本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
149 / 161
第五話 思い出を抱いて

【二十五】不安のなか

しおりを挟む

 小海は手を合わせて祈っていた。
 自分も祈ろう。手を合わせて目を閉じる。
 遼哉はいろんなことを思い出して、小さく息を吐いた。

 ハルと初めて会ったときのこと、樹実渡が「腹減った」と起しに来たときのこと、火乃花が「鬼退治だ」と飛び出して行こうとしているときのこと。
 思いは膨らんでいくばかり。

 うまくいってほしいけど、うまくいくのかはわからない。
 ハルの死がなかったことになるのだろうか。樹実渡と火乃花にもまた会えるのだろうか。期待せずにはいられない。
 猫田彦とぷくぷくに頑張ってもらわなくては。

 流瀧はすぐ横で険しい顔をして腕組みをしていた。

「どうした流瀧」
「そう簡単に過去は変えられない気がするのです」

 確かに。

「そうか。簡単じゃないよな。けど猫田彦は一応神様なんだろう。だったらなんとかなるんじゃないのか」

 そう言いつつも、不安になっていく。

「そうなのですが、どうにも心配なのですよ」
「そうね、私も心配よ。けど、期待したい」

 流瀧は小海に頷き「そうですね」と呟いた。

「あっ、そうだ。流瀧、源じぃたちにハルのこと伝えたいんだけどできるか」

 流瀧はあごを触りながら、少し黙考して頷いた。

「たぶんできると思います」

 胡坐をかいて目を閉じて瞑想しはじめた。と思ったら、すぐに目を開けた。

「すみません。洗面器に水を入れて持ってきてくれませんか。お願いします」
「水か。わかった」

 立ち上がろうとしたところを小海に止められた。
 小海は奥の風呂場に行き、すぐに水の入った洗面器を持ってきて流瀧の前に置く。

「ありがとうございます」

 流瀧はゆっくりと瞼を上げると、洗面器の水に手をかざして水面をみつめていた。
 いったい何が始まるのだろう。龍でも出て来るのだろうか。固唾を呑み、じっと水面をみつめる。

 何が起きるのか。

 一分、二分、三分。どんどん時が刻まれていく。
 まだか。十分くらい経っただろうか。
 何の変化もないまま待つのは、倍以上の時間が経っているように感じてしまう。
 遼哉はどうにも待ち切れず、流瀧に声をかけようと視線を移す。

 んっ。
 今、水音がしたか。すぐに水面に目を向けてハッとする。
 洗面器の水の真ん中あたりが盛り上がりをみせた。やっと、何かがはじまるのか。

 んっ、あれは。
 一瞬、何かが見えた。小さな龍か。蛇か。目の錯覚だろうか。
 流瀧は頬を緩ませて一度頷くと、こっちに顔を向けて微笑んだ。

「金之丞に伝わりました。猫田彦の祠に向かうようです。なので僕も行ってみます」

 流瀧は水を通してずっと会話していたのか。何の変化もないただの水にしか思えなかったけど、何かが映っていたのか。
 流瀧にしか見えない何かが。

 最後に見えた蛇も気のせいではなかったのだろうか。水神の使いか何かだったのだろうか。
 流瀧の力の凄さを改めて感じられた。

「なあ、流瀧」

 声をかけたが返事がない。あれ、流瀧はどこだ。

「流瀧ならもう行っちゃったわよ」
「えっ、行っちゃった。そうか」

 流瀧にしては素早い行動だ。まるで火乃花みたいだ。いつもならしっかり準備をしてからなのに。
 落ち着いて見えても、今回ばかりは冷静ではいられないのだろう。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

愛人の生活費も、お願いします 〜ATM様、本日もよろしくてよ〜【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
政略結婚で結ばれた王子ザコットと、氷のように美しい公爵令嬢ビアンカ。だが、ザコットにはすでに愛する男爵令嬢エイミーがいた。 結婚初夜、彼はビアンカに冷酷な宣言を突きつける。 「お前を愛することはない。俺には愛する人がいる。このエイミーだ」 だが、ビアンカは静かに微笑み、こう返す。 「では、私の愛人の生活費も、お願いします」 ──始まったのは、王子と王子妃の熾烈な政略バトル。 愛人を連れて食卓に現れるビアンカ。次々と辞表を出す重臣たち、そしてエイミーの暴走と破滅……。 果たして、王子ザコットの運命やいかに!? 氷の王子妃と炎の愛人が織りなす、痛快逆転宮廷劇! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 コメディーです。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...