ある日、AV男優になった元大学生

華愁

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第二十九話 文豪BLと現代社会の闇

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「ねぇ皆、“文豪BL”書いてみた。

一つ目のタイトルは〘「室生犀星のタイムリープ、~芥川君の“死”を防ぐために~」

プロローグ

ーー室生犀星には秘密があった。それは、“時間を巻き戻れる”こと。ーー

第一話 〈芥川君の“死”を止めるために〉

ーー

僕、室生犀星には誰にも言えない秘密がある。

それは、“時間を巻き戻れる”こと。

願った日時に“戻れる”。しかし、代償がないわけじゃない。

巻き戻る度に吐血する。

⟬昭和二年六月二十四日⟭

息子・豹太郎の命日で親友の芥川龍之介君が
自害する一ヶ月前に“戻って”来た。

今回も例外なく吐血した。

せりあがってくる気持ち悪さと鉄の味。

白いハンカチを口に当て咳こむと、案の定、吐血した。

水で口を濯ぎ、芥川君の家へ向かった。

「犀星君? こんな早朝からどうしたんだい?」

僕は芥川君の顔を見た途端、涙が溢れた。

「犀星君!?」

今回で三度目だ。

一回目に戻って来た時は睡眠薬を隠したが
知らないうちに購入していた。

二回目は出張中を取り止め、一回目と同じように
睡眠薬を隠し毎日話を聞いていたが服毒ではない形で自害した。

「顔色が酷く悪い、とりあえず、僕の書斎に行こう」
先程の吐血のせいで少しふらつく。

「芥川君……僕を置いて逝かないでくれ……」

形振りかまっていられず、僕は芥川君に抱き着いた。

「本当にどうしたんだい?」

「芥川君、お願いだ、再来月の僕の誕生日を
一緒に祝ってほしいんだ」

僕の誕生日は“八月一日”。

話している途中でまた、あの気持ち悪さがせりあがってきた。

「けほ、けほ、」

白いハンカチに新たに吐血した。

「吐血!?」

「芥川君、お願いだ、僕の誕生日は一緒に……」

息も絶え絶えの僕を芥川君が膝枕してくれた。

「ねぇ、約束して、僕の誕生日を祝ってくれると。

贈り物は芥川君の時間がいい」

僕は芥川君と一緒に年を取りたかった。

「わかった、八月一日は犀星君の家に泊まろう、約束だ。

ところで、犀星君のあの吐血は……」

もう、話してしまおう。

「僕の吐血は病じゃないよ。“時間を巻き戻している”代償さ」

「時間を巻き戻す?どういうことだい?」

普通なら信じられないだろう。

「僕は芥川君が死んでしまう未来から来たんだ」

「未来?待って、もし、犀星君が未来から
来ているなら、そんな代償を払ってまで
僕なんかのために……?」

芥川君が動揺するのも無理はない。

「そうだよ、僕は何度血反吐を吐こうと
芥川君が“七月二十四日”以降も生きて
僕の隣にいる未来のために“時間を巻き戻している”んだよ」

僕は吐血のせいで貧血気味だが、必死に話した。

「僕がね、命を削ってまで、芥川君を生かしたいのは
僕が芥川君を愛しているからだよ。

芥川君に恋慕を抱いてるから、
愛する人には生きてほしいから!!」

咳き込みながら叫んだ僕の言葉に芥川君は驚いている。

「それは、僕を“男”としてってこと?」

「そうだよ、僕は芥川君を愛している。

君がいない世界で書く詩は空っぽだった……

二度、僕は君の“死”を止められなかった。

今回で三度目だ、僕の命を削るのはどうでもいいが
君が“死ぬ”ことだけは耐えられないんだよ!!」

芥川君の着物の裾をぎゅっと握った。

「まさか、犀星君が僕に恋慕していたなんて、全然気付かなかった……」

ずっと気付かれないようにしていたのだから当たり前だ。

「妻のとみ子には気付かれていたよ」

「とみ子さんが?」

僕の妻のとみ子は六歳年下だがかなり聡明だ。

随筆・短歌・俳句、何でも書ける“文筆家”だ。

「とみ子は僕が芥川君を見る目が﹝恋する乙女のようね﹞
言って笑っていたよ。

君には傍迷惑な話だろうけど代償を払ってでも僕は芥川君を
生かしたいんだよ……愛してる、君と肌を合わせたい程に……」

「肌を合わせたい……犀星君が僕を抱きたいってこと?」

「そうだよ。もしも、君がまた自害しようなんてしたら
僕は君に怖がられようと嫌われようと無理やり抱いてでも現世に留まらせる。

君が死ぬより、君に蔑まれる程がましだよ……」

最終的にそうしてしまえばいい。

「無理やり抱く、だなんて……優しい犀星君にしては
些か乱暴だね……だけど、そんな乱暴なことを
言わせてしまう程、僕は君を追い詰めてしまっていたんだね……

わかった、八月一日の犀星君の誕生日を祝うと約束する。

こんな、痩せ細った身体に犀星君が欲情してくれるなら
この身体を差し出そう」

「約束だよ? 八月一日、僕は芥川君を自分のものにする。

君の白磁の肌を貪り尽くしてあげる」

僕は最初の口づけをした。ーー

〈第二話 運命の七月二十四日〉

ーー僕は出張中を取り止め、前日の二十三日から
二泊三芥川君を軽井沢の別荘に連れて来ていた。

「芥川君、んん、“龍之介君”。

今日はずっと、側にいるからね」

食事は僕が作った。

痩せ細り食も細くなっている龍之介君に粥を炊き
柔らかく煮た煮魚と大根と人参のお味噌汁を作った。

「どうだい?」

「美味しいよ、犀星君は料理上手なんだね」

一口ずつゆっくりと粥を匙で口元に運ぶ龍之介君を見ていた。

後一日。たったの一日を乗り越えれば、歴史が変わろうとも
龍之介君は一週間後の僕の誕生日を祝ってくれる。

しかし、運命は嘲笑うようにまた、僕と龍之介君を引き離そうとしていた。

ーー

深夜二時、隣で寝ている龍之介君が虚ろな目をして起き上がった。

深夜二時~四時は“魔の時間帯”と呼ばれている。

「龍之介君!?」

布団を抜け出そうとする龍之介君を抱き締めた。

「犀星君、やっぱり、僕は生きているべきじゃないんだよ」

「何を言うんだい!! 僕は龍之介君がいないと
息さえできないというのに……

一ヶ月前、言ったよね?

今、この場で無理やり僕に犯かされるのと一週間後、
愛されて抱かれるのとどっちがいいんだい?

これも、一ヶ月前に言ったはずだよ。龍之介君。

僕はこの先、怖がられようと嫌われようと蔑まれようと
君を生かすためなら無理やり抱いてでも現世に留まらせると。

物覚えはいいのに忘れてしまったのかい?

それとも、右から左へ流していたのかい?

僕の我が儘と一人よがりに付き合わせてごめんね。

龍之介君の思うままにどうぞ」

僕は突き放すように抱き締めている腕を離した。

「君は自由だよ? この別荘から逃げ出すことも咎めないさ。

けほ、ごふ、」

鮮血が掛け布団に散った。

「僕のことは気にせずに好きな場所へお行き」 

僕はあえて笑顔を作った。

「ほら、早くお行き。今の僕は吐血のせいで動けないから
出ていくなら今のうちだよ?」

別荘の寝室の入り口を指差し、龍之介君を促した。

話している間にも咳が出た。

「けほ、こほ、早く、お行き」

龍之介君が部屋を出た時点で僕はまた”時間を巻き戻す“。

遠ざかって行く足音。

今回も駄目だったんだな……

四度目の“巻き戻し”をしようとした時、龍之介君が戻って来た。

彼の手には洗面器と水が入った湯飲み。

「おや、戻って来たのかい?」

「犀星君、口、濯いで……」

渡された水が入った湯飲みを受け取り口を濯ぎ、龍之介君が
持っている洗面器に吐き出した。

「折角の逃げる機会を与えてあげたのに
なんで戻って来たんだい?お馬鹿さんだね」

「逃げられるわけないじゃないか!!

なんで、なんで、僕なんかのために、
犀星君は“命”を懸けられるんだ!!

最近は何も浮かばなくなってきていた……

書けない僕には存在価値がない気がして……

それから、犀星君だから話すけど、
実は義兄が一月に自害したのがきっかけで
姉と姪を援助をしていたんだ……」

芥川君の姪御さん……

「姪御さんの名前は瑠璃子さんで合ってるかい?」

「そうだよ……」

成る程ね。

「瑠璃子さんは君の長男の比呂志君の奥さんだよ」

「比呂志と瑠璃子が結婚?」

「いとこ同士で結ばれて女の子が三人生まれるんだよ。

龍之介君の孫だよ。

三女の耿子ちゃんは少し病弱でね、
君の奥さんの文さんが溺愛していたよ。

龍之介君も孫に会いたいと思わないかい?

比呂志君は俳優として、也寸志君は作曲家として
成功するけど、ただね……未来では君の次男の多加志君が
二十二歳で戦争で亡くなってしまうんだ」

「多加志が……?」

「そうさ、﹝学徒出陣﹞なんて馬鹿げた理由で
ビルマに送られ、終戦の四ヶ月前に亡くなった。

文さんはね、也寸志君が音楽の
勉強を始めた時
自分のダイヤの指環を
売り払ってピアノの購入費に充てたんだ。

多加志君は龍之介に似て三兄弟の中で
一番、文学思考だった」

僕が話す“未来”に龍之介君は動揺し困惑している。

「君は酷い人だね……僕に“未来”の話しをして……」

「酷い男で結構だよ。

さて、同じことを聞くよ?

今、この場で無理やり僕に犯かされるのと
一週間後、愛されて抱かれるのと
どっちがいいんだい?」

意地悪く、耳元で囁いた。

「酷くて良いから今、抱いて……僕の頭の中の“死神”を追い払って」

「わかった、乱暴になるけど、耐えておくれ」

僕は龍之介君の着物を剥ぎ取り組み敷いた。

「ぁ"っ、かは、犀星君……」

「そう、僕を見て僕のことだけ考えていればいいんだよ!!」

最中に一度、吐血したが構わず龍之介君を抱いた。 ーー

〈最終話 “共犯者”と祝福の朝〉

ーー時計は午前五時、夜が明けた。

時報が今日の日時と時間を告げた。

❴おはようございます。七月二十五日・午前五時十分です❵

「おはよう、龍之介君、頭の中の“死神”は居なくなったかい?」

「消え去ったよ、ありがとう、犀星君」

寝室から出て朝食を作ろうと台所に行くと、とみ子がいた。

「犀星さん・芥川さん、おはよう。

ふふ、犀星さん、よかったわね。

芥川さんと身体繋げたんでしょう」

とみ子の言葉に吐血ではない違う何かがせり上がってくる感覚を覚えた。

「とみ子さん、すみません……」

「あら、私が二人の関係を
反対すると思ってるのかしら?

いやね、心外だわ。

それと、私も仲間に入れてくださいな。

二人の情事を邪魔するつもりはさらさらないけれど、
“共犯者”は必要でしょう?

ねぇ犀星さん、次の“巻き戻し”が“最後”だったんでしょう?

でも、それでもいいと思っていた、違うかしら?」

やっぱり、とみ子には気付かれていたらしい。

「そうだよ、“次”、“巻き戻したら”僕の魂は消えていただろう」

「この頑固で偏屈な詩人を黙らせるには芥川さんが長生きして沢山、愛されること。

犀星さんの中心は芥川さんですから、
あなたが生きている限り、犀星さんも
魂の切り売りもしなくなるわ。

さてと、朝食を食べましょう」

「おいおい、とみ子。頑固で偏屈とは聞き捨てならないね」

とみ子は鍋の火を止めてこちらを向いた。

「犀星さん程の頑固で偏屈な人はいないわ。

執念深さも付け足しましょうか?」

「酷い言われようだな……」

僕は苦笑して肩を竦めた。

「でも、犀星さんの執念深さが今のところ、芥川さんを
ここに居させているのよ。

芥川さん、犀星さんをお願い事しますね。

二人は魂の双子なんですから」

「“魂の双子”とはまた、綺麗にまとめたね」

「お忘れかしら? 私も二人と同じ“文学者”よ」

「おっと、僕としたことが、
とみ子の筆の良さを忘れていたとは失敬」

僕の謝罪に笑ったとみ子てきぱきと三膳並べ終え
龍之介君が座ったところで朝食を食べ始めた。

数時間前まで“死神”に魅入られていたとは思えない程見違えた。

「龍之介君、生きてくれて、ありがとう」

もし、龍之介君が“死神”に魅入られ、自害してしまったら
僕の魂が消えようとも、また、時間を巻き戻すだろう。

ーー

今日は八月一日、そう、僕の誕生日で龍之介君は
昨日の夜から泊まりにきていた。

早めに目が覚めた僕は隣に眠る龍之介君の
穏やかな寝顔を見つめ頬に口づけをした。

「ん、おはよう犀星君、誕生日おめでとう」

「ありがとう、龍之介君」

今度は頬ではなく唇に深い口づけをした。

「夜はたっぷりと、愛してあげるからね」

唇を離し、耳元で囁いた。

頬を赤く染めた龍之介君の唇にもう一度、深く口づけをした。ーー〙

____

二つ目のタイトルは〘「どうか、僕を嫌いになって」

プロローグ

ーーある日、僕、室生犀星は親友だった
芥川龍之介君を“無理やり”抱いてしまう……ーー

〈第一話 “嫌われるために”〉

ーー「え、犀星君!? やだ!! やめて!!」

泣き叫ぶ芥川君を壁に押さえつけて
僕は 自分のモノで最奥を貫いた。

「ひっ、ぁぁぁぁ!!」

事後処理だけして、店を出た。

僕は芥川に恋慕していた。 

道ならぬ恋だとわかっていたからいっそうのこと、
“友情”ごと打ち砕いてしまえばいいと思って二日前、
芥川君を陵辱した。

きっと今頃、僕に対して“嫌悪感”を抱き怒りに満ちているだろう。

それでいい。

昼食後、行きつけのカフェでコーヒーを飲んでいたら
芥川君が迷いなく僕の向かいに座った。

「席なら、他に空いているだろ?

わざわざ、二日前に自分を“犯した”奴の
向かいに座る必要はなかろう。

それとも、無理やり“犯された”のに
また僕に“犯され”に来たのかい?

足りなかったらしい」

僕は薄ら笑いを浮かべた。

飲みかけのコーヒーをテーブルに置いたまま
会計を済ませて喫茶店を出て、裏路地に連れ込んだ。

「もう一度、“犯して”あげるよ」

卑下た笑みを浮かべ、薄暗い路地の壁に芥川君の背を押し付けた。

「何で抵抗しない?自分が今から何をされるのかわかっているのかい?」

「わかっているさ。犀星君が僕を壊したいなら甘んじて受けるよ。

何度“犯され”ようと、君を嫌うことはないけどね。

ほら、犀星君、どうぞ、好きなだけ僕を使って」

「なんで、怒らない!?

僕は芥川君の男としての矜持も
人としての尊厳も土足で踏みにじったんだぞ!!」

「僕は例え君に“殺されても”憎むことはないよ」

「馬鹿なのか? 究極のお人好しなのか……

怒れよ!! 罵れよ!!嫌えよ!!

僕は君を“犯した”んだぞ!!

君は被害者で僕は加害者だ。

“暴行罪”でも“強姦罪”でも
君は僕を訴えることだってできるんだ」

彼は僕を警察に突きだす権利があるし
訴えることだってできる。

「言ったじゃないか、“殺されても”憎むことはないと。

“殺される”ことに比べれば、“犯される”ことなんてなんてとこないさ。

犀星君の好きなように僕を“犯せ”ばいい。

僕は抵抗しないし逃げもしないよ」

「君は狂ってる。普通は自分を“犯した”相手に
たった二日で話しかけない以前に軽蔑するか
怯えるかするだろう!!」

僕は“嫌われたかった”。

「今この瞬間に僕が君を辱しめても嫌いにならないと?」

「着物も下着も剥ぎ取てってことかい?

構わないよ? ふふ、僕を辱しめて?」

芥川君は自ら帯を解いた。

「わかった、いいだろう、表を歩けないほどに辱しめてやるよ。

また僕に蹂躙されて泣き叫べ!!」

僕は芥川君の着物も下着も剥ぎ取て膝を割り拓いて
二日前と同じように何の前触れもなく彼の最奥を貫いた。

「ひ、ぐっ、かは、」

「苦しいだろう?

君の自尊心も矜持も尊厳も粉砕してるんだ」

僕は更に強く貫いた。

「ぁぁぁあ!! 犀星、君、僕の、胎内なかの具合はどうだい?」

激痛だろうに、あろうことか、
自分の胎内なかの具合はどうだと訊いてきた。

「くっ、具合良すぎだっ」

「ふふ、よかった。犀星君に教えてあげるよ、
僕が君を拒まないのは君の全てを愛してるからさ。

僕はいくらでも君に蹂躙されても構わない。

犀星君、全部、僕の胎内なかに出しておくれ」

「愛してる……だと? そんな馬鹿な……」

僕はその言葉を信じたくなくて律動を速め、
何度も芥川君の胎内なかを、最奥を突き上げた。

「ぁぁん、ぁ、は、犀星君、全部、僕の胎内なかに出していいよ」

僕は苛ついて、乱暴に突き上げ、一滴残らず
芥川君の胎内なかに出した。

「ふふ、胎内《なか》、温かい……

僕に嫌われたかったなら、こんな回りくどいやり方じゃなくて
何日でも何ヵ月でも黙って姿を消せばよかったんだよ。

まだ、壊し足りないら、気が済むまで壊していいよ」

芥川君は僕の首に細い腕を絡め、恍惚とした表情で言った。ーー

〈第二話 “歪な関係”は加速していく〉

ーー路地裏で無理やり蹂躙した日から数日、
僕は一歩も家から出なかった。

「犀星さん、芥川さんがお見えよ」

とみ子の言葉に心臓が跳ねた。

芥川君は何で!!

「わかった、書斎に通してくれ」

平常心を装いながらとみ子に返事をした。

「わかりました」

とみ子が玄関に向かう足音を聞きながら
文机に突っ伏した。

「犀星君」

書斎に入って来た芥川君は背後から抱き着いて来た。

「離れろ」

命令口調で言うと芥川君は真逆の行動をした。

「嫌だよ、僕はもう、犀星君のものだから
好きに扱ってくれていいんだよ。

壊したいなら粉々になるまで壊せばいい。

獣のようにというなら野生動物のように
理性なんて棄てればいい。

犀星君の好きなようにすればいいんだよ。

とみ子さんに聞こえるように
大きな声で啼こうか?

壊すくらいに僕を抱き潰して黙らせるか
僕が大きな声で犀星君への愛を
とみ子さんに伝えるか、
犀星君の選択肢は二つだよ」

もはや選択肢など、初めからなかった。

「いいだろう、そのわり、
芥川君が奥さんに疑われるように
沢山、痕を残すからな」

「構わないさ、僕の肌の色が見えなくなるくらい痕を残して……はい、どうぞ」

芥川君は数日前の路地裏と同じで
自ら、僕に全てをさらけ出した。

僕は衝動的に芥川君の首筋に歯を立てた。

「ふ、ぁ、犀星君、もっと僕に
“所有”の証を付けて。

明日ね、高校から一緒の寛や久米君、松岡譲君と集まる約束をしているんだ」

「なら、彼らの前で立てないくらいに腰を砕いてやろう。後悔するなよ」

僕は畳に芥川君を押し倒し
膝を割り開いて容赦なく最奥を貫き
何度も突き上げた。

「ぁぁん、ぁ、ぁ、気持ちいい……

ふふ、今日も沢山出たね、温かい……ありがとう」

ほぼ、一方的に蹂躙されて礼をいうのは
芥川君だけだろう。

とりあえず、とみ子が
お茶を持って来る前に終わらせた。

ーー

芥川君の帰宅後、
とみ子に聞かれていたことを知る。

「犀星さんと芥川さんが“恋仲”だったなんて知らなかったわ」

夕飯の支度をしながら事も無げに言った
とみ子の言葉に夕刊を落としそうになった。

「芥川さんは可愛らし声で啼くのね」

「……聞いていたのかい?」

まさか、とみ子に聞かれていたとは……

「すまない、僕はとみ子を裏切った。

離婚したいなら、
明日にでも市役所に行って来るよ」

「離婚だなんて飛躍し過ぎよ」

とみ子は味噌汁の味噌を溶きながら
くすくすと笑った。

「僕は芥川君を、男を、抱いたといえば
聞こえはいいが一方的に蹂躙したんだよ。

人としても、とみ子の夫としても
最低なことをしたんだよ!!」

僕は泣き叫んでいた。

「あらあら」

とみ子は味噌汁の火を止めて
僕の方に来て抱き締めた。

「今、僕に触れないでくれ」

「私は犀星さんが最低なんて思わないし、
戸越しに聞こえて来た芥川さんの声は
苦しそうではなかったもの。

むしろ、犀星さんに抱かれることを
喜んでいるような声だったわ。

私も“文学者”よ。

犀星さんの心の内を文章で
まとめましょうか?

