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第五話 思い出を抱いて
【十一】残された朝の景色
しおりを挟むみんなの顔は固まっていた。まるで時間が止まってしまったかのように。
それでも対策を考えなくてはいけない。
ここにも来るかもしれないから。
相手は凄腕らしい。そんな相手に敵うものなのか。人が太刀打ち出来る相手ではないだろう。こっちは流瀧とぷくぷくがいるが、難しい気がする。
話し合いでは解決できないのだろうか。
遼哉はすぐに頭を振った。命を奪われているんだ、そんな考えは捨てろ。
火乃花じゃないが、相手は鬼と化している。話し合いなどするはずがない。というか殺意が湧いてくる。
『鬼退治』との声が脳裏に蘇り、瞳が潤む。
ダメだ。冷静になれ。
殺し合いだなんていけない。
それなら、どうすればいい。ああ、もう。何もかもわからない。
頭を抱え込み項垂れる。
***
結局、これといった対策も浮かばずに日付が変わってしまった。
小海はひとりになりたくないと伴治の家に泊まることになった。
遼哉もここへ泊ってしまおうかと思ったが、一旦家に戻ることにした。
「本当に帰るのですか」
「ああ、やらなきゃいけない仕事もあるから」
「そうですか。みんな一緒にいたほうがなにかと対策できると思うのですが。仕方がないですね。気をつけてください」
実際のところ仕事というのは建前だ。なぜかはわからないが家に戻りたかった。
どこかで樹実渡が出迎えてくれるのではないかと期待もあったのかもしれない。自分で自分の気持ちがよくわからない。
気づけば自分の家の前に来ていた。
期待は期待でしかない。家の前に立って実感する。
人の気配のない我が家がひっそりと建っているだけ。なぜだろう、同じ家なのに違う場所に来てしまった気がしてしまう。
明かりのない家。
溜め息しか出てこない。
玄関扉を開けると、真っ暗な家の中にはムッとした熱気が籠っていた。すぐに電気をつけてエアコンもつける。
暗闇が嫌だった。明かりがほしかった。気持ち悪い熱気も早く消し去りたかった。誰もいないと認めたくなかった。けど、誰もいない。
グレンだけでもいてくれたら少しは違っていたのに。
『グレン、おまえは戻って来るよな』
大丈夫。グレンは大丈夫。遼哉はそう言い聞かせた。
溜め息を漏らしてハッとする。今、何か音がしなかったか。気のせいか。
「樹実渡、いるのか」
家の中を歩き回り、樹実渡を探す。
「樹実渡」
いくら呼んでも返事はなかった。いるはずがない。
わかっていても気持ちが沈んでいく。
源じぃが亡くなってここに来たときと同じだった。いや、同じじゃない。あのときよりも……。
再び溜め息が零れ落ち、部屋のベッドに倒れ込む。本当にいなくなってしまったのか。天井をぼうっと眺めて樹実渡の顔を思い浮かべる。
ダメだ、ダメだ。こんなんじゃダメだ。
わかっていても、すぐに樹実渡のことを考えてしまう。
樹実渡がいたらなんて声をかけてくるだろうか。
『落ち込んでいる場合じゃないぞ』だろうか。『腹減ったからなんか作ってくれ』って笑ってくるだろうか。
遼哉はベッドから起き上がり、頭を振った。
なんとなく喉の渇きを感じてキッチンへ足を向けて、流し台の前で立ち止まる。
視界が一気にぼやけていく。
樹実渡……なんで、なんでいないんだ。
流し台に置かれた洗っていない食器。樹実渡が使った食器だ。
朝のことがついさっきのことのように思い出された。
「樹実渡、なんでだよ。食べたいもの作ってやるっていったじゃないか。約束したじゃないか」
遼哉はその場に蹲り、動けなくなった。
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