3 / 14
第二話 煮雪璃羅の“抱いて”の真意と家庭事情
しおりを挟む
その日の放課後。
俺はコンビニ前で肉まんを片手にしていた。
『……くそ、あいつの顔が頭から離れねぇ』
昼間、あんな真剣な目で言われたら、
俺だって動揺する。
ただの茶化しじゃなかった。
璃羅にとって「抱いて」は、俺が想像してる以上に
切実な意味を持っているのかもしれない。
──ふと、背後から視線を感じた。
『真人くん』
振り返ると、そこには変装用のキャップを
目深にかぶった璃羅が立っていた。
『な、なんでコンビニなんかに……』
『撮影が早く終わったから。……
それに、少し真人くんに話したくて』
璃羅は躊躇いがちに俺の横に腰を下ろす。
買い物袋の中には、家で食べるには多すぎる弁当やパン。
『……お前、いつもこんなに買うのか?』
『うん。家に帰っても、
誰も一緒にご飯食べてくれないから』
璃羅の言葉に驚いた。
『……は?』
璃羅の声は、小さく震えていた。
『うち、母がマネージャーで……芸能活動しか見てないの。
成績も、体型も、振る舞いも
“アイドルの煮雪璃羅”じゃなきゃダメって言われる。
家族っていうより、監督と選手みたいな関係』
表ではあんなに眩しい笑顔を振りまく璃羅が、
今はすっかり弱さを隠しきれないでいる。
『だから……“抱いて”って言ってるの。
本当の私を、誰かにちゃんと受け止めて欲しいの。
真人くんしか……思い浮かばなかった』
俺は肉まんを握る手に力を込めた。
……こんなこと、笑って聞き流せる話じゃねぇ。
『……璃羅』
『なに?』
『今度から、飯は俺と一緒に食え。
毎日は無理でも、俺なら相手できる。
それから、毎日、コンビニじゃ体に悪いから
たまには飯作ってやるよ』
『……っ! ほんとに?』
璃羅の顔がぱっと明るくなる。
さっきまでの寂しげな影は、
ほんの少しだけ薄れていた。
『けど、条件がある』
『条件……?』
『“抱いて”ってのは、俺がいいって
思った時まで保留な。
卒業したらって約束はしたけど……
簡単に人に向ける言葉じゃねぇ』
璃羅は一瞬むくれたように唇を尖らせたが、
すぐに柔らかく笑った。
『……分かった。真人くんの言葉なら、ちゃんと待てる』
その笑顔は、アイドルのそれじゃなく、一人の女の子のものだった。
『いい子だ。俺はそろそろ帰るがなにかあればここに来い』
俺はレシートの裏に住所と連絡先を書いて璃羅に渡した。
『夜中でも早朝でも、何時でかまわないからな。
じゃぁ、また学校でな。気を付けて帰れよ』
『真人君、ありがとう』
その声には、さっきまでの不安や孤独が
少し溶けたような響きがあった。
俺は彼女を見送りながら、
心のどこかがじんわり温かくなるのを感じる。
コンビニを後にして歩き出すと、
背後から聞こえる小さな足音に気づいた。
振り返ると、璃羅がキャップを深くかぶったまま、
少し距離を置いてついてきていた。
『……真人くん、ちょっとだけ、一緒に歩いていい?』
その一言に、俺は自然と頷いた。
『ああ、いいよ。夜道は一人じゃ危ないしな』
並んで歩く帰り道、夜風に混じって、
コンビニの明かりが遠ざかっていく。
璃羅の肩は少し緊張していたけど、時折小さく微笑む顔を見ると、あの学校で見せる完璧な笑顔とは違う、
素の璃羅がそこにいた。
『……真人くん』
『ん?』
『なんか、少しだけ……安心した』
俺は、言葉には出さずに頷く。
その一言だけで、俺もまた、
璃羅のことを守ってやりたいと思った。
二人で歩く足音が、静かな住宅街に小さく響いていた。
ふと横目に見た璃羅は、キャップのつばを指でいじりながら、ぽつりと声を落とす。
『……こうやって歩くの、久しぶり』
『歩くのが?』
『うん。いつも車で送迎されるから。
プライベートで誰かと並んで歩くなんて……
中学生の時以来かも』
その言葉に、俺は一瞬胸が締めつけられる。
当たり前のことすら、
こいつにとっては縛られてきたんだ。
『芸能人ってのも大変だな』
『ふふ……ね。でもね、真人くんと一緒だと、
ちょっとだけ普通の女の子に戻れる気がする』
璃羅はそう言って、少しだけ俺の袖を掴んだ。
夜風に揺れる細い指先が、やけに心細そうで、でも温かかった。
『……璃羅』
『なに?』
『無理すんなよ。アイドルだろうがなんだろうが、
疲れたら弱音くらい吐いていいんだ』
俺がそう言うと、璃羅は立ち止まり、
じっと俺を見上げた。
街灯の光が彼女の瞳に映り込んで、
まるで泣きそうに見える。
『真人くん……本当に優しいね』
その声は震えていて、
でもどこか安心しきったようでもあった。
思わず俺は、璃羅の頭をぽん、と軽く叩いた。
『優しいんじゃねぇ。
ただ、お前が放っとけねぇだけだ』
璃羅は驚いたように目を見開き、
すぐに笑った。
その笑顔は、やっぱりステージの上のアイドルじゃなく、一人の女の子のものだった。
そしてその夜、璃羅の「ありがとう」が、
俺の胸にずっと残っていた。
その次の日、学校で俺と璃羅の距離感に
気づいた奴が、思わぬ噂を
流し始めることになるのだが……。
俺はコンビニ前で肉まんを片手にしていた。
『……くそ、あいつの顔が頭から離れねぇ』
昼間、あんな真剣な目で言われたら、
俺だって動揺する。
ただの茶化しじゃなかった。
璃羅にとって「抱いて」は、俺が想像してる以上に
切実な意味を持っているのかもしれない。
──ふと、背後から視線を感じた。
『真人くん』
振り返ると、そこには変装用のキャップを
目深にかぶった璃羅が立っていた。
『な、なんでコンビニなんかに……』
『撮影が早く終わったから。……
それに、少し真人くんに話したくて』
璃羅は躊躇いがちに俺の横に腰を下ろす。
買い物袋の中には、家で食べるには多すぎる弁当やパン。
『……お前、いつもこんなに買うのか?』
『うん。家に帰っても、
誰も一緒にご飯食べてくれないから』
璃羅の言葉に驚いた。
『……は?』
璃羅の声は、小さく震えていた。
『うち、母がマネージャーで……芸能活動しか見てないの。
成績も、体型も、振る舞いも
“アイドルの煮雪璃羅”じゃなきゃダメって言われる。
家族っていうより、監督と選手みたいな関係』
表ではあんなに眩しい笑顔を振りまく璃羅が、
今はすっかり弱さを隠しきれないでいる。
『だから……“抱いて”って言ってるの。
