室生犀星のタイムリープ、~芥川君の“死”を防ぐために~

華愁

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第二話 運命の七月二十四日

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僕は出張中を取り止め、前日の二十三日から
二泊三芥川君を軽井沢の別荘に連れて来ていた。

「芥川君、んん、“龍之介君”。

今日はずっと、側にいるからね」

食事は僕が作った。

痩せ細り食も細くなっている龍之介君に粥を炊き
柔らかく煮た煮魚と大根と人参のお味噌汁を作った。

「どうだい?」

「美味しいよ、犀星君は料理上手なんだね」

一口ずつゆっくりと粥を匙で口元に運ぶ龍之介君を見ていた。

後一日。たったの一日を乗り越えれば、歴史が変わろうとも
龍之介君は一週間後の僕の誕生日を祝ってくれる。

しかし、運命は嘲笑うようにまた、僕と龍之介君を引き離そうとしていた。

ーー

深夜二時、隣で寝ている龍之介君が虚ろな目をして起き上がった。

深夜二時~四時は“魔の時間帯”と呼ばれている。

「龍之介君!?」

布団を抜け出そうとする龍之介君を抱き締めた。

「犀星君、やっぱり、僕は生きているべきじゃないんだよ」

「何を言うんだい!! 僕は龍之介君がいないと
息さえできないというのに……

一ヶ月前、言ったよね?

今、この場で無理やり僕に犯かされるのと一週間後、
愛されて抱かれるのとどっちがいいんだい?

これも、一ヶ月前に言ったはずだよ。龍之介君。

僕はこの先、怖がられようと嫌われようと蔑まれようと
君を生かすためなら無理やり抱いてでも現世に留まらせると。

物覚えはいいのに忘れてしまったのかい?

それとも、右から左へ流していたのかい?

僕の我が儘と一人よがりに付き合わせてごめんね。

龍之介君の思うままにどうぞ」

僕は突き放すように抱き締めている腕を離した。

「君は自由だよ? この別荘から逃げ出すことも咎めないさ。

けほ、ごふ、」

鮮血が掛け布団に散った。

「僕のことは気にせずに好きな場所へお行き」 

僕はあえて笑顔を作った。

「ほら、早くお行き。今の僕は吐血のせいで動けないから
出ていくなら今のうちだよ?」

別荘の寝室の入り口を指差し、龍之介君を促した。

話している間にも咳が出た。

「けほ、こほ、早く、お行き」

龍之介君が部屋を出た時点で僕はまた”時間を巻き戻す“。

遠ざかって行く足音。

今回も駄目だったんだな……

四度目の“巻き戻し”をしようとした時、龍之介君が戻って来た。

彼の手には洗面器と水が入った湯飲み。

「おや、戻って来たのかい?」

「犀星君、口、濯いで……」

渡された水が入った湯飲みを受け取り口を濯ぎ、龍之介君が
持っている洗面器に吐き出した。

「折角の逃げる機会を与えてあげたのに
なんで戻って来たんだい?お馬鹿さんだね」

「逃げられるわけないじゃないか!!

なんで、なんで、僕なんかのために、
犀星君は“命”を懸けられるんだ!!

最近は何も浮かばなくなってきていた……

書けない僕には存在価値がない気がして……

それから、犀星君だから話すけど、
実は義兄が一月に自害したのがきっかけで
姉と姪を援助をしていたんだ……」

芥川君の姪御さん……

「姪御さんの名前は瑠璃子さんで合ってるかい?」

「そうだよ……」

成る程ね。

「瑠璃子さんは君の長男の比呂志君の奥さんだよ」

「比呂志と瑠璃子が結婚?」

「いとこ同士で結ばれて女の子が三人生まれるんだよ。

龍之介君の孫だよ。

三女の耿子ちゃんは少し病弱でね、
君の奥さんの文さんが溺愛していたよ。

龍之介君も孫に会いたいと思わないかい?

比呂志君は俳優として、也寸志君は作曲家として
成功するけど、ただね……未来では君の次男の多加志君が
二十二歳で戦争で亡くなってしまうんだ」

「多加志が……?」

「そうさ、﹝学徒出陣﹞なんて馬鹿げた理由で
ビルマに送られ、終戦の四ヶ月前に亡くなった。

文さんはね、
也寸志君が音楽の勉強を始めた時
自分のダイヤの
指環を
売り払ってピアノの購入費に充てたんだ。

多加志君は龍之介に似て三兄弟の中で
一番、文学思考だった」

僕が話す“未来”に龍之介君は動揺し困惑している。

「君は酷い人だね……僕に“未来”の話しをして……」

「酷い男で結構だよ。

さて、同じことを聞くよ?

今、この場で無理やり僕に犯かされるのと
一週間後、愛されて抱かれるのと
どっちがいいんだい?」

意地悪く、耳元で囁いた。

「酷くて良いから今、抱いて……僕の頭の中の“死神”を追い払って」

「わかった、乱暴になるけど、耐えておくれ」

僕は龍之介君の着物を剥ぎ取り組み敷いた。

「ぁ"っ、かは、犀星君……」

「そう、僕を見て僕のことだけ
考えていればいいんだよ!!」

最中に一度、
吐血したが構わず龍之介君を抱いた。 
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