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第三十四話 僕と犀星君の担当編集者❬芥川龍之介視点❭
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府中の家から都心まで電車で一時間ほど。
今日は珍しく、僕も犀星君も同じ出版社に用事があった。
「おや、芥川先生と室生先生、ご一緒だったんですか」
僕の担当の鯨井さんが不思議そうに訊いてきて
返事に困っていると、今度は犀星君の担当の満木さんが声をかけてきた。
「室生先生、よかったですね」
満木さんの言葉に僕も鯨井さんも首を傾げ
犀星君は苦笑していた。
「満木君には隠し事ができないな」
「私は最初から、室生先生の気持ちに気付いてましたから」
心なしか、弾んだ声色の満木さんの言葉で
僕たちの関係に気付かれていることを察した。
鯨井さんはまだ、首を傾げている。
「もう、鯨井さんにも話してしまってはどうです?
このままでは室生先生の打ち合わせも
芥川先生の打ち合わせも進みませんよ」
満木さんの言うことも一理ある。
目配せで犀星君に合図すると頷いてくれた。
「正直に話しましょうか」
いたって、落ち着いた口調で犀星君が話し出した。
「僕と龍之介君は……プライベートでも親しい関係なんですよ」
鯨井さんの目が見開かれる。
「恋人関係ということですか!?
確か、お二人は……結婚されていましたよね?」
「そうですね、龍之介君も僕もお互いの妻を愛していますし、
離婚もしてないです。」
犀星君のいう通り、僕は文を愛してるし、
犀星君もとみ子さんを愛してる。
「つかぬことをお聞きしますが、
その、お二人の奥様やお子さんたちは……」
気になるのは人の性だろう。
「実は、室生家と芥川家の二家で
一つ屋根の下で暮らしているんですよ」
「えっ……!? 一緒に暮らしている……ですって?」
鯨井さんの驚きは隠せず、目を大きく見開いたまま
僕たちを見ている。
満木さんは微笑みながら、軽く肩をすくめた。
「はい。家族ぐるみで、お互いの子どもたちも
一緒に暮らしています。
ですから、普通の夫婦関係とは少し違う形ですね」
僕は肩をすくめつつ、丁寧に説明する。
「犀星君とは親しい関係ですが、
僕たちにはそれぞれ妻がいて、子どももいます。
でも、お互いを支え合い、家族として一緒に生活しているんです。
子供たちは一貫して僕を“父さん”、犀星君を“パパ”、
僕の妻・文を“母さん”、犀星君の妻・とみ子さんを“ママ”と呼んでいます。
因みに、僕の長男の比呂志も文才があるんですよ。
どちらというと、犀星君寄りですけど」
「九歳の時に文学賞受賞してましたよね」
満木さんは知っていたらしい。
「そうですね。あの時は落選した応募者に
比呂志が狙われて犀星君に大怪我をさせてしまって……」
あの事だけはいまだに、消化しきれないでいる。
「まだ、気にしていたのかい?まったく、十五年も前の話しだよ。
それに、家族を守るのは当たり前だとあの当時も言ったはずだよ」
犀星君は穏やかな笑みを浮かべながら、
「十五年も前のことをまだ気にしていたのかい?」と肩を竦めた。
「僕はただ、当たり前のことをしただけだ。
家族を守るのは当然だろう?」
その言葉に胸の奥が少し熱くなる。
当時の傷も痛みも、犀星君にとっては誇りの証であり、
僕にとっては一生忘れられない恩義だった。
「……犀星君は、本当に強いな」
僕が小さく呟くと、鯨井さんがますます混乱したように両手を振った。
「ちょ、ちょっと待ってください!
つまり、お二人は奥様と離婚せずに、なおかつ“恋人同士”であり、
しかも二家族で一緒に暮らしている……?
そんなこと、本当にあるんですか?」
鯨井さんの反応は普通だろう。
どちらかというと、あっさりと受け入れている満木さんが凄いんだけどね。
「私は室生先生が芥川先生に“特別な思い”を抱いていたことに
気付いていましたし、長い付き合いですからね、
芥川先生を慈しむような思いやるよな言葉選びをしているみたいでしたから」
満木さんは、にこやかに続けた。
「作家というのは作品に本音が出るものです。
室生先生の原稿を読むと、行間に“誰か一人”を
思って紡いでいるような気配がありました。
それが芥川先生なのだろうと、私は思っていましたよ」
犀星君は少し赤面しながらも、苦笑を浮かべた。
「満木君、そこまで見抜かれていたとは……やっぱり敵わないね」
「いえ、敵う敵わないの話ではなく、
室生先生の文章に宿っていた温かさが
答えを教えてくれただけです」
当たり前に話す満木さんに鯨井さんはますます、混乱を極めている。
「ちょ、ちょっと待ってください……
つまりですね……ええと……
奥様方も了承済みで、子供たちも含めて“ひとつの家族”になっている……
それでいて、お二人は恋人同士でもある……?」
「そういうことになりますね」
犀星君がさらりと答えた。
「余計なお世話かもしれませんが……
世間に知られたら……」
鯨井さんの懸念もわからないわけじゃない。
この関係が記事にでもされたら、作家生命が終わるかもしれないけど、
“家族の形”を否定される謂われはない。
「妻のとみ子は満木君と同じで僕が龍之介君に
“特別な思い”を抱いていることに気付いていました。
そして、僕たちが“恋人同士”になることに賛成してくれたんです。
それから……夜の営みについても目を瞑る、とね」
どうやら、犀星君のこの告白の衝撃は想像以上だったらしい。
「……夜の営みも……許している……?」
鯨井さんは“同性同士”の営みについてというよりも
犀星君の妻のとみ子さんが最初から“夜の営み”を
許していることに驚いている。
「可笑しな言い方ですけど、“妻公認”なんです。
とみ子は、僕と結婚するまで教師でしたから
肝が座ってる部分があるんですよ。
十五年前の比呂志君の事件の時も
怪我をした僕を見て、心配はしてくれてましたけど、
驚くわけでもなく、取り乱したりもしませんでしたね。
妻曰く、子供たち相手だと、
喧嘩も怪我も日常茶飯事だそうです」
僕たちの関係は“普通”ではないけど、
“家族の形”としては完成形だ。
誰かに理解されようとは初めから思っていない。
「芥川家と室生家という、二家に分かれてはいますけど、
子供たちはそんな垣根を越えて、“五人兄弟”として認識しています」
長男の比呂志と長女の朝子ちゃんは小さい頃から弟たちの
面倒をみてくれていた。
僕たちに“血縁”という言葉は意味をなさない。
長兄、長姉として、多加志や朝巳、也寸志の面倒をみてくれていて
どれだけ助けられたことか。
「比呂志君は、今も執筆していますか?」
満木さんの問いかけに、僕は思わず頬が緩んだ。
「ええ。あの子は文学をやめませんよ。
むしろ僕よりも貪欲に、次々と書き進めています。
俳優と作家の二足わらじですが、書くことは辞めたくないようです」
「さすが、芥川龍之介の息子で室生犀星の弟子だ。
書くことに貪欲なんですね。
俳優に作家に凄い精神力ですね」
鯨井さんも比呂志のフィジカルに驚いている。
「そうですね、比呂志曰く、“好きなことは疲れない”らしいですよ」
父親の僕もびっくりな精神力と体力だ。
「その気持ちは僕はよくわかるよ。
小さい頃から一緒にいるから、もしかしたら、
実父の龍之介君より僕に似たのかもね」
犀星君はおどけて言った。
「比呂志君は息子で弟子だし、文章構成も僕寄りだしね」
嬉しそうに話す犀星君に僕も自然と笑顔になる。
「まぁね、だけど、僕も犀星君も作家として息子に負けてられないよね」
犀星君は肩をすくめ、にやりと笑った。
「もちろん。比呂志君の文章は刺激になるし、手は抜けないね」
僕は軽く笑いながら頷いた。
「家族同士で切磋琢磨するってのも、悪くないものだ」
満木さんは感心したように目を細めた。
「家族であり、師弟であり、恋人同士……
なんだか映画のワンシーンみたいですね」
鯨井さんもようやく口を開いた。
「……なるほど、普通じゃないけれど、確かに温かさは伝わりますね」
僕は小さく息をつき、犀星君の手に自然と触れた。
「まあ、完成形かどうかは置いといて……
僕たちはこうして日々を生きている。それが一番大事だと思う」
犀星君も手のひらで僕の手を包み込み、柔らかく微笑む。
「そうだね。誰かに理解されなくても、
家族として、お互いを大事にしていればいいんだ」
そのとき、満木さんが軽く肩をすくめて冗談めかした。
「そういえば、お二人用の“公認カップル席”でも用意しましょうか?
