5 / 9
番外編 “共依存”
しおりを挟む
「犀星君、今日も沢山、愛して」
<龍之介>を僕の<座敷牢>に
閉じ込めてから五日経った。
「本当にいいのかい?」
「言ったじゃないか、名声にも期待にも
疲れてしまったのさ。
やっぱり、迷惑だったかい?
これは僕のわがままだから……」
雷を怖がる幼子のように僕の足に
すがりつく龍之介の頭を撫でた。
「迷惑ではないさ、ただ、<文学者>としては
龍之介のような才能のある人間を
僕が囲って一人占めしていることに
少々、気が引けただけだよ」
「僕が居なくなって五日。
家族には手紙を書いているけれど、
寛や川端君あたりは警察に
行方不明届けを出したかな?」
几帳面で神経質で心配性の
寛君なら真っ先に警察に寛 駆け込むだろう。
「川端君はともかく、寛君は
真っ先に警察に駆け込だかもしれないね」
「寛のことだから、今頃は僕の馴染みの旅館や行きつけの店をひっくり返して
捜し回っているかもね」
龍之介は子どもが悪戯が成功した時のような
無邪気な笑顔で笑った。
「犀星さん・龍之介さん、お夕飯の時間ですよ」
妻のとみ子が呼んでいる。
「龍之介、夕飯の時間だってさ。
そういえば、とみ子が食後に
無花果を剥いてくれるって言ってたよ」
無花果は龍之介の好物だ。
居間に着くと、とみ子が料理を並べている所だった。
「とみ子さんの美味しい料理と
犀星君が愛してくれるから……
まだ五日だけど、ここに来てからは
体調がよくなっている気がするんだよ。
だけど、本当によかったのかい?
僕みたいな、世捨て人を匿って……」
「世捨て人だなんて、仰らないでください。
犀星さんにとって、龍之介さんは
劇薬……いえ、特効薬なんですから」
とみ子がわざと、いい間違えた<劇薬>というのもある種、間違っていない。
「とみ子、わざと間違えたね?」
「あら、ある意味間違ってないんじゃないかしら。
龍之介さんがいらしてから筆の走りが早いんですよ。
それに、龍之介さんの<座敷牢>の
番人を進んで買って出たのは私ですからね」
家族が増えたんだから今まで以上に
稼がないと、と思ってね。
可愛い恋人には健康でいてほしから
筆の走りも早くなるってものさ」
「とみ子さんの前で恋人だなんて!!」
とみ子に申し訳なさそうに俯いた。
「よいのですよ、龍之介さん。
犀星さんは綺麗なものや美しいものに
目がないんです。龍之介さんのような
容姿も文学も美しい方に犀星さんが
惹かれないわけないんですから
私も是非、龍之介さんを
守るお手伝いをさせてくださいな」
龍之介の前に白和えの
小鉢を置いた。
「とみ子さん、本当にいいのかい?
僕は犀星君と、その、」
「肉体的関係を持ってることでしたら
私は気にしていませんから
存分に犀星さんに可愛がってもらってくださいね」
少食の龍之介に合わせて茶碗にわけるご飯も少なめだ。
「ですから、少しずつ心身共によくなって行ってくださいね。
龍之介さんは痩せすぎで心配で
私が泣きたくなってしまいますわ」
その茶碗置きながらとみ子は龍之介を抱き締めた。
食後、とみ子は剥いた無花果を
自らの手で龍之介に食べさせた。
「あまい、こんなに甘い無花果は
初めて食べた……おいしい……」
口の端から零れた汁をとみ子は
指先で丁寧に拭った。
「ありがとう、とみ子さん」
幼子のように
されるがままの龍之介。
「お礼は不要ですよ。
ねぇ犀星さん、
この家の中だけの
龍之介さんの
呼び名を考えない?」
「それは名案だね。
<雲雀>はどうだい?
君は文壇という空を
飛び過ぎで
疲れてしまった小鳥だから
これかは、僕ととみ子に
飼われておくれ」
室生家という<鳥籠>は堅牢な作りだ。
「いい呼び名ね。
早速、<雲雀>さんが
冷えないように
<籠>を温めて来ますね」
とみ子は嬉々として寝室を整えに行った。
「犀星君ととみ子さんは僕の<飼い主>になってくれるの?」
「そうだよ、だから、体力をつけて僕ととみ子の
ためだけに啼いておくれ、僕たちの<雲雀>」
額に口づけを落とすと、<雲雀>はくすぐったそうに笑った。
「うん、二人のためだけに啼くよ」
目を瞑って僕にすり寄って来た
<雲雀>を抱き締めた。
<龍之介>を僕の<座敷牢>に
閉じ込めてから五日経った。
「本当にいいのかい?」
「言ったじゃないか、名声にも期待にも
疲れてしまったのさ。
やっぱり、迷惑だったかい?
