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第二十二話 作家仲間への報告❬芥川龍之介視点❭
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僕と犀星君は、寛や萩原朔太郎君、中野重治君など、
親しい友人たちを室生家に招いた。
「なんだ、結局、付き合うことにしたのか。おめでとさん」
最初から寛にはバレバレだったようだ……。
「どういうこと!?」
真逆の反応を示した朔太郎君に、僕は説明する。
「僕と犀星君は“恋仲”なんだよ」
その言葉と同時に、犀星君が僕を抱き寄せる。
「芥川が“女役”か」
寛がからかってくるが、間違ってはいない。
されるがままの僕は、素直に肯定するしかなかった。
「……そうだよ」
実際、僕は“抱かれる側”なのだ。
「やっぱりな。芥川は、普段はつんけんしてるくせに、
色恋事になると素直なんだよな」
「寛!!」
学生時代からの友人は、やっぱり厄介だ。
「悪い悪い。
それより、比呂志の文学賞、受賞おめでとう、芥川」
「ありがとう、寛。
まぁ、僕の息子で、犀星君の弟子だからね」
とはいえ、あの時のことだけは忘れられない。
「龍之介君、まだ、僕が比呂志君を庇って
怪我した時のことを気にしてるのかい?
“家族”を守るのは当たり前じゃないか。
二週間仕事できなかったくらいで大袈裟だな」
犀星君がいなければ、比呂志は大怪我をしていたかもしれない。
「もしかして、この前の新聞に載ってた記事って……」
中野君が少し言いにくそうに訊いてきた。
「そうだよ。僕が比呂志君を庇って怪我をしたんだ。
刺されたのが右腕だったから、二週間くらい仕事ができなかったけど、
それだけの話さ。
あの事件の概要はね――
文学賞で最終選考に比呂志君と残った男が、
自分が落選したことに逆上して比呂志君を
襲ってきたのを、僕が庇ったというわけさ」
比呂志も犀星君も、大事には至らなかった。
けれど、一歩間違えば二人とも失っていたかもしれない、
と思うと心が冷えていくようだった。
「犯人の言い分は、
【自分は三十年間書いてきたのに、
子供の比呂志君が受賞したことが気に入らない】
ってことだった」
犀星君の話に、
寛も朔太郎君も中野君も眉をひそめた。
「今回の文学賞は、俺も審査員の一人だったけど、
応募作品の中で老若男女、年齢関係なく、
比呂志の作品が一番だった。
俺を含めた審査員全員の意見さ」
僕は比呂志の作品を取りに行き、二人に見せた。
「これを九歳の子供が書いたとは凄いですね。
受賞したのも納得です。
確かに、嫉妬するのはわからなくもないですが、
“暴力”は駄目です」
比呂志の作品を読んだ中野君 は感嘆の声をあげた。
「僕も中々、売れなかったから、
その男の気持ちは少なからずわかる。
犀や芥川君の才能に嫉妬しなかったといえば
嘘になるけど、“暴力”に走ろうとは思わなかったな」
朔太郎君はため息を吐いた。
「普通は“文学”で負けたなら、
また“文学”で闘うしかないものを
“暴力”や”刃物“でなんて言語道断だ」
寛の声色は怒気が含まれていた。
「まぁ、一ヶ月も前のことだし、僕も今は
普通に仕事してるからあの時の話しは終わりだよ」
犀星君が締めくくった。
「ほら、龍之介君もいつまでも落ち込まないで。
〚皆の前で口づけしようか?〛」
耳元で囁かれて僕は目に見えて赤面した。
また、“意地悪な犀星君”が顔を出した。
「芥川先生は照れ屋なんですね」
中野君の言葉に益々、赤面してしまった。
「そ、そんなことはない……」
「龍之介君の嘘つき」
犀星君は僕の顎を持ち上げ、何の前触れもなく口づけをした。
「犀星君!!」
皆の前で口づけられて恥ずかしくなって犀星君の肩口に顔を寄せた。
「犀星君のバカ……」
僕たちのやり取りを見て、寛は大笑いし、朔太郎君は目を見開いて
中野君は微笑みながらクスッと笑った。
「“龍之介君バカ”なら、大歓迎だよ」
犀星君はまた、僕をからかってくる。
「……もう、好きに言ってくれ」
肩口に顔を埋めながら、僕は小さくつぶやいた。
「ははは、いいじゃないか。
こうして腹を割って見せ合える仲間がいるってことは、ありがたいことだ」
寛は盃を掲げ、皆に酒を勧めた。
「僕は……少し驚いたけれど」
朔太郎君は視線を伏せた。
「羨ましい、とも思う。愛を得るということは、文学以上に難しいことだから」
「朔さん、難しく考えすぎですよ」
中野君が笑った。
「愛も文学も、掴みにいく人のところにしか来ないんです。
芥川先生と室生先生は、それを選んだだけです」
その言葉に、犀星君は満足そうに僕の手を握った。
僕は恥ずかしさで耳まで赤くしながらも、
その手を振り払うことはできなかった。
「……ありがとう」
小さな声でそう呟いたとき、胸の奥にふっと温かいものが灯った。
仲間たちに受け入れられた。
その事実が、何よりも心を安らげてくれる。
親しい友人たちを室生家に招いた。
「なんだ、結局、付き合うことにしたのか。おめでとさん」
最初から寛にはバレバレだったようだ……。
「どういうこと!?」
真逆の反応を示した朔太郎君に、僕は説明する。
「僕と犀星君は“恋仲”なんだよ」
その言葉と同時に、犀星君が僕を抱き寄せる。
「芥川が“女役”か」
寛がからかってくるが、間違ってはいない。
されるがままの僕は、素直に肯定するしかなかった。
「……そうだよ」
実際、僕は“抱かれる側”なのだ。
「やっぱりな。芥川は、普段はつんけんしてるくせに、
色恋事になると素直なんだよな」
「寛!!」
学生時代からの友人は、やっぱり厄介だ。
「悪い悪い。
それより、比呂志の文学賞、受賞おめでとう、芥川」
「ありがとう、寛。
まぁ、僕の息子で、犀星君の弟子だからね」
とはいえ、あの時のことだけは忘れられない。
「龍之介君、まだ、僕が比呂志君を庇って
怪我した時のことを気にしてるのかい?
