室生犀星の後悔

華愁

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第十四話 芥川比呂志の勘と父と二人で話す夜❬芥川龍之介視点❭

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「父さん、今、大丈夫?」            
            
文も下の子供たち二人も寝た後、
長男の比呂志が書斎に来た。    
        
「比呂志、どうしたんだい?」            
            
「父さん、今、“恋人”がいるんでしょう?

その人は室生さんだよね?」          
          
まさか、比呂志に気付かれているとは
思ってなかったけど          
よくよく思い出してみれば          
比呂志は小さい頃から“勘”がよかった。          
          
「そうだよ。僕は犀星君を愛してる。

もちろん、比呂志たち家族のことも愛してるけど……

なんていうかな……“種類”が違うって言えばいいのかな……」        
        
真剣に僕を見る目はもう、子供ではなかった。        
        
「やっぱり、そうなんだね。

少し前までの父さんは“虚無”って感じで
危うげだったけど、ここ最近は
“生き生き”してるし、母さんには
言えないだろうけど、父さんが“生きて”いて
くれるなら        室生さんといてもいいと思ってる。

俺は父さんの味方だよ」    
    
本当に九歳なんだろうか。    
    
いや、あの頃の僕が頼りなかったから
必然的にしっかりするしかなかったんだね。

「一つ、聞いてもいい?室生さんの奥さんは
父さんとのことどう思ってるの?」

普通に気になるよな。

「犀星君の奥さんのとみ子さんは
容認してくれているよ。」

「そうなんだね。俺は父さんが幸せならいいと思う。

ただ、父さんが他の人に“甘えてる”所をみたら嫉妬するかも」

僕はちょっと笑いそうになりながら
比呂志の頭を撫でた。

「確かに僕は犀星君の恋人だけど
文や比呂志たちの家族だから絶対に
蔑ろにしないよ。

ただ、犀星君は“生きる糧”で“心の支え”なんだ。」

犀星君がいるから僕は頑張れる。

現実に戻ることができる。

「そっか、父さんが幸せなら俺も嬉しいよ。

室生さんの所は父さんの“帰る場所”なんだね」

本当に見抜かれてる。

「ねぇ父さん、室生さんのこと教えよ」

まさか、比呂志が犀星君のことを
知りたがるとは思わなかった。

「犀星君は、元は文学仲間だった。

だけど、ある日、犀星君が泣きながら
僕に“生きてほしい”って言ったんだ。

それから、文には悪いと思っていたけど
僕もずっと前から犀星君を愛してた。」

一度、言葉を切り、深呼吸をしてから
僕は再度、話し出した。

「犀星君から“恋文”をもらったんだ。

それを読んで、僕は“恋人”になる決意をした。」

静かにそう言葉を結ぶと
比呂志はじっと僕の目を見つめてきた。

その瞳は幼さと、大人びた鋭さが同居していた。

「……父さん、その時、怖くなかったの?」

「怖かったよ。ものすごく。

文や君たちのことを裏切るんじゃないかって、
胸が張り裂けそうだった。

でも……同時に、犀星君の存在がなければ
僕は“生きて”いられなかった。

だから、彼を選んだというより、
彼に“生かされた”んだと思う」

「……なるほどね」

比呂志は腕を組み、少しだけ大人のように頷いた。

「父さん、俺ね……母さんには絶対言わないよ。

でも、父さんが室生さんと会う時、
ちゃんと“生きて”帰ってくるならそれでいい。

俺は、父さんがいなくなる方が一番怖いから」

九歳の子供の口から出る言葉じゃない。
僕は胸が詰まり、比呂志を抱きしめた。

「比呂志……ありがとう。

君にそんなことを言わせるなんて、
僕は情けない父親だ」

「違うよ。俺は父さんの子供だから、
自然とわかるんだと思う。

父さんが笑ってると、家の空気が柔らかくなるんだよ。
だから、父さんには笑っててほしい」

その言葉は、何よりもの救いだった。

犀星君の存在が僕を生かし、
比呂志の存在が僕を“父親”にしてくれる。

「……比呂志、本当にありがとう」

息子は少し照れくさそうに笑ったあと、
「じゃあ、父さん。今度、室生さんに会わせてよ」と言った。

その無邪気で真剣な一言に、僕は驚きと同時に、
心の奥底から温かいものが込み上げてきた。
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