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最終話 “共犯者”と祝福の朝
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時計は午前五時、夜が明けた。
時報が今日の日時と時間を告げた。
❴おはようございます。七月二十五日・月曜・
午前五時十分です❵
「おはよう、龍之介君、
頭の中の“死神”は居なくなったかい?」
「消え去ったよ、ありがとう、犀星君」
寝室から出て朝食を作ろうと台所に行くと、とみ子がいた。
「犀星さん・芥川さん、おはよう。
ふふ、犀星さん、よかったわね。
芥川さんと身体繋げたんでしょう」
とみ子の言葉に吐血ではない違う何かがせり上がってくる感覚を覚えた。
「とみ子さん、すみません……」
「あら、私が二人の関係を
反対すると思ってるのかしら?
いやね、心外だわ。
それと、私も仲間に入れてくださいな。
二人の情事を邪魔するつもりはさらさらないけれど、
“共犯者”は必要でしょう?
ねぇ、犀星さん、次の“巻き戻し”が“最後”だったんでしょう?
でも、それでもいいと思っていた、違うかしら?」
やっぱり、とみ子には気付かれていたらしい。
「そうだよ、“次”、“巻き戻したら”僕の魂は消えていただろう」
「この頑固で偏屈な詩人を黙らせるには芥川さんが
長生きして
沢山、愛されること。
犀星さんの中心は芥川さんですから、
あなたが生きている限り、犀星さんも
魂の切り売りもしなくなるわ。
さてと、朝食を食べましょう」
「おいおい、とみ子。頑固で偏屈とは聞き捨てならないね」
とみ子は鍋の火を止めてこちらを向いた。
「犀星さん程の頑固で偏屈な人はいないわ。
執念深さも付け足しましょうか?」
「酷い言われようだな……」
僕は苦笑して肩を竦めた。
「でも、犀星さんの執念深さが今のところ、芥川さんを
ここに居させているのよ。
芥川さん、犀星さんをお願い事しますね。
二人は魂の双子なんですから」
「“魂の双子”とはまた、綺麗にまとめたね」
「お忘れかしら?
私も二人と同じ“文学者”よ」
「おっと、僕としたことが、
とみ子の筆の良さを忘れていたとは失敬」
僕の謝罪に笑ったとみ子はてきぱきと三膳並べ終え
龍之介君が座ったところで朝食を食べ始めた。
数時間前まで“死神”に魅入られていたとは思えない程見違えた。
「龍之介君、生きてくれて、ありがとう」
もし、龍之介君が“死神”に魅入られ、自害してしまったら
僕の魂が消えようとも、また、時間を巻き戻すだろう。
ーー
今日は八月一日、そう、僕の誕生日で龍之介君は
昨日の夜から泊まりにきていた。
早めに目が覚めた僕は隣に眠る龍之介君の
穏やかな寝顔を見つめ頬に口づけをした。
「ん、おはよう犀星君、誕生日おめでとう」
「ありがとう、龍之介君」
今度は頬ではなく唇に深い口づけをした。
「夜はたっぷりと、愛してあげるからね」
唇を離し、耳元で囁いた。
頬を赤く染めた
龍之介君の唇にもう一度、深く口づけをした。
時報が今日の日時と時間を告げた。
❴おはようございます。七月二十五日・月曜・
午前五時十分です❵
「おはよう、龍之介君、
頭の中の“死神”は居なくなったかい?」
「消え去ったよ、ありがとう、犀星君」
寝室から出て朝食を作ろうと台所に行くと、とみ子がいた。
「犀星さん・芥川さん、おはよう。
ふふ、犀星さん、よかったわね。
芥川さんと身体繋げたんでしょう」
とみ子の言葉に吐血ではない違う何かがせり上がってくる感覚を覚えた。
「とみ子さん、すみません……」
「あら、私が二人の関係を
反対すると思ってるのかしら?
いやね、心外だわ。
それと、私も仲間に入れてくださいな。
二人の情事を邪魔するつもりはさらさらないけれど、
“共犯者”は必要でしょう?
ねぇ、犀星さん、次の“巻き戻し”が“最後”だったんでしょう?
でも、それでもいいと思っていた、違うかしら?」
やっぱり、とみ子には気付かれていたらしい。
「そうだよ、“次”、“巻き戻したら”僕の魂は消えていただろう」
「この頑固で偏屈な詩人を黙らせるには芥川さんが
長生きして
沢山、愛されること。
犀星さんの中心は芥川さんですから、
あなたが生きている限り、犀星さんも
魂の切り売りもしなくなるわ。
さてと、朝食を食べましょう」
「おいおい、とみ子。頑固で偏屈とは聞き捨てならないね」
とみ子は鍋の火を止めてこちらを向いた。
「犀星さん程の頑固で偏屈な人はいないわ。
執念深さも付け足しましょうか?」
「酷い言われようだな……」
僕は苦笑して肩を竦めた。
「でも、犀星さんの執念深さが今のところ、芥川さんを
ここに居させているのよ。
芥川さん、犀星さんをお願い事しますね。
二人は魂の双子なんですから」
「“魂の双子”とはまた、綺麗にまとめたね」
「お忘れかしら?
私も二人と同じ“文学者”よ」
「おっと、僕としたことが、
とみ子の筆の良さを忘れていたとは失敬」
僕の謝罪に笑ったとみ子はてきぱきと三膳並べ終え
龍之介君が座ったところで朝食を食べ始めた。
数時間前まで“死神”に魅入られていたとは思えない程見違えた。
「龍之介君、生きてくれて、ありがとう」
もし、龍之介君が“死神”に魅入られ、自害してしまったら
僕の魂が消えようとも、また、時間を巻き戻すだろう。
ーー
今日は八月一日、そう、僕の誕生日で龍之介君は
昨日の夜から泊まりにきていた。
早めに目が覚めた僕は隣に眠る龍之介君の
穏やかな寝顔を見つめ頬に口づけをした。
「ん、おはよう犀星君、誕生日おめでとう」
「ありがとう、龍之介君」
今度は頬ではなく唇に深い口づけをした。
「夜はたっぷりと、愛してあげるからね」
唇を離し、耳元で囁いた。
頬を赤く染めた
龍之介君の唇にもう一度、深く口づけをした。
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