本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
148 / 161
第五話 思い出を抱いて

【二十四】過去へ飛べ

しおりを挟む

「よし、ハルの家が火事となった日へ飛ぶぞ。おいらにみんな捕まれ」

 ネズノとコズノが猫田彦の頭へ飛び乗るのを確認しつつ、ぷくぷくは背中に飛び乗った。ハルは猫田彦の尻尾を掴んでいる。

 バズデは頭を振り、「我はここで待っている」とだけ呟き丸まった。
 なんだ行かないのか。単に眠いだけなのか。
 あっ、そうだ。あいつらにハルのことを教えてやったほうがいいかもしれない。

「おい、悪魔猫。寝るな。どうせなら、遼哉たちにハルのこと伝えろ」
「ふん、偉そうに」
「なんだと。また四次元空間に飛ばされたいか」
「ふん、やれるならやってみろ。我はもう飛ばされないさ。なぜなら、おまえは我のこと相棒だと思っているからな」

 まったく、何を言ってやがる。にやけた顔をして。まあ、その通りかもな。しゃくに障るがお見通しってことか。

「ああもう、いいから行け。ボケ悪魔猫」
「うるさい奴だ。我はボケ悪魔猫じゃないぞ。バズデだ。知っているだろう。ちっこい出来損ない悪魔が」
「な、なにぃ」

「いい加減にしろ。ボケでも出来損ないでもいいからもう過去へ飛ぶぞ」

 猫田彦に呆れた顔をされてしまった。言い争っている場合じゃなかった。早いところ過去に飛んですべてをなかったことにしなくては。

「よし、行こう」

 ぷくぷくは強く頷き、バズデをチラッと見遣る。

「まったく面倒臭い。伝えてきてやるからさっさと行け。シッシ」

 バズデは尻尾を振って背を向けて駆けて行った。

「バズデの奴は口の利き方がなっていない」
「ふん、それはおまえもだろうが」

 ネズノにそう言われて、そうかもと思ってしまった。待て、待て。よくよく考えるとネズノもじゃないか。

「おまえには言われたくないぞ」
「うるさい、ぷくぷくほどじゃない。尻尾ムチ食らわせるぞ」
「おまえら、うるさいぞ。まともなのはおいらとコズノくらいか」

 ペシペシペシッ。

「いて、いて、いてぇ~」
「猫田彦がまともならみんなまともだ。阿呆が」

 そうだそうだ、猫田彦がまともなわけがない。ぷくぷくはネズノに向かって親指を立て同意した。
 ふと横目で見遣ると、コズノとハルが溜め息を漏らしていた。


***


 コツン、コツン。

 窓ガラスを叩く音がする。風の悪戯だろうか。遼哉は眠い目を擦って窓に目を向ける。
 誰もいない。気のせいか。

 なんだか頭がボーっとする。徹夜仕事で寝たのが朝方だったから仕方がないか。
 ぷくぷくと本の御魂三人衆のコラボ小説の話を自分なりに練っていたらそうなってしまった。

 樹実渡と火乃花、それにハルの供養になるかもしれない。
 そう思ったら、行動に移していた。実現するのは難しいとわかっていても諦めきれない自分がいた。

 問題はひとつ。

『悪魔小僧ぷくぷく』の本を出版している出版社の了承を得なくてはならない。その策も練っていた。もちろん、父から頼まれた校正の仕事の合間でやっていることだ。
 ハルのことも気がかりだが仕事はしなくてはいけない。

 じっと天井の模様をみつめながら考えていたら、ハル、樹実渡、火乃花の顔が浮かんできてしまった。

 コツン、コツン。

 んっ、まただ。誰かの悪戯だったらやめてほしい。
 まさか、樹実渡か。それはないか。あいつはもういない。
 金之丞も土筆も源じぃとともに行ったまままだ。帰って来ていない。

 ならば、グレンか。
 違う。グレンは足元に丸くなっている。
 風の悪戯か。きっとそうだ。

 コツン、コツン。

 また鳴った。どうにも気になる。ハルの幽霊ってことはないだろうか。
 遼哉は首を捻り、起き上がると窓へと歩みを進めた。

 窓の下にいたのは黒猫だった。あいつは確かぷくぷくと一緒にいた猫だ。窓を開けてやると軽々と部屋の中へと飛び込んで来た。

「なんだ寝ていたのか。まったく呑気な奴だ。もう夕方だぞ。一日無駄にしたな」
「なんだと。俺は徹夜で仕事していたんだ。おまえにそんなこと言われる筋合いはない」

 声を張り上げて悪魔猫を睨んでしまい、不安になって視線を逸らす。大丈夫か。殺されるなんてことはないのか。

「まあいいけど」

 大丈夫そうか。ホッと息を吐き、悪魔猫に目を向ける。

「そんなことより何しに来た。ぷくぷくはどうした」
「そのぷくぷくから伝言だ。ハルは猫田彦とともに過去へ行ったぞ。ぷくぷくもな」

 それだけ話すと窓の外へと飛び跳ねて姿を消してしまった。
 なんだあいつは。

 んっ、今なんて言った。
 ハルが猫田彦と過去へ。なんでそんなことになっている。猫田彦って海のそばの祠にいた猫神様か。

 遼哉はすぐさま小海にLINEを送った。
 そうだ、源じぃたちにも知らせてやらないと。
 連絡する術がないか。どうしたらいい。

 流瀧は金之丞たちとコンタクトとれるだろうか。居場所もわからないのだから流瀧でも無理だろうか。龍神ならと空を見上げたが、そう簡単に呼び出せる相手じゃない。とにかく流瀧とも話したほうがいい。伴治の家に行くか。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...