室生犀星の後悔

華愁

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第二十六話 友人と羨望と❬芥川比呂志視点❭

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「比呂志、この前の文学賞、受賞したんだってな。おめでとう」

友人の鈴野は肩を組んで純粋にお祝いの言葉を言ってくれた。

「ありがとう、鈴野」

その一方で……

「〘芥川〙だからだろう。親が有名人だと有利でいいよな」

確かに俺の父さんは〘芥川龍之介〙だけど、この前の文学賞は
誰にも言わずに応募した。

「比呂志、気にすんなよ、お前が羨ましいだけなんだから。

嫉妬とはみっともねぇよな」

鈴野の言葉に橋波は悪態をついて教室を出て行った。

「橋波君の言うことは本当に気にしなくていいと、ぼくも思うよ。

実は、この前の文学賞、ぼくも応募してて、第二次選考までは行けたんだけど、受賞が芥川君だって知って嬉しかったんだ」

クラスメイトの水城君が文学賞に応募してたのは驚いたけど
落選したのに、俺が受賞したことを喜んでくれたことが嬉しかった。

「なぁ比呂志、水城みたいのが本当の友人なんだよ。

今度、受賞した比呂志の作品、読ませてくれよ」

「あ、鈴野君だけずるい。ぼくも芥川君の受賞作品読んでみたい」

友人二人に頼まれたら断れない。

「……今日、読みに来る?」

二人の目が輝いた。

「いいのか? やったな、水城」

「うん! 楽しみだね」

“芥川家”に帰ると父さんが仕事をしていた。

「父さん、ただいま」

「比呂志、お帰り。友人かい?」

「水城壮士です。この前の文学賞に応募してました。

受賞者が比呂志君だと知って嬉しかったです。お邪魔します」

元々、礼儀正しい水城君に習って鈴野も父さんに挨拶した。

「鈴野宏です。お邪魔します」

俺は部屋に受賞作品を取りに行った。

「はい、これが……受賞した時の作品だよ」

鈴野と水城君の前に作品を置いた。

「うわ、やっぱり、比呂志君凄いや!!

読みやすいし、心情描写が緻密だ。

受賞するのも納得だよ」

「確かに比呂志の作品は読みやすいし、引き込まれるな」

鈴野も水城君も純粋に褒めてくれてるのがわかる。

「二人とも、ありがとう」

そんな話をしているとパパが帰ってきて水城君は大興奮した。  

「え、室生犀星先生!?」  
  
水城君の大興奮を気にせずに父さんが“お帰り”と言った。

「おや、犀星君、“お帰り”」  
  
「龍之介君、比呂志君、“ただいま”。  
  
そっちの二人は比呂志君の友人かい?」  
  
「うん。“パパ”お帰り。  
  
水城君はこの前の文学賞で二次選考まで残ったんだって!!」

俺は右隣に座ってた水城君の肩をポンと叩いて説明した。    
    
「そうなのかい、凄いじゃないか」    
    
父さんが褒めると水城君は照れた。    
    
「……そんなことはないです。    
    
でも、受賞したのが比呂志君で嬉しかったです」  
  
「立派だな。落選した悔しさより、  
友人の受賞を喜べる――それが人として一番大切なことなんだよ」  
  
水城君は耳まで赤くなり、必死に頷いた。  
  
「ありがとうございます……でも、本当に比呂志君はすごいと思います」  
  
鈴野も負けじと口を挟む。  
  
「そうですよ。比呂志は努力してるの、俺たちが一番知ってますから」

“パパ”が笑顔で言った。

「努力を見てくれている友人がいるというのは、
作家にとって何よりの財産だよ。比呂志君、君は幸せだね」

父さんも静かに頷いた。

「そうだな。比呂志、文学の道は孤独だが、
こうして支えてくれる仲間がいることは、きっとこれからの力になる」

俺は二人の言葉に胸が熱くなり、鈴野と水城君を見た。

「……ありがとう。俺、もっと頑張りたい」

すると水城君が急に身を乗り出した。

「じゃあ、もしよかったら、次は僕の作品も読んでくれないかな。

落ちたけど……正直な感想が欲しいんだ」

鈴野も笑顔で頷いた。

「いいなそれ。お互いに作品を読み合えば、
もっと成長できるんじゃないか?」

父さんも嬉しそうに笑みを浮かべる。

「素晴らしいな。若いうちから批評を交わし合える
仲間を持つことは、何よりの勉強だ」

“パパ”が軽く頷き、冗談めかして言った。

「そのうち、三人で文学同人誌でも作るといい」

俺たちは顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。

――友情と羨望と、少しの誇らしさ。

この夜の空気は、俺の心に深く刻まれた。
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