ある日、AV男優になった元大学生

華愁

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第十三話 黎都の才能

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『今日はちょっと見てもらいたいものがありまして』

そう切り出し黎都は三冊のノートを取り出した。

それぞれにタイトルがつけられていた。

・「麦茶と印鑑」

冒頭:モノローグ

――俺たちは、穏やかで、些細な日常を生きている。

でも、世間から見れば“異質”なんだろう。

「同性同士とか気持ち悪い」
「子どももできないのに、一緒にいる意味あるの?」

そんな言葉が、刃みたいに俺たちの心を抉ってくる。

それでも——俺たちは、一緒にいることを“間違い”だなんて、思ったことはない。

「麦茶と印鑑・続」

冒頭

――陣とパートナーシップを結んで一年。

病院の入院手続きや賃貸契約などが“普通”にできるようになり
ホッとしている――

クライマックス

――“結婚”はできなくても俺達は幸せだ。

今日もちゃぶ台の上には二つのグラスと麦茶がある。

・「別れても君を思う・歌詞あり」

冒頭

――鹿波早奈英は鹿波グループのお嬢様。

一方、恋人の七瀬虹は一般家庭の普通の男。 

二人は大学時代に知り合い、交際していたが 早奈英には許嫁がいた。

クライマックス

――早奈英の結婚式の日、虹は遠くから早奈英のウェディングドレス姿を見ていた。

『早奈英、別れても君を思っているよ。幸せにな』

虹は静かにその場から離れた。

歌詞・冒頭

――君を見た瞬間に惹かれた。

住む世界が違うとわかってても君を諦められなかった。

僕が思いを告げた時泣きながら笑った君の顔を忘れないよ。――


・「交わらなかったはずだったの僕らの……」

冒頭

――相模直矢は2025年に生きる高校三年生だが八月十五日、終戦記念日の日、
 防空壕跡地に作れた公園でベンチに座っている時、
野球のボールが頭に当たり気絶して目が覚めたら八十年前にタイムリープしていた――
 
中略

最初に出会ったのは若い頃の祖母だった。

クライマックス

月日が経ち、今日は八十年前の八月十五日。

“終戦の日”

目を瞑りもう一度開けた時、2025年の公園のベンチにいた。


 『脚本、書いてみました』


黎都が差し出した三冊のノートと、その中身を一つひとつ読み終えた時——

撮影スタッフたちは一瞬、静まり返った。

誰かが喋るのをためらうような、けれどその沈黙には“敬意”と“驚き”がこもっていた。

最初に声を発したのは、ベテランの助監督だった。

「……マジで、君がこれ全部書いたの?」

黎都は緊張した面持ちのまま、けれどはっきりと頷いた。

『はい。演じるだけじゃなく、ちゃんと“自分の言葉”でも伝えたくて』
 
一人がノートのページをめくりながら呟いた。

「どれもテーマが全然違うのに、全部“本気”なんだよな……。言葉が真っ直ぐ、なのにちゃんと繊細だ」

「一作目、『麦茶と印鑑』……同性カップルのリアルな日常と社会のまなざし。そのうえで“続編あり”って書いてるのがまた良いな。希望がある」

「二作目の『別れても君を思う』は、王道のラブストーリーなんだけど、歌詞の挿入が上手い。これはMV形式にしても良さそう」

「三作目の……『交わらなかったはずだったの僕らの……』は、正直驚いた。歴史×青春×タイムリープって、いきなりジャンルが変わるのに、感情の軸はぶれてない。“終戦の日に戻ってくる”って構成、静かに沁みるな」

若手スタッフがぽつりと呟いた。

「……黎都くんって、演技がうまいだけじゃなかったんだね」

それに応えるように、音声スタッフが真顔で言った。

「うん、これ、企画書にして持ち込んでも通るレベル。というか、実際に撮ってみたくなる。“全部撮る”のは無理でも、どれか短編ドラマとして仕上げられる可能性はある」

そしてプロデューサーが腕を組んだまま、にやりと笑う。

「……面白い。黎都、次のクールでやるYouTube企画、君の脚本でいくかもしれないぞ。三本全部、パイロット版だけでも撮ってみようか」

黎都の目が見開かれ、次の瞬間、嬉しさを堪えるように小さく唇を引き結ぶ。

『……本当ですか?』

「本当だ。スタッフ全員一致で“見てみたい”って思ったよ。君には、才能がある。……いや、想いがある。その想いは、画になる」

現場が少しずつ活気づく中、黎都の頬にゆっくりと笑みが広がっていった。

彼が、ようやく“自分の言葉”で世界とつながった瞬間だった。

「黎都君、天才!?

