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最終話 妻の死と病❬室生犀星視点❭
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とみ子の葬儀が終わり、家には僕と龍之介君だけだった。
そして、僕は病に侵されていることに気付いていなかった……
いや、龍之介に心配をかけたくなくて“まだ大丈夫”と言い聞かせていた。
「犀星君、寂しいね……」
龍之介君が僕を抱き締めて呟いた。
子供たちはそれぞれの家庭に戻り、
広い家の居間に二人きり。
「僕はとみ子に感謝しきれてなかったんだ……
龍之介君と“恋人”になることも、“夜の営み”についても
笑って目を瞑ってくれた。」
自分が病に侵され、半身不随になっても家族に対して明るく接してくれた。
「とみ子さんは……犀星君の幸せを一番に考えていたんだと思う。
だから、きっと、心の中にもやもやしたものが
あっても、僕との関係を認めてくれたんじゃないかな……」
龍之介君の言葉で、僕はとみ子が死んでから初めて泣いた。
涙を拭いながら思い出す。
とみ子と出会ったあの日、まだ互いに若くて不器用だった僕たち。
文通を重ね、互いの心の距離を縮めていった日々。
長男・豹太郎が生まれた喜びと、翌年の夭折の悲しみ。
二年後に朝子が、さらに三年後には朝巳が生まれ、
二人で笑いながら喜びを分かち合った日々。
「龍之介君……ありがとう」
ーー
とみ子の葬儀から数ヶ月、僕は体調を崩していた。
「犀星君、最近、咳の回数多いし、一回、病院に行こう」
本当はわかってた、この頃には肺癌を発症していたことを。
「わかったよ」
翌日、龍之介君の付き添いで虎の門病院に行くと検査入院することになった。
「肺癌ですね……」
やっぱり。
だけど、来月には退院できることを知っている。
本当に悪化するのは五ヶ月後の翌年、三月の再入院後だ。
僕の死期も近いということに変わりはないけど
“前世”とは違い、龍之介君が隣にいてくれる。
案の定、僕は翌月に退院して家に帰ってきた。
「龍之介君、口付けしてくれるかい?」
もしかしたら、これが最後の口付けに
なるかもしれない。
僕は目を瞑り、龍之介君からの口付けを待った。
温かい唇が僕に触れ、体中に静かな幸福が巡る。
震える手で彼の背中を抱き寄せ、深く息をついた。
五ヶ月後、再入院から約三週間が経ち、
僕の容態は日に日に悪化していった。
“前世”のように孤独ではなかった。
「龍之介君……最後に、お願いがある」
かすれた声で僕は唇を動かす。
「なんだい、犀星君」
「手……握っていてほしい……最後まで」
龍之介君は泣きながらも頷き、僕の手をしっかり握った。
その手のぬくもりが、僕を生きる力に変えてくれる。
「龍之介君、今まで、ありがとう。
それから、ずっと、愛してる」
「僕の方こそ、ありがとう。
ずっと、犀星君を愛してるよ」
僕は龍之介君の手を握ったまま、安らかな眠りについた。
“来世”があるなら、僕はまた“家族全員”で暮らしたいと願った。
龍之介君、ありがとう。
愛してる……“またね”
最後の最後に、心の中で呟いた。
そして、僕は病に侵されていることに気付いていなかった……
いや、龍之介に心配をかけたくなくて“まだ大丈夫”と言い聞かせていた。
「犀星君、寂しいね……」
龍之介君が僕を抱き締めて呟いた。
子供たちはそれぞれの家庭に戻り、
広い家の居間に二人きり。
「僕はとみ子に感謝しきれてなかったんだ……
龍之介君と“恋人”になることも、“夜の営み”についても
笑って目を瞑ってくれた。」
自分が病に侵され、半身不随になっても家族に対して明るく接してくれた。
「とみ子さんは……犀星君の幸せを一番に考えていたんだと思う。
だから、きっと、心の中にもやもやしたものが
あっても、僕との関係を認めてくれたんじゃないかな……」
龍之介君の言葉で、僕はとみ子が死んでから初めて泣いた。
涙を拭いながら思い出す。
とみ子と出会ったあの日、まだ互いに若くて不器用だった僕たち。
文通を重ね、互いの心の距離を縮めていった日々。
長男・豹太郎が生まれた喜びと、翌年の夭折の悲しみ。
二年後に朝子が、さらに三年後には朝巳が生まれ、
二人で笑いながら喜びを分かち合った日々。
「龍之介君……ありがとう」
ーー
とみ子の葬儀から数ヶ月、僕は体調を崩していた。
「犀星君、最近、咳の回数多いし、一回、病院に行こう」
本当はわかってた、この頃には肺癌を発症していたことを。
「わかったよ」
翌日、龍之介君の付き添いで虎の門病院に行くと検査入院することになった。
「肺癌ですね……」
やっぱり。
だけど、来月には退院できることを知っている。
本当に悪化するのは五ヶ月後の翌年、三月の再入院後だ。
僕の死期も近いということに変わりはないけど
“前世”とは違い、龍之介君が隣にいてくれる。
案の定、僕は翌月に退院して家に帰ってきた。
「龍之介君、口付けしてくれるかい?」
もしかしたら、これが最後の口付けに
なるかもしれない。
僕は目を瞑り、龍之介君からの口付けを待った。
温かい唇が僕に触れ、体中に静かな幸福が巡る。
震える手で彼の背中を抱き寄せ、深く息をついた。
五ヶ月後、再入院から約三週間が経ち、
僕の容態は日に日に悪化していった。
“前世”のように孤独ではなかった。
「龍之介君……最後に、お願いがある」
かすれた声で僕は唇を動かす。
「なんだい、犀星君」
「手……握っていてほしい……最後まで」
龍之介君は泣きながらも頷き、僕の手をしっかり握った。
その手のぬくもりが、僕を生きる力に変えてくれる。
「龍之介君、今まで、ありがとう。
それから、ずっと、愛してる」
「僕の方こそ、ありがとう。
ずっと、犀星君を愛してるよ」
僕は龍之介君の手を握ったまま、安らかな眠りについた。
“来世”があるなら、僕はまた“家族全員”で暮らしたいと願った。
龍之介君、ありがとう。
愛してる……“またね”
最後の最後に、心の中で呟いた。
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