本の御魂が舞い降りる

景綱

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第五話 思い出を抱いて

【二十八】作戦の行方

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「樹実渡とやらはまだ出てきませんね」
「ふむ、確かに。コズノ、ちょっと様子を見て来い」
「あっ、はい」
「こら、猫田彦が行けばいいだろうが。コズノはおまえの下僕じゃないぞ」
「いいのですよ、ネズノ。小さい僕が行ったほうが敵にもみつからずにすみますから」
「ならいいけど」

 ペシッ。

「いて、なんで叩くんだよ」

 猫田彦は思わず手を挙げて爪を立てたが引っ込めた。今は遊んでいる場合じゃない。
 コズノがハルの家に入っていくのが目の端に映る。閉まった扉に吸い込まれるように姿が消えた。

「阿呆田彦にはあんなこと出来ないだろう」
「ふん、出来なくてもおいらは扉を手で開けて入れるさ。その前に阿呆田彦とはなんだ。ローリングクローを食らいたいのか」
「何が、ローリングクロ―だ。ただの猫パンチだろうが」

 ペシッ。

「だから、叩くな」

 猫田彦は鼻先に尻尾ムチを食らい、猫パンチを繰り出す。
 おっと空振りか。

 ネズノに軽くかわされてしまった。的が小さいから当たらないだけだ。
 そうだ、そうだ。
 猫田彦はそう納得させて毛繕いを始めた。イライラしたときは毛繕いに限る。

「戻ってきたぞ。阿呆田彦」
「黙れ、阿呆田彦じゃない」
「はい、はい」

 まったくネズノの奴。
 んっ、コズノだけか。ハルはどうした。樹実渡と火乃花はどうした。

「おい、どうなっているんだ」
「実は、そうめんを食べていて言うことを聞いてくれないのです」
「な、なに。そ、そうめんだと」

 わかっているのかあつらは。危機感がないのか。

「まるで、どこかの誰かさんみたいに食いしん坊な奴らだな。猫田彦」

 ネズノは相変わらず、嫌味な奴だ。

「おいらはそこまでじゃないぞ」

 そうだ。そこまで食いしん坊じゃない。
 そうめんか。

よだれが出ているぞ」
「うるさい」

 とにかく、早く家から連れ出さなければ。

「困った奴らだ。強引にでも連れ出してやる。ネズノとコズノは悪魔憑きの奴を警戒してくれ」

 猫田彦はハルの家をねめつけて駆け出した。

「うぉっ」

 急ブレーキをかけ後ろに飛び退く。
 びっくりした。グレンか。急に飛び出してきやがって。
 おっ、来たか。樹実渡と火乃花だ。

「さぁ、行くぞ。んっ、おい。どこへ行く」

 こっちには目もくれずに裏の方へ行ってしまった。あいつ話したことを忘れちまったのか。あれ、ハルはどうした。
 なんだ、なんだ。何か臭う。鼻先をヒクヒクさせて顔をしかめる。

 ま、まさか。少し開いていた扉に手をかけると黒煙が奥から流れてきた。まずい。これでは同じ結果になっちまう。
 樹実渡と火乃花が再び家の中へ飛び込んで行った。ハルを呼びながら。

「おい、待て」

 猫田彦の声はふたりの耳には届かなかった。
 やられた。

 奥で炎が暴れている。
 脇をグレンが物凄い速さで通り抜けて行く。止める間もなく中へ入っていった。

 なんてことだ。悪魔の気配をまったく感じなかった。いつのまに炎を。金之丞と土筆の気も感じられなかった。なぜだ。

 過去を変えられなかった。悪魔のほうが一枚上手うわてだってことか。甘くみていたかもしれない。

「グレン」

 炎の壁から姿を現し、ふらふらとして目の前に倒れ込む。毛が焦げて肌が焼けただれている。

「グレン。おい、グレン。大丈夫か」
「流瀧、すまぬ」

 駆けつけた流瀧にぷくぷくは頭を下げた。
 完敗だ。もう一度やり直さなくては。
 身体の力が抜け、項垂れる。

 気づけば、祠の前に戻っていた。
 ぷくぷくもネズノもコズノもいる。もちろん、ハルの幽霊も。

「うわっ、なぜいる」

 目を見開き、心臓が跳ね上がる。
 流瀧がいる。金之丞と土筆もいる。

 猫田彦は身構えて低い体勢を取る。待て、待て。冷静になれ。
 もう過去ではない。ここはもとの世界だ。大丈夫だ。あいつらの気が違う。悪魔憑きじゃない。
 大きく息を吐き、胸を撫で下ろす。
 脅かせるんじゃない。

「猫田彦。どうなったのです。うまくいったのですか」
「すまない。ここにハルの幽霊がまだいるだろう。失敗だ」

 猫田彦は流瀧の顔をみつめ、頭を下げた。

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