学校中のアイドルな彼女は何故か俺に抱かれたいらしい

華愁

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第五話 真人の正体

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俺は璃羅を連れて家に帰った。

『え!? ここが真人君のお家!?』

璃羅が驚くのも無理ない。

俺の家は“屋敷”だ。

父親は所謂“社長”。

高い鉄門をくぐれば広い庭、奥には洋館風の本邸。

夜の外灯に照らされて、白い壁が浮かび上がる。

『……嘘……こんなの、映画の中でしか見たことない……』

璃羅はぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。

『はは、悪ぃな。俺、
普段は“ボロアパートの不良”に見えるだろ?』

『う、うん……いや、全然……想像してなかった……』

俺は苦笑しながら答えた。

父親は会社を経営する社長、
母親は昔から華やかな世界に出入りしている人間。

俺自身はその“完璧な家柄”に窮屈さを覚えて、
反発するように不良ぶっていたにすぎない。

「おかえりなさい、坊ちゃま」

玄関ホールに入ると、執事の三宅が恭しく頭を下げた。

「失礼ですが、そちらのお嬢様は?」

『煮雪璃羅、俺の恋人候補だ。

家庭に問題があって当分の間、家に泊めることしたんだ。丁重に接してくれ』

『……恋人、候補って……』

璃羅は真っ赤になって俺を見上げる。

執事の三宅は一瞬だけ目を瞬かせたが、
すぐに恭しく頭を下げた。

「かしこまりました。お嬢様──

どうぞ、当家を我が家と思ってお過ごしください」

『あ、あの……ありがとうございます……』

璃羅が小さく頭を下げた瞬間、
階段の上からドタドタと駆け下りてくる足音。

「真人、お帰り」

「お兄ちゃん、お帰りなさい」

妹の結衣と、姉の美優だ。

二人とも俺の後ろに立つ璃羅を見て、目を丸くした。

「えっ……ちょっと!? その子、誰!?」

「お兄ちゃん、まさか……」

結衣と美優が同時に俺の背後を覗き込む。

璃羅は慌てて小さく会釈した。

『あ、あの……煮雪璃羅と申します。

しばらくお世話になります……』

「きゃあああ! かわいい!」

「真人、こんな子を連れてくるなんてずるい!」

二人はキャーキャー騒ぎながら璃羅の手を取ったり、
腕を組もうとしたり。

璃羅は真っ赤になって俺の方を見上げてきた。

『ま、真人君……なんかすごい勢いで歓迎されてる……』

『気にすんな。あいつらは最初からこんな調子だ』

俺は苦笑いをした。


『……細かいことはいいだろ。とにかく今日から
璃羅はウチで保護する。
お前らも余計な詮索すんなよ』

「「はーーい♡」」

返事だけはやたら素直で、
でもニヤニヤが止まらない姉妹。

璃羅はすっかり翻弄されて、
俺の袖をぎゅっと掴んだ。

そのときだった。

「……真人」

奥の廊下から、低く響く声。

父、糯田秀臣。

そしてその隣には、上品な装いの母、糯田瑠美。

『ただいま、この子は煮雪璃羅。

母さんは知ってるだろうけど
元・伝説的アイドルの煮雪玲華の娘だが
今日から家に泊めることにしたからよろしく。

ここでは璃羅が璃羅らしく感情を出していいからな』

「真人、それはどういう意味だ?」

父さん?質問に先程のやり取りを思い出す。

『あんま、娘の璃羅の前で母親の文句を
いうのも気が引けるが煮雪玲華は“アイドル”としては
人気があったんだろうが娘を“商品”だの
“道具”としか
思ってないのは“母親”失格だと思ってる

“自殺未遂”を起こす程、璃羅は追い詰められたてんだ。

俺はその場にいたが璃羅の自殺未遂を
あえて止めなかった。もちろん、ギリギリで
助けたから今、ここに璃羅はいるわけだが』

父の顔がぴくりと動いた。

母は胸元に手を当て、
信じられないものを見るように璃羅を見つめている。

「……真人。お前は……

自殺を“止めなかった”と、今そう言ったのか」

低く重い父の声。

背筋に冷たいものが走る。

だが、俺は目を逸らさなかった。

『そうだ。俺は璃羅が苦しんでるのを見て、
 “生きるか死ぬかを決める権利さえ、
親から奪われてる”って思った。

 だから、あえて止めなかった。』

璃羅が小さく震える。

俺はその手を取り、強く握り返した。

『だけど……あの瞬間、璃羅は生きる方を選んだ。

 自分で選んだんだ。 だから俺は命がけで助けた。

 俺にできるのは、その選択を背負って
一緒に歩くことだけだ。』

父は険しい目で俺を見据え、沈黙した。
屋敷の空気が張り詰める。

母・瑠美が一歩前に出て、
璃羅の肩にそっと触れた。

「……璃羅さん。あなた、玲華さんの娘さんね。

あの方がどんな人間か、私はよく知っているわ」

璃羅の唇が震える。

「玲華さんは“輝き”を持っていた。

でもね、同時に……彼女はいつも、自分の欲しいものしか見ていなかった。

家族や子どもの声に耳を傾ける人じゃなかった。

──だから、あなたの苦しみは分かる気がする」

璃羅の目に、涙がにじむ。

母の言葉に、璃羅は堪えていた涙をこぼした。
ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝い、必死に袖で拭おうとする。

『……ごめんなさい……ごめんなさい……』

璃羅は何度も頭を下げようとした。
だが、その肩を母が両手で支えた。

「謝らなくていいのよ。

あなたは何も悪くない。

――悪いのは、大人たちの身勝手。

そして、あなたを“商品”としか
見なかった玲華さんの方」

璃羅は小刻みに震え、言葉を失った。

俺はそっとその背に手を添えた。

父は険しい表情を崩さぬまま、重く口を開いた。

「真人……お前の言い分は理解した。

だがな、“止めなかった”という言葉は軽くはない。

命を賭けるというのは、そういうことだ」

『……わかってる。

でも俺は、その場で“璃羅の意志”を信じた。

俺が勝手に救ったんじゃ、
結局また縛りになるだけだから』

俺の言葉に、父の目が鋭く光った。

しかし、それ以上は何も言わなかった。

ただ、深く息を吐き、背を向ける。

「……好きにしろ。

ただし、家に迎え入れた以上は、
我が糯田家の名を背負うことを忘れるな」

低く響く声だけを残し、父は執務室へと去っていった。

静まり返ったホールに、母の柔らかな声だけが残る。

「璃羅さん、ここでは“役”を演じる必要はないの。

泣いても怒ってもいい。

……真人が言った通り、ありのままのあなたでいなさい」

璃羅は涙に濡れた顔を上げ、かすかに笑った。

『……ありがとうございます……』

その笑みは弱々しいが、確かに璃羅自身のものだった。

俺はその手を握りしめながら、心の中で強く誓った。

――俺が必ず、璃羅を守る。
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