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2章 憶
1 塵の時代
しおりを挟むなぜ、人類は身体を替えてまで、生き続けなくてはならなくなったのか。
はじまりは「塵の時代」から続く、人類の不妊化に遡る。
一発の核弾頭から始まったあの戦争は、一瞬で地球上のほぼすべての命を死に至らしめた。加えて何より恐るべきは、長期に渡り人類を苦しめ続けた、放射性物質の塵である。
当時、主要国家に見向きもされず、静かに国を閉ざし沈黙していた島国――日本。
彼らは炎から逃れ、結果的に人類最期の生き残りとなったものの、見えない核の暴力からは逃れられなかった。
日本人を襲ったのは、主に長寿命であるストロンチウム90や、セシウム137といった放射性核種であった。これらは、世界中で落とされた核弾頭から爆散し、大気に乗り、水に乗り、あらゆるところから日本人の体内に入り込んだのである。
当時はすでに分子標的治療が一般的となっており、がんなどの主要な病気の原因遺伝子も特定されていた。そのため、遺伝子変異による高致死性の病気については、マーカーですぐに特定し、対応することができた。
それゆえ、短期間で症状がでないものや、後天的に死をもたらさない変異については、対応が後手に回ったのである。
結果的に、人々がおかしいと思ったときには、すべての人間が不妊に近い状態となっていた。
男性は精子の数が極端に少なく、どれも貧弱であった。女性は妊娠しても安定期を迎えることなく、流産を繰り返した。従来の不妊治療は効かず、また当時は発生学がないがしろにされていたために、原因メカニズムも不明であった。
人々はなんとか体細胞から生殖細胞を分化し、人工受精によって人間を創ることを試みた。
無数の受精卵を作り、できる限り健康な女性を母体とすることで、実際に産むところまでいった例もある。
しかし、生まれてきた赤子はまるで泣かなかった。
目を半開きにしたまま声一つ上げず、心臓が動いているだけのただの赤ん坊の人形であった。
そうして落胆するあいだも次々と人は死に、人類はいよいよ絶滅するのではと誰もが思った頃であった。
「素体交換技術」がついに産声を上げたのである。
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