これは僕のわがままだから……」
雷を怖がる幼子のように僕の足に
すがりつく龍之介の頭を撫でた。
「迷惑ではないさ、ただ、<文学者>としては
龍之介のような才能のある人間を
僕が囲って一人占めしていることに
少々、気が引けただけだよ」
「僕が居なくなって五日。
家族には手紙を書いているけれど、
寛や川端君あたりは警察に
行方不明届けを出したかな?」
几帳面で神経質で心配性の
寛君なら真っ先に警察に寛 駆け込むだろう。
「川端君はともかく、寛君は
真っ先に警察に駆け込だかもしれないね」
「寛のことだから、今頃は僕の馴染みの旅館や行きつけの店をひっくり返して
捜し回っているかもね」
龍之介は子どもが悪戯が成功した時のような
無邪気な笑顔で笑った。
「犀星さん・龍之介さん、お夕飯の時間ですよ」
妻のとみ子が呼んでいる。
「龍之介、夕飯の時間だってさ。
そういえば、とみ子が食後に
無花果を剥いてくれるって言ってたよ」
無花果は龍之介の好物だ。
居間に着くと、とみ子が料理を並べている所だった。
「とみ子さんの美味しい料理と
犀星君が愛してくれるから……
まだ五日だけど、ここに来てからは
体調がよくなっている気がするんだよ。
だけど、本当によかったのかい?
僕みたいな、世捨て人を匿って……」
「世捨て人だなんて、仰らないでください。
犀星さんにとって、龍之介さんは
劇薬……いえ、特効薬なんですから」
とみ子がわざと、いい間違えた<劇薬>というのもある種、間違っていない。
「とみ子、わざと間違えたね?」
「あら、ある意味間違ってないんじゃないかしら。
龍之介さんがいらしてから筆の走りが早いんですよ。
それに、龍之介さんの<座敷牢>の
番人を進んで買って出たのは私ですからね」
家族が増えたんだから今まで以上に
稼がないと、と思ってね。
可愛い恋人には健康でいてほしから
筆の走りも早くなるってものさ」
「とみ子さんの前で恋人だなんて!!」
とみ子に申し訳なさそうに俯いた。
「よいのですよ、龍之介さん。
犀星さんは綺麗なものや美しいものに
目がないんです。龍之介さんのような
容姿も文学も美しい方に犀星さんが
惹かれないわけないんですから
私も是非、龍之介さんを
守るお手伝いをさせてくださいな」
龍之介の前に白和えの
小鉢を置いた。
「とみ子さん、本当にいいのかい?
僕は犀星君と、その、」
「肉体的関係を持ってることでしたら
私は気にしていませんから
存分に犀星さんに可愛がってもらってくださいね」
少食の龍之介に合わせて茶碗にわけるご飯も少なめだ。
「ですから、少しずつ心身共によくなって行ってくださいね。
龍之介さんは痩せすぎで心配で
私が泣きたくなってしまいますわ」
その茶碗置きながらとみ子は龍之介を抱き締めた。
食後、とみ子は剥いた無花果を
自らの手で龍之介に食べさせた。
「あまい、こんなに甘い無花果は
初めて食べた……おいしい……」
口の端から零れた汁をとみ子は
指先で丁寧に拭った。
「ありがとう、とみ子さん」
幼子のように
されるがままの龍之介。
「お礼は不要ですよ。
ねぇ犀星さん、
この家の中だけの
龍之介さんの
呼び名を考えない?」
「それは名案だね。
<雲雀>はどうだい?
君は文壇という空を
飛び過ぎで
疲れてしまった小鳥だから
これかは、僕ととみ子に
飼われておくれ」
室生家という<鳥籠>は堅牢な作りだ。
「いい呼び名ね。
早速、<雲雀>さんが
冷えないように
<籠>を温めて来ますね」
とみ子は嬉々として寝室を整えに行った。
「犀星君ととみ子さんは僕の<飼い主>になってくれるの?」
「そうだよ、だから、体力をつけて僕ととみ子の
ためだけに啼いておくれ、僕たちの<雲雀>」
額に口づけを落とすと、<雲雀>はくすぐったそうに笑った。
「うん、二人のためだけに啼くよ」
目を瞑って僕にすり寄って来た
<雲雀>を抱き締めた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる