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第五話 思い出を抱いて
【十九】戦いの行方
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流瀧は暗雲の中を泳ぐ龍と目が合った。あれは青龍。
『青龍よ、僕に力を与えてください』
強く念じて流瀧は両手を天に翳した。
「んっ、なんだ」
悪魔は空を見上げて、ニヤリとした。
再び火球が動き出す。熱気だけで身体が焼けてしまいそうだ。
ダメか。
青龍の力が完全に宿っていない。どうする。
あたりの木々が燃えはじめている。このままでは被害が拡大してしまう。仕方がない。完全ではないが攻撃に転じよう。
流瀧は腹に力を込めて少しずつ息を吐き出す。
まずい、火球のスピードが速い。間に合わないか。
「させるか」
あたりに響く怒声が身体を震わせた。
金之丞。
火球の動きを日本刀だけで受け止めている。
「やめるのです。金之丞、死んでしまいますよ」
「ふん、命など惜しくない」
「何を言うのです。そんなこといけません」
「うるさい。我は間違っていた。命をもって償う。流瀧は我に構うな。さっさと青龍と一体となれ」
「金之丞」
金之丞が手にしている日本刀が徐々に溶けてく。それどころか火球に呑み込まれようとしている。やはり金之丞は悪魔に支配されていただけだった。思い込みの激しい奴だから悪魔の口車に乗ってしまったのだろう。
今あそこにいる金之丞は輝いている。真の敵はあの悪魔だと気づいた証だ。
「わたくしもいますよ」
土筆が飛び出し、粘土質の土壁を作り出して火球の進行を阻止していた。
無理だ。火球の熱に土壁も耐えられていない。崩壊しつつある。
だが、時間稼ぎには充分だ。
流瀧は青龍の力が漲るのを感じた。
「青龍よ、いきますよ。貫け、そして滅するのです」
流瀧の声に応えるように雷が鳴り響き、突然豪雨が降り始めた。
雨が徐々に姿を変え、雹ととなり鋭い槍と化す。
どんどん肌寒くなっていく。
青龍の力を借りているとはいえ、自分にこんな力があったとは驚きだ。
悪魔の身体を貫き、火球に突き刺さっていく雹の槍。
火球は勢いを失っていき、萎んでいく。呑み込まれようとしていた金之丞の姿も確認できる。土筆もいる。
その間も、雹の槍が悪魔に襲いかかっている。
凄い、凄い、凄い。
火球はもうマッチ棒に灯る火のようだ。
次第に雹は雨へと姿を変え、残ったちっぽけな火をプシュッと消した。
雨の勢いは衰えないまま。雨粒が地面を叩きつけ、煙って見える。
そんな中、悪魔は膝をつき蹲っていた。背中には鋭い雹の槍が数十本突き刺さったままだ。
「この力はいったいなんだ。あんなちっぽけな奴に負けるというのか。いや、そんなことありえぬ。まだだ、負けはせぬ」
あの悪魔は不死身なのか。一瞬流瀧はそう思った。だが違った。
肩で息をしている。反撃できるような力はなさそうだ。このまま一気に方をつけてやる。
「ふん、俺様の友を侮るんじゃないぞ。おまえなんか俺様が手を出すまでもない。だが、何もしないのもつまらない。ここは俺様の力を見せるときだな」
ぷくぷくはニヤリとして叩き付けてくる雨に向かって両手を掲げた。
「そこの龍、俺様を手伝え。俺様は悪魔だが気にするな。そこのでっかい奴とは違うからな」
ぷくぷくは大きく息を吸い思いっきり吐き出していた。
「おっ、これはまずいかも。全員ぷくぷくの後ろへ行け」
バズデの声に一同頷き、ぷくぷくの後ろへと回った。ぷくぷくの眠っていた力が解放するのか。流瀧は目を見張る。
感じる。確かに今までとは違う気を感じる。ぷくぷくから放たれていることは間違いない。青龍もぷくぷくを認めたのだろうか。
叩き付けてくる雨が突然渦を巻き始めた。水の竜巻だ。
筋骨隆々の悪魔は雹の槍が突き刺さったまま負けじと炎の鎧を纏い、無数の火球で攻撃しはじめた。
見誤ったか。まだあんな力を出せるのか。
流瀧はぷくぷくを守るようにして雨粒を操り次々と消し去っていく。すぐに流瀧は気づいた。助ける必要はない。
ぷくぷくの水の竜巻が大きさを増して、火球を呑み込んでいく。
よく見ると、竜巻は小さな龍の群れでできていた。
あいつ、凄い。龍まで操れるとはな。敵でなくてよかった。
気づけば、悪魔は水の竜巻の渦に呑み込まれて空に飛ばされていた。目で追っていくと青龍の大きな口が待ち構えていて呑み込まれてしまった。
なんと悪魔は青龍に食べられてしまった。
勝った。勝ったのか。
「まずい」との青龍の声が微かに耳に届いてクスッと笑ってしまった。腹を壊さなきゃいいけど。
流瀧は青龍に向けて頭を下げて感謝の意を伝えた。その瞬間、一気に雲が消え去り青空が再び顔を出す。
「ぷくぷく、やりましたね」
「ふん、こんなこと俺様にとって朝飯前だ」
「そうですね。ぷくぷくは凄いですね」
流瀧はぷくぷくの肩に手を置きニコリとした。
「なんだ、なんだ。阿呆とか落ちこぼれだろうとか言わないのか。そう素直に認めらると俺様どうしていいのかわからないじゃないか」
ぷくぷくはもじもじしてバズデのもとに行ってしまった。
どれだけ褒められることに慣れていなんだか。おかしな奴だ。
「みんな大丈夫か」
遼哉は肩で息をしている。
「ああ、うまくいきましたよ」
遼哉は大きく息を吐き、ニコリと微笑んだ。小海も遼哉の隣へ来て、ホッとした顔をしている。
「本当に、すごいね。みんな」
「そうだ、俺様はすごいのだ。わかったらもっと感謝しろ。小海とやら嫁にしてやってもいいぞ」
『うぎゅ』
「あっ、ごめん」
「こらー、俺様を踏む奴があるか。女だからって容赦しないぞ。謝罪だ、謝罪しろ。んっ、今謝ったか。むむむ、それでも踏んでいい理由などない。俺様は救世主だぞ。悪魔だけど」
なんだかな。でもこの毒舌こそ、ぷくぷくらしい。
流瀧は金之丞と目が合い、軽く頭を下げた。
「約束を破ったことは申し訳ありません。けど、もう罪を償うのは十分なのではないでしょうか。あのときと時代は違いますから」
「そうかもしれないな。あの者たちの心がおまえたちを復活させたのだろう。もう何も言うまい」
「じゃ、仲直りしましょう」
土筆の言葉に流瀧は手を出して金之丞と握手をした。
「でも……」
金之丞は言いかけた言葉を呑み込み、溜め息を吐くと再び目を合わせてきた。
何を言おうとしたのかなんとなくわかる。ハルや樹実渡や火乃花のことを言いたいのだろう。失った命はもう戻らない。残念だが。
流瀧は小さく息を吐き、空を見上げた。
「おい、おまえら暗い顔してどうした。俺様の活躍を祝うのだ」
なんだ、ぷくぷくの奴はもう機嫌が直ったのか。
「そうそう、ハルたちのことは俺様に任せておけ」
任せろってどういうことだ。まさか、生き返るのか。樹実渡と火乃花は可能性があるけど、ハルが生き返るなんてことはないだろう。もう骨になってしまっているし。
その前に、ぷくぷくにそんな力は流石にないだろう。
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