学校中のアイドルな彼女は何故か俺に抱かれたいらしい

華愁

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第一話 学校中のアイドルな彼女は何故か俺に抱かれたいらしい

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俺の通う翠嵐すいらん高校は
普通科・芸能科・美術科がある。

俺は普通科に通う糯田真人 もちだまひと

世間一般では“不良”の部類だが 

何故が学校中の人気者で芸能科の煮雪璃羅にゆきりらに好かれている。

『真人君、抱いて!』

始まった……


『……おい、璃羅。お前声デカすぎんだろ』



『だって本気なんだも』

芸能科と普通科の境目の渡り廊下のど真ん中で璃羅は 
毎日、毎日、公開告白してくるが何せ、台詞が台詞だ。

『本気なら余計にこんなとこで言うな!』

俺は頭を抱えた。

こうして今日も俺の日常は、
璃羅の爆弾発言で始まるのである。

周りの視線は痛いが俺も所詮、男だから
可愛い女に “抱いて”なんて言われれば 
悪い気はしないが流石に学科を越えて
人気者の璃羅に そう易々と手は出せない。

『……で? お前、毎日俺に“抱いて”って叫んでるけど、何が狙いなんだよ?』

俺はため息をつきながら訊いた。

璃羅はつんっと顎を上げ、長い髪を揺らす。

『狙い? 決まってるでしょ。真人君が
私の“運命の人”だから』

は?

『……いや、初耳なんだけど』

『芸能科の占いの授業でね、先生が言ったの。“あなたは普通科の男子に運命を感じる”って!』

『それを真に受けんなよ!?』

……ったく。芸能科って本当にそういう授業あるのか? 

俺には理解不能だ。

だが周りの奴らはもう面白がって囃し立てる。 

「また始まったぞ!」 「いいなあ真人。抱いてって言われるとか羨ましいわ」 「俺なんか人生で一度も言われねーよ」

……やかましい。

璃羅は俺の制服の袖をちょんとつまんで、
少しだけ声を潜めた。

『……でも、本当に冗談じゃないんだよ』

『……え?』
 
璃羅の真剣で少し寂しそうな声色にドキッとした。

『芸能科って、華やかに見えるけど、
みんな裏じゃライバル同士でギスギスしてるの。

信じられる人なんていないんだよ。

だから……真人君だけは、
ちゃんと抱きしめてほしいの』

キラキラした裏にはギラギラ以上のものがあるらしい。

『卒業したら抱いてやるからそれまで我慢な』

これでとりあえず、璃羅も落ち着くだろう。

『……本当に?』

『約束だ』

俺は璃羅の右手を自分の唇に持っていき
手の甲にキスをした。

璃羅の目が一瞬、大きく見開かれた。

次の瞬間、頬がぱあっと赤く染まる。

『……や、やだ……真人君……そういうの反則……!』

『別に反則でも何でもねぇだろ。ただの“約束の証”だ』

俺は軽口を叩いたつもりだったが、

璃羅の瞳は潤んでいて、冗談で流す雰囲気じゃなかった。

芸能科の“アイドル的存在”として、
いつも舞台の上で笑ってる彼女。

でも今の璃羅は、そのどれとも違う。

俺にしか見せない“女の子の顔”をしていた。

周りで囃し立ててた奴らも、妙に静まり返っている。

空気が変わったのを察したのかもしれない。

璃羅は俺の制服の袖を握りしめたまま、ぽつりと呟く。

『……絶対だからね。裏切ったら……もう立ち直れないくらい泣いちゃうんだから』

『……分かったよ。俺だって嘘は嫌いだ』

そう答えるしかなかった。

俺は不良だの何だのと言われてるが、
こういう“真剣な目”をされたら逃げられねぇ。

──キーンコーンカーンコーン。

ホームルームを告げるチャイムが鳴り響いた。

璃羅は慌てて手を離し、
いつもの“アイドルスマイル”に戻る。

『それじゃ、また放課後ね! 真人君っ』

くるりとスカートを翻し、芸能科の校舎へと駆けていく。

残された俺は頭をガシガシ掻いた。

『……はあ。俺、卒業までに何回心臓止まるんだろうな』

──こうして、俺と学校のアイドル的彼女との、奇妙で騒がしい日々は新たな幕を開けたのだった。
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