そうね、〘僕は芥川君に恋慕していることに気付いた。どうすれば、彼は僕を嫌い離れていくだろうか?
凌辱して恐怖心を植え付ければ
僕を嫌って、一生、近付かないだろう〙って
思っていんでしょう?

でも、それは裏目に出た。

私は二人が愛し合うことを咎めないわ。

芥川さんのあの恍惚として
艶やかな声が出るのは犀星さんが
触れた時だけでしょう?

明日、ちゃんと、歩けているといいのだけれど」

とみ子はまた、くすくすと笑って
台所に戻り、夕飯の準備を再開した。

翌日、僕はそわそわしていた。

「そんなにそわそわするなら
様子を見に行ったらどうかしら?

私の予想だと芥川さんは犀星さんに
付けられた痕をわざと
見せびらかしているんじゃないかしら」

「いくらなんでも、それはないだろう!!

僕に蹂躙され、辱しめられた痕だぞ!?」

一瞬だけ想像してしまった。

学友たちに僕が付けた歯形や痕を
わざと見せびらかしている様を。

「様子を見に行ってくる」

「行ってらっしゃい」

とみ子は僕を笑顔で送り出した。ーー

〈第三話 “確認”〉

ーーもし、とみ子のいう通り芥川君が僕が付けた噛み跡や痕を
自分の学友たちに見せびらかしていたとしたら……

逸る気持ちを抑えながら、芥川君たちが集まると言っていた
新橋の料亭に向かった。

案内された座敷の襖の向こうから聞こえてくる
寛君や久米君、松岡君の声。

「なぁ、龍、その首筋、噛み跡だよね」

松岡君の言葉に僕はとみ子の予感が当たっていたと確信した。

「ふふ、これは、僕を壊したがってる“猫”の仕業さ」

「来た時に歩き方がぎこちなかったのも、“猫”のせいか?」

久米君の半分からかうような物言いに芥川君は笑った。

「そうだよ。

僕に嫌われたいがために
思い切り爪も牙も立ててくるんだけど、
反面、独占欲が強いくてね。

僕にはそれが愛おしいのさ」

くつくつと笑う芥川君に僕は頭を抱えた。

耐えきれなくなった僕はおもむろに襖を開けた。

「迎えに来てくれると思っていたよ、僕の“猫”さん」

この際、僕を“猫”と揶揄するのはいいとしても……

「芥川君!! 何をやっているんだ!!

君には恥じらいとか羞恥心とないのか!!」

「羞恥心なんて、とうの昔に遥か彼方に飛んで行ったよ。

今日、僕をこの会合に来させたくなかったなら
もっと、僕の腰を砕くことだったね」

僕は立ち眩みを起こしそうだった……

「室生さん座敷が? このえげつない痕や噛み跡を付けた張本人!?」

松岡君が驚いた表情で僕を見た。

「犀星、お前な、龍之介は病弱なんだぞ!!」

寛君は僕の胸ぐらを掴んだ。

「菊地君、室生さんを離してあげて。

龍之介、楽しんでるでしょう?」

「そうだね、久米君の言う通りだよ。

だから、寛、犀星君を離して」

芥川君はゆっくりと僕に近付いて来て耳元で囁いた。

「今夜も沢山、痕を付けて、腰を砕いて、
滅茶苦茶にして僕が犀星君のものだって身体に刻み込んで」

寛君たちがいるのに直接的な言葉を囁いた芥川君に苛ついた。

久米君の言葉で寛君が僕を離した隙に
芥川君の折れそう手首をひっつかんで連れ出し
僕の家に連れ帰った。ーー

〈最終話 “檻”〉

ーー自宅に着き、芥川君を書斎に連れ込み、押し倒した。

「ふふ、僕は犀星君のものなんだから

もっと、乱暴に扱っていいんだよ」

痛がる様子も見せず妖艶に微笑みながら僕に腕を伸ばして来た。

「あんな、寛君や久米君や松岡君に見せびらかして
僕を文壇から追い出す気か!!

特に君と寛君は文壇の中心にいるんだ!!

僕なんて、君たちの一言であっという間に追い出せるだろう」

文学の寵児、天才作家。

芥川君は同じ文学を嗜む者の中でも頂点にいる存在だ。

僕や朔太郎君じゃ歯が立たない。

「僕が犀星君を文壇から追い出す訳ないじゃないか。

それに、今、ここにいるのは<作家・芥川龍之介>でも
<詩人・室生犀星>でもないただの、愛し合う男二人だけだよ」

「屁理屈を言わないでくれ!!」

「僕はね、犀星君という<座敷牢>に閉じ込められたい罪人なんだよ。

誰にも理解されなくていいし、僕はね、少し疲れてしまったんだよ……

名声も期待も……」

芥川君は全てを諦めきった目をしていた。

「だからね、犀星君という<座敷牢>に閉じ籠り
君のものとして、君の好きに扱ってほしいんだ」

「散々、酷いことをしておいて、どの口が言うんだという感じだが……

君は文壇になくてはならない人だ。

それなのに、僕の<慰み者>になりたいというのか?

僕の<座敷牢>に閉じ籠るということは
一生、表舞台に出られなくなるということだ」

「本望さ。<作家・芥川龍之介>として生きることに疲れたんだ。

期待通りの物を書けなければ糾弾され、期待通りの物を書けば
天才だ寵児だと持ち上げられる。

そんな世間に疲れてしまったんだよ。

だから、犀星君という<座敷牢>の中でゆっくりと眠りたいんだ……

犀星君に滅茶苦茶にされて、眠りたい」

「わかった、僕の<座敷牢>に閉じ込めてあげるよ。

ただし、<慰み者>じゃなく<寵愛>する<恋人>としてだ。

<座敷牢>の鍵は僕が持つ一本だけだ。


この家が、この書斎が、芥川君の、いや、<龍之介>の<座敷牢>だよ」

<龍之介>の着物を剥ぎ取り、白磁の肌に噛みついた。ーー

〈番外編 “共依存”〉

ーー「犀星君、今日も沢山、愛して」

<龍之介>を僕の<座敷牢>に
閉じ込めてから五日経った。

「本当にいいのかい?」

「言ったじゃないか、名声にも期待にも
疲れてしまったのさ。

やっぱり、迷惑だったかい?

これは僕のわがままだから……」

雷を怖がる幼子のように僕の足に
すがりつく龍之介の頭を撫でた。

「迷惑ではないさ、ただ、<文学者>としては
龍之介のような才能のある人間を
僕が囲って一人占めしていることに
少々、気が引けただけだよ」

「僕が居なくなって五日。

家族には手紙を書いているけれど、
寛や川端君あたりは警察に
行方不明届けを出したかな?」

几帳面で神経質で心配性の
寛君なら真っ先に警察に寛 駆け込むだろう。

「川端君はともかく、寛君は
真っ先に警察に駆け込だかもしれないね」

「寛のことだから、今頃は僕の馴染みの旅館や行きつけの店をひっくり返して
捜し回っているかもね」

龍之介は子どもが悪戯が成功した時のような
無邪気な笑顔で笑った。

「犀星さん・龍之介さん、お夕飯の時間ですよ」

妻のとみ子が呼んでいる。

「龍之介、夕飯の時間だってさ。

そういえば、とみ子が食後に
無花果を剥いてくれるって言ってたよ」

無花果は龍之介の好物だ。

居間に着くと、とみ子が料理を並べている所だった。

「とみ子さんの美味しい料理と
犀星君が愛してくれるから…… 

まだ五日だけど、ここに来てからは
体調がよくなっている気がするんだよ。

だけど、本当によかったのかい?

僕みたいな、世捨て人を匿って……」


「世捨て人だなんて、仰らないでください。

犀星さんにとって、龍之介さんは
劇薬……いえ、特効薬なんですから」

とみ子がわざと、いい間違えた<劇薬>というのもある種、間違っていない。

「とみ子、わざと間違えたね?」

「あら、ある意味間違ってないんじゃないかしら。

龍之介さんがいらしてから筆の走りが早いんですよ。

それに、龍之介さんの<座敷牢>の
番人を進んで買って出たのは私ですからね」

 「家族が増えたんだから
今まで以上に稼がないと、と思ってね。

可愛い恋人には健康でいてほしから
筆の走りも早くなるってものさ」

「とみ子さんの前で恋人だなんて!!」

とみ子に申し訳なさそうに俯いた。

「よいのですよ、龍之介さん。

犀星さんは綺麗なものや美しいものに
目がないんです。龍之介さんのような
容姿も文学も美しい方に犀星さんが
惹かれないわけないんですから
私も是非、龍之介さんを
守るお手伝いをさせてくださいな」

龍之介の前に白和えの
小鉢を置いた。

「とみ子さん、
本当にいいのかい?