本当の私を、誰かにちゃんと受け止めて欲しいの。
真人くんしか……思い浮かばなかった』
俺は肉まんを握る手に力を込めた。
……こんなこと、笑って聞き流せる話じゃねぇ。
『……璃羅』
『なに?』
『今度から、飯は俺と一緒に食え。
毎日は無理でも、俺なら相手できる。
それから、毎日、コンビニじゃ体に悪いから
たまには飯作ってやるよ』
『……っ! ほんとに?』
璃羅の顔がぱっと明るくなる。
さっきまでの寂しげな影は、
ほんの少しだけ薄れていた。
『けど、条件がある』
『条件……?』
『“抱いて”ってのは、俺がいいって
思った時まで保留な。
卒業したらって約束はしたけど……
簡単に人に向ける言葉じゃねぇ』
璃羅は一瞬むくれたように唇を尖らせたが、
すぐに柔らかく笑った。
『……分かった。真人くんの言葉なら、ちゃんと待てる』
その笑顔は、アイドルのそれじゃなく、一人の女の子のものだった。
『いい子だ。俺はそろそろ帰るがなにかあればここに来い』
俺はレシートの裏に住所と連絡先を書いて璃羅に渡した。
『夜中でも早朝でも、何時でかまわないからな。
じゃぁ、また学校でな。気を付けて帰れよ』
『真人君、ありがとう』
その声には、さっきまでの不安や孤独が
少し溶けたような響きがあった。
俺は彼女を見送りながら、
心のどこかがじんわり温かくなるのを感じる。
コンビニを後にして歩き出すと、
背後から聞こえる小さな足音に気づいた。
振り返ると、璃羅がキャップを深くかぶったまま、
少し距離を置いてついてきていた。
『……真人くん、ちょっとだけ、一緒に歩いていい?』
その一言に、俺は自然と頷いた。
『ああ、いいよ。夜道は一人じゃ危ないしな』
並んで歩く帰り道、夜風に混じって、
コンビニの明かりが遠ざかっていく。
璃羅の肩は少し緊張していたけど、時折小さく微笑む顔を見ると、あの学校で見せる完璧な笑顔とは違う、
素の璃羅がそこにいた。
『……真人くん』
『ん?』
『なんか、少しだけ……安心した』
俺は、言葉には出さずに頷く。
その一言だけで、俺もまた、
璃羅のことを守ってやりたいと思った。
二人で歩く足音が、静かな住宅街に小さく響いていた。
ふと横目に見た璃羅は、キャップのつばを指でいじりながら、ぽつりと声を落とす。
『……こうやって歩くの、久しぶり』
『歩くのが?』
『うん。いつも車で送迎されるから。
プライベートで誰かと並んで歩くなんて……
中学生の時以来かも』
その言葉に、俺は一瞬胸が締めつけられる。
当たり前のことすら、
こいつにとっては縛られてきたんだ。
『芸能人ってのも大変だな』
『ふふ……ね。でもね、真人くんと一緒だと、
ちょっとだけ普通の女の子に戻れる気がする』
璃羅はそう言って、少しだけ俺の袖を掴んだ。
夜風に揺れる細い指先が、やけに心細そうで、でも温かかった。
『……璃羅』
『なに?』
『無理すんなよ。アイドルだろうがなんだろうが、
疲れたら弱音くらい吐いていいんだ』
俺がそう言うと、璃羅は立ち止まり、
じっと俺を見上げた。
街灯の光が彼女の瞳に映り込んで、
まるで泣きそうに見える。
『真人くん……本当に優しいね』
その声は震えていて、
でもどこか安心しきったようでもあった。
思わず俺は、璃羅の頭をぽん、と軽く叩いた。
『優しいんじゃねぇ。
ただ、お前が放っとけねぇだけだ』
璃羅は驚いたように目を見開き、
すぐに笑った。
その笑顔は、やっぱりステージの上のアイドルじゃなく、一人の女の子のものだった。
そしてその夜、璃羅の「ありがとう」が、
俺の胸にずっと残っていた。
その次の日、学校で俺と璃羅の距離感に
気づいた奴が、思わぬ噂を
流し始めることになるのだが……。
0
あなたにおすすめの小説
婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~
ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」
中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。
そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。
両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。
手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。
「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」
可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。
16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。
13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。
「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」
癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。
嘘コクのゆくえ
キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。
生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。
そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。
アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで……
次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは……
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。
作者は元サヤハピエン主義を掲げております。
アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる