ある日、AV男優になった元大学生

華愁

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第二十四話 「蒼原学園、旧校舎の闇」②

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更に数日後、すっかり待ち合わせ場所となった
風見ヶ丘公園で楠原は黎都・黎都の恋人兼監督の阿久津、
華山と鷺沼、そして在校生で現被害者の煌太こうた
煌太こうたの叔母の南沢と会った。

「黎都、久しぶりだな……」

『楠原先輩、お久しぶりです。

今は蒼原の教師だと華山先輩と鷺沼先輩から聞きました。

林田先生は今も旧校舎のあの部屋での
出来事を知らないふりをしてるようですね……

俺のことは四年も前のことですし
楠原先輩が見てみぬふりをしていたことも
今はなんとも思ってないですが
教師になったのなら、せめて在校生の
現状は把握してくださいよ!!』

黎都は南沢の隣でずっと俯いている煌太こうたに視線を移した。

『今の被害者の永池煌太ながいけこうたくんです。

隣にいるのは煌太こうたくんの叔母で
俺の仕事仲間でもある南沢可南子みなみさわかなこさんです』

けして大声ではないしかし悲痛な黎都の訴えに楠原は愕然とした。

『華山先輩や鷺沼先輩たちが卒業して、俺が卒業して、
楠原先輩が教師として蒼原学園に戻るまでの間に
林田先生はどれだけ見てみぬふりをしてきたんですかね……』

黎都はけして怒鳴らない。

四年前に、久地や南田に“まわされて”いた時でさえ
叫ばなかったし大声も出さなかった。

『久地先輩にも南田先輩にもそして、華山先輩や鷺沼先輩にも
謝罪していただきましたから先ほども言いましたが
“俺”のこともういいんです。
ですが、煌太くんはまだ、この“現在”の中で息を詰めてる。

同じことが、今も起きてるんですよ』

煌太は顔を上げず、握った拳を膝の上で小刻みに震わせていた。

南沢がその手にそっと触れ、落ち着かせようとする。

『あなたが教師でいる限り――あの場所で泣いている生徒を、
これ以上増やさないでください』

その言葉に、楠原は苦い息を吐いた。

かつて黎都が何をされたのか、知っていながら
何もできなかった自分、そして今、同じ無力さを
抱えたまま、被害を目の前にしている自分。

「……わかってる。

俺は……林田とも話す。必ず、な」

その声は弱く、けれど覚悟を滲ませていた。

黎都は一瞬だけ目を細め、微かに頷いた。

だがその表情には、まだ信じきれない影があった。

「楠原、見てみぬふりもまた、加害者なんだよ。

俺は黎都の「“あの頃”俺がされたこと」を観て
改めて自分たちがどれほど黎都に酷いことを
屈辱的なことをしたのか気付いた。

南澤さんは黎都の仕事仲間って言ってましたけど、
脚本、読まれたんですよね?」

華山の質問に南澤は頷いた。

「阿久津さんは黎都の恋人だと
プロデューサーの父から聞きました……

俺は黎都が一生、赦してくれなくても仕方ないと思ってるし、
俺たちのしたことがなくなるわけじゃないが
“今”、あの部屋で“あの頃”と同じことが起きてるなら、
今度こそ見てみぬふりはしちゃいけないんだよ。