僕は犀星君と、その、」

「肉体的関係を
持ってることでしたら
私は気にしていませんから
存分に犀星さんに
可愛がってもらってくださいね」

少食の龍之介に合わせて茶碗にわける
ご飯も少なめだ。

「ですから、少しずつ心身共に
よくなって行ってくださいね。

龍之介さんは痩せすぎで心配で
私が泣きたく
なってしまいますわ」


少食の龍之介に合わせて茶碗にわける
ご飯も少なめだ。

「ですから、少しずつ心身共に
よくなって行ってくださいね。

龍之介さんは痩せすぎで心配で
私が泣きたくなってしまいますわ」

その茶碗置きながらとみ子は
龍之介を抱き締めた。

食後、とみ子は剥いた無花果を
自らの手で龍之介に食べさせた。

「あまい、こんなに甘い無花果は
初めて食べた……おいしい……」

口の端から零れた汁をとみ子は
指先で丁寧に拭った。

「ありがとう、とみ子さん」

幼子のように
されるがままの龍之介。

「お礼は不要ですよ。

ねぇ犀星さん、
この家の中だけの
龍之介さんの
呼び名を考えない?」

「それは名案だね。

<雲雀>はどうだい?

君は文壇という空を
飛び過ぎで
疲れてしまった小鳥だから
これかは、僕ととみ子に
飼われておくれ」

室生家という<鳥籠>は堅牢な作りだ。

「いい呼び名ね。

早速、<雲雀さんが
冷えないように
<籠>を温めて来ますね」

とみ子は嬉々として寝室を整えに行った。

「犀星君ととみ子さんは僕の<飼い主>になってくれるの?」

「そうだよ、だから、体力をつけて僕ととみ子の
ためだけに啼いておくれ、僕たちの<雲雀>」

額に口づけを落とすと、<雲雀>はくすぐったそうに笑った。

「うん、二人のためだけに啼くよ」

目を瞑って僕にすり寄って来た<雲雀>を抱き締めた。ーー

〈番外編② “訪問者”〉

ーー<雲雀>が体力を戻し、肉付きが良くなって来た頃、
ついに寛君が家に来た。

「犀星!! いるんだろう!!」

その声に<雲雀>がびくっと身体を震わせた。

「大丈夫だよ、君はとみ子と一緒に二階の書斎に。

とみ子、頼んだよ」

「わかってるわ。<雲雀>さん、お昼寝しましょうね」

二人が二階に上がるのを見届けてから玄関に向かった。

「なんだい寛君、僕の家の戸を壊す気かい?」

寛君の後ろには川端君と中野君がいた。

「龍之介が行方をくらましてから半月だ。

あいつの行きつけの旅館も店も全部ひっくり返したが見つからない。

家族にも置き手紙一つだけだ!!」

「あまり大きな声を出さないでくれ、近所迷惑だ。

芥川君のことだから、君たちが馴染みの旅館や店を
探し回るのがわかっていて、あえて、安宿に
泊まっているのかもしれないよ?」

「安宿だ!? あの神経質で綺麗好きで病弱な
龍之介が半月も泊まれるわけないだろう!!」

殺気だった寛君を俯瞰して見ながら二階にいるとみ子と<雲雀>を思った。

「まぁまぁ、落ちつきたまえ。

安宿でないにしろ、芥川君にだって息抜きする権利はあるのだから
帰ってくるまで待とうではないか。

僕にさえ、連絡をして来ないというこのは
今は本気で誰とも関わりたくないんだろう」

龍之介改めて<雲雀>は文壇という空を飛ぶことに疲れてしまった小鳥だ。

「芥川君から連絡が来たら、真っ先に寛君に
伝えるから今日は帰ってくれないか。

とみ子が風邪気味でね、お粥を作る所だったんだよ」

ため息を吐いて告げるとあれほど勢いよく怒鳴っていた
寛君も病人がいるとわかるって申し訳なさそうに謝った。

「それはすまなかった」

「構わないよ。芥川君が心配なのは僕も同じだけど
こればかりは彼の心の問題だからね、
心配ではあるが連絡が来るか、
帰ってくるのを待つしかないさ」

僕の言葉に寛君たちは諦めて帰って行った。

三人を見送った後、玄関の鍵を閉めた。

「<雲雀>、寛君たちは帰ったから出ておいで」

階下から呼ぶととみ子に支えられながらゆっくりと降りてきた。

「まったく、寛君には困ったものだね、君を“友人”と言っておきながら、
その実、あの騒がしい文壇という空を飛べというのだから。

寛君は今だに君が病弱で神経質で綺麗好きな高潔だと思い込んでいたよ。

実際は僕に噛まれながら身体を拓かれることに
喜びを覚えてしまった小鳥なのにね。

君はもう、外に春を告げに行かなくていいんだよ」

僕はとみ子がいることは気にせず、
<雲雀>の着物の袂から手を入れ
その白磁の肌を撫でた。

「んん、犀星君……もっと、触れて、はん、ぁ!!」

僕の手が乳嘴を掠めると、より一層、甲高い声で鳴いた。

「おや、足を擦り合わせてどうしたんだい?

ほら、言ってごらん?」

とみ子の前で言うのが恥ずかしいんだろう。

「ぁ、なかが……寂しいから、早く、犀星君のもので、
思い切り、かき回して……

胎内なかに全部、出して!!」

本当に僕たちの<雲雀>は可愛い。

「とみ子、<雲雀>の着物の帯を解いてくれるかい?」

「わかったわ、この可愛い<雲雀>さんがより一層
可愛らしい声で啼くお手伝をするわね」

するっと帯が解け、襦袢姿になった<雲雀>。

「ふふ、半月前よりも肉付きがよくなりましたね。

犀星さん、<雲雀>さんを満たしてあげてくださいな」

とみ子に襦袢を捲り上げられ、<雲雀>は自らの手で
膝を割って僕に懇願した。

「いい子だ、しっかり、僕を受け入れておくれ」

指で馴らした胎内なかへ一気に突き入れた。

「ひぐ、ぁ、ぁ、ぁぁあ!!」

居間でとみ子に見られるどころか手伝われながら僕に
身体を拓かれた感想はどうだい?」

「恥ずかしい……けど……嬉しい……とみ子さんにも、
僕の胎内なか、触れてほしい……」

とみ子は僕の楔が挿入っている<雲雀>の秘部に指を二本挿れた。

「どうかしら?」

とみ子の指が二本挿ったことで無理やり押し広げられる感覚に<雲雀>は大きな声で啼いた。

「ぁぁあ!! とみ子さん、そこ、駄目!!」

僕たちの可愛い<雲雀>が“駄目”と言ったとみ子の指が
触れた箇所は“前立腺”だ。

無慈悲にもとみ子は<雲雀>の“前立腺”を指で挟んで転がした。

「ひゃ、ぁ、とみ子さん……駄目……でも、もっと……」

矛盾する言葉に僕もとみ子も口角を上げた。

「龍之介を高潔だと思っている寛君が見たら硬直してしまうかもしれないね」

「い、や、龍之介って、呼ばないで……

僕は、犀星君ととみ子さんの<雲雀>たがら!!

春、告げに行かなくて、いいんだよね?」

「もちろん、ほら、僕の楔ととみ子の指で思い切り達ってごらん」

僕の楔を最奥に打ち込み、とみ子の指が“前立腺”を挟んで潰した。

「ぁぁぁぁぁぁあ!! 

