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エピローグ②―② ‹‹とみ子視点››
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<五年後>
結依人が十五歳、奏美が六歳になり、龍之介さんが
“新作”を世に出した。
二十五年ぶりの
“新作”と“母親”視点からの作品に世間は二重の驚きを見せた。
「やっぱり、こうなったね」
犀星さんは新聞を読みながら苦笑いした。
【二十五年前に自害したはずの
文豪・芥川龍之介が実は“生きて”いた!?
更に、“母親”視点の新作を発表。】という新聞の一面の記事。
「あ~あ、母さん、目立つの嫌いなのに大丈夫か?」
結依人は犀星さんが広げている新聞を覗き込んで
父親の犀星さんと同じように苦笑していた。
「新聞社に抗議するわけにもいかないからね……
ただ、結依人や奏美は“室生”の姓を名乗っているから
世間では“僕ととみ子の子”だという認識だ。
だけど、本当は二人とも“僕と芥川龍之介の子”で
“奇跡的”に生まれて来てくれた子たちだ。
“生き返ったら”、“妊娠や出産” ができるようになったなんて
世間は理解しないだろうね」
「それは仕方ないんじゃないかな。
人は“常識”以上の出来事には“あり得ない”と
決めつける傾向にあるからね」
台所で洗い物をしていた龍之介さんが言った。
「誰が何を言おうと僕と奏美の
“母さん”は“芥川龍之介”で“父さん”が
“室生犀星”だということは
揺るぎない事実だから」
洗い物の手を止めて居間に来た龍之介さんは
結依人と奏美を抱き締めた。
犀星さんは新聞を畳むと
抱き締め合っている
龍之介さんと子供をたちを
優しい眼差しで見ていた。
この微笑ましい光景に私も心が温かくなっていたのに
一ヶ月後、おぞましい、事件が起こることを
誰も予想してしていなかった……
<一ヶ月後>
龍之介さんの“新作”が
発売されて半月しか経っていないが
大反響だった。
そんな中で起きた事件。
それは、龍之介さんが出版社からの帰り道で起きた。
二十五年も前に“死んだ”と思っていた人が
実は生きていて、なんて、面白く思わない人も
当然いるわけで……
龍之介さんは見知らぬ男たちに“犯され”てしまったのだ……
「……ただいま」
覇気のない声に私も犀星さんも
首を傾げつつ、二人で玄関に行くと
髪も着物も乱した龍之介さんがいた。
「龍之介君!? 何があったんだい!?」
犀星さんは三和土に降りて龍之介を抱き上げた。
私は龍之介さんの草履を脱がした。
「ありがとう、とみ子さん」
今朝、家を出た時は普通だったのに…
「どういたしまして」
手を洗い、犀星さんの書斎に布団を敷き、
龍之介さんをそっと寝かせた。
「出版社からの帰り道、
知らない男三人に声をかけられたんだ……
“何であなたが生きているんですか!!”って……
最初に声を掛けて来たのは二十代半ばくらいの
青年だった。
そこで油断したのがいけなかった。
その青年と話していたら、
後ろから目隠しをされ気絶させられて
……犯された。
ごめん、犀星君……
僕は汚されてしまった……
君に抱いてもらう資格がなくなってしまった……」
その言葉に私は胸が締め付けられた。
「龍之介君は何一つ悪くなし、
君を傷付けた連中が悪い!!
それから、龍之介は汚されなんかいないよ。
僕の伴侶は綺麗なままだ。
龍之介君の心の傷が癒えたら、
また、抱かせてほしい。
僕が龍之介君を愛してることは一生、
変わらないからね」
犀星さんは龍之介さんの手を優しく握った。
「龍之介君の心をこんなにボロボロした
犯人は必ず捕まえる」
先ほどまでは龍之介さんを慈しむような声色だったのにが
一変して、怒りに満ちた声色で言う犀星さん。
「僕は今、腸が煮えくり返りそうな程、ムカついているんだ。
思い出したくもないだろうけど、
君に暴行を加えた奴らの
特徴や見た目を教えてほしい」
龍之介さんはゆっくりと話し出した。
「最初に声を掛けて来た青年ともう一人は
二十代半ばくらいで身長は僕よりやや、高めで
片方の青年は眼鏡をかけていた。
もう一人は少し裕福そうな三十代前半の男で
少し、西の訛りか入った話し方だった」
「ごめん、龍之介君!!」
犀星さんは土下座する勢いで龍之介さんに頭を下げた。
「え? 犀星君!?」
「青年二人は知らないけど、
裕福そうな三十代前半の男は
多分、僕の知り合いだ……
龍之介君がまだ、“生き返る前”に
朝巳に一目惚れしたと言ってきた
お金持ちのお嬢さんをとみ子は覚えているかい?」
犀星さんに言われて思い出した。
「記憶の彼方に追いやっていたけれど、思い出したわ」
「今日、龍之介君を襲ったのは僕への復讐だ、
龍之介君に屈辱を与え、“もう一度”死に追いやれば
僕を追い詰めらると思ったんだろう……
僕のせいだ……
怖い思いをさせて、ごめん……
僕の方こそ、龍之介君を抱く資格がないよ……
とみ子、龍之介君についててあげて」
