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第五話 思い出を抱いて
【二十七】過去を変えろ
しおりを挟む金之丞と土筆が祠の前で立ち尽くしている。
何をしているのだろう。猫田彦はどこだ。いないのか。
流瀧は小首を傾げて近づいていく。
黒猫が祠の横で丸くなっている。こいつは確か、ぷくぷくと一緒にいた悪魔猫バズデか。
チラッとだけ薄目を開けたが、再び目を閉じてしまった。
「流瀧も来たか」
流瀧は頷き、あたりを見回した。
「ふたりともどうしたのですか。猫田彦はいないのですか」
「ここまで来たのだが、すでに猫田彦たちは過去へ飛んだあとだった。どうしたものか」
金之丞はお手上げといった感じで両手をあげた。
そうか、遅かったか。
祠を覗いてみたものの、どうしたらいいのわからない。
祠に入ればいいってわけじゃないようだ。入れたとしてもどこへ行くかはわからない。結界が張られている。強引に入り込むわけにもいかない。猫田彦がいないとやっぱりダメなのだろう。
「ここで待つしかないのかもしれませんね」
土筆の呟きに頷いた。
それしかない。本当にそうだろうか。何かやれることはないだろうか。
流瀧は眠りこけているバズデを見遣り、考えを巡らせた。
時折、パタパタと揺らす尻尾につい見入ってしまう。違うだろうが、催眠術にでもかけられそうだ。
ダメだ。見てはダメだ。
流瀧はハルたちのことを考えなければと頭を振った。
「くそっ、何も出来ないとはイライラする」
金之丞の気持ちはわかる。同じ気持ちだ。
「ところで、源蔵は一緒じゃないのですか」
「んっ、ああ、あの爺さんか。あいつはあの世で見守っているよって、行っちまった。幽霊でいるのも疲れるんだとさ」
そうか、ちょっと会いたかったが仕方がない。
「みんな、祈って待ちましょう」
土筆は目を閉じて手を合わせていた。
『樹実渡、火乃花、ハルさん。また会えると信じています』
流瀧も土筆に倣って心の中でそう祈った。
***
「樹実渡、待て。止まれ、こら、無視するつもりか」
グレンの背に揺られる樹実渡に向けてぷくぷくは怒鳴った。
チラッと樹実渡が振り返ったように思えた瞬間、グレンの足が止まる。
「なんだ、ぷくぷくか。どうしてここに。というかそこにいるのはハルか。えっ、どうして。す、透けているけど。ま、まさか死んでしまった。どうなっている」
狼狽える樹実渡を落ち着かせようとぷくぷくは必死になった。
幽霊のハルがいたら驚いて当然だ。連れて来たのは失敗だったか。いや、逆に説明しやすいか。未来から来たと信憑性が増すだろう。
「実は……」
ぷくぷくは今までのことを掻い摘んで話した。
「未来から来たっていうのか。おいら死ぬのか。もう美味いものが食えなくなるっていうのか」
樹実渡は目を丸くして呆然としている。というか食べられなくなることが気になるのか。ぷくぷくはひとつ溜め息を漏らして話を続けた。
「とにかく、おまえはハルの家に行ったらすぐに火乃花とハルを連れ出せ。いいな」
「わかった。けど、金之丞と土筆はどうするつもりだ。逃げたってあいつらをどうにかしないと一緒じゃないのか。悪魔が憑いているのだろう」
確かにそうだ。どうしたらいいだろうか。流瀧も連れてくるべきだったと今更だが気がついた。
ここは猫田彦の力を借りるしかないか。
「猫田彦、悪魔退治をしてくれ」
「何、悪魔の胎児がどうしたって。もしかして、ぷくぷくは赤ちゃんだったのか」
「こら、冗談言っている場合か、阿呆猫が」
ペシペシペシッ。
「やめろ、わかったって。やるだけやってみる。いてぇ、やめろネズノ。それに冗談じゃなく 駄洒落だ」
「まったく、何が駄洒落だ。そんなことどっちだっていい。反省しろ」
ネズノはもう一度ペシッと尻尾ムチを振るった。
また漫才してやがる。まったく仕方がない奴らだ。ここは無視しよう。
樹実渡は冷めた目をしてふたりをみつめていた。
「まあ、言われた通りにしてみるよ」
樹実渡は手を上げて、グレンの背に揺られて行った。
よし。まずはこれでいい。
ぷくぷくは翼を広げて空へ飛ぶ。
ハルの家の上空から様子を見たほうが危険を察知しやすいだろう。猫田彦たちにも近くに隠れて警戒態勢をとってもらった。
どこから現れるかわからない。火を放つ前にどうにかしなくては。
樹実渡はグレンとともにハルの家に入っていった。
うまくいくといいのだが。
おや、どうした。猫田彦が何やら呼んでいる。あいつ心に直接語り掛けてきた。
やっぱり神様って本当なのか。まあ、過去に飛べる時点でただの猫ではないか。
何々、ふむふむ、そうか。
ぷくぷくは猫田彦に向かって頷く。
なるほど、この世界にいる流瀧を連れてくればいいのか。
火にはやっぱり水の力が必要だ。それはわかっていた。ただ、この世界にも流瀧がいたことに気づいていなかっただけだ。
そんなことに気づかないとは情けない。少しだけ落ち込んだ。
違う。違う。わかっていただろう。悪魔小僧ぷくぷくにそんな落ち度はない。
ぷくぷくは猫田彦に向かってニヤリとした。
「最初からそのつもりだったぞ」
猫田彦とネズノは疑いの目でこっちを見ている。
ダメだ、完全に見透かされている。
そんな目で見るな。ここは逃げるが勝ちだ。いや、そうじゃない。急いで流瀧を連れて来るだけだ。
ぷくぷくは小さな翼を羽ばたき、空を翔け抜けた。
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