隣同士で打ち合わせできますし、雰囲気も出ますよ」
僕は思わず吹き出し、犀星君も肩を揺らして笑う。
「それは面白いかもしれませんね」
「満木君、それは出版社的にどうなんだい?」
満木さんは肩をすくめ、軽く笑った。
「まあ、現実的には無理でしょうけど……
雰囲気だけなら十分演出できますよ。
二人が隣に座るだけで、会議室が柔らかい空気に包まれますし」
僕は顔を赤らめつつも、犀星君と目を合わせて笑った。
「そうだね。打ち合わせの緊張も少し和らぎそうだ」
鯨井さんはまだ少し戸惑いながらも、笑みを浮かべた。
「……なんだか、想像以上に家族としても仲良しなんですね。
お二人で仕事に取り組む姿も見てみたいです」
犀星君は軽く肩をすくめて言った。
「まあ、龍之介君となら、仕事でも喧嘩せずに進められますからね。
お互いの文章のクセも理解してるし」
僕も頷きながら、少し誇らしげに付け加える。
「おかげで、編集者の方々も迷うことなく作業に集中できるはずです。……たぶん」
満木さんは笑いながら、紙にメモを取りつつ言った。
「では、公認カップル席は冗談として、
でも二人のコンビネーションは本当に素晴らしいということで」
満木さんのおかげで気まずい雰囲気にならずに済み、
四人での打ち合わせが始まった。
一時間程の打ち合わせが終わり、
三ヶ月後、僕と犀星君の共同作品
「心の拠り所」が
書店に並んだ。
今日は珍しく、僕も犀星君も同じ出版社に用事があった。
「おや、芥川先生と室生先生、ご一緒だったんですか」
僕の担当の鯨井さんが不思議そうに訊いてきて
返事に困っていると、今度は犀星君の担当の満木さんが声をかけてきた。
「室生先生、よかったですね」
満木さんの言葉に僕も鯨井さんも首を傾げ
犀星君は苦笑していた。
「満木君には隠し事ができないな」
「私は最初から、室生先生の気持ちに気付いてましたから」
心なしか、弾んだ声色の満木さんの言葉で
僕たちの関係に気付かれていることを察した。
鯨井さんはまだ、首を傾げている。
「もう、鯨井さんにも話してしまってはどうです?
このままでは室生先生の打ち合わせも
芥川先生の打ち合わせも進みませんよ」
満木さんの言うことも一理ある。
目配せで犀星君に合図すると頷いてくれた。
「正直に話しましょうか」
いたって、落ち着いた口調で犀星君が話し出した。
「僕と龍之介君は……プライベートでも親しい関係なんですよ」
鯨井さんの目が見開かれる。
「恋人関係ということですか!?
