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第十五話 息子・比呂志と恋人・犀星君との対面❬芥川龍之介視点❭
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犀星君に会ってみたいという比呂志を連れて翌日、室生家を訪れた。
「龍之介君、“お帰り”。
今日は比呂志君を連れきたんだね。おはよ、比呂志君」
「室生さん、おはようございます。」
「流石、龍之介君と文さんの子だね。しっかりしてる」
犀星君は笑顔を比呂志に向けて話している。
自分の息子に嫉妬するのも
どうかと思うけど、ちょっと面白くない。
「父さん、俺にまで嫉妬してどうすんだよ、まったく。
すみません、室生さん。
少々、面倒な父ですが、
“恋人”として見放さないであげてください」
比呂志から“恋人”という言葉が出てきたことに
犀星君も驚いたようだ。
「俺は、どんな形であれ、
父さんが“生きて”いてくれるなら、
それだけでいいんです。」
「比呂志君には少し、難しいかもしれないけど、
僕は龍之介君を心からというより魂で愛してる。
僕は龍之介君との出会いを“運命”だと思っている。
龍之介君は僕の“生きる意味”そのものだから」
比呂志は犀星君の言葉を噛みしめるように
思案してから言った。
「“魂”って、凄い大きくて重い言葉ですね。
でも、それほど、父さんを思ってくれる人が
いるなら、父さんも、もう、あの時みたいに
“死にたい”とは思えないね」
僕は九歳の息子になんてことを言わせているんだ……
「ずっと、心配だったんです。父さんは母さんや
俺たちの前では笑っていましたけど、危うげでした。
次、起きたら、もしかしたら、父さんは
死んでしまっているかもしれないと思うほどに。
ですが、室生さんのお家に行くようになってからは、
生き生きしていて、明るくなりました。
なので、母さんには少し悪いですが、
これからも、父さんをよろしくお願いします」
僕が弱ってた頃、家を支えてくれたのは
間違いなく比呂志だった。
「もちろん、母さんは母さんで大切ですが
父さんにも“生きて”いてほしいんです。
それが、室生さんの側でもいいと
俺は思っているんです」
「比呂志君、僕にとって龍之介君は
“生き甲斐”で“生きる糧”で
何よりも“愛しい人”なんだ。
そしてね、僕の執筆活動の根底もまた、
龍之介君在ってこそなんだよ。
それから、龍之介君も比呂志君も
“父親”だからとか“子供”だからとか
役割なんて考えなくていいんだよ。
“家族”は支え合うものなんだから」
犀星君は僕たち二人を包み込むように
優しく微笑んだ。
本当に犀星君には敵わない。
「でも、俺まで室生さんに懐いたら
母さんが寂しがりそうです」
僕も文のことが頭を過った。
「そうかもしれないね、文さんにはまだ、話せないけど
僕は“芥川家”全員を家族と思ってる」
犀星君の言葉をそのまま解釈するなら……
それは、文や多加志、それから也寸志も
家族だと言ってることになる。
「それは、母さんや弟たちも
室生さんの家族ってことですか?」
比呂志の質問に犀星君はなんの躊躇いもなく言った。
「そうだよ。僕は龍之介自身を愛してるけど、
龍之介君の家族もまた、愛してる」
「俺も室生さんみたいな懐の広い大人になりたいです」
息子の言葉に僕は驚いた。
「本当にそう思ったのかい?」
僕が聞き返すと比呂志は力強く頷いた。
「ありがとう、比呂志君。
その気持ちを忘れなければ、大丈夫だよ」
犀星君は比呂志の頭を撫でながら微笑んだ。
「室生さんは二人目の父さんですね」
犀星君も比呂志の言葉に驚いたらしい。
「二番目の父さん?」
犀星君が目を見開いている中、比呂志が更に爆弾発言をした。
台所にいたとみ子さんに訊いた。
「二番目の母さんって呼んでもいいですか?」
僕は口に含んでいたお茶を噴き出しそうになった。
「あらまぁ、私が比呂志君の二番目の母さん?
それは、文さんに悪いわ」
とみ子さんは苦笑を浮かべながらも口元は笑っていた。
「確かに母さんは一人ですけど、室生さんが“芥川家”全員を
“家族”と言ってくれましたし、室生さんが二番目の父さんなので
奥さんのとみ子さんは二番目の母さんに
なってくれたら嬉しいなと思ったんです」
少し逡巡した後、とみ子さんは眉尻を下げ比呂志に言った。
「そういうことなら……そう呼んでくれて構わないわ」
犀星君は僕の手を握って微笑んだ。
「比呂志君は本当に素直でいい子だね。
龍之介君に似たんだね。
〚最中の君も、とっても素直だもんね〛」
最後、耳元で囁かれた言葉に僕は顔が熱くなるのを感じた。
ちょっ、犀星君のバカ!! 聞こえないとはいえ
子供の前でなんてことを囁くんだ……!!
