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おまけ
あの世では
しおりを挟む「本当に、小海は綺麗でしたねぇ。遼哉さんも素敵で格好よかった」
「うんうん、そうだったな」
源蔵が頷いている。
「それにしても女神様には感謝しないといけませんねぇ。結婚式も披露宴も見せてくれるなんて」
源蔵は頷き続けている。
樹実渡は口元についたソースをペロリと嘗め、ハルと源蔵の様子を窺っていた。
あのとき見た夢が現実になってしまうとは。
遼哉とはもう会えないのだろうか。切ないってのはこういうことなのか。
ダメだ、ダメだ。もっと前向きに。またいつか、みんなのもとへ戻ってやる。
そのためには食べて食べて食べまくってやる。今は力を取り戻すために食うことに専念する。それだけだ。
「こりゃ、美味い。さすが、ハルだ」
「ちょっと、樹実渡。あんた、なに食べてんの」
火乃花は何をほざいているんだ。
「なにって、ハルの作ってくれた料理だけど」
「そういうことを言っているんじゃない。樹実渡は淋しくないの。もう会えないんだよ。小海とも遼哉とも流瀧もグレンも。みんなと会えないっていうのに……」
「おいらだって淋しいさ。けど、しかたがないじゃないか。力をすべて使い果たしてしまったんだから。あそこへは戻れない。それなら美味いもんを鱈腹食べたほうがいい。違うか。食って力つけて戻れるようにする。それがおいらの考えだ」
火乃花は黙ってしまった。気持ちはわかる。わかるけど、また戻れるって信じているからこそ食うんだ。
「そうなのね。そういう考え方もあるのよね」
ハルはそんな火乃花に寄り添い抱きしめていた。
「火乃花、大丈夫。いつかきっとみんなのことろに戻れるはずだよ」
「本当に、ハルさん」
ハルは火乃花の頭を撫でて頷いている。優しい人だ。
「そうですよね、女神様」
「まあ、そうですね。あなたたちはとてもいい行いをしていますからね。戻れますよ。すぐにとはいきませんけどね」
火乃花はその言葉を聞いた瞬間に料理にパクついた。
わかりやすい奴だ。
「美味いだろう。火乃花」
「ハルの料理は美味いに決まっているじゃない。私もいっぱい食べて力を取り戻すわ」
「まだまだ料理はあるからねぇ。どんどん食べておくれ。女神様も源蔵さんも食べてくださいねぇ」
目の前に次から次へと料理が出されていく。
きんぴらごぼう、鳥の胸肉のトマト煮、サバの南蛮漬け、とん汁、春菊のお浸し、さんまの炊き込みご飯。
こりゃあの世もいいものだ。みんなのところのほうがもっといいけど。
とにかく、食って食って食いまくれ。
食べて力を取り戻せるのかわからないけど頑張って食ってやる。
ハルは天界の料理人になった。おかげで、ここでたくさん食べられる。
樹実渡はにんまりとして食卓に並ぶ料理を眺めていた。食べても食べてもどんどん出てくるなんて夢のようだ。
あっ、もう鶏肉のトマト煮がひとつしかない。樹実渡はさっと手を伸ばして口へ放り込む。
「樹実渡、ダメじゃない。女神様の分よ」
「んっ、そうだったのか」
火乃花は女神様に頭を下げて「ごめんなさい」と口にした。
「樹実渡もちゃんと謝って」
火乃花に頭をグッと押し込められて樹実渡は「ごめん」と謝った。
「気にすることはありませんよ。ハルがまた作ってくれますからね。それにしてもあなたたちは本当に、面白い人達ですね。あっ、人ではなく付喪神でしたね」
「ああ、遼哉は今頃どうしているかな。なにか食っているかな」
「ちょっと、樹実渡は馬鹿なの。食べているに決まっているじゃない。食べなきゃ餓死しちゃうもの」
「そりゃそうだな。火乃花に叱られるなんておいらも落ちぶれたもんだ」
「なによ、その口塞いじゃうわよ」
「馬鹿、よせ。そんなことしたら美味い料理が食えなくなる」
樹実渡は鶏肉を頬張りながら席から飛び降りて駆け出した。
「こらー、逃げるな」
***
「本当に騒がしい付喪神ですね」
「そうですねぇ。それはそうと、女神様、私を料理人にしてくれてありがとうございます。あの二人も一緒に呼んでくれたことに感謝します」
「感謝などいらない。ただハルの料理が口に合うってだけだ。気にするではないぞ」
「それに、遼哉と小海の結婚式も見せてくれてありがたいことです」
「それはハルたちの行いがよかったから叶っただけだ」
天界の料理人は自分にとって天職かもしれない。あの世がこんなにも楽しい場所だとは思わなかった。源蔵とも普通に会えることもありがたい。小海と会えなくなったことは淋しいけれど、樹実渡と火乃花のおかげで気持ちが沈むこともほとんどない。
「ハルさーーーん」
源蔵が空っぽの皿を見せて手を振っている。そんなに大きな声を出さなくても聞こえるのに。
あっ、転んだ。
まったく源蔵も落ち着きがない。もう全部食べてしまったのか。
「そうだ、ハルよ。いい報せが届いていますよ」
「いい、報せ」
「うむ、これは異例中の異例です。ハルは二年後になるとは思うが生まれ変われるようです。しかも、遼哉と小海の子供として」
「えっ、ほ、本当ですか」
女神様が微笑み頷いた。
「おお、そりゃすごい。で、生まれ変わるのはハルさんだけなのかい」
源蔵が話に割り込んで来て覗き込んできた。
「源蔵も一緒に生まれ変われそうですよ」
「なんと、こりゃたまげた」
「驚くのは早いです。源蔵とハルは遼哉と小海の子供として生まれる予定になっていますね。男の子と女の子の双子として」
それを聞いた樹実渡と火乃花が飛んで戻って来た。
「おいらは?」
「私は?」
本当に調子のいいふたりだ。そう思いつつも、ふたりのことも気になる。樹実渡と火乃花は復活できるのか。
「まあ、それはどうでしょうね」
「なんだ、焦らすのか。おいら、そんなの嫌だぞ」
女神様はニコリとして目の前のコップに手を翳した。
「ここを覗いてみなさい」
ここってコップの水ってことだろうか。
樹実渡と火乃花は飛び跳ねて大騒ぎしている。
どうしたのだろう。
ハルは首を傾げて、コップを覗き込み温かな気持ちになった。
遼哉と小海が必死になって料理本と御伽草子の書物を修復する姿が映っていた。その横に流瀧、金之丞、土筆もいることは言うまでもない。
*****
(完)
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完結、おめでとうございます。
遼哉君と小海ちゃん、ハッピーエンドで良かったです。樹実渡達も結婚式みれて良かったです。楽しい物語、ありがとうございました。次回作も楽しみにしています。
最後まで読んでいただ嬉しいです。ありがとうございます。
やっぱりハッピーエンドがいいですよね。
次は、エッセイに挑戦するつもりでいます。来週中には投稿してエッセイ・ブログ大賞にエントリーしたいと思っています。
今後ともよろしくお願いします。(=^・^=)
導入からの流れが、非常に参考になりました。次々に不思議なことが続いて、どんどん読み進みました。
感想ありがとうございます。
参考になったという言葉はうれしいです。
上手く行きませんね。確かに死んだ人を生き返らせる事は、神さまも許さないのかもしれませんね。
うまくいきませんね。
これはもう決定事項ってことですかね。
いつも感想ありがとうございます。