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年下の友人に恋をした④
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翌年に発売される文芸誌に
掲載されることになった。
ーー
〈翌年・一月〉
数日後、書店で『年下の友人に恋をした』が
載った文芸誌を見た芥川君の奥さんの
文さんが僕の家に来た。
「文さん……
寒いですから、中へどうぞ」
僕は動悸が早くなるのを感じた。
「拝読しました。
まさか、室生さんが夫に恋慕を抱いていて、
思いを告げていたことには驚きました……」
「これは、僕の独白のようなもので……
ご遺族で奥様である文さんに
不快な思いをさせてしまったのなら
申し訳ないです……」
僕は家庭のある同性の友人に恋をした。
ご遺族で奥様である文さんからしたら夫である
芥川君が同性の友人に恋慕されていたなんて
不快かもしれない。
「驚きましたけど、
不快には思いませんでした。
芥川は家では寡黙で
会話をする人ではありませんでしたから、
これを読んでいると、色んな夫に
出会えるようで 嬉しいと思いました。」
文さんの言葉に僕は一瞬、息が止まった。
「嬉しい……ですか?」
「ー亡き人を
悼む気持ちは
皆同じー」
お茶を運んできて
ふいに呟やいた
とみ子の句に僕は苦笑した。
「確かにそうだね」
来客中でも、いつも通りに
俳句を詠むとみ子に
文さんへの緊張が少し解れた気がした。
「あの、室生さん、
また、こちらに伺ってもよいでしょうか?
生前の芥川の話を聞かせてほしいんです」
「……わかりました。
今度はお子さんたちも
ご一緒に」
そういうと文さんは僕に
ありがとうございますと頭を下げた。
「気をつけてお帰りください」
文さん見送った後も、
僕の中にはもやもやが残った。
翌週、文さんはお子さんたちを連れて再びやってきた。
まだ、小学校低学年の兄弟のうち、
上の子は僕に積極的に話しかけてくれた。
「初めまして、芥川比呂志です。
隣にいるのは上の弟の多加志で
お母さんが抱っこしているのが
下の弟の也寸志です」
比呂志君は芥川君の面影があった。
「初めまして比呂志君・多加志君、室生犀星です」
「お父さんはどんな人だったんですか?」
比呂志君は僕の目を真っ直ぐ見て訊いてきた。
「文さんが前に、家の中では寡黙だったと言っていたけれど、
僕たちと話している時に意見が合わないと
よく、怒りを抑えないで文句を言っていたよ。
後は、煙草が好きで読書の虫で三日あれば
一冊読み終えてしまう程だった。
速読に関しては文学仲間でも誰も勝てなかったよ……
そしてなにより優しくて、文学に真摯に向き合っていた」
寛君や僕とよく言い合いをしたものだ。
「お父さんが怒っているところなんて
想像できないです」
「文学に対しては一切妥協しなかったからね。
僕の作品も駄目出しされたこともあったよ」
話す声色に“愛情”が乗ってしまわないようにするのは
少々、骨が折れた。
「室生さんは、お父さんのことが好きだったんですね」
比呂志君の何気ない一言に、ドキッとした。
「そうだね、文学仲間の中では一番仲がよかったから」
平常心を保ちながら比呂志君に言った。
「俺は室生さんは、お父さんに“恋”をしていたのかと」
勘が鋭い所は芥川君似だろうか……
「何で、そう思ったんだい?」
「お父さんの話をする時の室生さんの声が温かかったので……」
小学校低学年の子供に勘づかれるとは……
「ー純粋な
子供の瞳は
誤魔化せずー」
相変わらず、とみ子の俳句は僕の心情のど真ん中をついてくる。
「……そうだよ。比呂志君の言う通り、
僕は君たちのお父さんに“恋”をしていた。
白状してしまうと僕は君たちのお父さんに
“好きです”と伝えたこともある」
相手が子供だからと誤魔化すのは違うと思った。
「お父さんはなんて?」
「僕は最後まで返事を聞かなかったんだ」
僕も芥川君も妻子がいた。
とみ子は僕の恋慕さえも受け入れてくれたけど
文さんや比呂志君・多加志君、也寸志君の生活を
壊すつもりは一切なかった。
「僕の独りよがりだったけど、
それでよかったと思ったんだ」
あの時、芥川君の答えがどっちだったとしても
答えを聞いてしまった時点で、僕と芥川君の関係は
変わっていたに違いないから。
「僕は文さんや比呂志君・多加志君、也寸志君から
芥川君を奪いたかったわけじゃなかったから
答えは聞かなくてよかったと
今でも思っているんだ。
だけど、“来世”があるなら
僕はまた、芥川君に恋をするだろうね」
比呂志君は首を傾げた。
「来世……ですか?」
「うん、輪廻転生なんて言葉があるように
人は死ねばまた、生まれ変わる」
時代が変わろうと、性別が変わろうと
名前が変わろと、僕は芥川君を
見つける自信がある。
目を瞑れば、芥川君の色々な表情が思い出せる。
僕や寛君と言い合いをしている時の
子供っぽい怒り方、 談笑に加わった時の笑い声、
文学を語る時の真剣な表情……
「もしも、室生さんが“来世”でお父さんと
出会えたら、今度はちゃんと、
答えを聞いてください」
僕は比呂志君の頭を撫でた。
「ありがとう、比呂志君」
二時間程、話して
文さんと比呂志君たちは帰って行った。
掲載されることになった。
ーー
〈翌年・一月〉
数日後、書店で『年下の友人に恋をした』が
載った文芸誌を見た芥川君の奥さんの
文さんが僕の家に来た。
「文さん……
寒いですから、中へどうぞ」
僕は動悸が早くなるのを感じた。
「拝読しました。
まさか、室生さんが夫に恋慕を抱いていて、
思いを告げていたことには驚きました……」
「これは、僕の独白のようなもので……
ご遺族で奥様である文さんに
不快な思いをさせてしまったのなら
申し訳ないです……」
僕は家庭のある同性の友人に恋をした。
ご遺族で奥様である文さんからしたら夫である
芥川君が同性の友人に恋慕されていたなんて
不快かもしれない。
「驚きましたけど、
不快には思いませんでした。
芥川は家では寡黙で
会話をする人ではありませんでしたから、
これを読んでいると、色んな夫に
出会えるようで 嬉しいと思いました。」
文さんの言葉に僕は一瞬、息が止まった。
「嬉しい……ですか?」
「ー亡き人を
悼む気持ちは
皆同じー」
お茶を運んできて
ふいに呟やいた
とみ子の句に僕は苦笑した。
「確かにそうだね」
来客中でも、いつも通りに
俳句を詠むとみ子に
文さんへの緊張が少し解れた気がした。
「あの、室生さん、
また、こちらに伺ってもよいでしょうか?
