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第五話 思い出を抱いて
【四】怪しい影
しおりを挟む「夏はやっぱり、そうめんだな。このつけダレいいな。昆布つゆでツルツルッとだな。こっちのクルミのタレもなかなかいいもんだ」
隣でズルズルといい音たてて頬張っている火乃花を見遣る。やっぱり食いしん坊じゃないか。
「○×▽*@◆よ」
「えっ、何?」
食べながらしゃべるから何を言っているのかさっぱりわからない。
「火乃花、食べるかしゃべるかどっちかにしなきゃねぇ」
「そうだ、そうだ」
樹実渡はハルに同意して火乃花に目を向けると口角を上げた。
ごくりとそうめんを呑み込む音がしたかと思うと、火乃花は目を吊り上げて睨みつけてきた。
「私は食いしん坊じゃないわよ」
「おっ、すごいな。おいらが思っていることよくわかったな火乃花」
「当たり前でしょ。付き合い長いんだからわかるわよ」
そりゃそうか。
「それにしても、あんたら食い過ぎだよ。いくら茹でればいいんだよ」
「すまない、もう十分だ。あとはハルが食べてくれ」
「二箱ぶん食べりゃそりゃ十分だろう。ってなんだいほとんど残っていないじゃないかい」
樹実渡は火乃花を連れてそっと部屋を抜け出して隠れた。
「まったく逃げ足が速いったらありゃしない。しかたがないねぇ」との声が聞えてきた。
「フニャ」
んっ、グレンか。
「どうした?」
グレンは少し離れたところで再び「ニャニャニャ」と鳴いた。
「ついて来いってさ」
「樹実渡、これって冒険の始まりみたいね」
「そうだな。おいらワクワクしてきたぞ」
こういう時、流瀧がいたら怒られそうだ。もっとハルを労わりなさいとでも言いそうだ。
「シャーーー、ニャニャ」
「なんだよ、怒らなくても今行くよ」
グレンが怒るなんて。どうしたのだろう。樹実渡はグレンのあとを追って走って行く。火乃花も「待ってよ」とついてくる。
グレンは家の裏側へと姿を消した。裏って何かあっただろうか。
家の裏側に回ると突然黒い影が横切り、ハッとして仰け反り尻餅をついてしまった。その後ろにいた火乃花も顔を顰めて尻餅をついている。
「樹実渡、何よ。痛いじゃない」
「ごめん。けど、今何かがいたんだ」
黒い小さい影が裏の家のほうへ。早過ぎてよくわからなかった。黒猫だろうか。いや、違う。あれは……まさか。
「何かってグレンが悪戯したんじゃないの」
「違うよ、グレンじゃない」
「じゃ見間違いじゃないの」
「なんだ、信じないのか」
「ううん、信じてないわけじゃないけど。あれ、何か変な匂いしない」
変な匂いだって。確かにする。なんか焦げ臭い。
んっ、焦げ臭いって。
樹実渡は裏側にある窓から覗き込み、目を見開いた。
「大変だ」
「どうしたの。樹実渡。待ってよ」
火乃花は気づかなかったのか。
「火事だ。ハルの家が火事なんだよ」
開けっ放しになった窓をみつけて、中へと飛び込みハルを探す。
「ハル、ハル。大丈夫か」
キッチンの入り口へと差し掛かると鮮やかなオレンジ色の炎が熱気と黒煙をともなって襲いかかってきた。
「熱っ」
樹実渡はすぐに飛び退き、回避した。
嘘だろう。なんで、こんなに火の回りが早い。ハルはどこだ。居間にはいない。
まさか、キッチンにいるのか。
「ハルーーー」
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