ひぎっ、ぁ、ぁ、持ちいいのと
痛いのが混ざって……

ねぇ、とみ子さん、もう一度、
前立腺”を挟んで潰して……」

「あらあらまぁまぁ、 
まだ足りなかったのね。

いいわ、次は挟んで潰すだけじゃなく
捏ねてあげましょね」

僕の妻ながら、かなり無慈悲だ。

とみ子は挟んで、潰して、
捏ねるを交互に繰り返し
最後に弾いた。

「ぁ"ぁ"、は、ぉ" ぉ"~ひぐ!!」

「ふふ、<雲雀>さんは
気に入ってくれたのね」

“前立腺”を弄る指に先程よりも若干、力を込めた。

「ひ、ぁ、ぁ、
強い……!! 痛い!!」

「あら、<雲雀>さん、ごめんなさいね。

今、止めますから」

指を抜こうとしたとみ子の手首を掴んだ。

「止めちゃ、嫌、お願い、ね?」

「痛がるのにほしいなんて、
我が儘な小鳥さんね」

もう一度、挟んで、潰して、
捏ねた後、今度は弾くのではなく
ガリっと音がしそうに引っ掻いた。

「かは、ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

かつて、文壇の寵児と呼ばれた<文豪・芥川龍之介>は
もう、何処にもいない。

今の彼は僕ととみ子という<飼い主>の
<愛玩動物>として飼われる<小鳥>にすぎない。

散々、絶頂した<雲雀>は僕の腕の中で
息も絶え絶えに恍惚と笑って
僕ととみ子の頬に口づけをしてきた。

「犀星君、とみ子さん、
ありがとう、愛してる」

「お礼を言うのは僕たちの方だよ、ありがとう。

僕たちも愛してるよ<雲雀>。

疲れただろう、ゆっくりお休み」

肉付きがよくなったとはいえ、まだまだ軽い身体を
抱き上げ、二階の部屋に戻り、
三人で眠った。ーー

〈番外編の番外・映画用書き下ろし 井川恭視点〉

ーー龍が居なくなった時、俺は別段騒がなかった。

なぜなら、最初から室生先生の家にいるとわかっていたからだ。

そして、龍が“書く”ことに対して、強迫観念を抱いていたことも知っていた。

だからこそ、室生先生の家で龍が安らげるならそれでいいと思っていたのに
寛が川端と中野を連れて室生先生の家に行ったと聞かされた時は
頭痛を覚えた……

龍が居なくなって一年、いまだに探し回っている寛たちに俺は呆れている。

龍が連絡してきたのはそれから二年後だった。ーー

〈番外編の番外 とみ子のお願い事〉

ーー今日は十二月二十九日。後二日で今年も終わる。

とみ子はおせち料理を作っている。

「実は、犀星さんと雲雀さんにお願いがあるのだけれど……」

黒豆を煮ながらいきなり言い出した。

「とみ子がお願い事なんて珍しい、言ってごらん?」

「その……犀星さんと雲雀さんに“抱かれたい”の!!」

おっと、予想外だったけど、別段、驚くことでもない。

「最近は、とみ子に触れていなかったね、
寂しかったならもっと早く言えばよかったのに」

「だって雲雀さんのお手伝いするのも楽しかったのよ。

だけど、私も久しぶりに“抱かれたい”と思ったのよ」

息子の朝巳が生まれてからはお互いに
なんとなく避けていた節があったなと、今気付いた。

「旦那さんの犀星君はともかく、僕も?」

「えぇ、雲雀さんが嫌でなければ、抱いてほしいの」

雲雀は困った表情で僕を見た。

「いいんじゃないかい。

いつもは“僕ととみ子”で雲雀を可愛がっているけれど、
今夜は“僕と雲雀”でとみ子を可愛がってあげようじゃないか」

おせち料理の仕込みを終えたとみ子を二人で目一杯可愛がった。

とみ子が“双子”を出産したのは秋のことだった。

僕と雲雀の血を受け継いだ男女の双子を
とみ子が産んでくれたのだ。

因みに、女の子が雲雀の、
男の子が僕の血を受け継いだ。

双子が三歳になった頃、寛君と川端君に見つかった。

「龍之介……なのか?」

「おっと、見つかってしまったね」

“雲雀”は焦ることなくゆったりとした口調で話した。

「とうさま、誰?」

“雲雀”の血を受け継いだ娘・凛と
僕の血を受け継いだ息子・澪が
初めて会う大人を不思議そうに見ている。

「こちらはとうさまたちの昔の知り合いよ」

「かあさま~」

双子は母であるとみ子に抱き着いた。

「流石、僕と“雲雀”の血を受け継いでいるだけあって、
子どもたちは母親のとみ子が大好きだね」

「そうだね、娘の凛は僕の、
息子の澪は犀星君の血を分けて
とみ子さんが産んでくれたからね」

“雲雀”は僕の手を握った。

「血を……分けた!?

龍之介がとみ子さんを抱いたというのか!?」

「その名前で呼ばれるのは好まないんだが、
今は気にしないことにしよう。

そうだよ、とみ子さんの希望でね。

寛も川端君も、“潔癖で高潔な文豪・芥川龍之介”は
親友の妻と関係を持ったりしないと
言いたそうだね? 

おや? そういえば、恭には大分前に知らせたけど
寛たちに話さなかったんだね」

くすくすと笑う“雲雀”を僕は抱き寄せた。

「井川が知っていた…?」

「恭には双子が産まれる前にも
産まれてからも手紙を出して
返事も来ているよ。

ふふ、恭はね、僕が居なくなった時、
最初から犀星君の所にいるのを
わかっていたから別段、心配もしなかったし
探し回ろうともしなかったんだよ」

「恭の奴、なんで……」

井川君が知りながら寛君たちに知らせなくことに憤っている。

「恭は僕が“文壇”という高すぎる空を
飛び回“危うさ”と“限界”に気付いていたから
あえて、見逃してくれたのさ。

恭を責めるようなことはしないでおくれ」

雲雀は僕に寄りかかりながら寛君たちを見ている。

「とみ子さん」

川端君に喚ばれたとみ子は優雅な足取りでこちらにきた。

「私が“龍之介さん”に抱かれたことが信じられませんか?

そうですね、“普通”の方には理解しがたいかもしれませんね。

ですが、今の“龍之介さん”は“文壇”という高すぎる空から
“地上”に降りたか弱い“雲雀”にすぎません」

毅然とした態度で言いはなったとみ子に二人はたじろいだ。

「僕が犀星君ととみ子さんに“抱かれる”こともあれば、
犀星君と僕でとみ子さんを“抱く”こともある。

それが僕らの“常識”なのさ」

話していると久米正雄君と松岡譲君が来た。

「やっぱり…… 菊地君と川端君は妙に正義感が強いから
心配して追い掛けてきてよかった……」

「おや、久米君と松岡君も僕を連れ戻しにきたのかい?」

警戒心強めの小鳥の言葉に久米君と松岡君は
気にすることもなく話しを続けた。

「違うよ、龍之介が幸せなら僕も久米も何も言わない」

「久米も松岡も、この状況が異常だと思わないのか!?

友人夫婦の家に居座り、あまつさえ、その友人の妻を抱いて
子を成したなんて……」

「僕たちは全て“同意”の上でしている。

とみ子さんを抱いたのも本人に頼まれたというのはあるが
犀星君が許したから僕はとみ子さんを抱いたのさ。

僕と犀星君に同時に愛されたとみ子さんは
凜と澪を産んでくれたんだよ。

僕を“本当の家族”にしてくれて
ありがとう、とみ子さん」

「改めて、お礼なんて言われると照れてしまうわね。

私は家族が増えるのは大歓迎ですからね」

とみ子は僕と“雲雀”をまとめて抱き締めて来た。

「この後、また、お二人で私を蹂躙してくださいな。

お二人の子を産めるのは至高の喜びなのよ」 

とみ子が“雲雀”に口づけをするのを僕は笑って見ていた。

「全く、いつの間にとみ子まで欲張りな小鳥になったんだい?」

「駄目かしら?」

“雲雀”の唇を離し、今度は僕に口づけした。

「駄目なわけないさ、僕と犀星君で沢山、
愛でてあげるよ。ね、犀星君?」

「もちろんだとも、妻の頼みを聞くのは夫の務めだからね。
 
凜と澪を寝かしつけたら
僕と“雲雀”が余すことなく愛でてあげるよ。

僕たちの雌鳥さん」

「ふふ、あらやだ、雌鳥だなんて、最高で至高な呼び名よ」

うっとりとした表情で喜んでいるとみ子。

「全く、まだ、外なのにそんな表情をして……

“雲雀”、とみ子は我慢できないみたいだ」

「そうみたいだね、発情期の猫のようだ」

「んもう、雌鳥やら発情期の猫やら
二人して、そんなに、褒めないでくださいな」

艶めかしいとみ子の表情に寛君も川端君も顔を真っ赤にし
久米君と松岡君は苦笑していた。
 
「前からとみ子さんは肝が座っていると思っていたが
そんな艶やかさまで隠していたとは……

“雲雀”、二人に沢山、愛してもらいな。

それから、今度は僕と松岡君と恭を交えて“友人”として話がしたい」

「恭はともかく、久米君と松岡君は僕を引摺り出そうとしないのかい?」

「俺も久米もそんなことはしない。

そこの二人が野暮なのさ。菊地、川端、お前らは
いつしか<文豪・芥川龍之介>を神格化して龍之介が“人”だと
忘れかけていたんじゃないか? 龍之介の妻・文さんもしかりだ。

<文豪・芥川龍之介>の妻という地位に拘り過ぎて
龍之介本人が徐々に壊れていっていることに気付いていなかった!!

お前らも、文婦人も、なぜ、龍之介自身を見ない!?

壊れた龍之介の傷を癒したのは
室生先生ととみ子さんだってわかれよ!!

あのまま、書き続けていたら龍之介は自害さえ厭わなかっただろうさ!!」

松岡君の叫びは閑静な住宅街によく響いた。

「龍之介、いや、“雲雀”、この無粋で野暮な二人は
さっさと連れて行くから、いつか、久米と井川と友人として話してくれ。

室生先生・とみ子さん、
友人を救っていただきありがとうございました」

松岡君は僕たちにお辞儀をした。

「わかった、友人としてなら歓迎だよ」

四人を見送り家の中に入った。

「松岡君と久米君が味方だとは気付かなかった……」

「井川君や松岡君、久米君のような人が
本当の友人なんだよ。

さて、些か外に居すぎてしまったね。

凜と澪を寝かしつけたら僕たちの雌鳥さんを
たっぷりと可愛がってあげないとね」

数十分後、凜と澪が寝たのを確認した。

「やっと、雌鳥さんを愛でられるね。

ほら、僕たちの雌鳥さん、全部脱いで」

従順な雌鳥さんは“雲雀”の言葉に素直に従って裸体を晒した。

「犀星さん・“雲雀”さん、早く……

お二人の楔を打ち込んで乳嘴にゅうし
いじめてください!!」

せっかちな雌鳥さんの右側の乳嘴にゅうし
僕が噛み、左側の乳嘴にゅうしを“雲雀”が指で
力一杯ぐりぐりと捏ねた。

乳嘴にゅうし、もっと、強く……

それから、お二人の楔を同時にほしいの!!」

「せっかちなだけじゃなく貪欲でもあるとは
少々困った雌鳥さんだ。

“雲雀”、準備はいいかい?」

「もちろんだとも」

僕たちはとみ子の膝を左右に割り、望み通り、
蜜壺に僕たちの楔を同時に押し込んだ。

「ぁぁぁぁぁ!!」

二人分の楔を受け入れている蜜壺は大変だ。

「気持ちよさそうでなによりだ」

とみ子の呼吸が整わないうちに“雲雀”が楔を押し込んだ。

「んん!!ぁ、ぁ、は、ぁ、“雲雀”さん、
子宮口、沢山、叩いて……

犀星さんにも、沢山、子宮口、叩かれたいの!!」 

「んぎぃ~ 子宮口潰される……!!潰されてる~

お願い、お二人の子種を余すことなく
私の胎内なかにください!!

