本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
147 / 161
第五話 思い出を抱いて

【二十三】過去は変えられるのか

しおりを挟む

「ぷくぷく、前もって言っておくが過去を変えるということは簡単なことじゃないぞ。わかっているのか」
「もちろん。けど、おまえなら出来るだろう」

 猫田彦はムッとした顔をして近づき口を開いた。

「おまえって言うな。おいらは」
「しあわせを呼ぶ猫田彦だろう」
「こら、ネズノ。おいらの台詞を横取りするな」

 まずい、このままだとまた漫才が始まっちまう。ぷくぷくは手を大きく振り、間に割り込んで大声を出す。

「いいから、過去に連れて行け」

「あの、すみません」
「うわっ」

 背後からの突然の声にぷくぷくは前に飛び跳ねた。

「誰だ。この婆さん。幽霊か」
「私は、えっと角橋ハルです」
「えっ、あんたがハルか」

 猫田彦とネズノがじっとみつめていた。
 頷くハルはどこか困惑した顔をしている。

「ここはどこでしょうか。私、死んだんですよね。けど、ここはあの世ではないのですよねぇ」

 ハルはなぜここにいるのだろう。成仏出来なかったのか。ハルだったら迎えに誰かが来ていたはずだが。何がどうなっている。

「ぷくぷく、この野郎。我を置いてけぼりにしやがって」

 バズデが駆け寄り睨み付けて踏みつけてきた。

『うぎゅ』

 いつもの台詞を言おうとしたところをバズデの肉球で口を塞がれてしまった。

「踏んでいい理由があるから言うな」

 猫田彦とネズノとコズノがクスクスと笑っているのが目に映る。全員、あとで懲らしめてやる。

「あの」
「あっ、すみません。ハルさんですよね」

 コズノがお辞儀をした。

「あら、可愛らしいこと。同じ顔があっちにもいるねぇ」

 ネズノもお辞儀をした。

「おいらもいることを忘れないでほしいぞ」
「猫さんも可愛いねぇ。グレンといい友達になれそうだねぇ」
「で、なんでハルがここにいるんだ」

 首を傾げて問い掛ける。
 んっ、何だ。その好奇の目は。まあいいか。気にしないことにしよう。

「それが、真っ暗闇であの世への道がわからなくてねぇ。気づいたらここに」
「ふーん、なら一緒に過去へついてくるか」

 何を言っているんだ猫田彦は。ぷくぷくは口をポカンとあけて猫田彦をみつめた。


***


「流瀧、いるか」
「どうしたの遼哉。汗、すごいよ」

 急に小海が顔を覗かせて来て、ドキッとしてしまった。伴治の家に小海がいることを忘れていた。汗を拭い玄関先に腰を下ろす。

「悪いけど水を貰えるか」

 小海は頷き奥に引っ込んでいく。

「遼哉。僕に御用ですか。何か問題でも起きましたか」

 小海と入れ違いで流瀧も顔を出す。

「ああ問題だ。けど、ちょっと小海が戻るまで待ってくれ」

 流瀧が頷くとすぐに小海がコップに水を入れて戻って来た。遼哉は受け取り一気に水を飲み息吐く。

「で、何があったの」
「実は……」

 源じぃから聞いた話を説明し始める。そこに伴治も加わった。

「お祖母ちゃんが行方不明なの」

 小海は不安そうにみつめてくる。

「そうなんだ。今、源じぃと金之丞と土筆が探している」

 幽霊も行方不明と言うべきかわからないが、間違いではない。

「ハルさん、どこへ行ってしまったのでしょう。成仏出来なかったとしても幽霊になって現れるはずです。まさか、燃えてしまった家にいるということはないでしょうか」

 遼哉は首を振り「それはないみたいだ」と話した。
 源じぃがいそうなところは探している。

「私も探しに行く」
「小海、待て。源じぃたちに任せたほうがいい。小海に幽霊は見えないだろう」
「確かにそうね」

 小海は立ち上がろうとしてすぐにその場に腰を下ろす。

「ハルさんならすぐに成仏出来そうなのですが、何かが邪魔しているのでしょうか」
「まさか、また悪魔とか」

 流瀧は頭を振り「それはないでしょう」と呟いた。
 流瀧の言う通りだ。龍に呑み込まれた悪魔が戻ってくるはずがない。他の悪魔がやってくるとも思えない。そこまで悪魔に怨みを買うようなことはしていないはずだ。

 ならば、どうしてだろう。わからない。成仏出来なかったのなら、絶対にどこかにいるはずだ。遼哉は樹実渡と火乃花の書物と化した姿に目を遣り、溜め息を漏らす。

「ふたりが生きていたら」

 過去のことをいつまで考えても仕方がない。
 書物と化したふたりは流瀧とともにいる。一緒にいることで何か変化があるはずだ。期待はしている。今のところ何も変わりがなくて、残念だが。

「お祖母ちゃん、どこかにいるなら出て来て。お願い」

 小海は見上げて手を合わせていた。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

処理中です...