確か、お二人は……結婚されていましたよね?」
「そうですね、龍之介君も僕もお互いの妻を愛していますし、
離婚もしてないです。」
犀星君のいう通り、僕は文を愛してるし、
犀星君もとみ子さんを愛してる。
「つかぬことをお聞きしますが、
その、お二人の奥様やお子さんたちは……」
気になるのは人の性だろう。
「実は、室生家と芥川家の二家で
一つ屋根の下で暮らしているんですよ」
「えっ……!? 一緒に暮らしている……ですって?」
鯨井さんの驚きは隠せず、目を大きく見開いたまま
僕たちを見ている。
満木さんは微笑みながら、軽く肩をすくめた。
「はい。家族ぐるみで、お互いの子どもたちも
一緒に暮らしています。
ですから、普通の夫婦関係とは少し違う形ですね」
僕は肩をすくめつつ、丁寧に説明する。
「犀星君とは親しい関係ですが、
僕たちにはそれぞれ妻がいて、子どももいます。
でも、お互いを支え合い、家族として一緒に生活しているんです。
子供たちは一貫して僕を“父さん”、犀星君を“パパ”、
僕の妻・文を“母さん”、犀星君の妻・とみ子さんを“ママ”と呼んでいます。
因みに、僕の長男の比呂志も文才があるんですよ。
どちらというと、犀星君寄りですけど」
「九歳の時に文学賞受賞してましたよね」
満木さんは知っていたらしい。
「そうですね。あの時は落選した応募者に
比呂志が狙われて犀星君に大怪我をさせてしまって……」
あの事だけはいまだに、消化しきれないでいる。
「まだ、気にしていたのかい?まったく、十五年も前の話しだよ。
それに、家族を守るのは当たり前だとあの当時も言ったはずだよ」
犀星君は穏やかな笑みを浮かべながら、
「十五年も前のことをまだ気にしていたのかい?」と肩を竦めた。
「僕はただ、当たり前のことをしただけだ。
家族を守るのは当然だろう?」
その言葉に胸の奥が少し熱くなる。
当時の傷も痛みも、犀星君にとっては誇りの証であり、
僕にとっては一生忘れられない恩義だった。
「……犀星君は、本当に強いな」
僕が小さく呟くと、鯨井さんがますます混乱したように両手を振った。
「ちょ、ちょっと待ってください!
つまり、お二人は奥様と離婚せずに、なおかつ“恋人同士”であり、
しかも二家族で一緒に暮らしている……?
そんなこと、本当にあるんですか?」
鯨井さんの反応は普通だろう。
どちらかというと、あっさりと受け入れている満木さんが凄いんだけどね。
「私は室生先生が芥川先生に“特別な思い”を抱いていたことに
気付いていましたし、長い付き合いですからね、
芥川先生を慈しむような思いやるよな言葉選びをしているみたいでしたから」
満木さんは、にこやかに続けた。
「作家というのは作品に本音が出るものです。
室生先生の原稿を読むと、行間に“誰か一人”を
思って紡いでいるような気配がありました。
それが芥川先生なのだろうと、私は思っていましたよ」
犀星君は少し赤面しながらも、苦笑を浮かべた。
「満木君、そこまで見抜かれていたとは……やっぱり敵わないね」
「いえ、敵う敵わないの話ではなく、
室生先生の文章に宿っていた温かさが
答えを教えてくれただけです」
当たり前に話す満木さんに鯨井さんはますます、混乱を極めている。
「ちょ、ちょっと待ってください……
つまりですね……ええと……
奥様方も了承済みで、子供たちも含めて“ひとつの家族”になっている……
それでいて、お二人は恋人同士でもある……?」
「そういうことになりますね」
犀星君がさらりと答えた。
「余計なお世話かもしれませんが……
世間に知られたら……」
鯨井さんの懸念もわからないわけじゃない。
この関係が記事にでもされたら、作家生命が終わるかもしれないけど、
“家族の形”を否定される謂われはない。
「妻のとみ子は満木君と同じで僕が龍之介君に
“特別な思い”を抱いていることに気付いていました。
そして、僕たちが“恋人同士”になることに賛成してくれたんです。
それから……夜の営みについても目を瞑る、とね」
どうやら、犀星君のこの告白の衝撃は想像以上だったらしい。
「……夜の営みも……許している……?」
鯨井さんは“同性同士”の営みについてというよりも
犀星君の妻のとみ子さんが最初から“夜の営み”を
許していることに驚いている。
「可笑しな言い方ですけど、“妻公認”なんです。
とみ子は、僕と結婚するまで教師でしたから