お二人の子を生み育てたいの!!」

「それはますます、僕の筆の走りが早くなりそうだ」

“雲雀”に目配せをして二人同時に果てた。

「嬉しいわ、今度も双子かしら? 三つ子かしら? 楽しみだわ」

母親の勘だったのか、一年後、とみ子が産んだのは
女の子二人と男の子一人の三つ子だったーー〙」

こんな感じのを書いてみた」

「じゃぁ、今度は“現代”よりのを。

タイトルは〘「睡眠=充電? 電池切れすれすれで生きている僕達は満タンになる日を夢みてる」

プロローグ

ーー向井照哉は高校の新米教師で他人の“充電”具合が視えてしまう。

まるでスマホのバッテリー残量のように、人の疲れやストレス、感情のエネルギー量が目に見えてしまう。

生徒たちはもちろん、同僚の教師や家族までもが、常に満タンではなくギリギリの状態で日々を過ごしているのを知り、照哉は自分がどんなに無力でも、彼らの「満タンの日」を願いながら奮闘していく。

今日も行き交う人達の“充電”は“満タン”ではない。

半分以上の人もいるが大半は半分以下だ。

新米の高校教師・向井照哉には他人の心の“残量”が視えてしまう。

家・スーパー・職場である高校までの通勤電車、そして、職場の同僚や生徒達。

誰一人として“満タン”な人はいはい。

皆、ギリギリの“残量”で生きている。

*不登校気味の生徒は充電切れ寸前。ーー

登場人物

ーー向井照哉むかいてるや 

二十四歳・日本史担当

他人の“充電”具合が視えてしまう

柏原穹かしわばらそら

父親は数年前に事故で亡くなっていて
母親はパートタイムで複数の仕事を掛け持ち

兄は家を出て独立しているが連絡は少なく
家庭内での会話はほとんどない

“充電切れ”寸前


桐島儷杜《きりしまれいと》

三十三歳・体育教師

サバサバしていているが良くも悪くも適当。

九石豪騎さざらしごうき

四十八歳・理科教師

嫌われ者

ずる賢く底意地が悪いーー

_______________

〈第一話 睡眠=充電?〉

今日は二時間目に三年二組の授業が入っていた。

このクラスの柏原穹かしわばらそらはいつも“残量”が僅かだ。


朝のホームルームの時点で、彼の“充電ゲージ”はほとんど赤色に近く、まるで電池が切れかけているように見える。

授業中もその様子は変わらず、身体は椅子に沈み込み、目は半ば閉じている。

僕、向井照哉は新米教師だが、彼の充電が極端に低いのはすぐにわかった。

『柏原くん、聞いてるか?』

僕が問いかけると、穹はぼんやりとこちらを見て、小さく頷いた。

『今日は、授業に来られてえらいね』

そう励ますように言うと、彼はかすれた声で「ありがとうございます」と答えた。

けれど、その声もすぐに消え入りそうで、まるでもう自分のエネルギーをほとんど使い果たしているかのようだった。

放課後、校舎の廊下で偶然見かけた時も、彼は足早に背中を丸めて歩いていた。彼の胸元にはいつも使い込んだイヤホンが見えた。

僕はふと思った。

『彼の“充電”が切れそうなのは、睡眠不足なのか、それとも心の何かが足りていないのか』

これがただの体力の問題なのか、それとも彼の心に潜む何かが、彼の“充電残量”を蝕んでいるのか。

この先、穹の“充電”を満たすために、僕はどうすればいいのだろうか——。

〈第二話 柏原穹という生徒〉

ーー心の“残量”がスマホの充電のように視えてしまう僕には
気になる生徒がいる。

三年二組の柏原穹。

常に“残量”不足。

寝不足だけならまだいいが他の原因があるなら見過ごしてはいけない気がする。

三年二組の担任の桐島儷杜きりしまれいと先生はいい意味でも悪い意味でも適当だ。

桐島先生は、職員室で「まぁ、あいつは元気だから大丈夫だよ」と笑って流すタイプだ。
悪意があるわけじゃない。生徒との距離感はうまいし、必要以上に干渉しない。それが救いになる生徒もいるのはわかっている。

――けれど、僕の目には違って見える。

柏原の“残量”は、授業中でも放課後でもずっと赤ゲージ。
たとえるなら、バッテリー残り2%で動画を再生し続けているような危うさだ。
その光は揺れていて、時々、今にも消えそうになる。

昼休み、廊下の端で柏原が窓にもたれているのを見かけた。
細い肩がわずかに上下して、浅く呼吸している。
声をかけようか迷って足を止めた瞬間、こちらを見たその目は――

「……先生、何か用っすか」

笑っているようで笑っていない、薄いフィルムみたいな声だった。

『具合悪いように見えたから、大丈夫かい?』

――そう口にした瞬間、柏原はわずかに眉を寄せた。

まるで「その言葉を言われ慣れていない」みたいに。

「……あー、大丈夫っす。寝不足なだけなんで」

軽く手を振って、視線を窓の外に戻す。

その仕草が、むしろ僕の胸をざわつかせた。

寝不足だけ?
本当にそれだけなら、こんなに光が弱って見えるはずがない。

「授業、もうすぐ始まるぞ。保健室に――」
「いいですって。ほら、先生、他のクラス見回りあるんじゃないんすか」

遮るように返され、僕は言葉を飲み込む。
彼の“残量”は、今も赤のまま、かすかに瞬いている。
下手に触れれば、その光ごと手の中で崩れてしまいそうで――
それでも、放っておくには危なすぎる。

僕は教官室に戻ってからも柏原のことが気になって仕方なかった。

五時間目の授業がなかった僕は職員室に行き、柏原の家庭調査書を見ることにした。

家庭調査書はパソコンの画面に映し出された。
生年月日、住所、保護者の名前……
特に目立った問題はなさそうだった。

しかし、「家庭環境」の欄に目を凝らす。
そこにはこう記されていた。

――父親は数年前に事故で亡くなっている。
――母親はパートタイムで複数の仕事を掛け持ち。
――兄は家を出て独立しているが連絡は少ない。
――家庭内での会話はほとんどない。

家庭の事情が複雑なのかもしれない。
ひとりで頑張りすぎているのかも知れない。
だからあの光は弱く、いつもギリギリなのか。

『大丈夫か、穹』

僕は声にならない声でそう呟いた。

ふと、廊下の窓から差し込む午後の日差しが、教室の隅に座る彼の姿を思い浮かばせた。
あのかすかな“残量”の光は、もしかすると彼が助けを求めている小さなSOSなのかもしれない。