照れる僕を見て、犀星君はニヤリと笑った。
「龍之介君、顔が真っ赤だね。可愛い」
本当に、時々、いじわるなんだから……
「犀星君!!」
僕が犀星君を咎めると比呂志が笑った。
「照れて焦ってる父さんなんて、初めてみた。
やっぱり、室生さんの前では素直になれるんだね」
息子の言葉に益々、顔が火照った。
「父さんの楽しそうな姿を見られて、俺は嬉しい。
室生さん、ありがとうございます」
「僕も龍之介君が笑ってくれるのは嬉しいからね」
犀星君は僕を抱き寄せた。
「ちょっ……犀星君……比呂志の前で……」
息子の前で恋人に抱き締められるというのは些か恥ずかしい。
「父さんの“初めての顔”が見られて、俺は嬉しいんだよ」
僕は返す言葉を失った。
比呂志の前でこんなに赤面して、
言葉を詰まらせる自分なんて、想像もしなかった。
犀星君はゆっくりと僕を離し、比呂志の方に顔を向けた。
「比呂志君……お父さんは本当は、少し不器用なんだ。
けどね、こうして素直に気持ちを出してくれる時の龍之介君は、
とても愛しいんだよ」
「……うん、わかります。父さんって普段は頑固だけど、
室生さんの前では柔らかい顔になるから」
比呂志はまるで大人びた口調で言いながら、どこか安心したように笑った。
「だから俺は、父さんがこうやって誰かに支えてもらえるのを見られて、
ほっとするんです」
その言葉に、胸の奥が締めつけられるようだった。
――比呂志は、僕の危うさをこんなにも感じ取っていたのか。
犀星君が僕の手を握り、しっかりと温もりを伝えてくれる。
「龍之介君、もう一人で抱えなくていいんだよ。僕もいるし、
比呂志君もいる。支え合えばいいんだから」
僕はようやく視線を息子に戻し、言葉を絞り出した。
「……比呂志。今まで心配かけて、すまなかったね」
比呂志は力強く首を振った。
「違うよ。父さんがここにいてくれるだけで、俺は嬉しいんだ」
その言葉に、熱いものが瞼の裏に滲んだ。
――僕は、こんなにも愛されている。
犀星君からも、息子からも。
犀星君は、静かに笑った。
「こうしてみんなで笑い合えるなら、きっとこれからも大丈夫だね」
僕は頷き、比呂志と犀星君を交互に見ながら、胸の奥で強く誓った。
――もう二度と、死にたいなんて思わない。
この温もりを、絶対に手放さない。
「ありがとう、比呂志。ありがとう、犀星君」
そう口にした瞬間、僕は自分でも気づかぬほど、
安らかな微笑みを浮かべていた。
「龍之介君、“お帰り”。
今日は比呂志君を連れきたんだね。おはよ、比呂志君」
「室生さん、おはようございます。」
「流石、龍之介君と文さんの子だね。しっかりしてる」
犀星君は笑顔を比呂志に向けて話している。
自分の息子に嫉妬するのも
どうかと思うけど、ちょっと面白くない。
「父さん、俺にまで嫉妬してどうすんだよ、まったく。
すみません、室生さん。
少々、面倒な父ですが、
“恋人”として見放さないであげてください」
比呂志から“恋人”という言葉が出てきたことに
犀星君も驚いたようだ。
「俺は、どんな形であれ、
父さんが“生きて”いてくれるなら、
それだけでいいんです。」
「比呂志君には少し、難しいかもしれないけど、
僕は龍之介君を心からというより魂で愛してる。
僕は龍之介君との出会いを“運命”だと思っている。
龍之介君は僕の“生きる意味”そのものだから」
比呂志は犀星君の言葉を噛みしめるように
思案してから言った。
「“魂”って、凄い大きくて重い言葉ですね。
でも、それほど、父さんを思ってくれる人が
いるなら、父さんも、もう、あの時みたいに
“死にたい”とは思えないね」
僕は九歳の息子になんてことを言わせているんだ……
「ずっと、心配だったんです。父さんは母さんや
俺たちの前では笑っていましたけど、危うげでした。
次、起きたら、もしかしたら、父さんは
死んでしまっているかもしれないと思うほどに。
ですが、室生さんのお家に行くようになってからは、
生き生きしていて、明るくなりました。
なので、母さんには少し悪いですが、
これからも、父さんをよろしくお願いします」
僕が弱ってた頃、家を支えてくれたのは
間違いなく比呂志だった。
「もちろん、母さんは母さんで大切ですが
父さんにも“生きて”いてほしいんです。
それが、室生さんの側でもいいと
俺は思っているんです」
「比呂志君、僕にとって龍之介君は
“生き甲斐”で“生きる糧”で
何よりも“愛しい人”なんだ。
そしてね、僕の執筆活動の根底もまた、
龍之介君在ってこそなんだよ。
それから、龍之介君も比呂志君も
“父親”だからとか“子供”だからとか
役割なんて考えなくていいんだよ。
“家族”は支え合うものなんだから」
犀星君は僕たち二人を包み込むように
優しく微笑んだ。
本当に犀星君には敵わない。
「でも、俺まで室生さんに懐いたら
母さんが寂しがりそうです」
僕も文のことが頭を過った。
「そうかもしれないね、文さんにはまだ、話せないけど
僕は“芥川家”全員を家族と思ってる」
犀星君の言葉をそのまま解釈するなら……
それは、文や多加志、それから也寸志も
家族だと言ってることになる。
「それは、母さんや弟たちも
室生さんの家族ってことですか?」
比呂志の質問に犀星君はなんの躊躇いもなく言った。
「そうだよ。僕は龍之介自身を愛してるけど、
龍之介君の家族もまた、愛してる」
「俺も室生さんみたいな懐の広い大人になりたいです」
息子の言葉に僕は驚いた。
「本当にそう思ったのかい?」
僕が聞き返すと比呂志は力強く頷いた。
「ありがとう、比呂志君。
その気持ちを忘れなければ、大丈夫だよ」
犀星君は比呂志の頭を撫でながら微笑んだ。
「室生さんは二人目の父さんですね」
犀星君も比呂志の言葉に驚いたらしい。
「二番目の父さん?」
犀星君が目を見開いている中、比呂志が更に爆弾発言をした。
台所にいたとみ子さんに訊いた。
「二番目の母さんって呼んでもいいですか?」
僕は口に含んでいたお茶を噴き出しそうになった。
「あらまぁ、私が比呂志君の二番目の母さん?