全部ジャンルが違うものにちゃんと完成してるとか凄い」

若手の音響担当の神影は目を輝かせていた。

「……黎都、すごいよ。正直、ちょっと泣きそうになった」

そう呟いたのは照明チーフ。目元をぬぐいながら、照明スタンドの影にそっと隠れるようにして続ける。

「俺、甥っ子が男の子同士で付き合ってるって打ち明けられたとき、正直どうしたらいいか分からなかった。でも、君の『麦茶と印鑑』読んで……なんか、腑に落ちた。これって、誰かの人生なんだなって」

「それ、すごくわかる」とヘアメイクも頷く。「“特別な誰か”じゃなくて、“すぐそばにいる誰か”なんだよね。……それをちゃんと描いてる」

「それにしてもさ……黎都、これ、いつの間に書いてたんだ?」と助監督。

『撮影の合間とか……夜とか。あんまり寝てなくて……』と黎都が照れたように笑うと、

「寝ろ!!!」と総ツッコミが入り、場がどっと笑いに包まれた。

「でもまあ……」プロデューサーが満足げに続ける。「これだけ人の心を動かすってことは、“ただの上手さ”じゃない。黎都、君は表現者だよ。役者でも、脚本家でも」

それは、黎都にとって初めて「表現すること」を肯定された瞬間だった。


---

【陣の嫉妬と、その夜のシーン】――――――――

帰宅した黎都は、玄関のドアを静かに開けた。

『……ただいま』

リビングに入ると、ソファに座っていた陣がこちらを見もせず、テレビを消してぽつり。

『……ずいぶん楽しそうだったな』

『え?』黎都が戸惑う。

『な、何のこと?』

『撮影現場のスタッフが絶賛。『天才』『映像化したい』って……噂、もう回ってきてるよ。音響の神影が言ってた。“黎都くんすごすぎ!”って目をキラキラさせながらな』

『……ああ……』

黎都は困ったように笑った。『べ、別に、そんな大したことじゃないよ……』

その瞬間だった。

『嘘つけ』 

陣が立ち上がると、迷いのない足取りで黎都に詰め寄り、ドンと背中を壁に押しつける。

『……お前、ほんとにどんどん先に行くな』

『えっ、な、なに……?』

『嫉妬してるんだよ。……誰にでもじゃない。“お前自身”にだ』

顔が近い。声が低い。

黎都は心臓を鳴らしながら、目をそらせずに見つめ返した。

『俺、俳優としてもお前のこと、ずっと意識してた。……でも、脚本まで書けるとか……しかも、全部ジャンル違うのに完成度高いとか……』

『陣さん……』

『……俺、お前のこと好きすぎて、ムカつく』

そう言ったかと思うと、唇が重なった。

強引に、でも感情のままに。

壁と体の間で、黎都は息を呑む。

『んん……待って、陣さん……』と息を乱しながらも言いかけたが、その腕の力は緩まない。

『言葉じゃ足りない。体でわからせたい』

その夜、嫉妬と愛情の入り混じった情熱に包まれて——

黎都は、誰よりも自分の味方でいてくれた陣の“独占欲”に、少しだけ安心して、身を委ねた。

【夜のベッドシーン ―嫉妬と愛情の交錯―】

『……お前、ほんとずるいよな』

低く押し殺した声が、黎都の耳元に触れた。

ドンと壁に押しつけられたままの体。触れた胸元から、陣の熱がじわじわと移ってくる。

『嫉妬してるって言ってんの、わかんないのかよ』

『……ご、ごめ……』

『謝るな。むしろ、……少しぐらい得意げな顔しろよ。……すげえんだからさ、お前は』

吐息まじりの言葉が、頬を撫でる。

すぐ近くにあるその顔に、黎都の喉が鳴った。

『陣さん……』

そう呼んだ瞬間、唇が塞がれた。

深く、強く、そしてどこか切なげに。 

ただのキスじゃない。“自分を見てくれ”と訴えるような、切実なキスだった。

ソファに押し倒され、シャツのボタンがゆっくりと外されていく。

指先が触れるたび、そこに込められた“感情”が伝わってきた。

――怒ってる。でも、本気で好きで、苦しくて。

『……陣さん、そんなに、強くしたら……』

『やだ。今日は、ちゃんと全部わかってほしい』

そう言いながら、首筋にキスを落とす。

熱を帯びた肌と肌が触れ合い、二人の鼓動が混ざり合っていく。

『……黎都、お前が遠くに行きそうで、怖かった』

その声は、まるで子どものようだった。

不安と嫉妬と、でもそれ以上の愛情が、全身から溢れていた。

『行かないよ。どこにも、行かない』

黎都の声が震えながらも真っ直ぐに返されたとき、陣はようやくその腕に力を抜いた。