僕は決めた。
「桐島先生にはもう一度話をしよう」
そして、彼自身にも直接、何かできることがないか、ゆっくり話をしてみようと。

教室に戻ると、再び柏原の姿を見つけた。
僕はゆっくりと近づき、声をかけた。

『少しだけ話せるか?』

彼は少し戸惑った表情を見せたが、無言で頷いた。

廊下の片隅で、僕たちの小さな対話が始まろうとしていた。

『柏原、何か悩みがあるなら話してほしい』

僕の言葉に、彼はほんの一瞬だけ目を伏せた。 そして、やがてゆっくりと口を開いた。

「……実は、母さんのことで、いろいろあって……」

その声は震えていた。 普段は強がっているのかもしれない。 でも、今の彼は弱さを隠せていなかった。

「仕事が多くて、帰りも遅いし……家にいても、あんまり話す時間もなくて……」

彼の肩が小さく揺れた。 胸の奥で何かが切なく響く。

「俺がなんとかしなきゃって思ってるんすけど、うまくいかなくて……」

僕は静かに頷き、話を遮らずに聞いた。

『一人で抱え込むのは辛い。だから、誰かに話すのは……怖いんだよね』

彼の目に、かすかに涙が光った。

僕は、少しでも彼の支えになりたいと思った。

「向井先生……」

『照哉でいいよう、穹』

――そう言った途端、柏原の表情がわずかに和らいだ。

けれど、それはほんの一瞬で、すぐに視線を逸らす。

「……じゃあ、照哉先生。
 もし俺が、これ以上頑張れなくなったら……どうします?」

その問いは冗談めいていなかった。
胸の奥に冷たいものが落ちる。
今この瞬間も、彼の“残量”は赤いゲージのまま、ふらふらと揺れている。

『……その時は、ちゃんと止める。
 全部置いてでも、君を守るから』

そう答えると、柏原は小さく息を吐いた。
それは安堵とも諦めともつかない、曖昧な息だった。

「……先生、変っすね。
 そんなこと、本気で言う大人いないっすよ」

『本気だよ』

僕は笑ってみせたが、心臓は強く脈打っていた。

柏原は数秒、黙ったまま窓の外を見ていた。
そして、ごく小さな声で――

「……じゃあ、ちょっとだけ頼るかも。
ほんのちょっとだけ……ね」

その言葉は、光が弱いままの赤ゲージに、わずかな緑色が滲んだように見えた。
ほんの一%にも満たない回復。
けれど、その小さな変化が、僕には大きな救いだった。

『それでいい。少しずつで』

昼下がりの廊下を、チャイムの音が満たしていく。

僕たちはゆっくりと教室に戻った。

まだ何も解決してはいない。

けれど、穹の光は――消えていなかった。ーー

〈第三話 “教師”と“生徒”ではなく“友人”として〉

ーー翌日から僕たちは昼休みの数分を空き教室で過ごした。


『穹、そんなに急いで食べると身体によくないよ』

「あ、癖なんすよ。

母さん、忙しいから、朝も夜も急いで食べる癖がついちゃって……」

――そう言いながら、穹は箸を止めることなく弁当の中身を口に運んだ。
でも、よく見ると咀嚼は浅くて、味わっている様子はない。

『味、わかってる?』

「……うーん、正直、あんまり」

少し笑ったが、それは冗談で済ませようとする時の笑いだ。
僕はそれ以上責めるような言葉は避け、机の上に置いたお茶をそっと押し出した。

『せめてこれ、飲んで』

「……はい」

温かい湯気が上がる紙コップを受け取った穹は、少しだけ息を吐き、それからゆっくりと口をつけた。
その一瞬、肩の力が抜けたのがわかる。

「……なんか、あったかいと落ち着くっすね」

『急いで食べると、心も身体も休まらないからね』

「……そうかも」

視線を落とした穹の睫毛が影を作る。

昨日よりも少しだけ声が柔らかい。

それでも、“残量”のゲージはまだ赤く、細い線のように揺れていた。

僕は、昼休みのこの短い時間を、穹にとっての“呼吸の間”にしたいと思った。

少しでも彼が安心できるように。
そう思いながら、窓の外に目をやると、冬の光が白く廊下に降り注いでいた。

「……先生」

『ん?』

「昨日言ったじゃないっすか。全部置いてでも守るって……」

『ああ』

「……ほんとに、信じていいんすか」

その問いには、ためらわず頷いた。

『いいよ。何回でも言う。信じて』

穹はその言葉に、ほんのわずか、口元をゆるめた。
そして再び弁当に向き直り、今度は少しだけ、ゆっくりと箸を動かした。

――わずかでも、この時間が彼の“充電”になるなら、それでいい。

次のチャイムが鳴るまで、僕たちは静かな空気を共有していた。

‥‥

昼休みの束の間の時間、僕は穹にリラックスしてほしかった。

たったの数分でも。

穹の“残量”は相変わらず“充電切れ”寸前。 

「うわ、五時間目理科じゃん」

嫌そうな顔をした穹に聞いた。

『理科、嫌いなの?』

僕も学生時代、理科は得意じゃなかった。

「理科自体は好きでも嫌いでもないっすけど……」

少しの間の後、吐き出すように言った。

「担当の九石さざらしが嫌いなんだよ。わざと、できない奴を指すんだ」 

――その言葉に、僕は眉をひそめた。

『できない奴を、わざと?』

「そう。指されても、答えられなかったら鼻で笑うんすよ」

穹は箸を置き、両手を机の下で組みながら視線を落とした。
その横顔には、諦めと苛立ちが薄く混ざっている。

「しかも、俺だけじゃなくて……クラスの“標的”決めて、しつこくやるんすよ」

――それは授業じゃない。ただの攻撃だ。
僕の胸の中に、ひやりとした怒りが走った。

『……穹、それ、いつから?』

「一年の時から。あの人、ずっと同じ調子で……俺、もう慣れたけど」

慣れた、なんて軽く言うけど。
それは、我慢して心を削る方法を覚えたってことだ。

『慣れた、じゃなくて……それ、我慢してるだけだよ』

「……そうかも」

穹は窓の外を見て、小さく息を吐いた。
冬の光が頬の影を濃くする。

――この子の“残量”が減っていく理由のひとつ、間違いなくここにある。

『……五時間目、俺、後ろから見に行こうか』

「え?」

『別に、授業を邪魔するつもりじゃない。ただ、見ておきたい』

穹は一瞬だけ迷う顔をして、それから苦笑いした。

「先生、マジで来たら……九石、余計に機嫌悪くなるっすよ」

『じゃあ、もう少し様子を教えてくれる? 穹だけじゃなく、他の子のことも』

穹は肩をすくめたが、その目は少しだけ安心したように見えた。

「……わかりました。あとで話します」

チャイムが鳴り、穹はゆっくりと立ち上がった。
足取りは重いけれど、さっきより少しだけ背筋が伸びている。

――昼休みのわずかな会話が、五時間目を乗り切るためのわずかな“充電”になればいい。

そう願いながら、僕は教室の扉を見送った。

僕も次の授業の用意をするために空き教室を出て教官室に向かう。次は三年六組。

穹のことが気になりながら放課後になるのを待った。ーー

〈第四話 放課後の報告〉

ーー放課後。

三年二組の教室の前を通りかかると、すでに生徒の姿はまばらだった。

中に穹はいない。机の上には、もう彼の弁当箱も置きっぱなしではない。

教官室に戻ろうとしたその時、廊下の端から彼が小走りで近づいてきた。

「……先生、さっきの話、ちょっとだけ」

息が少し上がっている。
僕は廊下を避け、空き教室に入った。

『どうだった? 五時間目』

穹は肩で息をしながらも、鞄を机に置いて腰を下ろす。

表情には、あからさまな疲れと、言葉を選ぶ迷いが見えた。

「やっぱ……指されました」

『答えられた?』

「途中までは。でも、途中で止められて……『そうじゃない』って、笑われて」

笑い方の真似をした穹の口元は、苦味しかなかった。

『他の子も?』

「……うん。今日は俺と、あと一人。女の子」

穹は目を伏せ、机の木目を指でなぞった。

「その子、泣きそうになってたのに……『泣くなよ、簡単な問題だろ』って」

胸の奥がぎゅっと縮まる。

これはただの授業の不満じゃない。繰り返される小さな攻撃が、確実に削っている。

『……穹、そのこと、ちゃんと記録しておこう』

「記録?」

『日時と、誰が、どういう言葉を言われたか。あとで、必要になるかもしれない』

穹は一瞬だけ目を見開き、それから小さく頷いた。

「……わかりました」

窓の外では、冬の夕暮れが校舎の影を長く伸ばしていた。
その影の中で、僕は彼の“残量”を少しでも減らさないための方法を考え始めた。

友人同士で教え合ってるなら別だが
本来、“わからないこと”を教えるのが教師であり答えられなかった生徒を馬鹿にしていいわけがない。

それを“冗談”や“指導”の一言で済ませる大人ほど、
生徒が抱える痛みの深さを想像しようとしない。

『……穹、明日も同じようなことがあったら、ためらわず書いてくれ』

「でも、そんなの……先生に迷惑じゃ」

『迷惑なんかじゃない。俺は君の担任じゃないけど、
“見て見ぬふり”をする方がよっぽど迷惑な大人だ』

穹は、少しだけ笑った。
でもその笑みは、まだ薄い氷みたいに脆くて、
息を吹きかければすぐに消えてしまいそうだった。

僕は心の中で、その氷を割らせないための策を組み立てる。
明日、担任や学年主任に話すべきか、それとももう少し証拠を集めてからか。

廊下に響く下校のチャイムが、僕らを現実に引き戻した。
教室のドアを開けると、もう日はほとんど沈み、
冬の空は群青色の濃さを増している。

穹は鞄を持ち直し、小さく「じゃあ、また明日」とだけ言って、
人の少ない校舎の廊下を歩いて行った。

その背中を見送りながら、僕は自分の中で小さな決意を固めた。
――このまま放っておけば、彼の“残量”は確実にゼロになる。
それだけは、絶対にさせない。

九石さざらしの犠牲者は生徒だけじゃない気がするから明日から聞き込みをすることにした。ーー

〈第五話 聞き込み〉

ーー九石《さざらし》の犠牲者が“生徒”だけではないのでは――。

そう思った僕、向井照哉は、朝の職員室のざわめきの中で周囲を見回した。

彼の机の周りだけ、わずかに空間が空いている。

誰も近づかず、話題にも出さない。

その沈黙が、むしろ異様さを際立たせていた。

まず狙ったのは、同じ三年を担当している若手の数学教師・城田先生。

僕より二年先輩で、気さくな性格だが、今朝は顔色が冴えない。

「城田先生、ちょっと時間いいですか」
「……何?」
声のトーンが、普段より半音低い。

「九石先生の授業、最近どうです?」

質問の瞬間、城田先生の肩がわずかにこわばった。

「……やめときなよ、その話」
「でも、困ってる生徒がいるんです」
「困ってるのは生徒だけじゃない」

その言葉の重さに、僕は息を呑んだ。
やっぱり、何かある。

城田先生は周囲を一瞥し、声をさらに潜めた。
「去年、社会科の松岡先生が……九石のことを注意したんだ。そしたら急に授業の配当が減らされて、希望してた部活の顧問も外された」
「……報復ですか」
「知らない。けど、そう見えることは確かだ」

胸の奥が冷たくなる。
生徒だけでなく、教師までが萎縮させられている――。

僕は礼を言い、次の相手を探すために職員室を出た。
次は、生徒たちの信頼が厚い保健室の秋間輝あきま ひかる先生だ。

彼なら、何か知っているはずだ。

僕は冬の午後、静かな保健室の扉をノックした。
迎えてくれたのは、冷静で穏やかな雰囲気を持つ保健医、秋間輝先生。

椅子に腰かけると、秋間先生は落ち着いた声で切り出した。

「九石先生のことを聞きたいそうだね。話すべきか迷ったが、君が真剣そうなので話そう」

彼の目は冷静ながら、どこか深い憂いを帯びていた。

「九石先生は表向きは厳格な教師を装っている。だが実際には精神的な圧迫を生徒にかけ、
抵抗できない者を狙う支配的な性格だ」

「最近、彼の授業や指導で心身を壊す生徒が保健室を訪れている。泣き出す子も少なくない」

「教師の中にも苦しむ者がいる。去年、社会科の松岡先生が指摘した際、報復と思われる処置を受けている」

「さらに、彼の悪行を隠蔽しようとする勢力もあり、被害を訴えにくい環境になっているんだ」

秋間先生の言葉は重く、僕の胸を締めつけた。

「向井君のような若い教師が真剣に向き合うことは大切だ。だが校内の事情は複雑だから、十分注意して動いてほしい」

僕は深く頷いた。

『ありがとうございます。必ず真実を明らかにします』

秋間先生の信頼と冷静さに支えられ、僕の決意は固まった。

そのまま、僕は少し躊躇いながらも、自分の秘密を打ち明けた。

『実は、先生に話したいことがあります』

秋間先生は優しく僕を見つめ、促した。

「何でも話してごらん」

僕は言葉を選びながら、呼吸を整えた。

『僕には、他人の“充電”の残量が見えてしまうんです。心の元気や疲れ具合が、スマホのバッテリーのように色や数字で感じられます』

秋間先生は一瞬驚いたが、すぐに柔らかな表情に戻った。

「珍しい能力だね。でも、君がその力を使って生徒を気遣っていることがよく伝わるよ」

僕は少しほっとして言葉を続けた。

『穹君の“残量”がいつもギリギリだとわかった時、見過ごせなかった。彼の疲れや苦しみは、普通の人以上に敏感に感じ取れてしまう』

秋間先生は静かに頷いた。

「君の特別な感覚は強みだ。時には重荷かもしれないが、それがあるからこそ生徒の声を拾える。僕も医療の現場で、そうした変化を見逃さぬよう努めている」

「お互い協力して、生徒たちの居場所を守ろう」

僕は秋間先生の言葉に力をもらい、
これからの戦いに立ち向かう決意を新たにした。ーー

〈第六話 “闇の深さ”〉

ーー冬の夕暮れ。職員室の灯りがぼんやりとともる中、
僕は自分の席に戻りながら、秋間先生との話を反芻していた。

九石の悪行は、ただの生徒への圧迫だけではない。教師間にも影を落とし、
学校の空気そのものを蝕んでいる。僕の胸には、不安とともに燃えるような正義感が灯った。

その時、スマホにメッセージが届く。
画面を見ると、三年二組の生徒・柏原穹からだった。

《先生、また具合が悪くて、授業中に倒れそうでした。助けてください》

僕はすぐに返信を打つ。

『大丈夫か? 保健室に来られるか?』

返信はすぐ返ってきた。

《無理かも。教室はちょっと怖いっす》

“怖い”という言葉に、僕は胸が締めつけられた。

彼の“充電”残量は、いつも限界ギリギリなのに、その理由は九石の存在が大きい。放っておけない。

その夜、僕は秋間先生に連絡を取った。

『穹君の状況が悪化している。何とか助けたい』

秋間先生は深刻な声で応えた。

「すぐに保健室で診察しよう。だが、校内の協力者も必要だ。僕も動く」

翌日、僕たちは数名の信頼できる教師と連携を始めた。九石の悪行を裏付ける証言集めに動き出したのだ。

しかし、その動きはすぐに校内の“力”に気づかれ、監視の目が増すことにもなる。

僕は“充電”の感覚を研ぎ澄まし、警戒を強めた。

それでも、生徒と教師の安全を守るために、僕は戦い続ける覚悟を決めていた。

『真実は必ず明るみに出る』

心の中で強く誓いながら、僕は次の一歩を踏み出した。

——物語は、ここから本格的な対決のフェーズへと進んでいく。

職員室の同僚たちの“残量”は今日も半分か半分以下。

そして、僕に対する態度。

九石さざらし のことを嗅ぎ回っている僕と距離を置きたいのだろう。だが、それでよく“教師”が名乗れたものだと思う。

九石の悪行を見て見ぬふりし、彼に媚びて生き延びる選択肢は確かにある。けれど、それは堕落の道でしかない。

僕は机の上に置かれた書類に視線を落とした。そこには、九石が教員会議で提出した資料の一部が映っている。虚偽と誇張、そして細かな改ざんの痕跡が僕の目に刺さった。

“ここまでやっているのか…”

