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第五話 思い出を抱いて
【二十二】任せていいのか
しおりを挟む「話は理解した。ということで、寝る」
「おい、そうじゃないだろう」
「うるさいな。わかっているって。いつだったか会いに来た奴らだろう。樹実渡と火乃花って。ハルとは会っていなかったっけか」
猫田彦は祠に寄りかかって腕組みしている。いったい何を考えているのやら。
こいつを信じるしかないか。
本当なら悪魔の自分がここまでする義理はない。なぜかそうしたくなってしまった。本の御魂三人衆ともそれほど仲が良かったわけじゃないのに不思議だ。
あっ、今は五人衆か。
いやいや、樹実渡と火乃花がいないから三人衆でいいのか。いやいやいや、復活させるからやっぱり五人衆だ。
それにしてもずいぶん考え込んでいるな。猫田彦の奴。
「おい、猫田彦」
呼びかけたとき、猫田彦から鼾が聞こえてきた。こいつ寝てやがるのか。
「こら、寝るな。ボケナス猫」
ペシペシペシッ。
「いて、いて、いてぇ~。やめろ、ネズノ」
いいコンビだな、こいつら。けど、コズノもいるからトリオなのか。コズノはおとなしく見ているだけだけど。
同じ狛鼠なのにこうも性格が違うものなのか。それに、ネズノがいるから毒舌吐く機会がない。自分のキャラが死んでしまう。まあ、いいか。今はネズノに譲ってやる。
「寝る奴があるか。一大事なんだぞ。おまえはしあわせを呼ぶ猫田彦だろうが」
「もう小姑みたいにうるさい奴だ。ネズノは狛鼠じゃなくて実は悪魔なんじゃないのか」
「確かに」
「むむむ、そこの悪魔、『確かに』とはなんだ。俺様は由緒ある神社の狛鼠だ。悪魔ではない」
ペシペシペシッ。
「何をする。俺様を叩くとは何事だ。悪魔だぞ。おまえを粉々にしてやろうか。それに、俺様と呼べるのはこのぷくぷくだけだ。ネズノは俺様と言うな」
「ふん、そんなこと、知るか。もう一回叩いてやろうか」
「まあまあ、二人とも冷静になってくださいよ」
コズノが間に入り宥めてくる。ぷくぷくはコズノの笑みに怒りをグッと抑え込み口を閉ざした。ネズノも背を向けて言い合うことをやめた。
んっ、鼾か。
「猫田彦、寝るんじゃない」
怒鳴りつけたら、ネズノとかぶってしまった。
「なんだ、喧嘩は終わったのか」
猫田彦は何を言っている。喧嘩などしていない。
まったくこいつの顔ときたら。寝ぼけ眼のとぼけた顔をして。笑わずにはいられない。
プッと唾を飛ばして腹を抱え込む。隣でネズノも大口をあけて笑い転げている。
「なんだよ、おいらの顔に何かついているのか。んっ、あっ、歯に鰹節が挟まっていた。なんか得した気分だ」
なんだかな、本当にこいつは神様なのか。猫田彦といるとどうにも調子が狂う。危機感というものがないのか。それともわざとそうしているのか。
ネズノは咳払いをして「とにかく、作戦を練らなくては」と真剣な面持ちで呟いた。
「そうですね。しっかり作戦を練らないと違う時間軸に飛び込んでしまいますからね」
コズノが腕組みをして頷いている。
「じゃ、行くか」
「ボケ猫。話を聞いていたのか」
猫田彦は尻尾ムチを警戒してスッと体勢を低くした。
やっぱりコントだ。いや漫才か。
なんだか話が一向に前に進んでいない。こんなんで過去を変えられるのか。
『うぎゅ』
「誰だ、俺様を踏むとは何事だ。謝罪だ、謝罪。踏んでいい理由があるとも思えないがあるなら言ってみろ」
「一度、踏んでみたかった。それが理由だ」
「な、なに。猫田彦。ふざけるな。そんなの理由にならない。謝罪だ、謝罪」
「すまない。願いは叶えてやる」
「なんだよ。素直に謝るなって」
ぷくぷくは背中を向けて地面に『の』の字を書き続けた。ああもう、なんか調子が狂う。
「ぷくぷくって面白い悪魔ですね」
コズノの言葉に猫田彦もネズノも頷いていた。
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