本の御魂が舞い降りる

景綱

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第五話 思い出を抱いて

【二十九】再び過去へ行け

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「うまくいかなかったのですか」
「そうだ、樹実渡の食いしん坊のせいでな」

 ぷくぷくは口を尖らせてどんと腰を下ろした。

「なるほど、ならばハルに話せばいいのではないですか」

 ハルか。確かに樹実渡より信用できる。

「それでいこう。猫田彦、もう一度過去へ連れてけ」
「行くのか。また気持ち悪くなるぞ。もしかしたら気が狂ってしまうかもしれないぞ」
「それは嫌だな」

 あの気持ち悪さがまたくるのか。どうする。やめるか。
 幽霊のハルに目を向け、流瀧をチラ見する。

 仕方がない。少しの間、我慢するしかないか。なんだかな。悪魔だというのに人助けしてしまうとは。いや、もう悪魔ではなかったか。悪魔界はとうの昔に追い出されている。

 なんだ、あいつら笑いやがって。もしかして、騙したのか。
 猫田彦とネズノの笑い顔にムカついてきた。

「おまえら、俺様を悪魔と知っての所業か。って知っているよな。騙すとは命知らずな奴らだ。懲らしめてやる」

 猫田彦に突っ込もうとしたら、流瀧が制してきた。

「いけません。猫田彦がいないと過去へは行けません。懲らしめるなどいけません」

 腹立たしい気持ちを胸の奥へ押し込めて、猫田彦を睨み付ける。流瀧の言葉はもっともだ。あの阿呆猫がいなきゃ何も出来ない。まったく。

「おい、いいのか。懲らしめなくて。代わりにペシッとやってやろうか」
「ネズノ、うるさい。悪魔の俺様がいいと判断したのだからいい。いいから過去へ行くぞ」
「待て。少しだけ休憩する。腹減ったからな。過去に行くのは結構体力いるんだ」

 何が腹減っただ。ぷくぷくは腕組みしてもう一度睨み付ける。

「確かに、体力消耗しそうですね。タイムスリップするのですから。けど、食べ物は何もないですよ」

 猫田彦はニヤリとして「大丈夫だ」と口にするとスマホでどこかに電話をしていた。ラーメンを十杯頼むと。十杯だと、人数分頼んだのか。いや、数が合わない。

 猫田彦、ネズノ、コズノ、流瀧、金之丞、土筆、バズデだろう。自分を入れて八杯でいいはず。ハルの分も入っているのか。それでも数が合わないか。その前に猫舌でアツアツのラーメンを食べられるのか。

 んっ、ここに出前してくれるのか。まさか、常連とか。ああ、もういい。考えるのやめた。

「はい、ラーメン十杯です」

 何、もう来たのか。あれ、声はどこからした。
 ぷくぷくはあたりを見回す。どこにも姿がない。
 なんだ、なんだ。祠からラーメンが次々と出てくるじゃないか。

「ほら、みんな食べろ。ここのラーメンはあご出汁だからな。美味いぞ」

 祠の前に十杯のラーメンが並ぶ。この祠はどうなっている。覗いて見たが誰もいない。ただの祠だ。
 金之丞がラーメンにいち早く駆け寄り、自分の身体と同じくらいの割り箸を器用に使って食べ始めた。

「おい、これスープがぬるいぞ。それに薄味過ぎる。どこが上手いんだよ」

 金之丞がすぐに箸を置き、文句を言い出した。

「そうか、おいらは美味いけどな」

 猫田彦は箸も使わずに顔を近づけて麺を食べていた。
 ぬるくて薄味だと。
 ぷくぷくは首を捻りラーメンをみつめた。

 どれどれ。一口食べて顔を上げる。金之丞の言う通りだ。美味いとは言えない。
 これは猫仕様のラーメンだ。すぐ横で美味そうに食べているバズデがいい証拠だ。流瀧も土筆も少しだけ食べたようだが、今はもう箸を置いている。

 ネズノとコズノは最初から口をつけていなかった。ハルはもちろん幽霊だから食べられない。

 んっ、ハルが食べている。嘘だろう。このラーメンは幽霊も食べられるのか。猫仕様ってわけじゃないのか。

「おい、猫田彦。このラーメンはどこに頼んだんだ」
「これか。ラーメン黄泉亭よみていだ。まさかあの世にこんな美味いラーメン屋があるとはな」

 あの世から出前。こりゃスゴイ。
 ハルが食べられるわけだ。ということはあの世の味なのか。いや、それは違うか。ハルはもともと薄味が好きなのかも。
 大きく息を吐き、猫田彦をじっとみつめた。

「おい、みんな食べないのか。こんな美味いもの勿体ないもったいない」

 結局、猫田彦が八杯分食べてしまった。最初から見越していたのだろう。

「満足、満足。じゃ、寝る」

 猫田彦が丸くなって目を閉じたところをネズノの尻尾ムチが唸る。

「いて、いて、いてぇ~。わかった、わかった。過去へ行くんだろう」

 本当にいいコンビだ。

「ほら、みんな乗れ」

 ネズノが叫び猫田彦の頭に飛ぶ乗ると、コズノもあとに続く。ぷくぷくは背中に、ハルは尻尾を掴む。流瀧がハルとなにやら話していたがすぐに背中にまたがった。

「おい、我と土筆の場所がないぞ」

 金之丞が騒ぎ立てると猫田彦がニヤリとした。

「定員オーバーだ。ふたりは待っていろ」
「何、ダメだ。我も行く。土筆も行きたいだろう」

 遠慮がちに土筆は頷いた。

「いや、ふたりは行かないほうがいい。混乱の元だからな。過去では敵になる存在だぞ。ふたりがいたら味方なのか敵なのかわからなくなる。だから、ここで待て」

 確かにそうだ。猫田彦は阿呆かと思ったが意外と賢いのかもしれない。まあ、ただの駄洒落好きってだけかもしれないけど。いや、あれはつまらないオヤジギャグか。

「猫田彦の言う通りです。ふたりはいてください」

 流瀧にもそう言われて渋々だが了承してくれたようだ。

「気を引き締めろ。歯を食いしばれ。そうすれば気持ち悪さも緩和されるはず。もちろん、気が狂うことはないぞ。毛がクルッとまるまるかもしれないがな。毛がクルッと、毛がクル、気が狂う。なーんてな。いざ、過去へ」

 今、そんなオヤジギャグ言うな。まったく緊張感のない奴だ。
 賢いってのは訂正だ。やっぱり阿呆だ。

 うおっ。
 なんだか気持ち悪くなってきた。気を引き締めたって、歯を食いしばったって緩和されないじゃないか。


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