けれど、愛撫は止まらない。
優しく、けれど確かに。
触れて、感じて、確かめ合っていく。

黎都もまた、陣の背に腕を回し、自分から身体を預けた。

唇と唇が何度も重なり、息と息が絡み合っていく。
浅く、深く、声が漏れ、熱が募り、
愛が、触れ合うたびに形を持っていく。

いつしか布団の中で、二人は何度も名を呼び合っていた。

『……陣さん、好き。ずっと一緒にいて……』

『俺も……お前の全部、誰にも渡さない』

夜は深く、静かに、しかし二人の間には確かな温度が灯り続けていた。

言葉では伝えきれなかった感情が、すべて指先に宿り、唇にのせられ、重ねられていった。

それは、嫉妬と不安と愛の、すべてを溶かし合う夜だった。

黎都は翌朝、まだ少し拗ねている陣にクスッと笑った。

朝食を終えて、食器を片づけている時。 

ふとした沈黙の中、黎都が背を向けたまま、ぽつりと呟いた。

『……ねえ、陣さん』

『ん?』

『今、書きかけの脚本があるんだけど……』
少し間をあけて、言葉を続ける。


『……その主人公は、陣さんに演じてほしいんだ』

ガチャ、と洗った食器を置く音が止まる。
陣が振り返ると、黎都は少し耳まで赤くして、でも真剣な目を向けていた。

『俺が?』

『うん。……最初から、そう決めて書いてた。
どんなふうに喋るか、どんな表情をするか、ぜんぶ、陣さんの姿で浮かんでくるんだ』

黎都の声は、少しだけ震えていた。
それは**「大切なものを差し出すとき」の声**だった。

『……俺でいいの?』

陣の問いに、黎都はまっすぐ頷く。

『俺にとって、その主人公は……“誰よりもかっこよくて、ちょっと不器用で、だけど誰よりも真っ直ぐで、強い人”。
それって、どう考えても陣さんしかいないなって』

陣は、一瞬だけ言葉を失う。
そして、口元を緩めて、小さく笑った。

『……お前、ほんとたまに爆弾投げるよな』

『だって、ちゃんと伝えたかったから』

……そっか。じゃあ、責任重大だな』

陣はタオルで手を拭きながら、静かに黎都のもとへ歩み寄る。
そっとその頭を撫でるようにして、目を見つめた。

『……その役、俺にしかできないって言ったな? だったら、全力で演じるよ』

黎都の胸が、じんわりと熱くなる。

『ありがとう。……ほんとに、ありがとう』

『読むの楽しみにしてる。……お前の世界に、俺を出してくれるんだろ? なら、俺も全力でそこに生きるから』

‥‥‥

『タイトル「君と出会って見える世界が変わった」』

冒頭

――夜の街は今日も騒々しい……

俺がこの仕事を始めて二十年。

気が付けばそれだけの月日が経っていた。――

『冒頭はこんな感じだよ』

『どうかな?』

黎都は陣に脚本を見せながら訊ねた。

中略

――ある日、目が死んだ二十代前半の青年と出会った。――

『待て黎都、これって……俺たちが出会った時のだよな?』

『気づいた?

だから陣さんしか演じれない役なんだよ』

『俺たちの未完成の物語を二人で作っていきたんだ。

陣さん、ずっと側にいてね。

俺はあの日、陣さんが勧誘してくれなかったらどこかで野垂れ死にしてたよ。あの日の財布の中身は五千円しかなかったからね……ありがとう。
それから、これからもよろしくね?』

これは未完成の俺たちの物語。

黎都はそう言って微笑みながら、そっと陣の手を握った。
陣もその手を強く握り返す。

『そうだな、未完成の物語。だけど、お前とならどんな未来でも怖くないよ』

二人の視線が重なり合い、部屋の中に優しい空気が満ちた。
黎都は改めて脚本のノートを開き、
そこに書かれた物語の続きを口にする。

―――
俺はまだ知らない。

これからどんな困難が待ち受けているのか。

でも、知っているのは、
どんな時もそばにいてくれる“君”がいることだ。

俺たちは時にぶつかり、悩み、迷うかもしれない。

だけど、それでも前に進む。

それが“未完成”の物語だから。

完成はいつかじゃなくて、二人で紡いでいくものだから。

『これから、沢山の思い出を作ろうね陣さん。愛してる』

『そうだな、俺も黎都を愛してる』

半年後、「麦茶と印鑑」の撮影が決まった。

脚本・浅水黎都。

監督兼演出兼主演・阿久津陣。

出演・浅水黎都
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