本の御魂が舞い降りる

景綱

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第五話 思い出を抱いて

【十八】姿を現した凄い奴

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 いいぞ、雨の匂いが近づいている。
 空を見遣れば、暗雲がゆっくりと青色を呑み込んでいく。もう少しだ。

 ぷくぷくもいいぞ。金之丞をうまく引き付けてくれている。
 バズデとグレンのコンビも凄い。
 右に左に素早い動きを見せて金之丞を翻弄ほんろうしている。そう見えるだけだろうか。
 金之丞はどこか余裕を感じさせる。
 ぷくぷくは気づいているだろうか。

 あっ、あいつ。ぷくぷくの気が膨れ上がり金之丞へと突っ込んでいく。隙だらけだ、やめろ。斬られる。
 金属音とともに火花が散った。
 ぷくぷくはいつの間にか後方に退いて無事だった。ひやりとさせるな。

 心配することはない。大丈夫だ
 ぷくぷく、バズデ、グレン。思うに、これは作戦だ。
 ぷくぷくの奴。なかなかやるな。あえて隙を作って狙わせている。

 よし、自分も頑張らなくては。みんなを信じろ。自分はやるべきことをやろう。
 集中だ。もっと、もっと集中だ。
 流瀧は思いっきり息を吸い込み空へと手をかざす。

 龍神の気配が濃くなりつつある。金之丞に気づかれないように慎重にいこう。
 金之丞に取り憑いた悪魔を引き剥がせば勝機はある。
 あと少しだ。あと少しで完全に龍神の力が宿る。

「小賢しい奴らだ。くそっ、我を甘くみるなよ。おまえらなど捻りつぶしてやる」
 その言葉とは裏腹に金之丞は眉間に皺を寄せて額に手を当てて膝をつく。同時に黒い影が浮かび上がってきた。
 どうなっている。金之丞の気が弱まっている。これはまずい状況かもしれない。
 金之丞はその場に倒れてしまった。

 やはり、これは。

「ふん、役立たずが。もっと楽しませてくれなくては困る」

 黒い影は見る見るうちに姿を変えて、いかにも悪魔だという姿になった。筋骨隆々の逞しい悪魔だ。

「お、おまえは」
「ふん、覚えていたか。まさか、こんなところでまた会うとはな」

 なんだ、知り合いなのか。流瀧は会話に耳を傾けつつ龍神の気に集中をさせた。

「また俺様にやられに来たのか」
「馬鹿を言うな。落ちこぼれなんかにやられた覚えはない」
「認めたくない気持ちはわかるが、おまえの力を跳ね除けて封じ込めたのは俺様だ」

 ぷくぷくの勝ち誇った顔が見えるようだ。後姿しか見ることは出来ないのが残念だ。
 どうやらぷくぷくと面識ある悪魔らしい。しかも戦ったことがるのか。もしかして狙いはぷくぷくだったのか。いや、それは違うか。
 悪魔のすることはよく理解できない。

「うるさい。おまえなど灰にしてやる」

 おっ、凄い覇気だ。あやうく飛ばされるところだった。
 まずい。これは最悪の事態だ。もしかしたら、金之丞は自らの身体に留めて置くことで力を弱めていたのかもしれない。そうだとしたら、真の力が解放してしまったのかも。

 急がなくては。
 流瀧は必死に天へと呼びかけた。
 間に合わせなくては。
 まただ、覇気だ。なんて力だ。砂埃をあげてたくさんの物を吹き飛ばしていく。
 ダメか。もう遅いのか。

 指先から炎がメラメラと揺らめいていた。なんとも嫌な笑みを浮かべている。指先の炎は徐々に大きさを増していく。

「おい、そこのでっかい悪魔。俺様の力を見縊みくびってもらっちゃ困る。返り討ちだ」

 ぷくぷくは足を踏ん張り両手を突き出して奇声をあげた。
 んっ、何も起きていないような。
 ダメだ。気を逸らすな。集中だ。

「おい、阿呆。もっと集中しろ。ブラックホールを作り出したときみたいにしっかりやれ」
「バズデ、やっている。けど……。おかしい」

 頑張れ、ぷくぷく。秘めた力があることはわかっている。出来るはずだ。流瀧はぷくぷくの心に語りかけた。通じるかはわからないが、届いてほしい。

「脅かしやがって、何も起こらないではないか。ふん、遊びはそこまでだ。楽しい地獄の業火ごうかに焼かれてしまえ」

 町を呑み込んでしまうくらい巨大化された炎の球体が投げられた。
 まずい、このままでは町がひとつ消えてしまう。

 ぷくぷく、バズデ、グレン、もう少しそいつの攻撃を止めていてくれ。
 くそっ、早く龍神の力よ来い。
 ダメなのか。間に合わないのか。集中しきれていないせいでダメなのか。
 流瀧は息をフッと吐き出して、再び強く念じた。

『水神の力を。龍神の力を。この手に与えたまえ。いにしえの神々よ。最強の龍神をこの身体に宿らせたまえ』

 天に両手を広げて念じる。
 まずい、巨大な火球が落ちて来る。

「龍神よ、力を」

 流瀧は天に届けと叫んだ。

 絶対にみんなを殺させはしない。もう誰も死なせはしない。
 悪魔に気づかれた。それでいい。

「そこで何をしている」

 火球の落下が止まり、殺気が全部自分に注がれた。

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