楠原、お前は今“教師”だろう。生徒のSOSにきちんと答えろ」

楠原は華山の言葉に、痛みを噛みしめるように唇を引き結んだ。

答えを出すのが怖いのか、
それともすでに心の中では答えが見えているのか――。

「……わかってる。

けど……林田だけじゃない。

あの部屋を黙認してる“大人”は、他にもいる。

俺が動けば……全部、敵に回すことになるかもしれない」

「敵に回して困るのは、お前じゃなくて被害に遭ってる生徒だ」

鷺沼の声は低く、だが揺るぎなかった。

「楠原、お前が黙ったら、また何人も泣くことになる。

それでもいいのか?」

阿久津が、俯いている煌太に一瞬視線を送り、
静かに口を開いた。

『――君、正直に言ってくれないか。

何をされて、誰にされてるのか。

全部じゃなくていい、でも……俺たちは、事実がなきゃ動けない』

煌太は唇を噛み、南沢の手を強く握った。

その手は氷のように冷たく、震えが止まらない。

「……言ったって、どうせ……止まらない」

搾り出すような声。

『そんなことない』

黎都の声が、低く、しかし真っ直ぐに響いた。

『俺は……止められなかった。でも、今度は違う。

俺たちは君の味方だ。

逃げるにしても、戦うにしても……一人で抱えさせない』

楠原はそのやり取りを見つめながら、胸の奥に
重く沈んでいた何かが、ゆっくりと動き出す感覚を覚えていた。

「……林田に話す前に、俺も聞きたい。

永池、お前……今、あの部屋で何をされてる?」

煌太は、しばらく口を開けなかった。

公園のざわめきも、蝉の声も、遠くにかすんでいく。

握られた南沢の手の温もりだけが、
まだ自分がここにいることを繋ぎ止めていた。

「……林田先生は……見てるだけなんだ」

ぽつりと、唇から零れる。

「見てるだけって……」華山が眉を寄せた。

「鍵、林田先生が持ってる。授業終わったあと、呼び出されて……

旧校舎のあの部屋に連れて行かれる。

……いるんだ、三年の連中。バスケ部と……元生徒会のやつら」

煌太の声は掠れ、喉の奥で何度も詰まりながら続く。

「最初は……椅子に座らされて、写真撮られて。

『モデルになれ』って。

でも、カメラのあと……服、脱がされて……」

南沢が震える息を吐き、腕に力を込めた。

「やめろって言っても、笑われる。

林田先生は壁に寄りかかって……何も言わない」

黎都は拳を握り、わずかに唇を噛んだ。

四年前の記憶が、鮮明に蘇る。

「……今は、俺一人だけじゃない。他にも、
呼び出されてるやつがいる。

……でも、みんな……怖くて、言えない」

煌太の訴えに大人にたちは何も言えなかった。

「辛いだろうに話してくれてありがとうな。

わかった、あの部屋の鍵は俺がどうにかする。


お前らは卒業生なんだから覚えてるだろうが旧校舎には
裏門からの方が進入しやすい。

永池、わかってるだけでいいから被害に
遭ってる生徒の名前を教えてくれ」

楠原の言葉に、煌太は一瞬だけ南沢を見た。

叔母の視線は、迷うことなく「言っていい」と告げている。

「……二年の……安藤と見上。あと、一年の……新海。」

か細い声が、公園の木陰に吸い込まれる。

「四人で……順番に、呼び出される。

俺が把握してるのはその三人だけだけど、他にもいるかも……」

煌太の声が途切れると、しばし沈黙が落ちた。

葉の間から漏れる陽光が、彼の肩と頬をまだらに照らしている。

その光の下でさえ、彼の表情は硬く、怯えたままだった。

「……十分だ」

楠原の声が低く響く

「お前たちの名前も、やってるやつらの顔も、俺が知った。

――もう黙らない」

『楠原先輩の判断に感謝します。

陣さん、脚本、大体完成したんだ』

黎都は「蒼原学園、旧校舎の闇」と
題したノートをカバンから取り出した。

『今回は映画やドラマじゃなくて“リアルタイム”だからね。

正確には“台本”かな。

内部で動けるのは楠原先輩だけですが
十分注意して動いてください』

「わかってる。永池、連絡先、教えておくから
何かあったら俺に連絡してこい。

今まで悪かったな…」

「楠原先生……助けてくれるの?

