本の御魂が舞い降りる

景綱

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第五話 思い出を抱いて

【二十五】不安のなか

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 小海は手を合わせて祈っていた。
 自分も祈ろう。手を合わせて目を閉じる。
 遼哉はいろんなことを思い出して、小さく息を吐いた。

 ハルと初めて会ったときのこと、樹実渡が「腹減った」と起しに来たときのこと、火乃花が「鬼退治だ」と飛び出して行こうとしているときのこと。
 思いは膨らんでいくばかり。

 うまくいってほしいけど、うまくいくのかはわからない。
 ハルの死がなかったことになるのだろうか。樹実渡と火乃花にもまた会えるのだろうか。期待せずにはいられない。
 猫田彦とぷくぷくに頑張ってもらわなくては。

 流瀧はすぐ横で険しい顔をして腕組みをしていた。

「どうした流瀧」
「そう簡単に過去は変えられない気がするのです」

 確かに。

「そうか。簡単じゃないよな。けど猫田彦は一応神様なんだろう。だったらなんとかなるんじゃないのか」

 そう言いつつも、不安になっていく。

「そうなのですが、どうにも心配なのですよ」
「そうね、私も心配よ。けど、期待したい」

 流瀧は小海に頷き「そうですね」と呟いた。

「あっ、そうだ。流瀧、源じぃたちにハルのこと伝えたいんだけどできるか」

 流瀧はあごを触りながら、少し黙考して頷いた。

「たぶんできると思います」

 胡坐をかいて目を閉じて瞑想しはじめた。と思ったら、すぐに目を開けた。

「すみません。洗面器に水を入れて持ってきてくれませんか。お願いします」
「水か。わかった」

 立ち上がろうとしたところを小海に止められた。
 小海は奥の風呂場に行き、すぐに水の入った洗面器を持ってきて流瀧の前に置く。

「ありがとうございます」

 流瀧はゆっくりと瞼を上げると、洗面器の水に手をかざして水面をみつめていた。
 いったい何が始まるのだろう。龍でも出て来るのだろうか。固唾を呑み、じっと水面をみつめる。

 何が起きるのか。

 一分、二分、三分。どんどん時が刻まれていく。
 まだか。十分くらい経っただろうか。
 何の変化もないまま待つのは、倍以上の時間が経っているように感じてしまう。
 遼哉はどうにも待ち切れず、流瀧に声をかけようと視線を移す。

 んっ。
 今、水音がしたか。すぐに水面に目を向けてハッとする。
 洗面器の水の真ん中あたりが盛り上がりをみせた。やっと、何かがはじまるのか。

 んっ、あれは。
 一瞬、何かが見えた。小さな龍か。蛇か。目の錯覚だろうか。
 流瀧は頬を緩ませて一度頷くと、こっちに顔を向けて微笑んだ。

「金之丞に伝わりました。猫田彦の祠に向かうようです。なので僕も行ってみます」

 流瀧は水を通してずっと会話していたのか。何の変化もないただの水にしか思えなかったけど、何かが映っていたのか。
 流瀧にしか見えない何かが。

 最後に見えた蛇も気のせいではなかったのだろうか。水神の使いか何かだったのだろうか。
 流瀧の力の凄さを改めて感じられた。

「なあ、流瀧」

 声をかけたが返事がない。あれ、流瀧はどこだ。

「流瀧ならもう行っちゃったわよ」
「えっ、行っちゃった。そうか」

 流瀧にしては素早い行動だ。まるで火乃花みたいだ。いつもならしっかり準備をしてからなのに。
 落ち着いて見えても、今回ばかりは冷静ではいられないのだろう。

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