その瞬間、スマホが震えた。秋間先生からのメッセージだった。

【証言者の一人が明日、校長室前で会えると言っています。場所は秘密に。気をつけて。】

僕はすぐに返信を打った。

『わかった。必ず行く。』

深夜、家に戻っても心は休まらなかった。九石の影がどこまでも追いかけてくるようだ。

だが、揺るがない決意が僕を支えていた。

“生徒も教師も、この腐敗した闇に飲み込ませるわけにはいかない。”

翌朝、僕はいつもより早く校門をくぐった。誰にも知られず、秘密の証言者と会うために。

風が冷たく頬を刺し、空は曇っている。

“真実を掴むための一歩目だ。”

僕は心の中で自分に言い聞かせた。

ここからが、本当の戦いの始まりだった。

翌日から些細な嫌がらせが始まった。

準備していた資料や教員用の教科書を隠されたり、授業の進み具合が共有されなかったり。

やってることは子供の嫌がらせと同レベルで呆れてしまう。

だが、僕は焦らないし怯えもしない。

資料は作り直せばいいし教員がないなら独自に授業を進めるだけだ。

教室の空気はどこか違っていた。いつもは退屈そうにしている生徒たちの目が、今日は輝いている。

「照哉先生の授業、めっちゃ面白いってみんな言ってたよ」

「うん、あの例え話、わかりやすかったし、話し方も飽きさせないよね」

生徒たちの間で、照哉の授業が“楽しい”という噂が静かに広まっていた。

それは一筋の光のように、暗く重い学校の空気を少しだけ和らげていた。

だが、その噂はすぐに九石の耳にも届いた。

「ふん、面白いだと? あの奴が目立つことを許すわけにはいかん」

九石は怒りに震え、周囲の取り巻きに命じた。

翌日、照哉が教室で授業をしていると、
背後から冷たい視線を感じた。

放課後、教室の廊下で突然、照哉の背中に強い衝撃が走った。

『何をしてるんだ!』

振り返ると、そこには九石の手下がいた。無言のまま押し込まれたのは、準備していた資料の束だった。
床に散らばるプリント。挑発的な嘲笑。

しかし、照哉の瞳は揺らがなかった。

『これくらいで僕が怯むと思うなよ』

彼は静かに、しかし確固たる声で言い返した。

『生徒たちのために、正しい授業を続ける。それが僕の責任だ』

その言葉に周囲の教師や生徒たちも息を飲んだ。

照哉は負けなかった。闇に屈せず、光を灯し続ける覚悟を改めて胸に刻んだのだ。

教室の隅で見ていた生徒たちの目に、小さな希望が宿っていた。ーー

〈第七話 エスカレートする嫌がらせと照哉の入院〉

ーー照哉が生徒たちのために正しい授業を貫くと宣言したことで、
校内の闇に抵抗する強い意志を示した。しかし、九石の取り巻きの一人が
その決意を許さず、帰宅中の照哉に襲いかかり、刺されてしまう。

重傷を負った照哉は緊急入院となり、校内外に衝撃が走った。

穹は照哉のことを深く心配しながらも、
彼のお見舞いに行くべきかどうか迷い葛藤する。

そんな照哉の不在を利用して、九石側の生徒や一部の教師たちの嫌がらせは
さらにエスカレート。校内の雰囲気は一層悪化し、
生徒たちの不安と緊張が高まっていった。

照哉の闘いは続くが、彼の不在によって生まれた混乱と危険は、
やがて周囲の覚醒や支援の動きへとつながる布石となることが示唆されている。

照哉が入院してから数日が経ち、校内の空気は一層張り詰めていた。

九石側の生徒たちは授業中の妨害や嫌がらせを繰り返し、
教師陣の中にも動揺や対立が生まれていた。

そんな中、穹はずっと胸の中で揺れていた気持ちを抑えきれず、

ついに決心する。彼は親しい友人と相談し、照哉のお見舞いに行くことを決めたのだ。

病院の白い廊下で、穹は弱った照哉の姿を見つめながらも、彼の揺るがぬ意志の強さを感じ取る。照哉は微笑みながらも、「俺はまだ諦めない。君たちの未来を守るために」と語りかける。

その言葉に穹は心を奮い立たせ、再び学校へ戻って光を取り戻す決意を新たにする。

一方、学校では照哉の入院をきっかけに、彼の勇気を称えようとする生徒や教職員が少しずつ増え始めていた。闇に屈さず立ち向かう者たちの輪が静かに広がっていく。

次第に、校内の勢力図は少しずつ変わり始め、照哉の存在が大きな支えとなっていることを誰もが感じていた――。

病院の白い天井が静かに見守る中、穹は照哉の手をそっと握った。いつもは強気で、どんな困難にも動じなかった彼の顔に、少しの疲労と痛みが浮かんでいる。それでも、その目はどこまでも強く、諦めを知らない意志を映していた。

『僕は……まだ、やらなきゃならないことがある。お前たちの未来のために、絶対に負けられないんだ。』

照哉の言葉に、穹の胸の奥に眠っていた決意が激しく燃え上がる。

自分が今できることは何か——そう考えたとき、答えは一つだった。

一方、学校では照哉の入院が知られるや、校内の空気は一変していた。

かつては陰湿に続いていた嫌がらせは、少しずつ抵抗の芽吹きと交錯する。

九石の側近たちは依然として不穏な動きを見せているものの、

生徒たちの中には密かに連帯を強め、
教師陣の一部も沈黙を破り始めていた。


少人数ながらも、自分たちにできる形で照哉を支えようとする動きが起きていたのだ。

廊下でのささいな会話。教室の隅での励ましの声。

掲示板に貼られた「負けないで照哉先生」という手書きのメッセージ。

校内に散らばる小さな光が、やがて大きな波紋となり始めていた。

穹はクラスメイトの数人と話し合いを重ね、照哉の意思を継ぐべく、生徒たちの中に広がる恐怖や不安を少しでも和らげるための小さな行動を企てていた。

「怖いけど、逃げてばかりじゃダメだよね。俺たちで、この学校を変えよう。」

そんな彼の言葉に、仲間たちも心を打たれ、静かな決意が芽生えていた。

照哉の入院から一週間が過ぎるころ、学校の一角でささやかな集会が開かれた。


生徒と教職員が混ざり合い、互いに顔を見合わせ、共に闇に抗う意思を確認しあう。

「照哉先生が守ろうとしているのは、俺たち一人ひとりの未来だ。あきらめず、共に立ち上がろう。」

その言葉に場の空気は引き締まり、やがて一体感へと変わった?

校内の闇は決して消え去ったわけではない。


だが、照哉の存在がいかに大きな光となっているかを誰もが知っていた。

そして穹は、照哉の「まだ諦めない」という言葉を胸に、校舎の廊下を駆け抜けていく。

「俺たちが、この場所を変える。」

強い決意を胸に、彼は歩みを止めなかった。ーー

〈第八話 照哉の退院と反撃開始〉

ーー二週間後、照哉は無事に退院して職場復帰した。

『ただいま、みんなの未来のために戻ってきた』

・「お帰りなさい」

・「照哉先生、もう大丈夫なの?」

・「帰って来てくれたのは嬉しいけど無理しないでね」

といった生徒達の言葉に照哉は『ありがとう』と返した。

『心配ありがとうな。大丈夫、復活したからには反撃開始といこうじゃないか。

やられっぱなしは性に合わないからな』

――その言葉に、生徒たちは一瞬きょとんとした後、ニヤリと笑った。

「先生らしいですね」

「じゃあ、俺たちも作戦に参加しますよ」

「反撃って、例の件ですよね?」

照哉は軽く首を傾け、意味ありげに口角を上げた。

『さて、何のことかな。だが――このまま黙ってる気はない』

教壇に立ちながら、彼の視線は教室の奥、窓の外に向けられた。

そこには、照哉を陥れた張本人の一人が別棟の廊下を歩いているのが見える。

(覚悟しろよ。今度は俺が、仕掛ける番だ)

休み時間のチャイムが鳴ると同時に、照哉は手元のファイルを閉じ、職員室へ向かう。

その中には、生徒たちから集めた証言メモと、ある人物に関する資料がぎっしり詰まっていた。

反撃の第一手は、すでに水面下で始まっている。ーー

〈最終話 生徒の笑顔が充電器〉

ーー生徒たちの憂いを晴らすには、やはり九石をどうにかしなければいけない。

彼のように、“教育者”を盾に子供たちを追い詰める奴は

“教育者失格”どころか、“人間失格”だ。

半年後、僕は九石の悪行を徹底的に調べあげ教育委員会に提出した。

ただ、“人間失格”とはいえ、改心する機会を与えないほど
僕も非情ではないから、知人の伝手で九石を離島の高校に行かせた。

そして、卒業式、穹の充電が100%を示しているのを見て
僕は安心した。ーー〙」


「麗都、お前ね、あの、“狂気”じみた文豪BLから
いきなり“現代社会の闇”を放り込んでくるなよ」

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