今まで……誰も助けてくれなかったから、
どうしても信じられなくて……」

煌太の声に、風見ヶ丘公園の空気が一瞬静まり返った。

南沢はそっと肩を抱き寄せ、必死に彼を守ろうとするように見えた。

「当然だ。俺は教師だ。生徒を守るのが役目だ。

お前がどんなに怖くても、一人で抱え込むな。必ず俺が守る」

阿久津も隣で静かに頷き、

『そして俺たちもいる。黎都は脚本で“あの頃”を伝えてくれたけど、
今は“リアルタイム”で止める時だ。もう繰り返させない』

華山が厳しい表情で続けた。

「楠原、俺たちは裏から動くから、君は学内で確実に動いてくれ。

被害を受けた生徒たちが安心して話せる場所も用意しよう」

鷺沼も「支援団体にも連絡を入れる」と力強く言った。

楠原は肩に手を置き、
「明日から動く。あの部屋の鍵も俺が管理して、
二度と使わせない。お前たちの安全を第一に考える」

「でも……もし、また何かあったら……」

煌太の不安は消えなかった。

南沢が彼の背中を優しく叩き、
「大丈夫。みんなで守るから」

楠原は冷静に言った。

「君が何かあれば、すぐに俺に連絡しろ。
誰にも言えなかったこと、全部話せ。俺は信じる」

夕暮れの光が、公園の木々の間から差し込み、
六人の姿を柔らかく包んだ。

それは新たな決意の始まりだった。

――蒼原学園、旧校舎の闇に光を。

彼らの闘いは、今、始まったのだ。

‥‥‥

楠原はとりあえず、煌太が教えてくれた被害者三人と接触を試みた。

翌日、楠原は昼休みを狙い、まず二年の安藤と見上に声をかけた。

校舎の片隅、人気の少ない階段踊り場で、
ふたりはおどおどと顔を伏せていた。

「安藤、見上。話がしたい。

君たちが今、あの部屋で何をされているのか、教えてほしい」

楠原の言葉に、安藤は震える声で答えた。

「……俺たち、呼び出されて、あの部屋で写真を撮られたり、
服を脱がされて…」

見上も続けた。

「無理やり、モデルにされてる。

言いたくても、怖くて誰にも言えなかった」

楠原は優しく頷きながら、声を落として言った。

「怖いのはわかる。だが、君たちはひとりじゃない。

必ず守るから、話してくれてありがとう」

見上の目から小さな涙がこぼれた。

その涙を見て楠原は後悔した。

見上の涙を見つめながら、楠原は胸の奥が
締めつけられるような痛みを感じた。

「本当に、ごめんな……今までお前たちを守れなかった。

教師として、こんなことが起きているのに
気づけなかった俺の責任だ」

安藤も小さく俯いたまま、震える声で言った。

「先生……僕たち、誰かに助けを求めたくても、
誰も信じられなかった。…

この学校の大人たちは、みんな何かを隠しているように見えた」

楠原はその言葉を真摯に受け止めた。

「これからは違う。お前たちの声をちゃんと聞いて、必ず守る。

信じてほしい。俺はここにいる」

彼はポケットから携帯電話を取り出し、連絡先のメモ用紙をそっと差し出した。

「何かあったら、いつでも連絡してくれ。夜中でも構わない」

見上はまだ涙をこらえきれず、声が震えて言った。

「でも……もしまた何かあったら、どうすればいいんですか?」

楠原は目を真っ直ぐ見つめ返した。

「すぐに俺に教えてくれ。黙ってしまうことが一番怖い。

お前たちは一人じゃない。必ず守る」

その言葉に、安藤も小さく頷いた。



翌日、楠原は見上と安藤の話を受け、
南沢や黎都、阿久津たちと緊急の対策会議を持った。

「このままでは被害は拡大する一方だ。

林田や黙認している“大人”たちを動かさなければならない」と楠原。

黎都は深く息をついて言った。

『“あの頃”を描いた脚本は、過去の傷を呼び起こしたけど、
同時に“今”の現実を変えるための力になる。

俺たちで、この闇を暴き、終わらせましょう』
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