“家族”を守るのは当たり前じゃないか。
二週間仕事できなかったくらいで大袈裟だな」
犀星君がいなければ、比呂志は大怪我をしていたかもしれない。
「もしかして、この前の新聞に載ってた記事って……」
中野君が少し言いにくそうに訊いてきた。
「そうだよ。僕が比呂志君を庇って怪我をしたんだ。
刺されたのが右腕だったから、二週間くらい仕事ができなかったけど、
それだけの話さ。
あの事件の概要はね――
文学賞で最終選考に比呂志君と残った男が、
自分が落選したことに逆上して比呂志君を
襲ってきたのを、僕が庇ったというわけさ」
比呂志も犀星君も、大事には至らなかった。
けれど、一歩間違えば二人とも失っていたかもしれない、
と思うと心が冷えていくようだった。
「犯人の言い分は、
【自分は三十年間書いてきたのに、
子供の比呂志君が受賞したことが気に入らない】
ってことだった」
犀星君の話に、
寛も朔太郎君も中野君も眉をひそめた。
「今回の文学賞は、俺も審査員の一人だったけど、
応募作品の中で老若男女、年齢関係なく、
比呂志の作品が一番だった。
俺を含めた審査員全員の意見さ」
僕は比呂志の作品を取りに行き、二人に見せた。
「これを九歳の子供が書いたとは凄いですね。
受賞したのも納得です。
確かに、嫉妬するのはわからなくもないですが、
“暴力”は駄目です」
比呂志の作品を読んだ中野君 は感嘆の声をあげた。
「僕も中々、売れなかったから、
その男の気持ちは少なからずわかる。
犀や芥川君の才能に嫉妬しなかったといえば
嘘になるけど、“暴力”に走ろうとは思わなかったな」
朔太郎君はため息を吐いた。
「普通は“文学”で負けたなら、
また“文学”で闘うしかないものを
“暴力”や”刃物“でなんて言語道断だ」
寛の声色は怒気が含まれていた。
「まぁ、一ヶ月も前のことだし、僕も今は
普通に仕事してるからあの時の話しは終わりだよ」
犀星君が締めくくった。
「ほら、龍之介君もいつまでも落ち込まないで。
〚皆の前で口づけしようか?〛」
耳元で囁かれて僕は目に見えて赤面した。
また、“意地悪な犀星君”が顔を出した。
「芥川先生は照れ屋なんですね」
中野君の言葉に益々、赤面してしまった。
「そ、そんなことはない……」
「龍之介君の嘘つき」
犀星君は僕の顎を持ち上げ、何の前触れもなく口づけをした。
「犀星君!!」
皆の前で口づけられて恥ずかしくなって犀星君の肩口に顔を寄せた。
「犀星君のバカ……」
僕たちのやり取りを見て、寛は大笑いし、朔太郎君は目を見開いて
中野君は微笑みながらクスッと笑った。
「“龍之介君バカ”なら、大歓迎だよ」
犀星君はまた、僕をからかってくる。
「……もう、好きに言ってくれ」
肩口に顔を埋めながら、僕は小さくつぶやいた。
「ははは、いいじゃないか。
こうして腹を割って見せ合える仲間がいるってことは、ありがたいことだ」
寛は盃を掲げ、皆に酒を勧めた。
「僕は……少し驚いたけれど」
朔太郎君は視線を伏せた。
「羨ましい、とも思う。愛を得るということは、文学以上に難しいことだから」
「朔さん、難しく考えすぎですよ」
中野君が笑った。
「愛も文学も、掴みにいく人のところにしか来ないんです。
芥川先生と室生先生は、それを選んだだけです」
その言葉に、犀星君は満足そうに僕の手を握った。
僕は恥ずかしさで耳まで赤くしながらも、
その手を振り払うことはできなかった。
「……ありがとう」
小さな声でそう呟いたとき、胸の奥にふっと温かいものが灯った。
仲間たちに受け入れられた。
その事実が、何よりも心を安らげてくれる。
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