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第五話 思い出を抱いて
【二十】騒がしい新たな住人
しおりを挟む樹実渡と火乃花はいまだに書物のまま。
焦るな。まだ一週間しか経っていない。もう少し待てば、またあの言葉が聞ける。きっと。
「腹減った」「鬼退治だ」の言葉が懐かしい。
遼哉は、頬を緩ませてつつも寂しさが募っていく。
ぷくぷくはいったい何をしているのだろう。任せておけとの言葉は嘘だったのだろうか。いや、そんなことはない。生き返らせるとは一言も話していない。
生き返らすのではないとしたら、なんだと言うのだ。
わからない。
樹実渡と火乃花とまた会えることを期待せずにはいられない。それだけではない。ハルのことだって、どうするつもりなのかわからない。
源じぃのように幽霊として現れることもない。
ぷくぷくの任せろの言葉の意味はいったいなんだったのか。
「グレン待て。戦いとはな、まず相手のことを知ることから始まるのだぞ。わかったのか。こら、話を聞け」
グレンと金之丞が行ったり来たりしている。
金之丞の奴、またグレンに兵法を伝授しているのか。グレンは基本的に平和主義だから必要ないと思うけど。毎度毎度、懲りない奴だ。
「土筆、あいつも変わっているな」
「ええ、けどわたくしは尊敬していますよ」
そうなのか。
「だから、金之丞とともにいるのか」
「それもあります。けど、金之丞は少し我が強いところがあってわたくしがいてあげないと孤独になってしまいますから」
なるほど。
「こら、グレン。道を挟んで向こう側にいる黒虎に勝ちたくはないのか。我の話を聞け。逃げるが勝ちということもあるが、男なら勝たねばならないぞ」
遼哉は思わず吹き出してしまった。
あれじゃ、グレンが逃げたくなるのも当然だ。昼寝も出来ないだろうし。
「あのしつこさに付き合えるのはわたくしだけですね」
土筆は微笑み、逃げるグレンを追いかける金之丞を優しい眼差しでみつめていた。もしかしたら、土筆は金之丞のことを好きなのかもしれない。
金之丞と土筆がこの家に来てくれてよかった。あの騒がしさのおかげで少しは寂しさが癒える。それでも思い出してしまう。
窓から空を見上げると白い雲がゆっくりと流れていく。
あれ、あそこの雲。龍の形に見える。
流瀧が呼んだ青龍を思い出して思わず手を合わせた。
「うぉっ、急に止まるなグレン」
金之丞の叫び声にそっちへ目を向けると、金之丞がひっくり返って倒れていた。グレンはそんなことには目もくれずに一点をみつめて「ニャン」と鳴く。グレンの視線の先には源じぃがいた。
遼哉はすぐさま駆け寄り声をかけた。
「いろいろあったな。けど元気そうでうれしいぞ」
「ああ、源じぃも元気そうだ。あっ、幽霊に元気そうだはないか」
頭を掻きつつ、笑みを浮かべた。
「この者たちが金之丞と土筆か。ふたりとは、はじめましてだな」
「なんだ、この祖父さんは。悪霊か。なら、我がこの日本刀でバッサリとやってやろうか」
「ちょっと、どう見ても違うでしょ。遼哉のお祖父さんよ。ほら」
土筆は仏壇の写真を指差して金之丞の袖を引っ張った。
「ああ、そうか。すまない」
「面白い奴だな」
源じぃは目を細めて笑みを浮かべている。
「それより、どうしたんだ源じぃ。何かあったから来たんじゃないのか」
「ああ、そうであった。実はハルさんを迎えようと思っていたんだが、いくら待ってもやって来ないものでな」
ハルが来ない。どういうことだ。
「ハルさんがあの世に行っていないってこと」
「まあ、そういうことだ。身体から魂が抜け出たところまでは確認したんだが、どこかへ消えてしまってな。ずっと探しているところだ」
そんな……。ハルは成仏していないのか。
「まさか地獄になんてことはないよな」
源じぃは頭を振り「それはない」と断言した。
ぷくぷくが何か知っているかもしれない。いったいあいつはどこにいる。
あの世のことはさっぱりわからないし、何をしたらいいのか。
「金之丞、土筆、源じぃと一緒にハルさんの行方を探してくれないか」
「ふむ、ハルのことは我にも責任がある。よし、探そう」
土筆も頷いている。
「じゃ、俺は流瀧のところに行ってみる」
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