それは、文さんに悪いわ」
とみ子さんは苦笑を浮かべながらも口元は笑っていた。
「確かに母さんは一人ですけど、室生さんが“芥川家”全員を
“家族”と言ってくれましたし、室生さんが二番目の父さんなので
奥さんのとみ子さんは二番目の母さんに
なってくれたら嬉しいなと思ったんです」
少し逡巡した後、とみ子さんは眉尻を下げ比呂志に言った。
「そういうことなら……そう呼んでくれて構わないわ」
犀星君は僕の手を握って微笑んだ。
「比呂志君は本当に素直でいい子だね。
龍之介君に似たんだね。
〚最中の君も、とっても素直だもんね〛」
最後、耳元で囁かれた言葉に僕は顔が熱くなるのを感じた。
ちょっ、犀星君のバカ!! 聞こえないとはいえ
子供の前でなんてことを囁くんだ……!!
照れる僕を見て、犀星君はニヤリと笑った。
「龍之介君、顔が真っ赤だね。可愛い」
本当に、時々、いじわるなんだから……
「犀星君!!」
僕が犀星君を咎めると比呂志が笑った。
「照れて焦ってる父さんなんて、初めてみた。
やっぱり、室生さんの前では素直になれるんだね」
息子の言葉に益々、顔が火照った。
「父さんの楽しそうな姿を見られて、俺は嬉しい。
室生さん、ありがとうございます」
「僕も龍之介君が笑ってくれるのは嬉しいからね」
犀星君は僕を抱き寄せた。
「ちょっ……犀星君……比呂志の前で……」
息子の前で恋人に抱き締められるというのは些か恥ずかしい。
「父さんの“初めての顔”が見られて、俺は嬉しいんだよ」
僕は返す言葉を失った。
比呂志の前でこんなに赤面して、
言葉を詰まらせる自分なんて、想像もしなかった。
犀星君はゆっくりと僕を離し、比呂志の方に顔を向けた。
「比呂志君……お父さんは本当は、少し不器用なんだ。
けどね、こうして素直に気持ちを出してくれる時の龍之介君は、
とても愛しいんだよ」
「……うん、わかります。父さんって普段は頑固だけど、
室生さんの前では柔らかい顔になるから」
比呂志はまるで大人びた口調で言いながら、どこか安心したように笑った。
「だから俺は、父さんがこうやって誰かに支えてもらえるのを見られて、
ほっとするんです」
その言葉に、胸の奥が締めつけられるようだった。
――比呂志は、僕の危うさをこんなにも感じ取っていたのか。
犀星君が僕の手を握り、しっかりと温もりを伝えてくれる。
「龍之介君、もう一人で抱えなくていいんだよ。僕もいるし、
比呂志君もいる。支え合えばいいんだから」
僕はようやく視線を息子に戻し、言葉を絞り出した。
「……比呂志。今まで心配かけて、すまなかったね」
比呂志は力強く首を振った。
「違うよ。父さんがここにいてくれるだけで、俺は嬉しいんだ」
その言葉に、熱いものが瞼の裏に滲んだ。
――僕は、こんなにも愛されている。
犀星君からも、息子からも。
犀星君は、静かに笑った。
「こうしてみんなで笑い合えるなら、きっとこれからも大丈夫だね」
僕は頷き、比呂志と犀星君を交互に見ながら、胸の奥で強く誓った。
――もう二度と、死にたいなんて思わない。
この温もりを、絶対に手放さない。
「ありがとう、比呂志。ありがとう、犀星君」
そう口にした瞬間、僕は自分でも気づかぬほど、
安らかな微笑みを浮かべていた。
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