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第八話 嫌がらせ
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婚約の発表から数日。
最初はただの冷やかしや視線だけだった。
(……また、見られてる)
廊下を歩くだけで、誰かの視線が突き刺さる。
背中にひそひそ声。笑い声。
聞こえないふりをしても、はっきりと耳に入ってくる。
「どうしてあの子が真人君と」
「ありえないよね」
机の中に入れておいた筆箱が、
勝手に床に捨てられていた。
体育館で使うシューズには、泥が詰められていた。
(……きっと偶然じゃない)
胸がぎゅっと苦しくなる。
でも、誰かに言えば「被害妄想だ」と
笑われるかもしれない。
それに、こんなこと、真人君に心配をかけたくない。
(私が弱いだけ……? 耐えなきゃ)
そう思って、笑顔をつくって、何でもないふりをする。
けれど放課後の帰り道。
下駄箱を開けると、
中に小さな紙が折り畳まれていた。
震える手でそれを広げる。
――「真人君に相応しくない。消えろ」
足がすくんだ。目の前がにじんだ。
(どうして……私、そんなに間違ってるの?)
涙をこらえて外に出ると、
校門の前で真人が待っていた。
彼の姿を見た瞬間、張りつめていた心が
ほどけそうになる。
『璃羅、遅かったな』
『……うん、ごめん』
声が震えるのを悟られないように、
下を向いて答える。
けれど彼の優しい笑顔を見たら、
胸がいっぱいになってしまった。
(言いたい。助けてって……でも、まだ言えない)
璃羅はただ、真人の隣に並んで歩き出した。
彼の温もりを感じることで、
かろうじて自分を保ちながら。
翌日もその翌日も私への嫌がらせは
エスカレートしていった。
そして、嫌がらせされ始めてから一週間、
とうとう実害が起きた。
普通科の女子生徒数名に
人気のない所に連れて行かれた。
人気のない裏庭。
風に揺れる木々のざわめきだけが響く。
(……ここ、誰も来ない……)
背中を押され、壁に追い詰められた。
目の前には普通科の女子生徒たち三人。
笑っているのに、その目は全然笑っていなかった。
「ねぇ、どうして真人君に近づいたの?」
「勘違いしてるよね。あんたなんかが
隣に立てるわけないじゃん」
「そうそう。似合ってないんだよ」
冷たい言葉が容赦なく降りかかる。
声を出そうとしても喉がつまって、言葉が出てこない。
「婚約者? 本気で言ってんの? 信じられない」
「どうせすぐ捨てられるよ。
だから今のうちに離れなよ」
誰かが私の鞄を奪い、地面に投げ捨てる。
中身が散らばり、ノートや教科書が泥で汚れた。
(やめて……やめて……!)
必死に拾おうとしゃがみ込んだ瞬間――
『おい、何してんだ』
低い声が響いた。
全員が振り返る。そこに立っていたのは、真人だった。
「ま、真人君……!」
女子たちの顔色が変わる。
「……っ」
彼は一歩、二歩と近づいてきて、
私の腕をそっと引き上げた。
散らばった荷物を拾いながら、
冷たい目で女子たちを見渡す。
『俺の婚約者に手ぇ出すな』
その一言に、空気が凍りついた。
女子たちは気まずそうに目を逸らし、
何も言わずに走り去っていった。
残された私は、震える手で教科書を抱きしめる。
『璃羅、大丈夫か』
『……っ、ごめん……』
言った瞬間、堰を切ったように涙がこぼれ落ちた。
止められない嗚咽。
真人は黙って、私を抱き寄せた。
「謝るのは俺の方だ。
俺がもっと早く気づいてれば……」
耳元に落ちる彼の声が温かくて、
ようやく少しだけ呼吸ができた。
(助けてって、言えなかった。でも……やっと言える)
『こわかった……』
小さな声でそう漏らした瞬間、
彼の腕の力が強くなった。
『もう絶対に、璃羅をひとりにしない』
その言葉に、胸の奥の凍りついたものが、
少しずつ溶けていった。
――けれど、この出来事は序章に過ぎなかった。
嫌がらせは、次の段階へと移ろうとしていた。
最初はただの冷やかしや視線だけだった。
(……また、見られてる)
廊下を歩くだけで、誰かの視線が突き刺さる。
背中にひそひそ声。笑い声。
聞こえないふりをしても、はっきりと耳に入ってくる。
「どうしてあの子が真人君と」
「ありえないよね」
机の中に入れておいた筆箱が、
勝手に床に捨てられていた。
体育館で使うシューズには、泥が詰められていた。
(……きっと偶然じゃない)
胸がぎゅっと苦しくなる。
でも、誰かに言えば「被害妄想だ」と
笑われるかもしれない。
それに、こんなこと、真人君に心配をかけたくない。
(私が弱いだけ……? 耐えなきゃ)
そう思って、笑顔をつくって、何でもないふりをする。
けれど放課後の帰り道。
下駄箱を開けると、
中に小さな紙が折り畳まれていた。
震える手でそれを広げる。
――「真人君に相応しくない。消えろ」
足がすくんだ。目の前がにじんだ。
(どうして……私、そんなに間違ってるの?)