生前の芥川の話を聞かせてほしいんです」
「……わかりました。
今度はお子さんたちも
ご一緒に」
そういうと文さんは僕に
ありがとうございますと頭を下げた。
「気をつけてお帰りください」
文さん見送った後も、
僕の中にはもやもやが残った。
翌週、文さんはお子さんたちを連れて再びやってきた。
まだ、小学校低学年の兄弟のうち、
上の子は僕に積極的に話しかけてくれた。
「初めまして、芥川比呂志です。
隣にいるのは上の弟の多加志で
お母さんが抱っこしているのが
下の弟の也寸志です」
比呂志君は芥川君の面影があった。
「初めまして比呂志君・多加志君、室生犀星です」
「お父さんはどんな人だったんですか?」
比呂志君は僕の目を真っ直ぐ見て訊いてきた。
「文さんが前に、家の中では寡黙だったと言っていたけれど、
僕たちと話している時に意見が合わないと
よく、怒りを抑えないで文句を言っていたよ。
後は、煙草が好きで読書の虫で三日あれば
一冊読み終えてしまう程だった。
速読に関しては文学仲間でも誰も勝てなかったよ……
そしてなにより優しくて、文学に真摯に向き合っていた」
寛君や僕とよく言い合いをしたものだ。
「お父さんが怒っているところなんて
想像できないです」
「文学に対しては一切妥協しなかったからね。
僕の作品も駄目出しされたこともあったよ」
話す声色に“愛情”が乗ってしまわないようにするのは
少々、骨が折れた。
「室生さんは、お父さんのことが好きだったんですね」
比呂志君の何気ない一言に、ドキッとした。
「そうだね、文学仲間の中では一番仲がよかったから」
平常心を保ちながら比呂志君に言った。
「俺は室生さんは、お父さんに“恋”をしていたのかと」
勘が鋭い所は芥川君似だろうか……
「何で、そう思ったんだい?」
「お父さんの話をする時の室生さんの声が温かかったので……」
小学校低学年の子供に勘づかれるとは……
「ー純粋な
子供の瞳は
誤魔化せずー」
相変わらず、とみ子の俳句は僕の心情のど真ん中をついてくる。
「……そうだよ。比呂志君の言う通り、
僕は君たちのお父さんに“恋”をしていた。
白状してしまうと僕は君たちのお父さんに
“好きです”と伝えたこともある」
相手が子供だからと誤魔化すのは違うと思った。
「お父さんはなんて?」
「僕は最後まで返事を聞かなかったんだ」
僕も芥川君も妻子がいた。
とみ子は僕の恋慕さえも受け入れてくれたけど
文さんや比呂志君・多加志君、也寸志君の生活を
壊すつもりは一切なかった。
「僕の独りよがりだったけど、
それでよかったと思ったんだ」
あの時、芥川君の答えがどっちだったとしても
答えを聞いてしまった時点で、僕と芥川君の関係は
変わっていたに違いないから。
「僕は文さんや比呂志君・多加志君、也寸志君から
芥川君を奪いたかったわけじゃなかったから
答えは聞かなくてよかったと
今でも思っているんだ。
だけど、“来世”があるなら
僕はまた、芥川君に恋をするだろうね」
比呂志君は首を傾げた。
「来世……ですか?」
「うん、輪廻転生なんて言葉があるように
人は死ねばまた、生まれ変わる」
時代が変わろうと、性別が変わろうと
名前が変わろと、僕は芥川君を
見つける自信がある。
目を瞑れば、芥川君の色々な表情が思い出せる。
僕や寛君と言い合いをしている時の
子供っぽい怒り方、 談笑に加わった時の笑い声、
文学を語る時の真剣な表情……
「もしも、室生さんが“来世”でお父さんと
出会えたら、今度はちゃんと、
答えを聞いてください」
僕は比呂志君の頭を撫でた。
「ありがとう、比呂志君」
二時間程、話して
文さんと比呂志君たちは帰って行った。
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