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第五話 思い出を抱いて
【十二】癒しの朝
しおりを挟むなんだ鼻が擽ったい。
誰か鼻を嘗めているのか。
んっ、嘗めるって。そんなことするのは。
遼哉は一気に目が覚めて目の前にある顔を凝視した。
「グレン」
本当にグレンなのか。幻じゃないのか。
「グレン、おまえなんでここに。入院しているはずだろう」
すぐに飛び起き、グレンの身体に目を向ける。不思議なことに焼け爛れていたはずの皮膚が治っていた。ところどころ毛がなく肌が見えた状態ではあるが、問題はなさそうだ。昨日の今日でこうも早く治るものなのか。そんなことはありえない。
グレンはやはり普通の猫とは違うってことか。
普通じゃなかったとしてもそんなこと気にしない。グレンはグレンだ。生きていてくれてありがとうと言いたい。
「グレン、よかったな」
頭を撫でて笑みを浮かべる。グレンも頭をこっちに寄せてきてもっと撫でろと催促してくる。
本当によかった。
目頭が熱くなり、グレンの顔が歪んで見える。
ふとグレンの背中を見遣り思い出してしまった。この背に樹実渡がよく乗っていたなと。
ああ、もう。この目はどうしたっていうんだ。
どうにも涙もろくて困る。
グレンは頬に流れる涙をざらつく舌で嘗めてくれた。
「わかっているよ。泣かないって」
「そうだ、泣いている場合じゃないぞ。あいつらを懲らしめてやらねば。俺様は悪魔だ。やられっぱなしで終わるわけにはいかない」
突然の声にビクつき振り返る。
「ぷくぷく、なんでここに」
「な、なんでだと。俺様がこいつを連れてきてやったんじゃないか。阿呆、唐変木。傷も治してやったんだぞ。感謝しろ」
そういうことか。ってぷくぷくにそんな力があったのか。悪魔のくせに力がないと流瀧が話していた気がするが。
「おい、なんだその疑いの眼差しは。ああ、面白くない」
「すまない」
「うっ、いや、その。そう素直に謝られると……」
急にもじもじしだすぷくぷくに思わず遼哉は吹き出してしまった。
「おい、なんだよ。笑うな。いや、笑え。暗い顔は嫌いだ」
まったくどっちなんだ。というか本当にこいつは悪魔なのか。気遣う優しい良い悪魔ってか。やっぱり変な奴だ。
ぷくぷくとグレンのおかげで少しは悲しみが癒えた気がする。
「よし、伴治のところに行こう。今後のこともあるし、グレンの元気な姿もみせてやりたし」
「うむ、そうだな」
『うぎゅ』
んっ、今のって。
足の下にぷくぷくがいる。やっちまった。遼哉はすぐに足をどけた。
「踏みつけるとは何事だ。恩を仇で返すとはこのことだ。謝罪だ、謝罪。俺様に謝れ。それとも釈明するか。踏みつけるだけの理由があるとも思えんが、あるなら言ってみろ」
すごい剣幕だ。これこそぷくぷくって感じだ。
本当に面白い奴だ。
「おい、謝れって言葉が聞こえないのか。阿呆」
「ごめん」
「う、うむ。わかればそれでいい。えっとその、行くとするか」
ぷくぷくは急に歯切れが悪くなり言葉数が減ったかと思ったら、玄関扉を開け放ち飛び出して行った。
ぷくぷくのいなくなった玄関扉に向かって遼哉は「ありがとう」と呟いた。
きっと元気づけに来てくれたのだろう。
謝られるのが苦手な良い悪魔か。
おかしな悪魔だ。
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