この恋が運命じゃなくても

星川過世

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 「ただいま~」
 「おじゃまします」
 兄の予備校が終わり、兄が帰ってくる。そうすると三回に一回くらいの確率で、愛しい人の声がする。
 「慎太郎さん! いらっしゃい!」
 「おじゃまします、瞬」
 慎太郎さんは俺の兄である龍之介の小学生の時からの親友だ。うちの両親にも気に入られていて、よく遊びに来たり、一緒にご飯を食べたりする。
 「ご飯食べていくの? 食べたら遊ぼう」
 龍之介がなにやら口を挟んだ気がするが耳には入らない。今、俺の耳は慎太郎さんの声しか受け付けない。
 「いいよ。遊ぼう」
 「なんか悪いな、シン」
 「何言ってんだよ。やりたくてやってるの。瞬も俺の大事な友達だからな。……それとも、仲間はずれにされると思ったのか? 大丈夫だよ、リュウとも遊ぶから」
 ちげぇよ! と龍之介の勢いのあるツッコミが入って慎太郎さんと顔を見合わせて笑う。
 慎太郎さんの笑顔は小さな頃から見慣れているはずだけど、見るたびにドキドキする。
 お母さんの「馬鹿なことやってないで手伝って」という声で我先に台所へ向かった。

 この世界には、男女の性の他にバース性というものが存在する。
 基本的には第二次性徴のあたりで判明するので、俺達はある程度の歳で集団検査を受ける。
 種類はアルファ、ベータ、オメガ。一般的にアルファが最も文武に優れ、オメガはその逆と言われている。
 そのかわり、オメガは滅多に産まれないアルファの子を男女問わず身篭る可能性が高い。
 その特性の為か、オメガは三ヶ月に一度ヒートと呼ばれる現象を起こす。このとき、オメガはアルファのみを惹き付けるフェロモンを出すのだ。そのフェロモンに誘われたアルファと交われば、着床率も上がる。
 ちなみに、アルファは大抵の場合このフェロモンには抗えない。

 なるほど、アルファを増やすためには大変効率的だが、フェロモンを理由に昼間から街中でおっぱじめられたらまわりはたまったもんじゃない。
 というわけで人類はヒート抑制薬なるものをつくった。
 少し前までオメガが外に出ることはほとんどなかったそうだけど、今は学校も仕事もある。重要な薬だ。

 だが、小難しい話はここまでにしてロマンチックな話をしたい。
 アルファとオメガにのみ存在するもの。それが"番システム"だ。
 お互いを生涯のパートナーと決めたら、アルファがオメガのうなじを噛む。そうするとどういうメカニズムなのか、体が相手をパートナーと認識するらしい。

 そして更なるロマンチックな話は“運命の番”。この世の全てのアルファとオメガには運命と呼ばれる人が居て、その相手とは本能的に惹かれ合うらしい。思春期以降は匂いで判別できるのだそうだ。
 この世界は広い。運命に逢えるのなんてほんの一握りだけど、だからこそ、とてつもなくロマンチックだ。

 この前の検診で出た結果によると、慎太郎さんはアルファ。
 ならきっと俺はオメガだ。
 そして間違いなく、俺達は運命の番だ。
 こんなにも好きで、こんなにも愛おしくて、こんなにも隣りに居て心地よい人が運命でないはずがない。
 慎太郎さんはもちろん、まわりの家族も喜んでくれるだろう。
 そして俺達は運命の番として誰よりも幸せな結婚をする……。

 そう思っていた時期が、俺にもありました。
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