肝が座ってる部分があるんですよ。
十五年前の比呂志君の事件の時も
怪我をした僕を見て、心配はしてくれてましたけど、
驚くわけでもなく、取り乱したりもしませんでしたね。
妻曰く、子供たち相手だと、
喧嘩も怪我も日常茶飯事だそうです」
僕たちの関係は“普通”ではないけど、
“家族の形”としては完成形だ。
誰かに理解されようとは初めから思っていない。
「芥川家と室生家という、二家に分かれてはいますけど、
子供たちはそんな垣根を越えて、“五人兄弟”として認識しています」
長男の比呂志と長女の朝子ちゃんは小さい頃から弟たちの
面倒をみてくれていた。
僕たちに“血縁”という言葉は意味をなさない。
長兄、長姉として、多加志や朝巳、也寸志の面倒をみてくれていて
どれだけ助けられたことか。
「比呂志君は、今も執筆していますか?」
満木さんの問いかけに、僕は思わず頬が緩んだ。
「ええ。あの子は文学をやめませんよ。
むしろ僕よりも貪欲に、次々と書き進めています。
俳優と作家の二足わらじですが、書くことは辞めたくないようです」
「さすが、芥川龍之介の息子で室生犀星の弟子だ。
書くことに貪欲なんですね。
俳優に作家に凄い精神力ですね」
鯨井さんも比呂志のフィジカルに驚いている。
「そうですね、比呂志曰く、“好きなことは疲れない”らしいですよ」
父親の僕もびっくりな精神力と体力だ。
「その気持ちは僕はよくわかるよ。
小さい頃から一緒にいるから、もしかしたら、
実父の龍之介君より僕に似たのかもね」
犀星君はおどけて言った。
「比呂志君は息子で弟子だし、文章構成も僕寄りだしね」
嬉しそうに話す犀星君に僕も自然と笑顔になる。
「まぁね、だけど、僕も犀星君も作家として息子に負けてられないよね」
犀星君は肩をすくめ、にやりと笑った。
「もちろん。比呂志君の文章は刺激になるし、手は抜けないね」
僕は軽く笑いながら頷いた。
「家族同士で切磋琢磨するってのも、悪くないものだ」
満木さんは感心したように目を細めた。
「家族であり、師弟であり、恋人同士……
なんだか映画のワンシーンみたいですね」
鯨井さんもようやく口を開いた。
「……なるほど、普通じゃないけれど、確かに温かさは伝わりますね」
僕は小さく息をつき、犀星君の手に自然と触れた。
「まあ、完成形かどうかは置いといて……
僕たちはこうして日々を生きている。それが一番大事だと思う」
犀星君も手のひらで僕の手を包み込み、柔らかく微笑む。
「そうだね。誰かに理解されなくても、
家族として、お互いを大事にしていればいいんだ」
そのとき、満木さんが軽く肩をすくめて冗談めかした。
「そういえば、お二人用の“公認カップル席”でも用意しましょうか?
隣同士で打ち合わせできますし、雰囲気も出ますよ」
僕は思わず吹き出し、犀星君も肩を揺らして笑う。
「それは面白いかもしれませんね」
「満木君、それは出版社的にどうなんだい?」
満木さんは肩をすくめ、軽く笑った。
「まあ、現実的には無理でしょうけど……
雰囲気だけなら十分演出できますよ。
二人が隣に座るだけで、会議室が柔らかい空気に包まれますし」
僕は顔を赤らめつつも、犀星君と目を合わせて笑った。
「そうだね。打ち合わせの緊張も少し和らぎそうだ」
鯨井さんはまだ少し戸惑いながらも、笑みを浮かべた。
「……なんだか、想像以上に家族としても仲良しなんですね。
お二人で仕事に取り組む姿も見てみたいです」
犀星君は軽く肩をすくめて言った。
「まあ、龍之介君となら、仕事でも喧嘩せずに進められますからね。
お互いの文章のクセも理解してるし」
僕も頷きながら、少し誇らしげに付け加える。
「おかげで、編集者の方々も迷うことなく作業に集中できるはずです。……たぶん」
満木さんは笑いながら、紙にメモを取りつつ言った。
「では、公認カップル席は冗談として、
でも二人のコンビネーションは本当に素晴らしいということで」
満木さんのおかげで気まずい雰囲気にならずに済み、
四人での打ち合わせが始まった。
一時間程の打ち合わせが終わり、
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「心の拠り所」が
書店に並んだ。
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