室生犀星の後悔

華愁

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第三十三話 朗読と二人で過ごす夜❬芥川龍之介視点❭

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羽休めはねやすめ”は中編小説くらいの長さになっていた。

居間に家族を集め、羽休めの朗読を始めた。

犀星君の声が居間に響き、家族全員が聞き入っていた。

「“父さん”と“パパ”の二人で書いたんだな」

物語が中盤に差し掛かった頃、比呂志が呟いた。

「父さんとパパの癖が出てるし、言い回しとか、
パパが父さんに寄せてるけど俺にはすぐわかった」

同じ作家だからか、比呂志には見抜かれてしまったらしい。

「朗読じゃなくて普通に読めば、わかりやすいよ。

パパ、原稿見せて」

犀星君は少し照れくさそうに微笑み、原稿を差し出した。

「はい、どうぞ。比呂志君には隠せないね」

比呂志はすぐに原稿に目を通し、指で行をなぞりながら小さく呟いた。

「やっぱり……ここ、父さんの言葉の間の取り方だ。

パパはちょっと短めに切るから、リズムが違う」

僕は肩をすくめ、苦笑する。

実の息子ながら、凄い観察力だ。

「兄さん、よくわかるな」

多加志が原稿を見ながら首を傾げている。

「俺は父さんとパパの本で育ったから。

それに、パパは師匠でもある。

だから、“朗読”でも共同作品だってわかった」

確かに、“最初”に比呂志に書き方を教えて添削を
していたのは犀星君だ。

「俺にはこれを読んでも父さんとパパの
違いがわからない……兄さんは凄いな……」

多加志が原稿とにらめっこしながら言う。

「わかりやすく言えば、俺の作品はパパ寄りで
多加志の作品が父さん寄りだ」

比呂志の言葉に、多加志は
「なるほど」と小さく呟いた。

しかしまだ完全には腑に落ちない様子で、視線を原稿と僕とを往復させている。

「俺が父さん寄り……? どういう意味なんだろう」

「言葉の選び方とか、余韻を残す感じだよ。

父さんはじっくり染み込ませるように言葉を置く。

パパは流れるように、でも鮮やかに切り取るんだ」

比呂志の説明に、犀星君は頷きながら柔らかく笑った。

「比喩が的確だね。僕はどうしても勢いで
描写を切り取ってしまうから、比呂志君の言う通りだ」

比呂志が多加志に説明していると
朝子ちゃんがぱっと顔を輝かせて言った。

「私もいつかわかるようになるかな? 

父さんとパパの言葉の違い」

朝子ちゃんの言葉に、犀星君が柔らかく笑った。

「後で僕と龍之介君の本を読んでみるといい。

龍之介君の本でおすすめなのは❰羅生門❱かな」

確かに、僕の著書の中でも、
書き方や感情の起伏がわかりやすい一冊だとは思う。

「龍之介君の書き方がよくわかる。書斎から持ってくるから待ってて」

書斎から戻ってきた犀星君の手には❰羅生門❱と犀星君の詩集❰愛の詩集❱があった。

「はい、朝子。これが龍之介君の❰羅生門❱で
こっちが僕の著書で❰愛の詩集❱だよ。

読み比べてみるといい」

犀星君が二冊渡すと朝子ちゃんは僕の❰羅生門❱から開いた。

朗読会を中断し、多加志も朝子ちゃんの隣に座り、
二人で僕の❰羅生門❱を読み出した。

「兄さんが俺の書き方が父さんに似てるって言ってたのが少しわかった気がする」

多加志は何かを感じたらしい。

朝子ちゃんも小さく頷きながら、ページをめくる指に力を入れた。

「わあ……言葉の一つひとつが、まるで生きてるみたい……」

多加志が隣で微笑む。

「リズムとか間の取り方が、父さんの作品とパパの作品で違うっていうのも、少しわかる気がする」

僕は二人の様子を見ながら、
静かに胸が温かくなるのを感じた。

言葉を通して家族が理解し合う――こんな瞬間があるから、書くことは面白いのだろう。

二人が❰羅生門❱と❰愛の詩集❱を読み終わり、
犀星君が羽休めはねやすめの朗読会を再開した。

穏やかで優しい犀星君の声が居間に響く。

ーー

「龍之介君、今日は君に抱かれたいんだ」

普段は僕が受け身で、犀星君がリードすることが多いのに
今日は逆だという。その意外さに、胸が少し高鳴る。

「抱かれたいとは珍しいね」

犀星君は僕の手を掴んで着物の中に導いた。

「わかるかい?まだ、触れられてもいないのに
僕のものは反応してしまっているんだよ。

龍之介君、触って」

僕は息をのむ。頬が熱くなり、視線を逸らす。

「そ、そう……か……」

けれど、犀星君の手の温かさに導かれるまま、
僕はそっと犀星君のものに触れる。

「そう……その感触……いい……気持ちいい」

恍惚とした犀星君の表情に理性が擦りきれそうになる。

ふと思った、犀星君に抱かれている時の僕もこんな表情をしているんだろうか……

「龍之介君? やっぱり、僕を抱くのは嫌かい?  
  
それならそうと、はっきり、言ってほしい。  
  
抱くのも抱かれるのも嫌なら、今日は今すぐ身なりを整えて  
自分の書斎に戻るよ……

無理強いするつもりはないから……今夜は戻るよ」

着物を整え始めた犀星君を布団に押し倒し深い口づけをした。

「龍之介君……」

僕を呼ぶ声色は驚きからすぐに甘い喘ぎにかわった。

反応している犀星君のものを少し強めに握った。

「あ、もっと、強く……」

僕は犀星君の甘い声に誘われるように手の力を少し強めた。

「ああ!! 僕のものを握ったまま、龍之介君のものを、入れて」

その一言で僕の理性が擦りきれた。

「わかった」

短く返事をして犀星君の中にゆっくりと入れた。

「あ、龍之介君……もっと奥……」

いくら、普段、抱かれる側とはいえ、僕も男だ。

愛する人に求められ、理性が擦りきれた状態でそんなことを言われれば……

「そう、そこ……!!」

ある一点を擦った時、犀星君が一際甘い声で啼いた。

「ここかい?」

わざと、その一点だけを擦る。

犀星君の身体が大きく震え、背中が弓のように反り返った。

「ああっ……! そこ……そこを、もっと……っ」

汗ばむ肌越しに伝わる熱と鼓動。

僕はその反応が嬉しくて、
さらに深く、わざと緩急をつけながら同じ一点を擦った。

「やっ……だめ……っ、そんなふうに……僕……壊れてしまう……っ」

必死に堪えようとする声。

けれど、彼の瞳は涙に潤み、快楽にとろけている。

「いいよ、今日は僕が全部、受け止める」

僕は律動を続けながら口づけをした。

「犀星君……もっと、僕に委ねて……」

僕は囁きながら、さらに奥へと打ち込んだ。

そのたびに犀星君の指先が背中に食い込み、
身体ごと僕を求めてくる。

「……だめ、もう……僕、壊れる……っ」

涙に濡れた瞳で必死に訴えながら、
彼の身体は正直に震え、熱を増していく。

犀星君は必死に堪えるように首を振っていた。

けれど、僕の名を呼ぶ声は甘く掠れ、
その身は熱に浮かされたように僕を離そうとしない。

「犀星君……大丈夫だ、壊れたりしない」

耳元に囁くと、彼は小さく震え、
背中を反らして僕にさらに深く身を委ねた。

「……龍之介君、ああ……そこ、だめ……なのに……っ」

声が切れ切れに洩れる。

その度に僕の胸は甘い衝動に焼かれていった。

「いい、犀星君。もっと僕に見せて」

僕はその一点を擦りながら、彼の唇を奪った。

重なった舌が絡み合い、涙混じりの甘い声が口腔に響く。

「ん……っ、は……もう、僕……っ」

そろそろ、限界が近いのだろう。

「そのまま、達していいよ」

言葉と同時に深く貫いた瞬間、彼は高く短い声をあげて全身を震わせ、僕の肩に爪を立てながら果てていった。

「龍之介君に抱かれるのも、いいね」

少し、呼吸が整った頃、犀星君が僕に抱き着き、
目を瞑りながら言った。

朗読会の夜は静かに、けれど、情熱的に更けていった……
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