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第五話 思い出を抱いて
【十四】本の御魂五人衆が消えた日
しおりを挟む主は蜂起した。
うまくいくはずだった。
なのに、主は戦いに敗れて死してしまった。妻と娘を残して。
「やはり戦うべきではなかったのです」
「うるさい、流瀧」
「金之丞はこんなことを望んでいたのですか」
「うるさい、うるさい、うるさい。黙れ」
こんなこと望んでなどいない。だがもう後戻りはできない。ここは復讐するしかない。あいつらに痛い目をあわせてやる。
敵に立ち向かう。それしかない。
金之丞は決意した。
本当にそれでいいのか。迷いが生じた。
止める流瀧の言葉は無視していいのか。
多勢に無勢で兵法書も役に立たず、敗北を味わってしまった。また失敗に終わるかもしれない。
時代は変わった。
いや、そうではない。復讐といいながら、人を殺めることをどうしても躊躇ってしまった。それが敗因だ。
殺すなんてことはどうしてもできなかった。殺人マシンではない。
やはり流瀧の言う通り話し合いをすべきだったのか。頭に血が上って冷静な判断ができなかった。
馬鹿なことをしてしまった。いや、それでもあいつらの考えを正すのは力だ。力には力だ。今度はうまくいく。
主の仇討ちだ。話し合いなど生ぬるい。
金之丞は流瀧をチラッと見遣り、小さく息を吐く。流瀧の言葉が合っているのだろうか。
どうすればいいのだろう。混乱してきた。よくわからない。
「流瀧」
「金之丞。冷静にです」
***
主のいない屋敷で作戦会議を開いた。
流瀧はもう時代が違う。戦うことは間違いだと話す。樹実渡も流瀧の意見に賛同した。火乃花は迷っているようだが、流瀧のことを尊敬していることを知っている。きっと流瀧側につくだろう。土筆は果たしてどっちにつくだろうか。
時代か。
そうなのかもしれない。ただ、いきなり武士の特権を剥奪するのは理不尽ではないか。何かもっと違うやり方があってもよかったのではないか。
金之丞は、まだ戦う意志を捨てきれなかった。
戦いだ。気持ちはそれだけだった。自分が正しいと思っていた。主の娘の言葉を聞くまでは。
「あんたたちがいたからこんなことになったのよ。父上だって蜂起などしなければ生きていたかもしれないのに。呪われた人形なのよ」
ショックだった。主のためにと思っていたことが一気に崩れ去る。
呪われた人形だなんて。
「消えていなくなればいい。あんたたちなんか燃やしてやる」
娘の涙と罵声を浴びて、心が泥沼に落ちていった。
そうか、もうここに居場所はないのか。主の優しい声は聞こえてこない。もしかしたら本当に自分たちのせいで主は亡くなってしまったのかもしれない。いや、自分たちではなく自分のせいだ。
呪われているのかもしれない。自分たちの力はもう必要ないのだ。役に立たないのだ。武士を必要としないのと同じだ、きっと。
そんなある日、蜂起した主の罪を問われて妻も娘も罰せられてしまい命の火が消えてしまった。
間違っていたのか。金之丞は自分自身に問うた。
わからない。間違っているのはこの世の中なのか自分なのか。いろいろと変わり過ぎてしまった。
時代が変わるとはこういうことなのか。自分たちの居場所は完全に失われた。自分たちの存在はもう必要のない世の中になってしまったのだろう。
「みんな、我らはもう消えよう。人のいないどこかへ行こう。我らは人を不幸にしてしまう。だから、消えよう」
「そんなこと、ないはず……」
土筆はそう慰めてくれるが、そんなことあるのだ。きっと。人形が動くなんてこと自体があってはいけないのだ。そういえば、「化け物」なんて指を差されたこともあった。
「金之丞、新たな主を探してみるのはどうでしょう」
流瀧の言葉に首を振った。
「皆、解散だ。もとの書物に姿を戻そう。もう人の世には関わることはよそう。ひっそりと暮らそう。人に迷惑をかけないようにただの書物となるのだ。それがいい。皆、約束だぞ。世間から見れば、我らは呪われた人形なのだ。これを破った者は死あるのみ。いいな」
金之丞は自ら封印をして兵法書に姿を変えた。
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