涙をこらえて外に出ると、
校門の前で真人が待っていた。
彼の姿を見た瞬間、張りつめていた心が
ほどけそうになる。
『璃羅、遅かったな』
『……うん、ごめん』
声が震えるのを悟られないように、
下を向いて答える。
けれど彼の優しい笑顔を見たら、
胸がいっぱいになってしまった。
(言いたい。助けてって……でも、まだ言えない)
璃羅はただ、真人の隣に並んで歩き出した。
彼の温もりを感じることで、
かろうじて自分を保ちながら。
翌日もその翌日も私への嫌がらせは
エスカレートしていった。
そして、嫌がらせされ始めてから一週間、
とうとう実害が起きた。
普通科の女子生徒数名に
人気のない所に連れて行かれた。
人気のない裏庭。
風に揺れる木々のざわめきだけが響く。
(……ここ、誰も来ない……)
背中を押され、壁に追い詰められた。
目の前には普通科の女子生徒たち三人。
笑っているのに、その目は全然笑っていなかった。
「ねぇ、どうして真人君に近づいたの?」
「勘違いしてるよね。あんたなんかが
隣に立てるわけないじゃん」
「そうそう。似合ってないんだよ」
冷たい言葉が容赦なく降りかかる。
声を出そうとしても喉がつまって、言葉が出てこない。
「婚約者? 本気で言ってんの? 信じられない」
「どうせすぐ捨てられるよ。
だから今のうちに離れなよ」
誰かが私の鞄を奪い、地面に投げ捨てる。
中身が散らばり、ノートや教科書が泥で汚れた。
(やめて……やめて……!)
必死に拾おうとしゃがみ込んだ瞬間――
『おい、何してんだ』
低い声が響いた。
全員が振り返る。そこに立っていたのは、真人だった。
「ま、真人君……!」
女子たちの顔色が変わる。
「……っ」
彼は一歩、二歩と近づいてきて、
私の腕をそっと引き上げた。
散らばった荷物を拾いながら、
冷たい目で女子たちを見渡す。
『俺の婚約者に手ぇ出すな』
その一言に、空気が凍りついた。
女子たちは気まずそうに目を逸らし、
何も言わずに走り去っていった。
残された私は、震える手で教科書を抱きしめる。
『璃羅、大丈夫か』
『……っ、ごめん……』
言った瞬間、堰を切ったように涙がこぼれ落ちた。
止められない嗚咽。
真人は黙って、私を抱き寄せた。
「謝るのは俺の方だ。
俺がもっと早く気づいてれば……」
耳元に落ちる彼の声が温かくて、
ようやく少しだけ呼吸ができた。
(助けてって、言えなかった。でも……やっと言える)
『こわかった……』
小さな声でそう漏らした瞬間、
彼の腕の力が強くなった。
『もう絶対に、璃羅をひとりにしない』
その言葉に、胸の奥の凍りついたものが、
少しずつ溶けていった。
――けれど、この出来事は序章に過ぎなかった。
嫌がらせは、次の段階へと移ろうとしていた。
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