犀星さんは私に龍之介さんを
託して書斎を出て行った。
パタン、と閉じられた襖。
「あの、とみ子さん
さっきの話しは……?」
そうよね、龍之介さんからしてみれば
いきなり“伴侶”に土下座されても意味がわからないわよね。
「まだ、龍之介さんが“生き返える”前、
私と犀星さんの息子の朝巳にお金持ちのお嬢さんが
一目惚れしたと、思いを告げてくれたのだけど
朝巳はその女の子の告白を断ったの。
彼女自身はすぐに引いてくれたんだけど、
父親が家まで抗議に来てね……
龍之介さんを襲った三人組の
“裕福そうな三十代前半の男”は
その時、抗議に来た父親だと思うの……」
ガチャンバタンと玄関を開け閉めする音がした。
「あんなに怒った犀星君、初めて見た……」
龍之介さんが呟いた。
「龍之介さんを傷付けられたことが赦せなかったのよ」
二時間後、満身創痍な犀星さんが帰って来た。
「ただいま」
書斎に入ってきた犀星さんは
着物は乱れ、血痕と思われる跡があり
左手からは血が出ていた。
明らかに誰かと争った跡がみられる。
「龍之介君に暴行を働いた少年二人は
弱みを握られていたみたいだ。
主犯の男は殴り飛ばして
三人とも警察に突き出したから
もう、安全だよ」
「犀星君!? その左手、どうしたの!?」
龍之介さんは犀星さんの左手に触れた。
「ああ、主犯の男を殴り飛ばした時にね……
僕は大丈夫、龍之介君は寝てて。
着替えてくるよ」
書斎に戻ってきた犀星さんは左手に包帯を巻き
新しい着物に着替えていた。
「本当は今すぐ、上書きしたい気持ちだけど
君の心が癒えるまで抱き締めるだけにしておくね」
半身を起こした龍之介さんの頭を
犀星さんは抱き寄せた。
「龍之介君がまた、僕に抱かれてもいいと
思える日が来たら教えてほしい」
犀星さんは龍之介さんを布団に寝かせた。
「ゆっくり目を閉じて。
大丈夫、僕はちゃんと側にいるからね」
犀星さんに頭を撫でられ、安心したのか
龍之介さんはゆっくりと目を閉じた。
結依人が十五歳、奏美が六歳になり、龍之介さんが
“新作”を世に出した。
二十五年ぶりの
“新作”と“母親”視点からの作品に世間は二重の驚きを見せた。
「やっぱり、こうなったね」
犀星さんは新聞を読みながら苦笑いした。
【二十五年前に自害したはずの
文豪・芥川龍之介が実は“生きて”いた!?
更に、“母親”視点の新作を発表。】という新聞の一面の記事。
「あ~あ、母さん、目立つの嫌いなのに大丈夫か?」
結依人は犀星さんが広げている新聞を覗き込んで
父親の犀星さんと同じように苦笑していた。
「新聞社に抗議するわけにもいかないからね……
ただ、結依人や奏美は“室生”の姓を名乗っているから
世間では“僕ととみ子の子”だという認識だ。
だけど、本当は二人とも“僕と芥川龍之介の子”で
“奇跡的”に生まれて来てくれた子たちだ。
“生き返ったら”、“妊娠や出産” ができるようになったなんて
世間は理解しないだろうね」
「それは仕方ないんじゃないかな。
人は“常識”以上の出来事には“あり得ない”と
決めつける傾向にあるからね」
台所で洗い物をしていた龍之介さんが言った。
「誰が何を言おうと僕と奏美の
“母さん”は“芥川龍之介”で“父さん”が
“室生犀星”だということは
揺るぎない事実だから」
洗い物の手を止めて居間に来た龍之介さんは
結依人と奏美を抱き締めた。
犀星さんは新聞を畳むと
抱き締め合っている
龍之介さんと子供をたちを
優しい眼差しで見ていた。
この微笑ましい光景に私も心が温かくなっていたのに
一ヶ月後、おぞましい、事件が起こることを
誰も予想してしていなかった……
<一ヶ月後>
龍之介さんの“新作”が
発売されて半月しか経っていないが
大反響だった。
そんな中で起きた事件。
それは、龍之介さんが出版社からの帰り道で起きた。
二十五年も前に“死んだ”と思っていた人が
実は生きていて、なんて、面白く思わない人も
当然いるわけで……
龍之介さんは見知らぬ男たちに“犯され”てしまったのだ……
「……ただいま」
覇気のない声に私も犀星さんも
首を傾げつつ、二人で玄関に行くと
髪も着物も乱した龍之介さんがいた。
「龍之介君!? 何があったんだい!?」
犀星さんは三和土に降りて龍之介を抱き上げた。
私は龍之介さんの草履を脱がした。
「ありがとう、とみ子さん」
今朝、家を出た時は普通だったのに…
「どういたしまして」
手を洗い、犀星さんの書斎に布団を敷き、
龍之介さんをそっと寝かせた。
「出版社からの帰り道、
知らない男三人に声をかけられたんだ……
“何であなたが生きているんですか!!”って……
最初に声を掛けて来たのは二十代半ばくらいの
青年だった。
そこで油断したのがいけなかった。
その青年と話していたら、
後ろから目隠しをされ気絶させられて
……犯された。
ごめん、犀星君……
僕は汚されてしまった……
君に抱いてもらう資格がなくなってしまった……」
その言葉に私は胸が締め付けられた。
「龍之介君は何一つ悪くなし、
君を傷付けた連中が悪い!!
それから、龍之介は汚されなんかいないよ。
僕の伴侶は綺麗なままだ。
龍之介君の心の傷が癒えたら、
また、抱かせてほしい。
僕が龍之介君を愛してることは一生、
変わらないからね」
犀星さんは龍之介さんの手を優しく握った。
「龍之介君の心をこんなにボロボロした
犯人は必ず捕まえる」
先ほどまでは龍之介さんを慈しむような声色だったのにが
一変して、怒りに満ちた声色で言う犀星さん。
「僕は今、腸が煮えくり返りそうな程、ムカついているんだ。
思い出したくもないだろうけど、
君に暴行を加えた奴らの
特徴や見た目を教えてほしい」
龍之介さんはゆっくりと話し出した。
「最初に声を掛けて来た青年ともう一人は
二十代半ばくらいで身長は僕よりやや、高めで
片方の青年は眼鏡をかけていた。
もう一人は少し裕福そうな三十代前半の男で
少し、西の訛りか入った話し方だった」
「ごめん、龍之介君!!」
犀星さんは土下座する勢いで龍之介さんに頭を下げた。
「え? 犀星君!?」
「青年二人は知らないけど、
裕福そうな三十代前半の男は
多分、僕の知り合いだ……
龍之介君がまだ、“生き返る前”に
朝巳に一目惚れしたと言ってきた
お金持ちのお嬢さんをとみ子は覚えているかい?」
犀星さんに言われて思い出した。
「記憶の彼方に追いやっていたけれど、思い出したわ」
「今日、龍之介君を襲ったのは僕への復讐だ、
龍之介君に屈辱を与え、“もう一度”死に追いやれば
僕を追い詰めらると思ったんだろう……
僕のせいだ……
怖い思いをさせて、ごめん……
僕の方こそ、龍之介君を抱く資格がないよ……
とみ子、龍之介君についててあげて」
犀星さんは私に龍之介さんを
託して書斎を出て行った。
パタン、と閉じられた襖。
「あの、とみ子さん
さっきの話しは……?」
そうよね、龍之介さんからしてみれば
いきなり“伴侶”に土下座されても意味がわからないわよね。
「まだ、龍之介さんが“生き返える”前、
私と犀星さんの息子の朝巳にお金持ちのお嬢さんが
一目惚れしたと、思いを告げてくれたのだけど
朝巳はその女の子の告白を断ったの。
彼女自身はすぐに引いてくれたんだけど、
父親が家まで抗議に来てね……
龍之介さんを襲った三人組の
“裕福そうな三十代前半の男”は
その時、抗議に来た父親だと思うの……」
ガチャンバタンと玄関を開け閉めする音がした。
「あんなに怒った犀星君、初めて見た……」
龍之介さんが呟いた。
「龍之介さんを傷付けられたことが赦せなかったのよ」
二時間後、満身創痍な犀星さんが帰って来た。
「ただいま」
書斎に入ってきた犀星さんは
着物は乱れ、血痕と思われる跡があり
左手からは血が出ていた。
明らかに誰かと争った跡がみられる。
「龍之介君に暴行を働いた少年二人は
弱みを握られていたみたいだ。
主犯の男は殴り飛ばして
三人とも警察に突き出したから
もう、安全だよ」
「犀星君!? その左手、どうしたの!?」
龍之介さんは犀星さんの左手に触れた。
「ああ、主犯の男を殴り飛ばした時にね……
僕は大丈夫、龍之介君は寝てて。
着替えてくるよ」
書斎に戻ってきた犀星さんは左手に包帯を巻き
新しい着物に着替えていた。
「本当は今すぐ、上書きしたい気持ちだけど
君の心が癒えるまで抱き締めるだけにしておくね」
半身を起こした龍之介さんの頭を
犀星さんは抱き寄せた。
「龍之介君がまた、僕に抱かれてもいいと
思える日が来たら教えてほしい」
犀星さんは龍之介さんを布団に寝かせた。
「ゆっくり目を閉じて。
大丈夫、僕はちゃんと側にいるからね」
犀星さんに頭を撫でられ、安心したのか
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