見知らぬ男性がいた。
遼哉は会釈して小海と一緒にソファーに座る。
誰だろう。この人が会わせたい人なのか。
胸の内がモヤモヤしてどうにも落ち着かない。正面に座っているせいもあるのだろう。
「はじめまして、田川大輝です。これでも一応小説家です。あっ、北川大って名前で書いています。聞いたことありますかね」
田川は笑みを浮かべて頭を掻いた。
「もちろん、知っていますよ。だから今回来てもらったんですから」
そりゃ父は知っているだろう。そうじゃなきゃここへ呼べない。おそらく自分に訊いてきたんだろう。
「そうでしたね」
どうする。自分は知らない。編集に関わっている身としてはまずいだろう。ここは話を合わたほうがいいのか。無言で作り笑いをしている小海もおそらく知らないのだろう。
なんだか父と田川は笑っている。このまま、うやむやに出来そうだし黙っていよう。
それで、自分を呼んだ理由はなんなのだろう。小説を書いてもらうのだろうか。まさか、田川の担当にするつもりなのか。
「それで一緒に小説を書く方はどちらなんですか」
えっ、一緒に小説を書く。小海と顔を見合わせてしまった。
「ああ、それは遼哉のほうです。私の息子なんですけどね」
「えっ、ちょっと待って。どういうこと」
遼哉は突然の話に靄が頭の中にかかってしまう。小説は確かに書いているけど、今回の話は協同で一つの作品を書くってことか。田川って言ったっけ。
ペンネームは北川か。どんな小説を書いているのだろうか。
「実は『本の御魂』と北川さんの『悪魔小僧ぷくぷく』のコラボが出来たら最高だって思ったんだが、どうだろう」
コラボって。
その前に、悪魔小僧ぷくぷくって言ったか。
腰を浮かせかけて父に詰め寄ろうとしたところでどうにか動きを止めた。
「どうかしたか、遼哉」
「いや、なんでもないです」
苦笑いを浮かべてソファーに少し浮かせた腰を戻す。
ぷくぷくって、あの黒タイツの騒いでいた奴のことだろう。
その話を書いているのか。なら、この田川って人も会ったことがあるのか。きっとそうだ。一気に興味が湧いてくる。
「本の御魂三人衆の話に俺、いや私も興味が湧いたものでこの話を受けようかと思っているんですよ。あの三人はいいですよね」
「それは嬉しいですね。私はあの『こら、踏みつけるとは何事だ。謝罪だ、謝罪。俺様に謝れ。それとも釈明するか。踏みつけるだけの理由があるとも思えんが、あるなら言ってみろ』という台詞が好きでね」
「そうですか。あれは……」
田川は言葉を詰まらせた。
もしかしたら、ぷくぷくが実在することは伏せているのかもしれない。田川のちょっと困り顔を見るとそんな気がした。言いたいけど言わないほうがいいと思っているに違いない。
悪魔小僧ぷくぷくの本は知らないが、その台詞は知っている。
実際に聞いたから。
遼哉は思い出し笑いをしそうになって、グッと堪えた。ぷくぷくはキャラクターとしては際立っている。小説に書きたくなるのは言うまでもない。本の御魂三人衆もそう考えたら同じだ。ぷくぷくと本の御魂三人衆のコラボ作品か。これは、面白いかも。
「悪魔小僧ぷくぷくはいいですよね。実は、俺、会ったことありますよ」
テンションが上がってしまい、思わず口にしてしまった。
「えっ、そうなんですか」
「遼哉、会ったことがあるのか。本当か。ぷくぷくは実在するのか」
父は立ち上がり興奮を隠せないでいた。
「ちょっと親父、冷静に」
「ああ、すまん」
「会ったことがあるんだったら、ぷくぷくも一緒に連れて来たらよかったですね」
「それを言うなら、こっちも本の御魂三人衆を連れて来たのに」
「えええ、あの三人は架空の存在じゃなかったんですか」
田川が目を見開き、身を乗り出してきた。
「ええ、まあ」
「やっぱり、この企画はいい。うまくいきそうだ」
父は満面の笑みで頷いていたのだが、暗い表情になってしまう。どうしたのだろう。
「親父、何か問題でもあるのか」
「ああ、そりゃあるさ。悪魔小僧ぷくぷくは、別の出版社のものだ。勝手にコラボなんて出来るはずがない。了承を得るため、いま奔走しているところだ」
「そうか、確かにそうだよな」
「私からも掛け合ってはみます」
田川が微笑んだ。
果たしてうまくいくだろうか。何かいい打開策があればいいけど。出版社も共同でというわけにはいかないのだろうか。
「まあ、今日は本人の言葉が聞けてよかったよ」
そのあと、悪魔小僧ぷくぷくの話と本の御魂三人衆の話で盛り上がった。コラボ作品が実現するかは祈るしかない。いや、自分も何か出来ることがあるか考えてみよう。
「では、また会えることを期待しています」
「はい、今日は楽しかったです。コラボ作品関係なく本の御魂三人衆とは会いたいものです」
田川はそう話して帰っていった。
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