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第五話 思い出を抱いて
【十五】ハルの葬儀
しおりを挟む「グレーーーン」
小海が叫びながら近づき、グレンを抱き上げた。グレンはちょっと嫌そうな顔をして身体を捩りこっちに目を向けて訴えかけている。
「小海、嬉しいのはわかるけど強く抱きすぎだぞ」
「あっ、ごめん。グレン、痛かったよね」
小海はグレンを床に下ろして頭を撫でた。流瀧が優しい顔をして眺めているのが目に映る。
ここに樹実渡も火乃花もいたらよかったのに。遼哉は奥の部屋に横になるハルに目を向けて溜め息を漏らした。夢であってくれたなら。
今日、ハルの葬儀を執り行う。葬儀屋もそろそろ来るころだろう。ハルの身体を綺麗にして葬儀場へ向かう予定だ。
ハルが生き返ることはない。わかっているけど、その現実を受け入れたくない自分がいた。奇跡が起きてくれたならと願ってしまう。
『ハルさん』と心の中で呼び掛けてハルの顔を眺める。
ハルの顔はどこか笑っているようにも窺える。火事で怖かったはずだ。苦しかったはずだ。なのに、笑って見える。
考えられることはひとつ。樹実渡と火乃花が死ぬ間際まで励ましていてくれたのだろう。ハルの顔を眺めていると『ありがとう』との言葉が聞こえてきそうだ。
なんだか目が霞む。
気づくとグレンが寄り添ってくれていた。まるで僕がいるから悲しまないでとでも言っているようでほっこりする。
「グレン、ありがとうな」
遼哉はしゃがみ込み、軽く顎の下を撫でていると外に車が止まる音がした。葬儀屋の人が来たのかもと立ち上がったところでチャイムが鳴った。
「すみません、葬儀社のものですが」
玄関先から届く声に遼哉は扉を開けて「どうぞ」と声をかけた。
しばらくすると、葬儀屋が「湯灌の儀をはじめさせていただきます」と話して部屋の扉を閉めた。
ハルの身体を洗うとのこと。その間に喪服に着替え待っていると扉が開きハルの身体をみんなで洗ってあげてくださいとの言葉をかけられた。
ハルの身体の上にはタオルがかけられている。こういう仕事をしている人ってどんな気持ちでいるのだろうか。ふとそんなことを考えてしまう。
チラッと葬儀屋の人に目を向けて軽く頭を下げた。こういう人達がいることはありがたいことだ。
不思議だ。遺体を目の前にしているのに怖さはない。ハルは身内同然の存在だからそうなのだろうか。もしかしたら、葬儀屋の人達も遺族のような気持ちで接しているのかもしれない。怖さはないのかもしれない。それは聞いてみないとわからないけど、きっと弔いの気持ちで仕事に取り組んでいるはずだ。
最後にみんなでハルの身体を拭いてあげた。
「いままでありがとう。ゆっくり休んでくださいね」
遼哉はハルに微笑みかけた。
再び、部屋を出てしばらく待つことに。
こんな形でお別れすることになるなんて。心の内が寂しさと怒りが混じり合って気持ちが定まらない。
みんな、目を潤ませてハルとのことを話している。
どれくらいそうしていただろう。
ハルは葬儀屋の人たちの手によって髪を整えられて化粧も施されていた。
「お祖母ちゃん、綺麗だよ」
小海が涙ぐみながら、そんな言葉をかけていた。
見ているだけで目頭が熱くなってくる。
伴治も朋美も流瀧もみんな同じ気持ちだったのだろう。俯き目元を押さえている。
ハルが生き返ってくれたらなんておかしなことを思いつつ、ハルに語りかけているうちに時間はあっという間に経ってしまった。
ハルは棺桶に入り、葬儀場へと向かった。ハルとの本当のお別れが近づいている。
「それじゃ私たちも行こうか」
伴治の言葉に頷き、車に乗り込み葬儀場へと向かう。
***
葬儀はしめやかに執り行われて火葬場に。
ハルの顔を見ることはもうできない。ハルの微笑みはもうそこにはない。
小海とともに大きめの骨を選び専用の箸で掴み骨壺に骨を収める。こんな形で小海と共同作業をするとは思わなかった。一瞬だけどハルの微笑みが脳裏に浮かびなんとも複雑な気持ちになった。
***
墓地へと移動すると、ハルは角橋家の墓へと収まってしまった。
なぜこんなことになってしまったのか。すべては金之丞と土筆のせいだ。
本当にそうなのだろうか。ふたりも本の御魂なのだろう。仲間だったのだろう。ならば、そこまで悪い奴とも思えない。だが、死者が出たのは現実だ。
「遼哉さん」
声をかけられて我に返り、振り返る。田川だった。
葬儀には田川も参列してくれていた。ハルとは会ったことがないのに、わざわざ来てくれた。納骨までついてきてくれた。
悪魔小僧ぷくぷくと本の御魂のコラボ作品の話は延期となってしまったが、いい友達にはなれそうな気がする。
「今日はわざわざ来てくれてありがとうございました」
「いえいえ、そんな。これも何かの縁ですから」
田川はやっぱり良い人だ。きっと、ぷくぷくから知らされて駆けつけてくれたのだろう。
「ひやっ」
突然の突拍子もない声にビクッとなった。
「どうした小海」
「今、鼠が」
「鼠? どこに」
「いたの。嘘じゃないからね」
墓場に鼠なんているのだろうか。骨を食べる鼠妖怪とか。遼哉は頭を振って、嫌な考えを振り払った。お供え物目当てに来ていたのかもしれない。
そういうことにしておこう。小海は納得がいっていないようだが、ハルの墓に「また来るよ」と言葉を投げかけて伴治の家に帰ることにした。
伴治の家に着くとみんなでテーブルを囲み、ハルの思い出話に花を咲かせた。悲しむよりも笑顔でいたほうがハルは嬉しいだろう。そんな思いもあった。そんな中、流瀧とぷくぷくはなにやら話し込んでいた。
金之丞と土筆のことを話しているのだろうか。それとも樹実渡と火乃花のことだろうか。
どちらにせよ、前に進まなくてはいけない。まだ、終わっていないのだから。
流瀧まで失うわけにはいかない。
流瀧とぷくぷくの後姿を眺めていたら、突然ぷくぷくと流瀧が立ち上がりどこかへ走って行ってしまった。
「おい、どうしたんだ」
声は届かなかったようだ。二人のあとを追うようにしてグレンも走って行く。
何かあったのだろうか。
遼哉は首を捻り、流瀧たちが消えた先をじっとみつめていた。
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