ある日、AV男優になった元大学生

華愁

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第十四話 新たな脚本

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『新しい脚本、書いたよ。

タイトル「さようならは告げずに」』

冒頭

――田神遼太には秘密があった。

それは、幼い頃から難病を患い、
長生きできないこと。

医者曰く十八歳まで生きれたら
奇跡と言われていた。――

中略

――幼馴染みだった染矢鈴奈は
小学校卒業の日に 何も言わずに
引っ越して行ってしまった 太に
“何故?”という思いが――

クライマックス

――高校進学のため、遼太が引っ越した街にきた
鈴奈は 二年前に遼太が亡くなったことを知り、
帰宅後自室で一人で泣く。

翌日、鏡を見ると目は真っ赤で
腫れていたがそのまま家を出
て高校の門をくぐりながら鈴奈は誓う。

「遼太の分も私が……

そしていつか、沢山話してあげよう」――


『こういう感じのを書いてみたんだ』

照明担当の風間 優斗かざま ゆうと
照明器具のセッティングの手が少し止まって。

「あー……やられた……。

最後のセリフ、急に胸にきた……」

助監督の杉原は泣くのを耐えていて、
音響担当の新庄は既に泣いていた。

『もう一つ。

これは陣さんに最初に読んでほしいかな。はい』

黎都は阿久津に一冊のノートを渡したい。

・「君の過去を“上書きしたい”」

『なっ、黎都!!

お前、これ映像化する気か!?』

阿久津の反応に映像スタッフや
助監督は首を傾げている。

『いつか、ね。

“ノンフィクション”だからね。

陣さんが却下っていうなら映像化はしなくてもいいけど、皆には読んでほしいかな』

阿久津の手からノートを受け取り控え室の机に開いた。

『タイトルは「君の過去を“上書きしたい”」

俺の過去と陣さんとの出合いの話なんです』

冒頭

――浅水黎都は高校時代に先輩から 性暴力を受け、それ以来他人と関わることに臆病になっていた。

大学に入学するも、やはり他人と
関わることが怖く、
特定の友人は作れなかった。

中略

――母親の借金返済のため大学を
中退しバイトを掛け持ちして
黎都だったがある日、
その月の水道光熱費と家賃以外の
全財産を引き出されていた――

クライマックス

――途方にくれた黎都は夜の街を さ迷い、
一人の男性と出会う――

「え、ノンフィクション!?」

『はい、俺の人生をそのまま書いてます』

音響担当の神影は

「……この沈黙、重すぎる」

ポツリと呟いたあと、目を伏せたまま言う。

「“音”で表現できるか、正直自信ない。

けど……やる。

これは“本物”の静寂だから」

静かに去っていき、自分の作業スペースへ。
その背中には、決意の音があった。

メイク担当の仁科は母性タイプで
黎都に本当の母親のように親身だった。

「黎都ちゃん……そんなことが……」

目を潤ませながらそっと黎都の背中に手を置く。

「よく書いてくれたね。……あなたの物語、ちゃんと伝えなきゃ」と言った。


『……やられたな。黎都、お前……』

と呟いて、震える手でノートを抱きしめる。

『“却下”なんて……できるわけないだろ』

そして全員の視線が自然と黎都に集まり、
その場に静かだけど確かな、
決意の空気が生まれる──

『皆さんに読んでもらいたかったんです』

控え室に静寂が訪れる。

---

【控え室/黎都と阿久津 二人きり】

スタッフがそれぞれの持ち場へと散ったあと、
控え室に残されたのは黎都と阿久津だけだった。

時計の音が、妙に大きく響いている。

黎都は黙って、
渡したノートの表紙を見つめていた。

阿久津はしばらく黙ったまま、
ページをめくっていたが、
やがてノートを閉じ、ぽつりと口を開いた。

『……あの夜のこと、こんなに、
ちゃんと覚えてたんだな』

黎都は少し笑った。

でも、それはどこか苦笑に近かった。

『忘れたくても忘れられないから。……』

阿久津は、視線を伏せたまま拳を握る。

『俺、本当は……“忘れさせてあげる”とか、
“過去なんて関係ない”とか、
そういう言葉、言えなかった。

全部知ってたわけじゃないし、
何もしてあげられなかったから』

黎都はゆっくり首を振った。

『違うよ。

俺、陣さんがあの夜、
歩道橋で“話を聞いてくれた”こと、
それがもう、奇跡だったと思ってる』

阿久津は目を細めて、黎都の顔をじっと見つめる。

『……お前、変わったな。出会った頃の黎都は、

もっと……人の目を見なかった』

『怖かったんだ。誰の目にも、
自分の“過去”が映ってる気がして』


『今は?』

少し間をおいて、黎都は阿久津の
目をまっすぐ見て、静かに言った。

『今は……“過去”じゃなくて、
“未来”を映してくれる人が、
俺のそばにいるって思える』

阿久津の目が、わずかに潤んだ。

それに気づいた黎都は、微笑んで言った。

『泣かないでよ、陣さん。
泣いたら撮れないでしょ?』

『……誰のせいだよ』

そう言いながらも、阿久津は笑って、
黎都の頭をくしゃっと撫でた。

『なぁ、黎都』

『ん?』

『映像化しよう。

“ノンフィクション”としてじゃない。

“フィクション”として――

でも、誰よりも“本物”として』

黎都は一瞬きょとんとしてから、
噛みしめるように頷いた。

『うん。“俺の人生”だけど……

これは、誰かの人生でもあるから。

誰かの“明日”を守れるなら、俺、全部見せたい』

阿久津はノートを胸に抱きしめるように持ち、
立ち上がった。

『……よし、じゃあまずは脚本会議だ。

いつから撮るか、じゃなくて――

“いつまでに撮り終えるか”。世の中が待ってる』

黎都も立ち上がり、力強く頷いた。

そして二人は、控え室の扉を開けて出ていく。

その足取りには、
過去を越えた者たちだけが持つ、
確かな光があった。
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