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第五話 思い出を抱いて
【十三】その昔の本の御魂たち
しおりを挟む「金之丞、わたくし……怖い」
「ふん、怖いことあるものか。あいつらなど我らの足もとにもおよばぬ」
「そういうことじゃなくて」
「何が言いたい。悪いのはあいつらだろう」
「でも、みんな仲間よ。これで本当にいいの」
「いいのだ。我は間違ってなどいない」
そのはずだ。
「でも、殺すなんて」
「でも、でも言うな」
金之丞は土筆土筆を怒鳴りつけ黙らせた。
肩を竦めて小さくなる土筆を一瞥して大きく息を吐く。
あいつらがいけないのだ。何が本の御魂三人衆だ。本なんか出しやがって。しかも、続編だ。ふざけるな。
問題はそこではないか。本の御魂五人衆は解散した。なのに、どうして。約束したはずだ。ひっそりと暮らすと約束したはずだ。あいつらは目立ち過ぎだ。災いが起きたらどうするつもりだ。もう二度とあのようなことはあってはならない。約束を破れば罰を下す。当然のことだ。
「わたくし、もう嫌です」
「土筆、今更そんなこと言うな。我らは呪われているのだ。目立ってはいけないのだ」
土筆は頷き、項垂れた。
「けど、ハルという者を巻き込んでしまいました」
「そうだな。そのことについては申し訳ないとは思う。だが、仕方がないことだ。呪いを解き放ったあいつらがいけないのだ」
「あの、その、ずっと思ってきたのですが、わたくしたちは本当に呪われているのでしょうか」
何を今更。
あのときのことを忘れたというのか土筆は。
***
江戸時代から明治時代へと変わり、西洋文化の風を感じるようになった。こんな世の中なんて認めぬ。
金之丞は腹の虫が治まらなかった。
「おいら、カレーライスなるものが食べたい。ダメなら牛鍋でもいいぞ」
「樹実渡、そんな場合ではありませんよ」
「なんでだよ、流瀧」
呑気なものだ。金之丞は鼻で嗤い、頭を振った。
樹実渡は文明開化したこの世を理解していない。ここはビシッと言ってやらねば。
「いいか樹実渡。我が主は今が大変な時なのだ。我らの食事の面倒もみられないはずだ。武士であった我が主はすべての特権を剥奪されたのだぞ。呑気に食事を楽しんでいるときではない」
「そうなのか。ならどうするんだ金之丞」
「戦うのだ」
「それって鬼退治。そうよね。鬼退治だ、鬼退治」
火乃花は身を乗り出して意気込んでいる。
「違う」
間髪入れずに否定すると火乃花はシュンとしてしまった。
「金之丞も火乃花も少しは大人しくしていてください」
なんだ流瀧は。大人しくだと。主のために明治政府に殴り込みするべきだろう。どんな戦法がいいだろうか。
調虎離山がいいだろうか。それとも調虎離山調虎離山か。
「戦いは嫌い」
か細い声で土筆が呟き、俯いていた。
土筆までそんなことを。このままではお家断絶だというのに。
「各地で蜂起しているのだぞ。我らもあとに続け。何が文明開化だ。江戸の平和を守るのだ。あの目の色の青いやつらはなんだ。訳の分からない言葉をしゃべりやがって」
「落ち着くのです。金之丞」
落ち着けだと。落ち着いていられるか。流瀧を睨み付けてドンと床を踏みしめる。
「賢いおまえなら今どうするべきかわかるだろう。戦いだ」
「いえ、それはダメです。ここは平和的解決をするべきです」
「平和的だと。話し合いをするというのか」
頷く流瀧に「生ぬるい」と吐き捨てた。
「そうだ、そうだ鬼退治だ」
「それは違うと言っただろうが火乃花」
土筆は視線を下へ向け、溜め息を漏らしていた。
まったくどいつもこいつもこの忌々しき事態をわかっていないのか。
「おいら、争い事は嫌いだ。みんなで楽しく美味いもの食べれば仲良くなれるさ」
樹実渡も生ぬるい考えをして。土筆も樹実渡も流瀧も役立たずだ。火乃花は微妙だが戦力にはなる。主に蜂起させてこの家を守る。それしかない。
***
注釈
*調虎離山とは……敵を本拠地から誘い出して、味方が有利な地形で戦うこと。
*混水摸魚とは……敵を混乱させて誤った行動をさせたり、こちらの望む行動をさせたりすること。
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